2019年10月29日〜31日に福岡で開催された「B Dash Camp 2019 FALL IN FUKUOKA」のオープニングセッション「ネット企業の成長はどこに向かうのか」のレポートをお届けします。
スピーカー紹介
スピーカー:木村新司氏(Das Capital SG/取締役 会長)、佐藤航陽氏(メタップス/代表取締役会長)、佐藤裕介氏(ヘイ/代表取締役社長)、國光宏尚氏(gumi/代表取締役会長)、内藤裕紀氏(ドリコム/代表取締役社長)
モデレーター:渡辺洋行氏(B Dash Ventures/代表取締役社長)
GAFAにのっかるべきか、戦うべきか
モデレーターの渡辺洋行氏の「最近実感するのは僕らのビジネスはGAFAがあればいらないんじゃないかということ。自分たちは結局彼らのプラットフォームにのったビジネスをやっていくのか、もしくはちょっと違うところでやっていくのか、のっかっていく場合はずっと彼らに振り回され続けるのか、というのが課題だと思っています。」という問題提起で議論がスタートした。
ドリコムの内藤裕紀氏は「最近スタートアップでもプラットフォーム型のビジネスに資金が集まるような傾向があって、VCもプラットフォーム型じゃないとお金出さないという感覚があるんです。GAFAやBATHと戦うのか、のっかっていくのかで言うと、彼らと戦うのは相当難しいんじゃないかと思っています。では戦わないのだったらどういうビジネスを僕らはやっていけるのかを今日は議論したいです。」と話した。
Das Capital SGの木村新司氏は「GAFAと戦うか否かで言うと、この5年間ぐらいは資金調達環境が良かったんですが、ここに来てWeWork問題とかも出てきました。それがなぜ起こり始めたかというと、GAFAはキャッシュフローがたくさんあるので、スタートアップが戦ってもすぐ彼らに潰されてしまう可能性があり、潰されないようにものすごくパンプアップを資金調達で行って、VCもそれを推してきたところがあったんですけど、それさえもキツくなってきたと最近感じています。」と話した。
スタートアップの資金調達の現状ついて渡辺氏も「僕もスタートアップがどんどん資金を出してもらうそのポンプが、おそらく弱くなっていくんだろうなと感じています。ここ2年のVCからスタートアップへの投資金額は増えているんですが、件数は減っているんです。今後は資金の流入もどこかで頭打ちになるだろうと思います。今のGAFAにのった形で本当にやっていけるのか、他に付加価値をつけないといけないのかですよね。」と話した。
ここまでのスピーカーのコメントに対してgumiの國光宏尚氏は「みんな敗北者思考になってますよね。GAFAはこの10年での”ぽっとで”みたいなもんですよ!」と持論を展開。
國光氏は「GAFAと言っても2007年にiPhoneができて、AWSができて、Facebookなどのソーシャルが伸びてきて、そのスマートフォン・ソーシャル、ウェブ・クラウドの大きな波に日本は乗り遅れただけ。
日本が乗り遅れた理由は、当時ガラケーの強すぎたことと、グローバル展開ができなかったからなわけです。で、結果今の状況になっている。つまりこの10年間スマートフォン・ソーシャルウェブ・クラウドの戦いに負けただけ。」と話した。
さらに國光氏はこれからの流れとして「これからのあたらしい流れで、デバイスはXR、データはブロックチェーン、サーバーサイド含めていうとAIが出てくるわけで、これらの戦いでもう一度ガラガラポンが起こるはず。そこを日本が勝ち切ればいいだけの話だ。」と熱く語った。
そして國光氏は「僕はコンテンツやデバイスであればVR、AR、XRに注力するし、データであればブロックチェーンに注力している。そして、日本のスタートアップは小さい規模でBtoBのSaaSビジネスをするのではなく、グローバルで戦う意思を持つべき。」とも付け加えた。
一方メタップス佐藤航陽氏は「GAFAとの企業家の向き合い方として3つに分かれると思っています。」と語る。
佐藤航陽氏「1つ目、真正面からGAFAにあたりたくない場合はBtoBSaaSですね、国内のニッチ領域に逃げていくという方向性。2つ目はディープテック、そんなにPLは立たないけど社会的に価値ある活動、宇宙、科学の領域です。それもGAFAと正面から当たらないし、ポジションも取れるんではないかと思ってます。」
さらに佐藤航陽氏は、その3つ目については個人的にすごく注目しているとし、トランプ現象のようなギャップについて語った。
佐藤航陽氏「いわゆる都心の富裕層もしくは収入が高くて学歴が高い人が、素晴らしいと言っている一方全然庶民には響いていない。もしくは都心や所得の高い人がダメだと言っているんだけど、それ以外の人に熱狂的に支持されているというようなこのギャップ。このようなギャップはまだまだ世界中にいっぱいあるので、そこを狙っていくようなサービスとか、コンシュマー向け事業は大きくなる可能性があると感じています。」
GAFAが獲得できていないユーザー層の存在
佐藤航陽氏の話から、話題は「私たちが見えていないユーザー」、「GAFAが見えていないユーザーについて」に展開する。
佐藤航陽氏は「マスメディアが弱くなっていてSNSが強くなってきている。ただSNSをやっていると自分の価値観や自分の使っているサービスが、世の中の当たり前という勘違いが徐々に進んでいる。そういうことが世界中で起きているので、多分私たちが見えていないユーザー層というのは無限に存在しているので、まだまだGAFAが取れていない領域も無数に存在していると思う。」
それに対して、ヘイの佐藤裕介氏は「明らかに僕のやってるECの世界で見ても、その年収総分布とその中の購入に占めるEC割合が綺麗に逆相関していて、低所得者層のECや、サブスクサービスの利用頻度とか、どの国でも統計的に極端に低いんですよ。
そういう人たちが、IoTハードウエアが送られてきて、例えばGoogleHomeが送られてきて、そんな彼らが設定できるかというような、そういうレベルの話は大きなオポチュニティーとして残っていると思う。
最近、アメリカだとAngel Technologiesといって、そういうのを手厚く、そのままで行ってやってあげるよというサービスがすごい伸びていて、そういう領域はビジネス機会として大きく残っていると感じます。」とコメント。
そして渡辺氏が「中国でも圧倒的にTencentやAlibabaが制圧していると言われていたけど、結構今伸びて来ているECで拼多多(ピンドゥオドゥオ)なんかもあるんですよね。」と中国でも大手が気が付かなかったターゲットに絞った成功例を話した。
佐藤航陽氏は「日本も同じことあるんじゃないかなと思っていて、ここの会場にいる方々が、絶対ないでしょって95%の方が言うんだけれども、それ以外の方々から熱狂的に支持されるサービスっていうのが次のマスを取るんじゃないかなっていう気はします。そこはGAFAも見えない領域かもしれない。
TikTokも、ノンバーバルというか、あれって文字が必要ないじゃないですか。だから撮って15秒ってすごく楽なものなので、Youtubeですらちょっとアップするのって、普通の人からしたら相当ハードルが高いと思うんですよね。そこを下げるっていうのは、ああいう風に人気になれるっていう事例なのかなって思います。」と話した。
GAFAも勝てないブランドとは
それに対して内藤氏は「佐藤さんが話していた以外では、やはり僕の中では『コンテンツ is キング』だとずっと思っていて、GAFA自体も別にコンテンツを作っているわけではなくって、僕らのゲーム業界で言えばやはりコンテンツとしての強さが重要なんです。だからプラットフォームは変わろうが、コンテンツが強ければ勝てるという中で、僕が気になっている企業はルイ・ヴィトンなどのLVMHです」
内藤氏は「ブランドという意味ではGAFAは、LVMHにどうやっても勝てないと思いますし、それでいてLVMHはテクノロジーをすごく活用し始めています。このようにブランドを持っている会社がテクノロジーを活用し始めるとGAFAを脅かすかもしれないと思ってます。
僕らが見えていない層にサービスを提供するという視点もあるんですけど、一方僕らが今までネットで1万円くらいしか買わなかったのに、10万円の物をネットでも買うようになってくるっていう方もインパクトが大きいと思っています。」と話した。
渡辺氏は「ここで佐藤さんが問題提起を出してくれていた、見えないお客さんを取りに行くという話に加えてブランドというキーワードが大切になってくるということですね。」と話を展開。
内藤氏は「ブランドっていうのは非常に大きいものだと思います。GAFAの中ではAppleだけがそれをできているかもしれませんが、他はみんなブランドによる利益を出せていないですよね。」と話す。
木村氏は「日本はブランドっていうものってどちらかというと、低所得者層のビジネスの方が、広がっているのかなと思います。一方海外、特にアジアに関しては、今からブランドに接して行く人の数が増えてくると思います。
インフレしてみんなの所得上がって行くと、どんどんいいものが欲しいし、見せびらかしたくなるし。そこのビジネスは、まだまだあるなとは思ってはいます。
これから世界で人口が増えてGDPが増えても、価値あるものはそんな増えないと思うんですよね。例えばアメリカの大学もそんなに増えないでしょうし、だから学費がどんどん上がって行くわけです。観光地でも歴史あるものは数増えないですが、人だけは増えていく。京都なんかもそうですよね。そういう歴史のある、つまりブランドというところにビジネスはあると思っています。」と語った。
佐藤裕介氏は「ブランドというか、隠れていたアセットがどうやったらデジタルに出てくるかっていう話だったと思うんです。例えば、そのAmazonと思っ切り逆っ側に走ってすごく伸びているのはShopifyだと思いますが、今から10年の話でいうと、僕は途中で買収されなければ、そのShopifyは時価総額はAmazonに肉薄するんじゃないかと思っています。
そのShopfiyがやってることはAirbnbに結構近くて、世界中に隠れている個人とか小さいチームとかのブランドをデジタルに引っ張り上げることで隠れた価値を生んでいるんですよね。
どちらかというとAmazonはそういうのも全部ワンパッケージでトラフィックとかも含めて、全部Amazonブランドで人も流すし、売り上げも作りますということをやってきたと思うんです。
一方ShopifyとかAirbnbがやっているのは見えていないアセットとかブランドがデジタルに上がってきて、今のこうインターネットの常時接続に伴うCRMなどの環境の変化などで、成り立たなかったブランドが成り立つような現象が起きてきてます。
それはAmazonとかGoogleがやってきたことと、全く違う観点からあたらしくブランドを作っていくと思います。」と話した。
さらに佐藤裕介氏は「そもそも基本的にブランドというのは、長く時間がかかって蓄積されるアセットなんですよね。それでWeWorkが結局すっごく大量にお金を短期間の間に投入したけれど、その資本市場のアービトラージと本当にリアルなブランドができて、PLに入ってくるまでの時間差を埋められなかったわけですよね。
結局ルイヴィトンとかラフシモンズみたいな大きなブランドを作るっていうのは、むしろ昔より難易度が上がっていて、みんなが知っている、みんなが価値づけるブランドってソーシャル時代とかターゲティング時代とかパーソナライズ時代にめちゃくちゃ合わないと思っています。
でもそれらの時代のテクノロジーを使った新しいブランドが、すでに歴史のあるブランドより強くなっていく世界観もあると思っています。」と続けた。
一方内藤氏はブランドについて「僕の中で唯一インスタのストーリーズだけは、ブランドを作るプラットフォームとして機能し始めてきているなと思っています。今後のインスタグラムのバージョンアップの方向もタイムラインじゃなくって、ストーリーズっていう方向になっていますし。やっぱブランドって、その物語に対しての共感の積み重ねによって生まれてくるので。ストーリーズの流れは非常にそっちに向かっていて、だから僕はGAFAの中で唯一インスタのストーリーズだけ気になっていますね。」
ここまでのブランドの議論に対し國光氏は「ブランドの議論はゲーム分野でははっきりしてて、結局ゲームのブランドはIPなんですよね。強いIPを持っている会社っていうのは強い。ただテクノロジーの初期、例えばスマートフォンが出てきた初期はそういうIPを持った大手が動かないから、その最初のタイミングだけ例えばパズドラのようにチャンスあるんですよね。
だからスタートアップはブランドを作ろうという話ではなくて、テクノロジーの入り口、成熟する前がチャンスだから、そのタイミングのところで勝負すべきだと思います。」と語った。
木村氏は「毎回おんなじですよね。ソシャゲの時もそういうこと起きたと思うんですけど。
日本のプレイヤーがどうするかというところで、若者向けに国内の人に売るというのもあるし、海外向けにもうちょっと歴史あるものを、今のソーシャルメディアを使いつつ売っていくという手段もあります。例えば伏見稲荷は今ものすごい人が来ているんですよね。インスタ映えするから海外から人が押し寄せている。
だから見られているメディアと既存のものを、もうちょっとうまく組み合わせてブランディングしていくことは大切で、さらにそれを日本人の視点ではなくて、海外の人の視点でブランディングしていくというのもありだと思っています。」と語った。
日本のメディアや起業家の問題
一方國光氏は「僕は、日本のD2CとかBtoBSaaSとか日本でしか通じないブランドはどうでもいいと思って、そこにすごく危機感を持っています。
本当にこのグローバルで戦うには、テクノロジーで言えばXR、ブロックチェーン、AIにもっと日本のスタートアップが向かった方がいいと思います。
今まさにFacebookがLibraを作っていて、中国ではそれに対抗するようにデジタル人民元「DCEP」を作ると発表しているという状況ですよ。
それに加えてフェイクニュースを含めた、Faceboookが叩かれている根底は、どこまでターゲティングしていいかとか、広告をどう打つかなど、テクノロジーのターゲティングをどこまでやっていいかという話です。香港含めて、自由と民主主義をビジネスっていうのをどう捉えるかにグローバルのトピックは移っているように感じます。
でもそういった大きな世界の潮流の議論が、日本ではほとんどない。それは日本のメディアの責任も大きいし、それを気にしない起業家か悪い!」と会場にいるメディアや起業家に向けて語った。
一方、内藤氏は「サスティナブルな取り組みとか自体もやっているっていうことが、会社としてもブランドだから、そのどういうブランドを作っていくかっていうことが、結局別にアパレルだけじゃない話ですよね。」と話した。
SDGs、環境問題への企業の向き合い方
渡辺氏は「今國光さんが言ったことに加えて、SDGsとか環境問題とかも含めて、これを今後守っていかないと企業としてやっぱ成り立っていかないと思います。その辺りをカバーしていない会社には、VCも投資もできないっていう状況も恐らく生まれてくると思うんですよね。
そして上場企業になるとさらにそれは厳しくなってくると思います。そこをどう考えていくのか。そういう意味で企業価値ってホント何なんだろう。木村さんとはたまにそういう議論はしますけど、そういう状況、海外から見たときってどう思います?」と木村氏に問いかけた。
木村氏は「環境問題でいうと、プラスチックの問題やストローの問題とかも、ちゃんと海外とかだったらいろんな企業が対応していて、どんどんとプラスチックのストローやペットボトルが消えて行ってますよね。一方日本全国にコンビニがあって、平気で物凄い量のプラスチックを出し続けてるんですけど、そのことが一切ニュースにならないなあと感じています。」と話す。
続けて渡辺氏の「そういう意味では皆さん上場企業経営者として、プレッシャーって感じてないすか?」という質問に内藤氏は「僕が見ている感覚だと、海外と比較して日本はまだそのプレッシャーから非常に弱い状況にありますよね。でも単純に時差があるだけの話だと思っています。3年から5年の間で日本にもそのプレッシャーはくると思います。」と話した。
國光氏は「これからの若い世代は、生まれた瞬間から国境関係なく世界の住民みたいな感じで生まれているグローバルチルドレンがどんどん増えていくはず。そして生まれた瞬間からソーシャルネイティブ、スマホネイティブみたいな子供たちがどんどん出てきている。
その辺りの若い世代の繋がりが強くなってきた結果、おじさん達に環境問題に対する行動を促していくって状況になってくると思う。おじさんの代表のトランプとジェネレーションZとかも含めたグローバルチルドレンの対立みたいな。
そしてその中間に挟まれてるのが、マーク・ザッカーバーグって感じ。これからはそういったの争いになる。
ここから大きな10年20年の変化でいくと、資本主義と一緒に生まれてきた国民国家が揺らぎ始めてきてて、グローバリムズがめちゃくちゃ進んで、でもただ進みすぎた結果、揺り戻しでトランプ現象とかブリグジットが起こってみたいな状況。だからこのような大きな状況を捉えることが重要だと思います」と語った。
企業のブランドといっても社会的な話がこれから必要になってくるという話になり、
内藤氏は「その辺りは当たり前の変化だと思ってます。ここ数年だと企業が取り組まなきゃいけない当たり前って、人権まわりだったと思うんですよ。LGBTやパワハラセクハラみたいな問題。そこ取り組んでない会社ってのはダサイし、そこには共感できないみたいな感じだったと思います。
世の中にもそういう会社で働きたくないし、そういう会社のサービス使いたくないみたいな雰囲気があった。それが次に環境になってきているように感じますね。」と話した。
木村氏は「そのブランドとか環境に対する取り組みとか、その会社が世界の中でどういう風に役立っているかが、暖簾として企業価値に乗ってくる時代になってきてるんじゃないかと思います。」と話す。
佐藤航陽氏は「おっしゃる通り、その利益を度外視するような活動に対してブランドって出来てきていくと思います。今まで金余り現象が起きてたと思うんですけど、そのお金が最終的に社会全体にとってプラスな取り組みをしている企業に対して払われていくようになるんじゃないかと思います。
それがディープテックだったり、環境問題だったり、本来は利益にはならないんだけども、やってる人たちに対して社会全体が払っていくようなイメージになるんじゃないかと思います。
ただ、これは景気によって動くので、もし2020年以降景気が逆回転してきたら、そのようなお金の動きが生まれるかどうかは少し読めないなとも思います」と話した。
最後に渡辺氏が「今日は色々な議論が出ましたね。2020年以降どういったところで戦うのかという議論。そして見えないユーザーって絶対いるはずだよねという議論。
そして同様に外国ですよね。外国のお客さんを日本に取り込むっていうのは、インバウンドの文脈ではなくて、やっぱり新しい日本のブランドをくっつけたものを持っていくっていうのは、全然まだまだ空きがあるところではないかという話。
そしてブランドですよね。企業としてブランドをどう考えていくのか?。やっぱり企業としてはプロダクトとして社会性そして環境、SDGsの何かを踏まえたものではないと、おそらく2020年以降はしんどくなるのではないかと。そういう時代がやってくるというような結論でした。本日はありがとうございました」とセッションを締め括った。
(おわり)
編集:設楽悠介/竹田匡宏(あたらしい経済)
写真:大津賀新也(あたらしい経済)