ALISとは
「ALIS」は日本初の分散型ソーシャルメディアプラットフォームだ。一見するとサイトはシンプルなブログやSNSサービスのようだが、まったくそれらとは違った新しいプラットフォームである。
「ALIS」の設計と仕組みにはブロックチェーンが使われており、信頼できる記事を書いた人、そしてそれをいち早く見つけた人がトークンという形で報酬を獲得することで信頼できる情報を蓄積できるメディアなのだ。
従来のメディアよくあるに広告売上を稼ぐためのサイト設計やコンテンツ、ステルスマーケティングの類など、信頼性の低い情報にうんざりしてしまっている私たちを開放してくれるかもしれないWEB3.0時代のメディアプラットフォームだ。
現在「ALIS」は今年1月10日に待望のオープンβ版の第1弾がリリースされ、それに続いて3月15日には幾つかの機能がアップデートされたオープンβ版の第2弾が公開された。この第2弾ではALISの使い心地改善を目的として、PCエディターのリニューアルやモバイルエディターの公開などユーザーの体験が向上するアップデートが実施された。そして次回のアップデートではトークンの使用価値を高めるための機能追加が予定されている。
いろいろな問題を抱えたWEB2.0的なソーシャルメディアをディスラプトすべく、アップデートし続ける「ALIS」からこれからも目が離せない。
そんな「ALIS」のプロジェクトが日本でスタートしたのは遡ること2017年8月。当時リクルートで働いていた3人の若者が「ALIS」のビジョンが詰まったホワイトペーパーを公開した。そして彼らは同年9月1日ICOを開始する。そのわずか12日後の9月13日、彼らは目標最小調達額として設定していた11,666ETH(当時の約3.8億円)の資金を世界中から調達することに成功したのだ。
現在ではブロックチェーンや仮想通貨という言葉や、それを利用したICOという仕組みについて多くのメディア等で取り上げらるようになってきた。しかし「ALIS」メンバーがICOをした当時は現在に比べて圧倒的に情報も少なく、またそのルールも明確なものがどこからも示されていなかった状況だった。そんな中「ALIS」のメンバーは、ブロックチェーンや仮想通貨の魅力を信じ、そして大きなビジョンを抱えて、未知の大海に飛び込んだ。
まさに「ALIS」は日本のブロックチェーン業界のファーストペンギンとなった。2017年の彼らのアクションは、日本のブロックチェーン業界において非常に大きな一歩であり、そんな彼らの功績はこれからブロックチェーンが社会に実装されていくであろう未来において、より大きなものになる違いない。
「あたらしい経済」では特集「日本発のブロックチェーンソーシャルメディア『ALIS』の軌跡」と題し、「ALIS」のこれまでの軌跡と思い描くその未来に迫る特集をスタートする。まずは特集の第1弾として「ALIS」CEOである安昌浩氏のお話を聞いた(前後編で公開)。今後は他のメンバーやユーザーの声なども取材していく予定である。
この特集を通じて、ファーストペンギンである彼らの今までの経験やこれからのビジョンが、少しでもこれから続く日本のブロックチェーンプロジェクトの成功の一助になればと願っている。
(「あたらしい経済」編集長 設楽悠介)
「ALIS」CEO安昌浩氏インタビュー
リクルート在籍中の2017年にICOを実施
−ALISを始める前にリクルートでどのような事業に携わっていましたか?
はじめ、僕は転職サイト「リクナビNEXT」に関わっていました。その後、子会社に移って、そこでビジネスSNSまわりをやっていました。現在はサービスを終了していますが「すごい名刺管理」という名刺管理アプリなどを担当していました。またHRテックまわりの新規事業やリファラルリクルーティングのサービスや、マイクロソフトとの共同プロジェクトなどに携わってきました。
−そのような環境の中で、安さんが仮想通貨・ブロックチェーンに熱中したのはいつからですか?
仮想通貨の魅力にどっぷりつかったのは、2017年3月です。そして同年の5月頃にALISをやろうと決心しました。そこから約3ヶ月でICOまで持っていきました。
−リクルートにいながらICOしたALISですが、当時会社からは何も言われませんでしたか?
リクルートは副業が許されている会社ですので、特に大きな問題はありませんでした。まだ当時のリクルート社内でもICOがどんなものか、ちゃんと理解されていなかったことも要因としてはあるかと思います。当然、本業に差し支えるようなことにはならないよう十分に配慮しながら進めましたが。
僕たちがICOを実施した後になって、急にリクルート社内がざわつき始めました。みんなから「えっ、4.3億集めたの?」みたいな雰囲気になっちゃって(笑)。
当時のダブルワークは大変でしたね。リクルートの仕事は9時から19時にやって、ALISの仕事を19時から翌朝3時までやる、といった生活でした。
−ALISは日本でICOを成功させたファーストペンギンですが、安さん含めチームメンバーも怖さはなかったですか?
少なからず怖さを感じました。なぜならば我々が国内初の大規模なICO実施者になる可能性があり、後に続くプレイヤーに良くも悪くも影響を与えるであろうという責任感を感じていたからです。加えて国内法は全く整理されておらず、ALISを計画してからチームメンバーのみんなで「一度ぐらい逮捕されるかもしれないことは覚悟しておこう」と合意をとっていました。
もちろん僕らが悪いことをして捕まったのだったらダメですが、自分たちが悪いことをしてないという自負を持って挑んだ結果、何か問題があって逮捕されることはしょうがないと考えていました。それぐらいのリスクを持っていこうと決めたのです。
現在もですが、その当時もブロックチェーン業界は発展途上なので、実際に本当に何が起こるか、金融庁から何を言われるかも分からなかったです。様々な課題はたくさんありましたが、それ以上にブロックチェーンで自分たちがやりたいことが実現できそうだという思いが強くなり、次第に、「今やらなきゃいつやるのだ」という感覚で、覚悟を決めて突っ走りました。
−暗号通貨やブロックチェーンの仕組みからALISの構想を思いついたのですか? それともソーシャルメディアプラットフォームを作りたくてそれがブロックチェーンに合うと思ったからはじめたのですか?
ALISはどちらかというと前者に近いです。暗号通貨とブロックチェーンの仕組みがあれば、今までにない事業開発のモデルが作れる、既存のソーシャルメディアプラットフォームのあり方が変えられるという発想からALISを構想しました。
ALISを法定通貨で作らなかった理由
−ちなみにALISの仕組みをすべて日本円で実現することは考えませんでしたか?
それをするには、2つ問題があります。1つは原資をどうするかという問題です。いまのトークン分の日本円での原資が必要になってしまい、これは難しいと思います。
そして仮にこの原資の問題をクリアできたとして、もう1つはトークンエコノミーが形成できないという問題があります。
日本円と違ってトークンの価値が将来上がるかもしれないという、このモチベーションが「ALIS」にとって大事な要素の一つです。メディア上で流通するのが日本円だとその価値は基本的には変わらないですが、ALISトークンはサービス自身がこれから大きくなっていけば、その価値が高まっていく。この動機を作ってトークンエコノミーを実現するのは、やはり日本円では難しいですね。
−ICOしようと決めても、当時の日本だと今よりもさらに誰からもアドバイス貰えない状況だったのではと思います。どのように実施していきましたか?
僕らがICOすると決めて、最初に相談したのは大手取引所のとある方でした。当時その方からは法律と税金まわりは気をつけた方がいいというアドバイスを貰いました。そしてその方にいろいろな人を紹介して貰って情報収集をして、ALISの構想を固めていきました。
ただ確かにその時に紹介していただいた弁護士や会計士の方々でも、意見が食い違っていましたね。最終的に自分たちでそれを咀嚼して、金融庁にアウトプットしにいきました。法律やルールが不明確な中でも金融庁の方としっかり話をしておいたことは重要であったと今でも考えています。
日本初ICOの葛藤と戦略
−そもそも安さんは、なぜICOしてブロックチェーンで事業を展開しようと思ったのですか?
ICOを計画した当時の僕は「トークンを発行した会社は株式会社などとは違い、利益をユーザーにも還元できる可能性を秘めている」と感じていました。
そしてICOで資金調達した上で、ブロックチェーンを使うことで非中央集権の仕組みを作ることができ、その上でトークンエコノミーを回すことができる。それを活用することで従来の株式会社とはまったく違うルールで事業が展開できるようになると考えていました。
株式会社の形態においては、ビジネスにおいて意思決定がトップダウンで不透明な部分があるケースが少なくないと思います。これは不確実性が増している今の時代において、経営や組織の限界を感じさせる要因になっていることも多いと思います。従業員がいろんなことに不満を持っていたり改善したいという意欲をもっていたりするのに、 会社は全然ケアしないじゃん、みたいなことは巷にも多いですよね。
誰かが権力を持つのではなく、みんなが平等にちゃんとコミットできる状態の中で、本当にそれをやる理由が経済的にもあることがブロックチェーン領域では実現できます。従来の社会構造を大きく変えられるかもしれない。その点にすごく魅力的を感じ、この分野で挑戦しようと考えました。
−ICOでお金を集められる確信がありましたか?
素直にお伝えすると、ICOした時には確信というよりは、業界を盛り上げるためにもある程度の資金調達を成功させないといけないという使命感を強く持っていました。当時日本では仮想通貨がまったく盛り上がっていなかったのに、世界中ではICOで巨額のお金が動いている事実を、僕たちは指をくわえて見ているような状態だったわけです。
このままだと新しい分野である仮想通貨やブロックチェーンでも、「また日本が世界に置いていかれてしまう、だからやらないといけない」と強く思っていました。特に、当時は改正資金決済法の柔軟性やBTCの売買ドミナントで日本が常に上位など、日本がこの業界をリードするポテンショルを持っていると考えていました。
でも改めてICOをした時のことを思い返すと本当に大変でしたね。まず当時の日本でそもそもICOをして良いかどうかも正直分からなかったです。だから最初は一切日本語で発信せず、すべて英語でプロジェクトの情報発信をしながら、海外でのICOを検討していました。
そして僕たちが海外の人たちと色々コミュニケーションしていくなかで、国内での法律解釈の話も徐々に出現しはじめ、本当にICOは日本ではできないのだろうかと次第に考えるようになりました。
当時、弁護士に相談し、こういう解釈なら大丈夫なはずと確認し、そして金融庁と会話を重ね日本でも情報発信をはじめて、ICOをしました。当時は「日本人だからScam(詐欺)じゃないか」と思われて、本当に国内の反応はめちゃめちゃ冷たかったことを覚えています。
特に僕たちがリクルート社員だから、どうせ騙してお金を集めて六本木で遊びに行くやつらじゃないかみたいな印象を持たれていましたね(笑)。そういう風評被害も含めて、日本人からものすごい当たりが厳しかったです。事業もしっかり計画していましたし、ICOへの取り組みも真剣だったので、とても辛い状態が続きました。
そんな中、仮想通貨ブロガーのポインさんと知り合って話す機会がありました。そしてポインさんが「9/1にICOを行う『ALIS』突撃インタビュー!直接質問してきた」というブログを書いてくれて、そのおかげでALISは詐欺ではないという認識が世間に広がっていきました。
参考:9/1にICOを行う『ALIS』突撃インタビュー!直接質問してきた
すべてを透明化したALIS
−ALISは透明性のあるコミュニティ設計をしているところに特徴があると思います。なせそのような設計にしたのですか?
自分が従業員として会社で働いていた頃、会社の不透明な部分が多くてイライラする経験がありました。加えて当時、ICOプロジェクトには情報を公開していないものや、進捗が見えないものが非常に多かったのです。本来はプロジェクトにおける様々な議論なども、悪いことさえしていなければ、すべてオープンにしてもリスクはないと考えていました。
そこでALISチームとして、とにかくすべてを透明化することにしたのです。
また海外の様々なプロジェクトを研究して、ICOプロジェクトにおいてはコミュニティの数と質が、将来の優劣を決めると分かっていました。ALISのメンバーも、大切にすべきはコミュニティであるというのが共通認識でした。
当時僕たちは、みんながコミュニティに参加したくなるプロジェクトはどんなものだろうとずっと考えていました。仮想通貨プロジェクトをたくさん見ている中で、「自分たちならこうする」という仮説検証をし続けてきました。
そしてまずは透明化し、プロジェクト裏側ものすべてを見てもらうことが、コミュニティへの魅力に繋がると考えました。そしてオフライン、オンラインの両方で、基本的に情報を徹底して公開することと、メンバーが自らコミュニケーション頻度を高くすること、その2つを重視してコミュニティを設計しました。
そうしたら、国内海外問わずに多くの方々に「こういうプロジェクト待っていたのだよ」と、どんどんと参加いただけるようになりました。
−当時のコミュニティには投機目的の人も多かったでしょうか?
もちろん投機目的の人も多かったと思います。ALISとしてももちろん儲かることは大事だと考えています。トークンの価値に対する議論は、無碍にするべきではないと思います。でも僕たちのスタンスとしては、トークンの価格(価値ではなく)を上げてみせますよとは絶対言えないので、ただ粛々と頑張ることしかできなかったですね。
他のプロジェクトと比べると、僕たちがやっていることは泥くさいので、ヤキモキされる方がいるのも理解しています。しかしながら、ALISとしてマネーゲームはできないですし、やってしまうと終わりだと思っています。
(後編につづく)
→後編はこちら「ALISの未来とこれからのICOの可能性について/安昌浩CEOインタビュー(後編)」
(編集:設楽悠介/竹田匡宏)