官と民、両者の目線で進めるシェアリングエコノミーとテクノロジーの発展
―まず石山アンジュさんの仕事について教えてください。
大きくは2つの社団法人の組織長をしています。一つ目はシェアリングエコノミー協会の事務局長です。今はシェアリングエコノミー協会も約300社くらいの加盟がある大きな業界団体になりました。協会のスタッフも、社員、インターンを含めると事務局メンバーは20人くらいいます。
例えばフィンテックであれば、金融だけを考えればいいのですが、シェアリングエコノミーというと、ライドシェアや民泊やチケットの二次販売、犬の預かり合いやシェアサイクルなど、あらゆるジャンルがあります。その様々なジャンル、各業界の意見をまとめてロビイングするのが、昨年までやっていた公共政策部長の仕事でした。今は公共政策の責任者をやりつつ事務局長として全体を見ています。
もう一つは一般社団法人Public Meets Innovation(パブリックミーツイノベーション 以下、PMI)を昨年設立し、その代表理事を務めています。PMIではミレニアル世代を中心とした国家公務員、政治家、弁護士などのパブリックセクターとスタートアップや研究・教育機関のイノベーターらが協働しイノベーションに特化した政策を検討し、社会への発信を目的とした団体です。
他には、個人でNewsPicksさんの「WEEKLY OCHIAI」のMCや個人としてシェアリングエコノミー専門家もやっています。
—具体的にはどのような仕事内容になりますか?
シェアリングエコノミー専門家としては情報発信や日本全国で講演など、シェアリングエコノミーの概念を社会に普及させていく活動をしています。今年3月にはシェアリングエコノミーの思想をテーマにした『シェアライフ 新しい社会の新しい生き方』という書籍も刊行しました。
シェアリングエコノミー協会の公共政策の仕事では、いわゆるロビイングが主な活動です。シェアのプラットフォーマー企業の規制課題や、シェアリングエコノミー全体の安心安全な市場環境を目指したルールのフレームワークづくり、また社会課題や行政が抱えている課題に対するシェアエコの政策推進など政府や官公庁との間に入って、規制や課題について話し合います。
もう一方では、政府の委員などを公職としてやっていて、政府という目線から、シェアリングエコノミーをどうやって政策として推進できるのか。地方創生、関係人口を始め、オリンピックパラリンピックでどう活用できるか、などを考えています。
またPMIの活動では昨年12月の団体設立以来、セクターを超えたコミュニティの場を通じてイノベーションに特化した政策議論を重ねています。
ミレニアル世代のイノベーターは、あまりに政治に疎い
―仕事の中で今特に課題だと思われることは何ですか?
そもそも官と民をつなぐプレイヤーが少ないことです。
新しいサービスやイノベーションがあって、それを日本社会全体に享受するような実装をしようとすると、法的課題も出てきたりと社会的な壁が立ちはだかります。一方で、イノベーションを起こす側の民間セクターの起業家やビジネスパーソンは、政治政策にあまりに疎い。自分が知らないところで規制がかけられてしまったり、ルールが決まってしまったりというようなことが起きているのではないでしょうか。
イノベーターは、社会を変える実行力があるにもかかわらず、政治政策に関与することがメリットであると理解していないからです。イノベーションを最大限に起こすには、産業構造を作っていく上で必要なルール整備についてもっと意識を持つことが重要だと考えます。
もう一方で、若い官僚などは、シルバー民主主義と言われている中で、その課題意識を持ってはいると思います。でも公務員はメディアに出られないし、縦割りの社会の中で特に若い人は外での活動もしづらいし、そもそも国会対応でとにかく忙しい。想いも課題意識も持っているけれど、それを発信したり繋がったりする場がないんです。大変な機会損失ですよね。
―確かに、日本のベンチャーでも大きな企業はロビイング専門の部署がありますが、例えば今私たちが関わっているブロックチェーン界隈のスタートアップなどはそういった活動が十分にできていない印象があります
今、ブロックチェーンを始め、ルールがない市場のイノベーションがたくさん生まれている一方で、産業の構造まで変えようとする人が少ないと思います。
しかし産業の構造を変えるには必ずパブリックに関わらないといけません。その視点を持った産業構造を作り出せる起業家やビジネスパーソンを増やしたいと思っています。
前提を無くして白紙から。未来逆算型で考える
—PMIの活動である政策議論ではどのようなテーマを扱っているんですか?
モビリティとかアグリテックとか毎月テーマを決めて、それに関わる官僚と、スタートアップの経営者や弁護士と政策を議論しています。政策のオーナーとなるポリシーオーナーに各省のミレニアル世代の官僚を立てて。例えば、経産省の人がポリシーオーナーとなってモビリティの空飛ぶ車の議論をしたり。
基本的に官僚主導でやっています。そしてこれらの議論を踏まえミレニアル世代300人が考える令和時代の新ビジョン「ミレニアルペーパー(仮名)」を年内に公開する予定です。
この政策ペーパーの提言を通じてミレニアル世代が考える令和時代の新たな社会のビジョンとそれを実現する政策・イノベーションそれぞれの観点から新しい制度・モデルを提示していきたいと思っています。
PMIのコアコンセプトは、未来逆算型で考えることと、前提を無くして白紙から考えること。今の霞が関は、これまでの歴史の積み上げで課題解決する政策しか作っていないんです。そうではなくて、未来逆算型で今必要な政策を考える。
先日は、農水省の官僚主導で、アグリテックの「酪農政策で牛乳の生産量を維持するためにはどうしたらいいか?」という議論をしました。コストはかかるし人口減少している状況でどうしていくかと。
そこで、バイオ食のベンチャーの起業家が、「そもそも本物の牛乳を飲む必要があるんですか? 5年後には人工乳が普通に飲めてもおかしくない社会です。本物の牛乳を全員が飲むために莫大なコストをかける意味はないですよね?」と返して、その発想を持っていなかった官僚と面白い科学反応が生まれるシーンがありました。
こういう化学反応が必要なんです。既存の積み上げの中から新しいものについて考えようとしても対立構造しか生まれません。そうではなくて、2050年、シンギュラリティの更に後、既存業界と新しい業界が一緒にやっていくためには、バックキャスティング(逆算型)のアプローチが必要だと思います。それを推進していくことがPMIの大きな役割の一つですね。
企業でも国でもない、個人組合(コミュニティ)が増える
―2050年、社会は、国や企業は、どうなっていると思いますか?
まず、テクノロジーが人間の生活に必要不可欠なものになっていると思います。人間とテクノロジーが融合している社会になっているでしょう。
国や企業の役割もまったく変わっているでしょうね。国の役割の一つである公共サービスは、2050年には企業が担うようになっているかもしれません。公共交通とかインフラ、電気、水道、ガス、医療、社会保障など、民間でもできますから。公的な機能を持ちうる国みたいな企業が現れるのでしょうね。
また、今はブロックチェーンはいちテクノロジーですが、ブロックチェーンを利用した分散型社会が進んでいったとしたら、国=領土というものではない、ネット上の国が出てくる可能性だってあります。
超分散化された社会では、個人組合×テクノロジーという集団がどんどん大きくなると思います。それは、企業でも国でもない。1万人のコミュニティで1万人が月10万円ずつ払って、その集合体のお金で社会保障もサービスも公共的なものを全部賄うような経済ですね。既にブロックチェーンで組合型のシェアリングエコノミープラットフォームが出始めています。
こういった、国=領土ではない、個人組合×テクノロジーが経済圏として出てくる。個人は、既存の国も選べて、完全テクノロジー空間の新しい国も選べるといった、いくつかのコミュニティを選択して行き来できるような社会になるといいと思います。
そのためには制度的な改正が必要ですね。
(つづく)
編集:深谷その子/設楽悠介
撮影:堅田ひとみ