ALISの未来とこれからのICOの可能性について/安昌浩CEOインタビュー(後編)

安昌浩

2017年にICOを成功させ「ALIS」は日本のブロックチェーン業界のファーストペンギンとなった。「あたらしい経済」では特集「日本発のブロックチェーンソーシャルメディア『ALIS』の軌跡」と題し、「ALIS」のこれまでの軌跡と思い描くその未来に迫る。特集企画第1弾の「ALIS」CEO安昌浩氏インタビューの後編を公開します。(→前編はこちら

ALISが創る、これからの未来

−ALISを通して、どんな社会を実現したいのですか?

僕のVisionは「信頼の可視化で人とのつながりをなめらかにする」ことです。

これをちょっと噛み砕いて説明する前に、背景だけ簡単に伝えさせてください。僕は北九州市で生まれ育ち、大学に行って、会社入ってという今までの人生の中で資本主義の格差をいたる所で感じてきました。

残念ながら人生は、その人の生まれてきた時の初期状態で多くが決まってしまうのではないかと思っています。それは統計学的にも証明されています。だからこそ僕は、自らの人生をフル活用してこの状況をどうにか変えないといけないという課題を強く持つようになりました。

今の資本主義が、資産や市場を独占している人たちだけの社会だとしたら、少しでも使われていない資産を社会に還元できる形にすることはでいないだろうかと。

しかし考えれば考えるほど、このルールをつき崩せる気がしなかったのです。だから、僕はまず資本主義から離れないといけないと考えました。別のルールを持ち出して、そこで人が活き活きと生きられる状況を作り出せないだろうかと。

資本主義、人的主義、社会関係資本があったときに、僕は社会関係資本が人の人生の豊かさを圧倒的に顕してくれると考えています。これをもっと今までなかったような形で提供していけないかというのが、ALISの発想の原点です。

今、インターネットで人を集められるようになり、単純なコネクションは作れるようになりました。しかしそのコネクションで繋がった人たちが、お互い本当に信頼しあえるかどうかは判定ができないです。人が何に対して信頼情報を持っているかを可視化して、繋げられる状況を作れないかと僕は考えています。

わかりやすい例として人材採用があります。ブロックチェーンに関してものすごく精緻な記事をALISで書いている人がいるとします。そしてその記事を評価した人のタグがその記事ついた状態で、他の企業の人がそれを見たとしたら、この記事を書いている人はみんなからブロックチェーンに詳しい人だと認められると思いますし、さらにその人を見つけることができる人もセンスがあることがわかります。ALISではそういったことを実現していきたい。

この「見つける」ということにフォーカスし、トークンを貯めていくことによって、その人の役割を認知していってもらう。そして、ALISでの評価が現実の経済活動に還流していくようにしたいです。

そしてさらに先の未来ではALISトークンだけでも経済活動ができるようなプラットフォームになることを目指しています。

ALISで記事書いてトークン獲得して、ある農家がすごく良い記事で救われたと言って大根とトークンを交換するみたいな世界観です。そこまでALISをもっていきたいのです。だいぶ遠い話だとは思うのですが、そこまでいってトークンにエコノミクスがついてくると思っています。法定通貨と紐付いているのでは、資本主義に引き込まれてしまっているだけですから。

もちろん現実問題はしっかりと見据えないといけないので、そこはバランスはしっかりとりながら事業運営を進めております。

これからICOを検討する経営者が知っておくべきこと

−将来、明確なルールができ、日本でも多くの企業がICOできるようになったとしたら、ALISの経験はみんなの役に立つはずです。その未来に向けてアドバイスをお願いします。

正直に言うと、ICOのルールが整って多くの企業ができるようになったとしても、大企業はこの技術を使いこなすのは相当難しいと思います。なぜなら、社内決裁を通すことが非常に難しいからです。そしてコミュニティのコントロールなども非常に難しい。よっぽどのことが無い限り大企業はリスクを回避してPoCからスタートという形になるかなと想像します。

また大企業が分散化した技術に、自分たちの会社の一部を委ねないといけないことを知っておくべきです。その決断の意思決定ができるかが大きなポイントだと思います。創業社長が独断でやるということでもない限りは、大企業ではその決断は難しいのではないかと思います。

一方スタートアップ企業に関しては、ICOは資金調達の最高の方法になると思っています。ICOのメリットは「プロダクトやサービスを出す前に、先にコミュニティを作れること」です。協賛する人を先に集めて、お金も集まるわけです。これはVCから資金調達をするよりスタートアップにとっては大きなメリットだと思います。

その上で大切なのは、中長期的にブロックチェーンとトークンエコノミーのどのような最終理想形を目指すのかを考えることが非常に重要です。それには経営者の哲学が必要だと思います。

またもう一つ大切なことは、ICOをするときにどんなメンバーとやるかも大切なポイントだと思います。これはICOには限らないですが、いかに信頼をできるチームを作るか、それが特にICOの場合は重要になってきます。

−ICOで資金調達をすることと、株式会社を作ってVC(ベンチャーキャピタル)などに出資してもらうこと、どう違うか教えてください?

ICOで資金調達と、VCからの資金調達では圧倒的にスピードが違います。ALISはICOで資金調達して3ヶ月で当時4.3億円を調達することができました。一般的には起業してすぐにプロダクトもないのにVCから4.3億円を3ヶ月間で集めるのは難しいと思います。我々のような無名のプレイヤーであればなおさらです。

またもう一つICOが通常の資金調達と違うのは、世界を対象に資金調達ができる点です。ALISも億単位の資金を海外から調達することができました。これは日本国家としても結果的に外貨獲得に繋がりますので、大きなメリットかと思います。

日本が世界基準になるために「業界のプレイヤーを増やそう」

−今の日本に足りないところはなんでしょうか?

まずはルールの整備です。金融庁や自主規制団体が進めていると思いますが、早く明確なルールができればいいと思っています。

そしてその上で業界のプレイヤーをもっともっと増やさないといけないと思っています。海外でブロックチェーンイベントに行くと、ICO実施者がそのあたりにゴロゴロしています。そしてICOの経験からみんなブロックチェーンについても深い知識を持っています。だから日本のプレイヤーはもっと増えてほしいですし、どんどんと国内でもその知見や情報が共有されて、みんなが正しくブロックチェーンを理解するようになってほしいと思っています。

またICOに対するイメージも変えなくてはいけないと思っています。どうしても目立つ詐欺プロジェクトのせいで、ICO自体が悪いことのような雰囲気があると思っています。

もちろんICOはリスクが高いというのは事実ですが、それを制御する方法はいくらでもあります。例えばICO実施者がお金の持ち逃げをしまうリスクがあるのであれば、スマートコントラクトで縛ればいいだけの話です。例えば、ステージゲート制のようなものを設けて、都度ステージに達した時にトークンホルダーに投票をしてもらい過半数以上がOKと言った時に引き出せる、みたいな条件をスマートコントラクトで作るができます。いわゆるDAICOと呼ばれるものですね。

そういった意味でもICOやブロックチェーンに関して、日本でも多くの人により正しい理解と知識を持ってもらいたいと思っています。

−現在日本は海外から差をつけられていると思いますか?

海外に行くと圧倒的に差を感じます。このままではインターネット時代にGAFAが独占したように、ブロックチェーン時代でも海外の企業が市場を圧巻するのではないかと危惧しています。

たとえばサンフランシスコで会った人に「僕はALISというプロダクトを運営していて、ソーシャルメディアをやっています」と自己紹介をした瞬間すぐに相手から「サービスの技術構成はこんな感じじゃない?」としっかりとALISの構造を理解した上で、議論が始まります。

残念ながら日本はではそのようなケースはなかなかないです。その点から見ても、圧倒的に差をつけられているのを実感しています。海外の人から見ても日本は、投資が盛んなのは知っているけど積極的に取り込んでいく市場じゃないと思われています。

今すごく大切な時期だと思っています。今の日本にもコミュニティがすでにあるところには、ICOの可能性がたくさんあると感じています。たとえばスポーツなど相性がいいですよね。

でもこれから法規制がガチガチになっていって、結局スタートアップができず大企業からよしなにやっていき、気づいたら世界と差があけられていたなんていうことは避けたいです。だからこそ、簡単ではないと思いますが多くの可能性を残した規制ができて、日本でも明確にルールが整っていくことを期待しています。

—ちなみに日本の規制がどうなるかわからないので、海外でICOしようとしている日本のプロジェクトもありますが、それについてはどう思いますか?

確かに海外で海外のレギュレーションにのっとって日本人を対象にしない形でICOをするという手段はあります。ただ海外でやるのも結構ハードルが高いのです。たとえばシンガポールでICOをやるとなると、はじめに現地法人を作る必要があります。そして、その企業がペーパーカンパニーとみなされたら一気に税金を持って行かれるのでちゃんと役員を現地に派遣して、従業員も雇わなければなりません。それが結構大変なのです。だからといってマルタとかケイマンでやろうとすると、ものすごく怪しいプロジェクトと思われて取引所が扱わなくなるリスクもあります。

実は海外でもICOは気軽にはできないです。グローバルにサービスを展開する前提であれば話は別ですが、僕ら含め多くの日本のプロジェクトは国内を盛り上げるためにICOをしたい方々が多いと思います。だから、僕は日本で安全にICOができるように早くなってほしいと思っています。

(ALIS 安氏インタビュー おわり)

→前編はこちら「日本のブロックチェーン業界のファーストペンギン「ALIS」誕生秘話/安昌浩CEOインタビュー(前編)」

次回は他のALISメンバーのインタビューを掲載いたします。

(編集:設楽悠介/竹田匡宏)

この記事の著者・インタビューイ

安昌浩

ALIS FOUNDER / CEO
京都大学において核融合の研究を専攻し、ヘリカル型プラズマのアルヴェン固有モード励起のパターンをFortran言語で解析。 2011年株式会社リクルート(Indeedの親会社)入社、ビジネスSNS・名刺管理アプリ・リファラルツール等の事業戦略、新規事業開発、開発ディレクションを行う。 また、機械学習や自然言語解析等にも積極的に取り組み、2016年リクルートグループの企画に贈られる最高賞GROWTH FORUMを受賞。 その後日本マイクロソフトとの共同プロジェクトのプロジェクトリーダーも兼ねる。 ブロックチェーン技術に出会い、AI・VRよりも世の中の進化スピードを早められる手段だと確信し、ALISを立ち上げる。

ALIS FOUNDER / CEO
京都大学において核融合の研究を専攻し、ヘリカル型プラズマのアルヴェン固有モード励起のパターンをFortran言語で解析。 2011年株式会社リクルート(Indeedの親会社)入社、ビジネスSNS・名刺管理アプリ・リファラルツール等の事業戦略、新規事業開発、開発ディレクションを行う。 また、機械学習や自然言語解析等にも積極的に取り組み、2016年リクルートグループの企画に贈られる最高賞GROWTH FORUMを受賞。 その後日本マイクロソフトとの共同プロジェクトのプロジェクトリーダーも兼ねる。 ブロックチェーン技術に出会い、AI・VRよりも世の中の進化スピードを早められる手段だと確信し、ALISを立ち上げる。