「ブロックチェーンインテグレーターとして社会にブロックチェーンを実装する」ことをミッションとして掲げるブロックチェーンテクノロジーカンパニーchaintope。そのメンバーが執筆した書籍『ブロックチェーンがひらく「あたらしい経済」』が8月26日に出版されます。今回は出版を記念して書籍の序章を発売前に特別公開いたします。あらゆる業界のビジネスパーソンが知るべきブロックチェーンの知識とビジネス活用事例を学べる1冊、ぜひお手元に!
序章 あたらしい経済の見取り図を目指して
これから、わずか数年で世の中の仕組みが大きく変わる可能性が高まってきました。本来であれば20年くらいかけて変化する流れが、誰も予想しえなかった新型コロナウイルスの世界的な蔓延により、そのスピードが劇的に速まったのです。
これまで人類は長い時間をかけて都市化を進め、ありとあらゆるものを集積することにより短時間で効率的にものごとを取り決め、実行してきました。その仕組みがこの度の新型コロナウイルスの蔓延により打ち壊され、あたらしい世界の仕組みを考えなければならなくなりました。分散型でありながら高速かつ安心安全に取り決めが行われ、人人の個性も生かされる世界。このあたらしい世界の仕組みづくりに不可欠な技術がブロックチェーンです。
これまで、日本においては地方創生や地方分権といわれてきましたが、実際には東京を中心として都市においてものごとを取り決めた方がスピードも速く、非常に効率的でした。従って、なかなか分散型でものごとを取り決める仕組みにはなりませんでした。しかし、これからは分散型でものごとをスピーディーに取り決められる仕組みを構築しないと世界が動いていきません。その鍵を握るのがブロックチェーンです。
今、このブロックチェーン技術をとりまく環境は、世界同時競争が行われています。インターネット革命は圧倒的に米国のシリコンバレーが先行して技術開発を進め、日本はあくまでシリコンバレー発の技術やサービスの利用者に過ぎませんでした。しかしながら、ブロックチェーンは世界同時競争が行われており、技術競争という観点においても日本にも十分な勝機があります。
ブロックチェーン。様々なところでこのワードを耳にしたことがあるかもしれません。ですがそれは「確か仮想通貨(暗号資産)とかいうのに関連しているんでしょ? 投資とか興味ないよ」とか「会社に新しくできたDXなんとかという部署の人が話しているのを聞いたけど面倒なやつでしょ? 専門家に任せておけば大丈夫でしょ」といった具合に、あまり身の回りの生活や仕事に関係しないイメージが強いと思います。
しかし、このブロックチェーンは、これから急速に変わっていく未来における必須教養なのです。しかも、すでに身につけた知識と経験をフル活用すれば、誰でもそのエッセンスを理解できるとしたらどうでしょう?
本書は、こうした視点から書かれたものです。
これからより良い未来の世界を実現するため、そしてできればこの本の読者の多くが暮らす日本がこのテクノロジーをリードしていけるように願って、「まさに今こそ」という思いでできた本なのです。
《エグゼクティブ・サマリー》
● ブロックチェーン技術はイノベーションの宝庫である。
● ブロックチェーンをめぐる競争は「世界同時競争」の状況にある。
● ブロックチェーンはアメリカの超巨大IT企業の独占に「待った」をかける可能性がある技術である。
● つまり、ブロックチェーンをめぐる競争は現時点では平等であり、誰にでも勝機がある。
● そのため、打ち手によっては日本がこのイノベーションのリーダーになれる。
● しかし、私たちの技術を受け入れる心持ち次第でこの競争に負ける可能性がある。
● そこで本書は、ブロックチェーンの社会実装のための基礎知識と実例を余すところなく多くの方に紹介することで、この技術に対する理解の促進、そしてブロックチェーンをめぐる世界同時競争を日本がリードする上での一助となることを目的としている。
〈用語解説〉
ブロックチェーン:参加者(ノードと呼ばれる)が互いに完全な情報(ブロックと呼ばれる塊)を持ち合い、その情報にあたらしい情報を付け足していく(チェーンのように繋いでいく)という特徴を持つ記録手法のこと。分散型台帳システムとも。
ビットコイン:ブロックチェーンの技術をお金の送金に応用した、国家や銀行を必要としない仮想通貨の第1号。
仮想通貨(暗号資産):中央銀行などを必要としないデジタル通貨のこと。ブロックチェーンの登場によって実現した新しい概念。本来の意味は、外来語のクリプトカレンシーに準ずるが、輸入された時に「仮想通貨」の名称が定着したため言葉の混乱もみられる。日本の法律上では当初この名称だったが、改正されて今後は「暗号資産」に統一される見込み。業界によっては外来語の直訳から暗号通貨と呼ぶこともある。本書では現時点でより読者に馴染みがある仮想通貨を用いることが多いが、いずれも基本的には同じものを指す。具体的な通貨名として、ビットコイン、イーサリアム、ネム、リップルなど多数が存在している。
ブロックチェーンが可能にする未来
実は仮想通貨は、ブロックチェーンが可能にする未来のほんの一部でしかありません。ブロックチェーンがひらくあたらしい経済・あたらしい世界の中で仮想通貨・暗号通貨・暗号資産はこれからも重要な位置を占めることが予想されますが、ブロックチェーンは仮想通貨だけに留まる技術ではないのです。
そこで最初に強くお願いしたいことは、「仮想通貨に使われている技術の一部としてブロックチェーンを理解する」という意識から、「仮想通貨のような今までになかった新しいことを実現できるブロックチェーンを理解する」という意識に大転換していただくことです。
ブロックチェーンはよく「分散型台帳システム」などといわれます。これについての詳しい話は4章で取り上げますが、さしあたってはこれが台帳、つまりノートとかメモみたいなものだと思っていただければよいでしょう。するとこれは要するに「すごいノートができた!」くらいの意味になります。では、多くの人にとって人生に一番影響を与えているノート・台帳とはどんなものでしょう?
劇作家のバーナード・ショーは同じ問いに対して「預金通帳」と答えました。
預金通帳は数字が書かれているだけのノートともいえます。しかし、ただのノートと違って、通帳同士で振り込みという名の「数字の移動」ができます。また、他者から勝手に数字をいじられず、数字が自分のものだという裏づけまであります。これは普段目にする銀行や銀行同士を繋ぐ全銀ネット、ひいては日本政府がこうした台帳システムを
作り上げているからこそ可能になっているものです。
そして、ブロックチェーンが最初にひらいた未来はこの通帳のシステムに対してでした。それが仮想通貨だったというわけです。
それではブロックチェーンの台帳には具体的にどんな特徴があるのでしょうか。
それは「分散型」だという特徴です。分散型というと難しいと思われる方も、その対義語から入れば理解しやすいでしょう。
分散の反対は集中です。
権力なら分権の反対は中央集権です。分権的なシステムに対して集権的なシステムということになります。集権的システムの権力がたった一か所なら中央集権システムです。この時、銀行が可能にしている通帳のシステムは銀行や政府といった中央集権的な存在が可能にしています。
その反対の分散型台帳システムを動かすのがブロックチェーンというわけです。
詳しい話は続く1章と4章に残しておきますが、要は銀行や政府といった絶対的な権力者がいなくても成り立つという仕組みを実現できることが、ブロックチェーンの大きな特徴です。
これによってどんなことが起きるでしょう?
日本に住んでいると銀行を使うことはとても一般的です。多くの人たちが銀行に口座を持ち、預金通帳を利用します。しかし、多くの人が銀行口座を持つことができないという国も世界にはあります。
お金を誰かに送金するにも私たちの常識が通じず、「どうやってそのお金を送るのか、どうやって決済するのか」というような人々が世界中にいるのです。こうした国は同じアジアのASEAN諸国の中にも存在しています。分散型台帳のシステムは、そうしたところに銀行を介さないあたらしいフィンテック(金融Finance ×技術Technologyの造語)のモデルを確立できる可能性があります。そして、むしろフィンテックのモデルが銀行のシステムの未発達な発展途上国で成熟し、それがアメリカや日本にリバースイノベーションするということさえも考えられます。
これがブロックチェーンの面白さです。
ブロックチェーンを使えば、これまでは中央集権的な国や銀行の独占だったお金の発行や管理が分散的に誰にでも行える時代になるのです。
地域や企業や個人が仮想通貨を発行して代わりに日本円やドルを得たり、仮想通貨自体で様々な取引が行われたりするようなことが可能になります。そして金融分野でのブロックチェーン活用によってあたらしいお金の流れができると、様々なイノベーションが起こることが予想されます。これまでは日の当たらなかったような地域やアイデアにお金が集まることで、これまで実現できなかったことが実現できるようになるのです。
お金の流れがあたらしくなるということは、金融以外の分野のイノベーションのきっかけにもなるのです。
→つづきはこちら「ブロックチェーンはこれからの時代の必須教養/書籍『ブロックチェーンがひらく「あたらしい経済」』の序章を発売前に無料公開(2/2)」
ブロックチェーンがひらく「あたらしい経済」 序章 あたらしい経済の見取り図を目指して より
書籍情報
ブロックチェーンがひらく「あたらしい経済」
正田英樹/田中貴規/村上照明/中城元臣/安土茂亨/株式会社chaintope(著)
2015年からブロックチェーンに関する研究や実証実験を開始し、国内外の様々なブロックチェーンプロジェクトのシステム開発やコンサルティングを行ってきたchaintope。
そんなchaintopeが本書でブロックチェーン技術の仕組みに加えて、現在の日本で動き出している地域コイン、電力の価値証明、流通トレーサビリティ、不動産の権利証明、IoTとの連携など様々な領域のブロックチェーン活用事例を紹介。そしてブロックチェーンがより浸透したもうすぐそこにある未来に、私たちの仕事や生活がどのように変化していくか、これから訪れる「あたらしい経済」について指し示す。
現在のインターネットのように私たちの経済や生活と切り離せなくなる技術となるであろうブロックチェーン。そしてさらに誰もが予想していなかった新型コロナウイルスによってブロックチェーンが必要となるタイミングは確実に早まっている。大きな社会変革をもたらすブロックチェーン技術を、具体的にどのように様々なビジネスや産業で活用していくべきか。あらゆる業界のビジネスパーソンが知るべきブロックチェーンの知識とビジネス活用事例が学べる一冊。