観光や地域の課題解決を目指す。「COMMUN」とは?
福岡県未来ITイニシアティブが、福岡県を拠点にWeb3を活用し事業を行う企業へインタビューをお届けする連載企画。第2回目は、九州地域で大規模NFTイベントなどを開催する「九州NTFラボ」代表で、NFTを訪問証明として配布するアプリ「COMMUN」の事業に携わる時田悠樹氏のインタビューをお届けする。なお取材は、福岡県Ruby・コンテンツ産業振興センターにて実施した。
九州NTFラボ 時田悠樹氏 インタビュー
–時田さんの経歴や暗号資産/ブロックチェーンとの出会いを教えてください。
私は生まれも育ちも愛知県で、前キャリアは地元で10年間警察官していました。その内5年間は、捜査2課で詐欺などの金融犯罪を捜査していたんです。
警察官時代は暗号資産を謳った投資詐欺や、オレオレ詐欺でだまし取ったお金を暗号資産に替えてマネーロンダリングするといった事件を捜査することもありました。
一方私個人としては2017年頃から、ビットコインやイーサといった暗号資産、株式投資などをはじめていました。そういった経緯もあって、仕事と個人的な投資という別のアプローチで、暗号資産に接していましたね。
そして警察官を辞めた後、一時は投資で生きていこうと考えて福岡県に引っ越したんです。その当時は日本でもNFTブームの頃で、福岡ではNFTに携わる人たちとの出会いでも増え、次第にNFT事業をはじめることになりました。
まずは足がかりとして「九州NFTラボ」を作り、NFTの展示会を2022年8月に福岡県中央区で開催しました。その後も、博多マルイやキャナルシティオーパ、福岡三越などで、展示会を開催しました。
また「九州NFTラボ」としての活動を通じ、自治体や企業からNFTの活用についてお問い合わせが増えたんです。そこで自治体や企業のNFT発行をサポートする仕事もはじめました。そしてその中で感じた課題を解決できるツールとして、現在携わっている「COMMUN」に出会ったんです。
「COMMUN」とは?
–当時NFT発行のサポートしている際に感じた課題とは? そしてどのような経緯で「COMMUN」に携わることになったのでしょうか?
私が「COMMUN」に携わる前の、昨年4月29日から5月5日で開催された「有田陶器市」の有田観光協会のブースでNFT配布を行ったんです。その際に、Web3Authを使用し、Unityで作って、ボタン一つでソーシャルログインできて、認証もできる仕組みを構築しました。私としてはユーザーの使いやすさを考慮して、準備したつもりでした。
しかしそのイベントは、一週間で100万人来場するような大規模なイベントでした。そのため通信環境が悪くなり、当日は参加者の方が通信を思うようにできず、ブラウザ環境でのサービス提供の厳しさを知りました。
また使いやすいと思って用意したソーシャルログインも、パスワードを覚えていないなどでスムーズにできないユーザーがかなり多かったんです。メールアドレスでの認証も対応していたんですが、イベントが幅広い年齢の方対象のものだったので、そもそもメールアドレスを使っていない人も多かった。
Web3を使ってもらうにはUIUXが重要だとよく言われていますが、まさにそれを実感しました。そして自分が想定している以上に、もっともっと使いやすいサービスを提供しないと、多くの人には使ってもらえないことを学んだんです。
そのイベントの後に、これらの課題を解決できるツールはないか探していた際に「COMMUN」を開発したエンジニアのkanap0n氏に出会ったんです。そして昨年10月に開催された陶磁器祭りからはツールとして「COMMUN」を採用し、私もビジネス面で関わることになったんです。
–「COMMUN」はどういったサービスですか?
「COMMUN」は、その場所に行ったデジタル証明(訪問証明)をNFTで発行できる機能を提供するプラットフォームです。NFTを発行する側の自治体や企業向けに、NFTの配布だけでなく、対象NFTの保有認証、通知配信、経路案内、保有枚数によるランク認定など、様々な管理機能をプラットフォームとして提供しています。
またNFTを受け取るユーザー側は、アプリをスマホにインスールするだけで個人情報などの登録も不要で、簡単に色々な発行者のNFTを配布されている場所を訪れて、入手することが可能です。アプリ内では「COMMUN」で実施されているイベント情報も確認できますので、こちらをポータルとしてNFT配布のあるイベントを探すこともできます。
「COMMUN」は「誰でも手軽に簡単に」をコンセプトに掲げています。前述のようなUI/UX課題に躓いていた私が、これなら誰でも使えるだろうと魅力を感じた、初心者でも使いやすいことにかなりこだわったサービスです。
訪問証明NFTの配布事例
–「COMMUN」の活用事例を教えてください。
自治体の活用事例として、福岡城、小倉城、島原城の3城で行った取り組みがあります。
「COMMUN」で、スマホ御城印NFTを販売し、購入者にはそのNFTをクーポンとして近隣のお店で使っていただくという取り組みを実施しました。今まで売り切りだった御城印をデジタルにして、クーポンにも活用できることで、地域のユーザー基盤として活用してもらうきっかけに携わらせていただきました。
その他では鹿児島県の肝付町にある内之浦宇宙空間観測所で行われる観測ロケット打ち上げの見学イベントにもNFTを配布いただく予定になっています。
これまでも開催されていたロケット打ち上げイベントなのですが、全国から人が集まるものの、しっかりと参加者にアンケートを実施できず、参加者の属性が把握できていないという課題があるんです。これまでは参加者を見学場に来た車のナンバープレートでざっくりと把握していた、という具合でした。
さらに打ち上げの見学に参加する方は抽選で選んでおり、当選した方に駐車券をお配りしていたのですが、その配送業務もアナログで労力がかかっていたという課題もあります。
それらの課題をNFTで解決すべく、実証実験を開始する予定です。当初打ち上げは今年8月予定でそれに合わせ準備を進めていましたが、地震の影響で11月に延期になりました。
11月の開催時は、まず発射記念のNFTを配布して、現地に持ってきてもらえれば特典としてグッズがもらえる施策からスタートさせる予定です。そして先々は、抽選で参加が当選した人にNFTを配布して駐車券として使えるようにしたり、町内のクーポンとして使えるようにしたり、アンケート情報を取得できたりするような構想を掲げています。
–「COMMUN」でこれまでNFTを受け取ったユーザーからは、どんな声が届いていますか?
ブロックチェーンを意識せず簡単に使えるという声を多くいただいています。これまで複数のイベントで配布してきましたが、アプリの使い方に関する問い合わせは、ほとんどありません。
そしてNFTはちゃんとパブリックチェーンで発行されていますし、エクスポート機能など上級者向けの機能もちゃんと実装しています。その点は、NFTに慣れた方々にも評価いただいています。
―今後「COMMUN」をどのように広げていく構想がありますか?
「COMMUN」を活用する自治体や企業が今後どんどん増えれば、それぞれに閉じたシステムではなく、いわばポケモン図鑑のように、ユーザーが全国各地のNFTを1箇所に集められるアプリになります。
そうなると異なる地域やプロジェクトのそれぞれのNFTを、相互送客を促すクーポンとして活用することも可能です。例えばA市のNFTをB市のイベントで抽選券として使える、A市のNFTを持っているとB市の飲食店が割引になる、といったように各地域がどんどん連携できるプラットフォームにしたいと考えています。
–時田さんは今後も基本的には福岡で事業をされていくのですか?
はい。福岡を本社拠点としながら、ただサービスについては全国に広げていく予定です。
「九州NFTラボ」に関しても、例えば「関東NFTラボ」や「四国NFTラボ」といった具合に広げていき、地域同士を連携する窓口として各地の観光を盛り上げていきたいと思っています。
バブルがさった今、NFTは今後どう活用されていく?
–NFTは2年前のブームに比べるトレードボリュームも大きく減少しています。そうした市場状況をどう捉えていますか?
私個人としては、今まで購入した何百枚ものNFTの多くが、ほぼ流動性がなくなってしまっています(笑)。ただ当時アート系のNFTは、そもそもアーティストの応援のために購入したものなので、それはそれでいいかなと今は振り返っていますね。
そしてバブルと言える盛り上がりがNFTにあったことは、私自身もそのお祭り騒ぎの中で今に繋がる人々との出会いもあり、いい機会だったと思っています。当時のNFT界隈って、2016-2017年の暗号資産ICOバブルに似たような、盛り上がり方でしたよね。当時はそれに可能性も感じていましたが、ただ市場が盛り下がっている現在の方が、投機的な要素が弱くなって自治体や企業が使いやすくなった側面もあると感じています。
将来、ブロックチェーンがインフラになると考えています。そういう意味ではデジタルアートとか投機的なアセットとしての側面のNFTはその一部でしかないですよね。もっと色々な可能性を秘めたNFTに関しては、ここからが勝負だと感じています。
人や地域、お店をつなぐ一つのツールとしてのNFT/ブロックチェーンはインフラとして機能していくんじゃないかと考えています。そのときの主要ツールに「COMMUN」がなっていたら嬉しいですね。
–東京で参加予定の第5回ブロックチェーンEXPO(秋)で、どういう方々と出会いたいですか?
これまで色々な自治体や企業が、それぞれアプリを作ったりしてバラバラにNFTを発行している状況があると思うんです。でもせっかくブロックチェーンを使っているんだから、それぞれで囲い込まず、仮に競合同士だとしてもユーザーをシェアするようなことが進んで欲しいと思っています。
そうすることで例えばいろんな自治体が連携し、それぞれの関係人口を相互送客することともできる。それがオーバツーリズム対策にもなると思っています。そういった観光や自治体の課題を解決する一つのツールとして「COMMUN」を広げていきたいので、そのような取り組みに興味がある自治体や企業の方々と、EXPOではお会いしたいと思っています(参考:第5回ブロックチェーンEXPO【秋】(11月20日~22日 幕張メッセで開催)の福岡県出展企業)。
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取材/インタビュー:設楽悠介(あたらしい経済)
編集/執筆:荘日明(あたらしい経済)
写真:堅田ひとみ
取材場所:福岡県Ruby・コンテンツ産業振興センター