トルネードキャッシュ(Tornade Cash)とは? 分散化したシステムと開発者の責任

手塚康夫

トルネードキャッシュ(Tornade Cash)とは?

Ethereumの共同創設者であるヴィタリック・ブテリン氏が、コインミキシングサービス「Tornade Cash」の開発者の二人の弁護基金に対して11.3万ドル相当である30ETHを寄付したというニュースが報じされました。

今回はTornade Cashについておさらいしながら現状をまとめます。

Tornade Cashは、Ethereumベースの分散型のコインミキシングサービスを提供しています。具体的には、ユーザーが送金した暗号資産を一旦プールに集め、その後別のアドレスからランダムに送金するサービスです。この仕組みにより、取引の関連性が断ち切られ、プライバシーが保護されます。

既存のブロックチェーンの多くは、その取引をすべてブロックチェーン上で公開しており、プライバシーが保護されていないという状況にあります。Tornade Cashはこういった状況を踏まえ、ブロックチェーン上の取引の匿名性を高めることを目的として開発、運用されています。

しかし良い面ばかりではなく、資金洗浄などの違法行為に利用することで犯罪者が追跡を逃れることができるという側面もあるため、問題視もされています。実際に犯罪で利用された事もあるため、Tornade Cashを不適切なサービスであるとの意見も世界各国で少なからず観測されています。

そんな中、米財務省の外国資産管理局は2022年にTornade Cashは資金洗浄を助長し、米国の制裁を回避する手段を提供しているとして、制裁対象に指定しました。翌年にはTornade Cash開発者であるロマン・ストーム(Roman Storm)氏とロマン・セメノフ(Roman Semenov)氏を起訴しました。

この裁判は現在も進行中でまだ最終的な判決は出ておらず、現在この長引く裁判の弁護士費用などを寄付できる基金「Free Pertsev and Storm」も登場しています。ちなみに先述したブテリン氏による寄付はこの基金へ行われたものです。

また今年5月には同じくTornade Cash開発者の一人であるアレクセイ・ペルツェフ(Alexey Pertsev)氏が、同サービスの開発に関わったとして5年4ヶ月の刑を言い渡されています。

この現状に対し、暗号資産コミュニティでは賛否両論が集まっています。

プライバシーに注目したプロジェクト「Nym」のハリー・ハルピン(Harry Halpin)CEOは、同判決を不公平かつ不合理であるとし、控訴するよう主張しました。

実際、すでに分散化されているためサービスを停止させることはできず、資金洗浄に利用できるような状態は問題点といえるかもしれません。しかし現在は、責任を開発者に負わせるのは不合理であるという意見も多く出ています。

悪用できるシステムを作った、その開発者に責任はどこまであるのか? 皆さんはどう考えますか?

匿名性を実装しプライバシーを重視するブロックチェーンの開発も進められているため、今後より重要なトピックとなっていくと予想されます。

どのような判決が出るか目が離せません。皆さんも少し注目してみてください!

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手塚康夫

株式会社クリプトリエ 代表取締役 CEO
2006年に株式会社ジェナを設立、2021年の株式会社マネーフォワードによるM&A後に同社を退任。現在は2023年に設立した法人向けにweb3ビジネスを展開する株式会社クリプトリエの代表取締役の他、複数のスタートアップの役員や顧問を務める。株式会社クリプトリエでは、NFTのビジネス活用を簡単かつ迅速に実現するプロダクト「MintMonster」を提供し、企業におけるWeb3活用の普及を目指す。

株式会社クリプトリエ 代表取締役 CEO
2006年に株式会社ジェナを設立、2021年の株式会社マネーフォワードによるM&A後に同社を退任。現在は2023年に設立した法人向けにweb3ビジネスを展開する株式会社クリプトリエの代表取締役の他、複数のスタートアップの役員や顧問を務める。株式会社クリプトリエでは、NFTのビジネス活用を簡単かつ迅速に実現するプロダクト「MintMonster」を提供し、企業におけるWeb3活用の普及を目指す。

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