あらゆる企業や業界の業務改善に「Corda(コルダ)」が最適な理由 (SBI R3 Japan ビジネス開発部長 山田宗俊氏 インタビュー)

山田宗俊

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金融業界の業務改善に感じた課題

−ブロックチェーン業界で働く前はどんなお仕事をされていたんですか?

日立コンサルティングという会社で主に金融機関向けにいわゆるITコンサルの仕事をしていました。具体的にはプロジェクトマネジメントと業務フローを作る仕事です。約10年間、クライアントの現場の声を聞いて業務改善をお手伝いしていました。

−そこから現在のお仕事に転職されたきっかけはなんですか?

前職の仕事を通じて、銀行のシステムで開発やメンテナンスのコストに対して問題意識を常に持っていました。

そういったシステムは、新規開発にものすごいコストがかかっていますし、メンテナンスコストも膨大です。もちろんお金という間違いがあってはいけないものを扱うので、テスト工数等にある程度コストがかかるのは仕方ないのですが、多くの銀行がそれぞれ莫大なコストをかけて独自のシステムを開発し、メンテナンスや機能追加もまた各銀行ごとにコストをかけて行っている状況がありました。

そんな時ふと思ったんです、「これって1つじゃダメですか?」。各銀行が同じ一つのシステムを使えばみんなでコストを下げることができるのに、と。

しかし単純にみんなが同じ仕組みを使うことはできません。なぜなら、データベースを1つにすることができないからです。使う機能(アプリケーション)は一つにできても、送金情報や顧客情報等のデータは機密情報です。だからその情報を一箇所にまとめることはできない。

もしアプリケーションは1つで、データベースは別々に管理できるシステムを作ることができれば、銀行横断でシステムに投資するコストを下げることができるのではないかと。

そんなことを考えていたときに、R3のCTOであるリチャード(Richard G Brown)がブログで発表した「Corda(コルダ)」のコンセプトを目にしたんです。2016年のことでした。そのブログで「Corda」を知って、今話していた問題が解決できそうだと思ったのです。

私が前職で感じていた金融機関システムに対する課題が、R3のブロックチェーン構想で解決できるのではないか。R3の構想が実現できると金融機関の大きな業務改善ができるのではないか、そう感じた私はすぐにR3にアプローチして、入社することになりました。

既存のシステムではなくブロックチェーンが必要な理由

−しかしブロックチェーンを使わずに既存の技術を使って業務改善をすることもできますよね? そこでブロックチェーンがどのように必要なのでしょうか?

もちろん1つの金融機関の内部だけなら既存のテクノロジーで業務改善できるでしょう。例えばフロントオフィスとバックオフィスのコミュニケーションをSTP化(Straight Through Processing)して認識相違がズレないようにする、部門間で情報共有ができるようにする、などです。

しかし自社だけでは完結できない外部との契約や取引を効率化するのは簡単ではないのです。

例えばA社とB社の取引において、A社が確実に取引の内容を社内システムに記録したとしても、B社から「取引内容が違います」と伝えられれば、その取引はやはり事実ではありません。つまり、取引を電子的に記録する場合、A社とB社がその取引に確実に合意したという記録が必要になります。

加えて、仮に例えば取引当事者のどちらかが資金繰りに困っていたとしたら、その取引内容を改ざんしてしまうインセンティブも働きます。だから一度記録された情報を勝手に書き換えられない仕組みも必要となります。一方で、企業は大切な自社の取引データを自分たちが完全にコントロール出来ない外部の第三者のサーバーに置きたいとは思っておらず、自分たちの手元で管理したいと思うわけです。

例えば大勢が参加するパーティーに出席した時に、クロークに荷物を預けても大切な財布は預けないですよね。それと同じで沢山の企業が一箇所のプラットフォームに集まって、ここに各社の大切な会計情報や取引情報を預けましょうといっても、絶対預けたくないわけです。

多くの企業間の取引において、そういう状況が続いていたんです。

でもブロックチェーンに出会ったことで、企業をまたいだ取引の記録についても業務改善ができるんじゃないかと思い始めたのです。ブロックチェーンを使えば、データを一か所に集めず、各社が手元で保持したままで、アプリケーションだけを共通利用することで、1企業の業務改善だけでなく、業界横断の業務改善もできるのではないかと。

「Corda」の強み

−多くの企業間の取引にこそブロックチェーンが活用できるんですね。そしてそんなエンタープライズ向けに現在「Corda」をはじめHyperledger Fabric、Quorumなどいくつかのブロックチェーン基盤が提供されています。その中で「Corda」の強みはなんですか?

そもそも「Corda」は金融機関同士のFX取引や金利スワップ等の相対取引をワークフローで繋ぎつつ、どう事後的に改ざんの出来ない仕組みを作るか、というユーザー主導の考え方からはじまりました。実際の取引場面を想定し、要件を抽出してきた背景があり、高度なプライバシーを実現できているところが強みです。

数多くの企業がプラットフォームに参加しても、その中で取引する2社間だけしか、その取引内容を見られない仕組みが実現できるのが「Corda」です。

実はR3も初めはイーサリアムベースでネットワークを試作したり、すでに世の中にあった基盤をたくさん比較して活用する方法も模索していたんですが、その当時存在していたブロックチェーン基盤では金融機関の求める要件が実現できない、という結論に至りました。それであればフルスクラッチで作ろうということになり、できたのが「Corda」なんです。

さらにもう一つの強みを挙げるとすると、長らくエンタープライズの世界でも利用実績のあるJavaをベースに構築できる点でしょうか。使ったことのないプログラム言語がベースだと、やはり多くの企業が採用するのに大きなハードルになります。その点Cordaは今までの基幹システムにも繋ぎやすい、企業のエンジニアにも使いやすいブロックチェーン基盤なのです。

イタリアの銀行間決済を改善した「Corda」

−Cordaは世界中で様々な企業やプロジェクトで採用されていますが、いくつかそのユースケースを教えていただけますか?

まずはイタリアのSpunta(スプンタ)です。これはイタリアの銀行間決済の仕組みをCordaを使って実装したものです。

日本では全銀ネットというものがありますが、イタリアにはそういったものがないんですよ。ざっくりいうとイタリアでは全金融機関が各自で勘定管理をして月次で記録を互いにチェックするような仕組みです。でもそれではオペレーションリスクが高く、勘定も一致しません。

そこでそういった銀行間決済を効率化したいとなったわけです。そこでの2つの選択肢が生まれます。1つは日本の全銀ネットのように集中型でやる方法。もう1つが今まで通り、各行が手元の台帳に記帳しながらもお互いワークフローを組んで、認識相違なく合意をし、なおかつ手元に保存されている情報を後から改ざんできない仕組みを作る方法。

後者の方が現在のワークフローに近い形で実装ができるわけで、それを「Corda」で実現しました。すでに今年4月から導入され現在50の金融機関が使っていて、年内にはイタリア全土に展開する予定です。

日本でのユースケース

−日本ではどのようなユースケースがありますか?

日本の商用事例ではSBIリクイディティ・マーケットがFX取引の管理にCordaを導入しています。BCPostTrade(ビーシーポストトレード)と呼ばれる外国為替取引のコンファメーションシステムです。

コンファメーション作業って当然ですが絶対に間違えてはいけない作業です。オペレーションミスが許されない、でも現場ではその作業は電話やメールなど担当者依存の方法でやっていました。間違えてしまいました、許してくださいといっても許されないわけです。

だからそこにはお互い認識相違がなくデータを保存できる仕組みが必要で、それを作りましょうということでCordaを使って実現しました。

これはまだシンプルな仕組みなのですが、コンファメーションで活用できたことで、その前段階の注文や、後ろで控えている決済などの他業務にも活用できる可能性が考えられるようになってきました。国内でも実証実験の事例はたくさんありますが、実用化した仕組みがベースとなることで、業務のスコープを広げていくことができます。今後が楽しみなプロジェクトです。

サプライチェーンマネジメントへの活用事例

−今までのお話は金融分野でしたが、非金融領域のユースケースについても教えてください。

タイのサイアム・セメントグループによるBlock Chain Solution for Procure to Pay(略称:B2P)というサプライチェーンの仕組みに「Corda」が採用され、すでに実用化されています。

具体的にいうとバイヤーが発注書を書きサプライヤーに送る。サプライヤーは納品して請求書を発行しバイヤーへ送る。そしてバイヤーからサプライヤー支払われる。この流れを今まではすべて紙でやっていました。

もちろん今まで紙でやっていたのは原本性があり、安心できるからです。紙にサインや捺印がしてあれば、その取引の事実証明が出来るという良さがあるわけです。でもその紙のやり取りに多くの時間かかっていました。

それをデジタル化すると、どうやって原本性、つまり信頼性を複数の企業間で担保するという話になるわけです。ブロックチェーンを使うと紙の良さである原本性がデジタルでも実現できるんです。

この仕組みを受発注プロセスに導入したことでバイヤーとサプライヤーの間でリアルタイムの情報共有が可能になりました。

Corda で1つのプラットフォームを作り、今まで人の手でやりとりされていた書類をなくし、効率化とミスなどの回避を実現できたことで調達処理にかかる時間を50%短縮し、業務コストを70%削減できました。

またそれだけでない参加企業へのメリットも生まれてきています。サプライヤー側はこのプラットフォームでサイアムコマーシャルバンクに請求書を送れば、売掛債権を早期現金化ができる、いわゆるファクタリングというサービスも簡単に受けられるようになりました。

こういった仕組みもあって、2020年6月時点で5,000社まで採用されているんです。

日本全体の業務改善を目指して

−このインタビューを読んだ実際に企業の担当者の方が「Corda」を使いたい、アイデアを練ってみたいと思ったらどうすればいいんでしょうか。

私たちSBI R3 Japanに相談していただければと思います。または私たちの技術パートナーになっている企業さんに相談いただいても問題ないです。

いずれにしてもご相談いただければ具体的なプロジェクトの立ち上げ方からアドバイスできますし、例えばコンソーシアムを組みたい場合はそのメンバーの巻き込みも含めてサポートしています。

−今まで一般的のシステムもブロックチェーンシステムも両方とも携わってきた山田さんに聞きたいんですが、とはいえブロックチェーン システムは開発に結構なコストがかかるんではないですか?

確かに一社で作るとなるとそれなりのコストにはなると思いますが、複数社集まって、グループ企業横断もしくは業界全体の課題解決として採用していけば、冒頭の銀行システムの話のようにコストは下げられます。利用する企業でコストを分担する形になるので。そうすると各社がそれぞれでシステムを作って、無理やり繋いでいくよりもコストパフォーマンスはよくなるはずです。

今回全てを紹介しきれませんでしたが、「Corda」は金融はもちろん、保険、貿易、サプライチェーン、不動産、エネルギー、ヘルスケアなど様々な分野で世界中で採用されています。

僕はブロックチェーンを、そして「Corda」を多くのビジネスパーソンに知ってもらい、採用してもらうことで、イチ企業にとどまらず、その業界全体、そして日本全体の業務改善が進むことを願っています。

取材/編集:設楽悠介・竹田匡宏
撮影:堅田ひとみ

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関連リンク

→「SBI R3 Japan株式会社」

→「Corda」

→「Corda Guide」

この記事の著者・インタビューイ

山田宗俊

山田宗俊
SBI R3 Japan ビジネス開発部長 / Cordaエバンジェリスト
日立コンサルティングにて金融機関向けITコンサルティングの経験を経て、2016年、エンタープライズ・ブロックチェーンCordaを開発するR3に、日本人社員第一号として参画。業務改善の視点を軸に、日本企業へのブロックチェーン導入を推進。R3 Cordaを活用したビジネス開発における第一人者。2019年からは、R3とSBIの合弁会社SBI R3 Japanにて、営業およびマーケティングの責任者として陣頭指揮を執る。FLOCブロックチェーン大学校では、ビジネスコースのクラス(金融・証券分野への応用)を担当。Mediumブログを通じて、ブロックチェーン情報を発信中。ブロックチェーン・イベントでの登壇経験多数あり。

山田宗俊
SBI R3 Japan ビジネス開発部長 / Cordaエバンジェリスト
日立コンサルティングにて金融機関向けITコンサルティングの経験を経て、2016年、エンタープライズ・ブロックチェーンCordaを開発するR3に、日本人社員第一号として参画。業務改善の視点を軸に、日本企業へのブロックチェーン導入を推進。R3 Cordaを活用したビジネス開発における第一人者。2019年からは、R3とSBIの合弁会社SBI R3 Japanにて、営業およびマーケティングの責任者として陣頭指揮を執る。FLOCブロックチェーン大学校では、ビジネスコースのクラス(金融・証券分野への応用)を担当。Mediumブログを通じて、ブロックチェーン情報を発信中。ブロックチェーン・イベントでの登壇経験多数あり。

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数多あるブロックチェーンプロジェクトが技術的にどう凄いか、という話はどこでも聞くことができると思います。処理速度が早いとか、簡単に作れるとか。でも、それがなぜ必要かと聞くとあまり具体的な答えが返ってこないんですよね。例えばゲームに特化する機能を用意してますと言っていても、じゃあゲームでわざわざブロックチェーン使ってトークン発行する理由あるんですかって聞くと、なかなか明確な答えが出てこない。

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様々なブロックチェーン領域の事業を進めていく中で、R3との出会いもありました。カンファレンスで来日していたR3のCEOであるデビッド・E・ラター(David E. Rutter)が北尾に「これから成長するために資金調達をする」と話があったのです。その打ち合わせの場に僕も同席していましたが、北尾が「よし、この会社に投資するぞ。決めた!」と言って大きな金額の出資が決まりました。

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