日本と韓国の「医療×ブロックチェーン」の現状と課題 PoT #04-4 水島洋×コ・ウギュン(メディブロック)

藤本真衣

日本の医療業界でブロックチェーンが使われるようになるには

藤本:具体的に日本においてはどのように医療分野にブロックチェーンが使われていくと水島先生は考えていますか?その情報管理はやはり国が主導してやることになるのでしょうか?

水島:まさにそこが問題なんです。個人の健康情報を日本の中でどのように管理していくか、いくつかの方法があると思うのですね。

私は、国が管理する方法が一番いい方法だと思います。エストニアのように、国が全部の情報を持ち、各病院に法的な根拠に基づいて導入していくという形で進めるイメージです。

エストニアはその透明性を確保したことで、国民から国への信頼が厚いと言われています。だから国が情報を持っていても、国民は安心して預けています。誰が自分のどのデータにアクセスしたか全部見えるようになっていることで、透明性があるのです。

だから国が主導していくには、まず日本も国としての透明性を今より上げていく必要はあると思います。

国がむずかしければ、民間で実施したりそこに第三者機関を設けたりと、いろいろな方法が考えられますね。私の知り合いの会社が「メディブロック」さんと同じようなサービスを日本で進めています。

そして最近海外でも、同じようなサービスが各地でできているので、それをどのように統合していくのか、その仕組みができればいいと思っています。うまく情報を交換することができれば、それぞれのプレイヤーで協調していけると思います。

ただまずは日本国内でうまく仕組みを作らなければいけないと思っています。

例えば日本の薬局でお薬手帳の導入が始まっていますけど、多くの種類がありすぎて、正直うまく機能していないように感じています。そのように国内だけでも仕組みを作って変えるのは簡単ではないですから、どうやって仕組みづくりをするかがこれからの課題だと思います。

韓国の現状と課題

藤本:韓国の場合は、どのように医療分野にブロックチェーンが使われていくと考えていますか?

コ:韓国政府も以前、医療情報を集めようという試みをしたことがあったのですが、実現しませんでした。実現しなかった理由の一つは個人情報の保護法との兼ね合いがあったからです。政府だからといって、医療情報が全て見えてしまっていいのかということが論点になりました。政府が完全にそれを悪用しないという保証はどこにもないので。

多くの国々で、政府がこうしたシステムを作ろうとした試みがありますが、まだ上手く実現できているところはないです。それで韓国のみならず海外でも「メディブロック」のライバルとなるプロジェクトはいくつか生まれています。

メディブロックはオープンソースで世界を目指す

藤本:幾つかのライバルプロジェクトの中で「メディブロック」さんの強みはなんですか?

コ:私たちはその中でも唯一技術を持っている企業だと自負しています。弊社は実際ブロックチェーン技術や進捗状況はをすべてパブリック向けに公開しています。

藤本:オープンソースということですか?

コ:はい。オープンソースでギットハブにお越しいただければ、どなたでも「メディブロック」の現在の技術情報を確認していただくことができます。私の知る限り、世界のヘルスケア業界の中でもあまり例のない、オープンソースで進めているプロジェクトだと思います。パブリックでオープンソースにすることは私達の技術的な優位性を証明する一つの手であり、そうすることで韓国のみならず世界でも業界をリードして行けるのではと思っています。

そして海外展開については「メディブロック」が直接その国に行って事業を展開し世界進出していくというよりは、各国で技術的なサポートのみをするというようなイメージを持っています。

例えば、海外で本当に優れているヘルスケアサービスがあるとしても、それがもし日本に導入されてもまったく同じ結果を得られる可能性は低いと思います。なぜなら特にヘルスケアサービスは、非常にローカライズされており、その国の国民性や文化、そして習慣と密接に関係しているものです。そのため弊社の技術を日本に持ってくるとしても、日本の事情を最もよく理解する日本の事業者の方に展開していただくのがいいと思っているのです。そのように各国で技術的なサポートをしていき、その成功例をどんどんと作っていきたいと思っています。

そして各国で多くのプラットフォームが出来て、それぞれが連携していけるようになるのが理想的だと思っています。

例えば日本にお住いの方が旅行で韓国に来た時に、急に具合が悪くなって病院に行くことになったとします。その時に日本での自分の医療データを自ら所持できていて、それを韓国の病院にも提供することができれば、質のいい医療サービスを安心して受けられると思います。

私が海外でミートアップを開催したり、イベントに参加していたりするのはそういったパートナー企業を探すためでもあります。日本をはじめ、各国でその国のことを熟知している企業さんと組んでいきたいと思っています。

藤本:私もブロックチェーン関連のイベントなどで様々な国に行くことが多いので、そのような仕組みが各国で連携していくとすごくありがたいです。ぜひ「メディブロック」さんにどんどんと技術を世界に広めていっていただきたいです。

そして「健康・医療」というのは本当に私たちにとっての大切なテーマです。まだ日本国内にブロックチェーンの仕組みを理解した上で医療の知識や国の制度などを熟知されている水島先生のような方は、本当に少ないと思っています。だからこそ水島先生に今後もどんどんと活動いただいて、医療分野でブロックチェーンに関わるプレイヤーを増やしていってもらいたいと願っています。

(おわり)

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インタビューイ・プロフィール

水島洋(みずしま ひろし)
国立保健医療科学院 研究情報支援研究センター長
1983年東京大学薬学部卒業。1988年薬学博士。国立がんセンターがん情報研究部室長、東京医科歯科大学オミックス医療情報学講座教授などを経て、現在に至る。ITヘルスケア学会代表理事、医療ブロックチェーン研究会会長など兼務。専門領域はゲノム研究のほか、医療情報学、公衆衛生学、希少疾患・難病、災害など。

コ・ウギュン
メディブロック共同創業者
2006年韓国のKAIST(Korea Advanced Institute of Science and Technology)にてコンピュータサイエンス学位を取得した後、2008年アメリカのコロンビア大学にてコンピュータサイエンスの修士号を取得。2008年から2012年までサムスン電子でリードソフトウェアエンジニアとして勤める。2012年、慶熙大学歯医学専門大学院にて歯科医の修士号を取得した後、2017年3月まで歯科医として勤務。2017年4月、医療情報システムに問題意識を持ち、ブロックチェーン技術を用いてその問題を解決しようと「メディブロック」を設立。

この記事の著者・インタビューイ

藤本真衣

Intmax Co-Founder
2011年にビットコインと出会って以来、国内外でビットコイン・ブロックチェーンの普及に邁進。海外の専門家と親交が深く「MissBitcoin」と呼ばれ親しまれている。
自身は日本初の暗号通貨による寄付サイト「KIZUNA」やブロックチェーン領域に特化した就職・転職支援会社「withB」ブロックチェーン領域に特化したコンサルティング会社「グラコネ(Gracone)」などを立ち上げる。
暗号通貨とBlockchainをSDGsに活用することに最も関心があり、ブロックチェーン技術を使い多様な家族形態を実現する事を掲げたFamiee Projectや日本円にして17億円以上の仮想通貨寄付の実績を誇るBINANCE Charity Foundationの大使としても活動している。
NFT領域に関しては、2018年よりNFTに特化した大型イベントを毎年主催している他、Animoca Brands等の、国内外プロジェクトのアドバイザーも多数務める。2020年以降は、事業投資にも力を入れており、NFTを使った人気ゲーム、Axie Infinity」を開発した Sky Mavis 、Yield Guild Games、Anique等に出資している。現在はイーサリアムのLayer2プロジェクト「Intmax」のCo-Founderとして活動中。

Intmax Co-Founder
2011年にビットコインと出会って以来、国内外でビットコイン・ブロックチェーンの普及に邁進。海外の専門家と親交が深く「MissBitcoin」と呼ばれ親しまれている。
自身は日本初の暗号通貨による寄付サイト「KIZUNA」やブロックチェーン領域に特化した就職・転職支援会社「withB」ブロックチェーン領域に特化したコンサルティング会社「グラコネ(Gracone)」などを立ち上げる。
暗号通貨とBlockchainをSDGsに活用することに最も関心があり、ブロックチェーン技術を使い多様な家族形態を実現する事を掲げたFamiee Projectや日本円にして17億円以上の仮想通貨寄付の実績を誇るBINANCE Charity Foundationの大使としても活動している。
NFT領域に関しては、2018年よりNFTに特化した大型イベントを毎年主催している他、Animoca Brands等の、国内外プロジェクトのアドバイザーも多数務める。2020年以降は、事業投資にも力を入れており、NFTを使った人気ゲーム、Axie Infinity」を開発した Sky Mavis 、Yield Guild Games、Anique等に出資している。現在はイーサリアムのLayer2プロジェクト「Intmax」のCo-Founderとして活動中。

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まさにそこが問題なんです。個人の健康情報を日本の中でどのように管理していくか、いくつかの方法があると思うのですね。 私は、国が管理する方法が一番いい方法だと思います。エストニアのように、国が全部の情報を持ち、各病院に法的な根拠に基づいて導入していくという形で進めるイメージです。