Cryptoeconomics Lab(以下CEL)は、Ethereum財団から技術力と先見性を認められ、研究開発の助成金に採択されたチームだ。どのようにして日本発のベンチャーがグローバルコミュニティのど真ん中に切り込み、現在の評価を得るまでに至ったかに迫る。
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ブロックチェーンの社会実装に向け、Plasma(プラズマ)のフレームワークを開発する日本のトップエンジニア集団
リモートワークを機能させるために
ーCELはリモートワークの組織ですよね。どのようにリモートワークを機能させているのですか?
部谷:リモートワークが機能するかは、チームメンバーの属人性が極めて高いと思います。堤と西島が優秀だから、機能しています。普通の組織であれば、リモートワークはお勧めできません。効率だけを求めてリモートワークを採用すると、簡単にチームは崩れると思います。
リモートワークを選択する会社は普通の企業以上に共感能力、つまり気持ちを共有することが大切です。リモートだからこそ、相手の気持ちを理解し、そして自分の気持ちを共有しなければならないのです。
つまりリモートだからこそ、気持ちをリアル以上に共有する必要があると思っています。
西島:CEOの片岡拓と組織論の話をする時に、彼はよく「カオスとまとまりのバランスを大切にしよう」と言っています。まとまりというのは、社内でのポジションやレポートラインをはっきりさせた状態でコミュニケーションをとること。カオスは、部下が直属の組織外にいる社長等にもいきなり話しかけるという状態のことです。CELは、このバランスがすごくいい組織だなと思っています。
ー社内での、皆さんの役割を教えてください。
部谷:僕はリサーチとデベロップメントをする人と自覚してます。ただ、社内ではチーフサイエンティストとして認識されています。
堤、西島:私たちはプログラマーです。
リサーチャーとプログラマーの相違点
ーリサーチャーとプログラマーに違いは、何なのでしょうか?
部谷:僕はリサーチからコードを書くことまでをシームレスにやっています。しかし、この話の中で注意しなければならないのは、本当に僕がリサーチをやっているかというと、違うと思っています。なぜなら、リサーチをアカデミックに行なっている人は論文を出しているからです。僕たちのリサーチには、目的があり、そこに向かって短期でやっていくものです。つまり、リサーチとは、エンジニアリングの延長、そして、ソフトウェアデザインの延長だと考えています。
ー本来、リサーチャーは論文を提出している人なのでしょうか?
部谷:はい。実際に他業界では、リサーチャーは論文を提出している人と言う認識だと思います。しかし、ブロックチェーン業界では実装のサイクルが早すぎるので、論文を出している時間がありません。
例えば、Ethereum Research(Ethereum開発者たちがアイディアを提案するサイト)に提案を載せることは、論文を学術誌に掲載するよりずっと簡単ですが、そこには権威も査読もありません。しかし、誰かがそのアイデアを見て反応し、コメントやメンションがつけ加えられていくと、その提案の評判が広がっていきます。僕は、このような新しい研究の流れを生み出すことも、リサーチャーとしての大きな役割だと思っています。そして、僕はこの役割をエンジニアリングやソフトウェアデザインの延長と考えています。
西島:私は、アカデミックに論文を出す学者たちのリサーチの目的と、スタートアップとしてのリサーチの目的が若干違うと思っています。学者は、ペーパーを出すことで、他の一般事業者がそのセオリーを使ってプロダクト化していくための土台を作っていると思います。CELにとってリサーチは貯金です。リサーチを通して様々な知見を得ることで、将来に対する会社の意思決定をより良い方向に向かわせられるという点で、リサーチはスタートアップにとって非常にレバレッジを利かせられる資源だと思います。
部谷:リサーチには、基礎研究と、成果を残すための応用研究の2種類があり、スタートアップにとって目的を作るための基礎研究は絶対に必要です。
ーCELは基礎研究と事業開発をどのように役割分担しているのですか?
堤:役割分担は、時間ではなく人起点で考えています。例えば、クライアントの実証実験を担当する人と研究開発、プロダクト、フレームワークを作る人などにリソースを分けていて、チームとして今、誰が何をしているかはっきりと分かる状況になっています。
西島:具体的には、実証実験を担うアダプションチームは片岡拓(CEO)、落合 渉悟(CPO)、関口大樹(BizDev & Software Engineer)、研究開発チームは部谷、堤、西島の構成となっています。
ーではCELはチームとして個の役割を全うしながら、どのようにグローバルでのプレゼンスを高めていったのでしょうか?
堤:それは西島の開拓力のおかげだったと思っています。グローバルでのプレゼンスを高める上で、最も大切なのは、コミュニティフィットインすることです。簡単にいうとそのコミュニティの中の人とどんどんと友達になること。CELはチームとして技術的に圧倒的な優れたメンバーがいるので、それを伝える力が必要なだけでした。西島が加わったことで、それが実現できたのです。
実際に西島は世界各地で開催されたEdconやDevconなどに登壇し、自信を持って僕たちの技術を世界に広めてくれました。
ー西島さんは、どんな意識でプレゼンスを高めていったのでしょうか?
西島:バックグラウンドのカルチャーが違うぶんだけ、違うコミュニケーションプロトコルというのも存在すると思っていて。言語能力があってもそこで踏み違えていたら、フィットインは難しくなるのかなと思います。意識していたかと言われるというと、ただ自然にやっていたのかもしれませんが。
あとは相手が何を求めているかを意識して関わり合うことです。人に何かを与えてもらうばかりではなく、自らも相手に対して価値を提供していく姿勢を誠実に見せていくことが大切です。それは、グローバル、日本共に変わらないプロトコルだと思います。
しかし、私たちがEthereumコミュニティの中でグローバルなプレゼンスを持てた最大の理由はコミュニティの人がみんな良い人だからだとも思っています。
チームとして大きな実績がなかったとしても、興味を示せば、コミュニティメンバーが優しくサポートしてくれる環境があります。みんなで各々のプロジェクトを達成するために応援し合おうというカルチャーなんです。例えば、私たちが作っているプロダクトの説明をすると、すぐにフィードバックをくれますし、プロダクト改善の議論には今でも助言をもらっています。
プレゼンスを発揮するきっかけとなったEDCON
西島:私は2019年4月にオーストラリアで行われたEthereumの開発者向けカンファレンスEDCONに登壇したのですが、登壇者控え室で他のPlasma実装者たちとリアルの場で議論できたことが大きかったです。オンラインでの議論はそれまでにもしていたのですが、実際に集まって話しをすると「あ、仲間だ」という感覚がお互いに強く芽生えたんです。
それがきっかけで、コミュニティのイベントにも声をかけてもらえることが多くなりました
この話だけを聞くと、「簡単だ」と思われるかもしれません。
しかし、EDCON前から部谷さんが常に開発をして答えを出してくれていたからこそ、私が直接伝えることができたのです。もちろん部谷さんの頭脳と努力なしには、絶対にグローバルプレゼンスを発揮できていませんでした。
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ブロックチェーンの社会実装に向け、Plasma(プラズマ)のフレームワークを開発する日本のトップエンジニア集団
編集:竹田匡宏
撮影:大津賀新也