法律から考える、NFTの価値とリスク  [NFTと法律] 前編(アンダーソン・毛利・友常法律事務所 長瀨威志弁護士)

長瀨威志

今年に入り世界的に盛り上がりを見せる「NFT」。

NFTは、Non Fungible Token(ノンファンジブル・トークン)の略語で、代替が不可能なブロックチェーン上で発行されたトークンを指す。NFTの規格で発行されたトークンは、そのトークン1つ1つで個別の価値を表現できる。そのため画像や映像などのデジタルデータと紐付けることで、デジタルデータの個別の価値を表現することに活用されている。

現在海外に限らず、日本国内でも著名人のNFT発行や、大手企業の事業参入が相次いでいる。急激に世の中に広まりつつあるNFTだが、そのブームのスピードゆえに、法律的な部分がまだまだ未整備な状況がある。

今回「あたらしい経済」は、ブロックチェーン業界に精通する弁護士の1人である、長瀬威志氏を取材。NFTにまつわる法律の疑問や、現状のリスクや、その可能性について語ってもらった。

「NFT」は法律で定義がない

−現在のNFT市場をどのように捉えていますか?

NFTは2017年ごろからクリプトキティーズをはじめ、ブロックチェーンゲームなどにも活用されて色々な事例がありました。ただ今年に入り、デジタルアート分野でNFTが活用され、そこからブームが拡大しています。

企業の参入なども増え、日本でもNFT関連のビジネスの成長スピードは急激に速まってきています。

そして法律的な部分で考えると、まだまだ例えば「NFTは何を売買している権利が何なのか」など、十分に整理されていない未成熟な状況と言えるでしょう。

−法的な観点からNFTはどのように扱うべきとお考えですか?

まず大前提として、NFTは資金決済法のような法律で特に定義がありません。さらに金融商品取引法でも特に規定されていません。つまり現在の法律上、NFTは何の規定もされていません。

そのため、今後NFTがビットコインのように規制されるのかについても、「暗号資産と違うので規制されない」という意見や、「投機的な目的で扱われることが多く、金融商品として扱われるのではないか」という意見もあります。

ビットコインを含めた暗号資産は、お金のように決済に使えるため資金決済法に位置づけて規制をした過去があります。

ただ前述の通り、法律上、NFTについて特有の規定はまだありませんので、今後どうなるかには注意が必要です。

それは本当にNFTか? それともFTなのか?

−NFTが暗号資産、つまりFT(ファンジブ・トークン)だとなれば規制の流れになるのでしょうか? その辺りの判断基準についてどう考えればいいですか?

NFTとFTの違いについては、まだNFTの定義が法律で規定されていないため、結局は個別のNFTの社会的実態で判断されます。

例えばスポーツ選手のシュートシーンの画像や動画データをNFT化したものについて、「これはNFTなのでビットコインみたいなFTとは違う、暗号資産ではない」とは断言できません。

例えば、そのスポーツ選手のシュートシーンの同一のNFTが、1万枚や百万枚ぐらい発行されたとします。

そしてそのNFTが別のNFT購入の支払い手段や交換に使えるのであれば、FTのように考えられるでしょう。なぜなら、そのNFTはお金のように決済手段として使えるからです。

ただ、何をもって(暗号資産に該当しない)NFTと定義できるかはのすごく難しいです。ケース・バイ・ケースに考えていかなければ、そのNFTが暗号資産としての規制を受けるかどうかの判断はできかねます。

−以前金融庁による「NFTは暗号資産にあたらない」という趣旨のパブリックコメントがありましたよね?

2019年の金融庁のパブリックコメントは、実際はNFTではなく、ブロックチェーンに記録されたゲーム内アイテムなどの暗号資産該当性に関する回答でした。

NFTが暗号資産にあたるかどうかについては、「個別具体的に判断される」としか回答されていません。

今のNFT事業者がNFTの暗号資産該当性に関する法的根拠として依拠しているのは、ゲーム内アイテム等の暗号資産該当性に関するパブリックコメントの回答です。

それはデジタルトレーディングカードやゲーム内アイテムなどをブロックチェーン上でトークン化しても、1号暗号資産のような決済手段としての経済的機能がなければ、2号暗号資産として規制しなくて良いという内容のものです。

そのため、NFTが暗号資産に該当するかどうかは、そのトークンがNFTかFTかどうかが決め手ではありません。むしろそのNFTが「FTのように支払い手段として機能するか」が一番のポイントとなります。

−世の中でNFTだと言われているものでも、様々なものと交換できるようになっていれば、資金決済法の枠組みで捉えられやすいということですね?

おっしゃる通りです。NFTが支払単位のように使われれば、決済手段として使っているとみなされる可能性が高いことになります。

例えば、あるNFTが「百枚あったら、他のサービスと交換できます、千枚だともっといいサービスと交換できます」という状態の場合、NFTを支払い手段として使っていると認識される可能性があります。

よく例として「お金」があげられます。

実際にお金は一つ一つに番号が振られています。一万円札は厳密に言えば、一枚一枚を別物として整理することができます。

ただ、社会的には「お金は個性がなく、全部同じで代替性の効くものだ」という風にみんなが認識しています。

同様にNFTも同じデザインのものが番号だけ変えて、何枚もある場合もあります。特にアートやゲームキャラクターの世界だと、似通ったNFTに番号を振っていけばいくほど、個性が減ってきます。

さらにそれらがモノと交換できるようになれば、NFTはただの唯一無二なデジタルデータであり決済手段ではない、という整理は難しくなると思います。

−法律的に固有性がなくなる閾値は?

固有性の閾値について、実務家の間でもよく議論しています。しかし具体的な個数で示すことは難しいです。確かにNFTが一つしかなければ、決済性はほとんど認められないと考えられます。

ではそのNFTが十個になったら決済手段として認識されるのか、百個になったら決済手段として認識されるのかどうかはケースバイケースです。評価ポイントとして重要なのは「NFTの使われ方」なのです。

もちろんNFTの個数が増えれば増えるほど、NFTの個性は希釈化されていきやすいと考えられます。

そうなれば、そのNFTは「トレーディングカードなのか、鑑賞用に使われているのか、他の商品やサービスと交換するための支払い単位なのか、支払い手段として使われているのか」と目的がだんだんと曖昧になってくるでしょう。

そのため、似通ったNFTの数が増えれば増えるほど、暗号資産該当性は高まっていくと思われます。

米国と日本、どうNFTを捉えるか?

−アメリカは現在NFTについてどのように捉えているとお考えですか?

以前、米国証券取引委員会(SEC)のコミッショナー、へスター・パース(Hester Peirce)氏は「アメリカの証券規制に照らすと、NFTが分割できれば、場合によってはNFTは証券に当たる可能性が出てくる」という話をされていました。

日本とアメリカだと証券規制の要件等は異なりますが、NFTが分割して販売できるようなれば、NFTの金融商品的な要素が出てきます。なぜなら購入者はそのNFTそれ自体を欲しがっているわけではなく、そのNFTから生まれる利益を欲していると考えられるからです。

そうなればいずれアメリカにおいて、既存金融規制の枠組みにNFTを照らし合わせる事例が出てくると思います。

−金融商品的な枠組みで捉えられるNFTは、金融商品取引法が該当しますか?

アメリカと日本の大きな違いは、証券の要件です。アメリカは証券の該当性についてハウイ・テスト(Howey Test)を用いており、日本よりも柔軟に解釈される場合があります。

一方で、日本の証券規制においては、有価証券は、法律で細かく要件が規定されているので、それに該当しない限り、日本だと有価証券には該当しないこととなります。

ただ日本の資金決済法における暗号資産の定義は非常に広いです。

現状、NFTが暗号資産の定義に該当しないケースが多いのは、単純に決済性がなさそうであるという解釈に基づいているだけです。そのため、その前提が異なる場合、NFTは暗号資産に該当する可能性が高くなります。

NFTはいわゆる「暗号資産に関する規制にあてはまらないと考えられるので、取り扱いにライセンスなど必要ない」と誤解されている方がいますが、現在のNFTの法的位置づけは解釈で成り立っているだけなので、その考え方にはリスクがあります。

解釈が変われば、NFTは急に規制対象になり得ますので、法律を軽視しないほうが良いです。そして日本では金融商品に該当し得るNFTはライセンスがなければ、販売できないようになるかもしれません。

(後編つづく)

取材:竹田匡宏(あたらしい経済)
編集:設楽悠介(あたらしい経済)
撮影:大津賀新也(あたらしい経済)

この記事の著者・インタビューイ

長瀨威志

アンダーソン・毛利・友常法律事務所 外国法共同事業 パートナー 弁護士
ニューヨーク州弁護士 ⾦融庁総務企画局企業開⽰課に出向した後、国内⼤⼿証券会社法務部に2年間出向。⾦融庁出向は主に開⽰規制に関する法令・ガイドラインの改正、スチュワードシップコードの策定等に携わり、証会社出向中は各種ファイナンス案件、Fintech案件、コーポレート案件へのアドバイスに従事。当事務所復帰後は、暗号資産交換業・デジタル証券、電子マネー決済等のFintech案件を中⼼に取り扱うとともに、国内外の⾦融機関に対するアドバイスを提供。

アンダーソン・毛利・友常法律事務所 外国法共同事業 パートナー 弁護士
ニューヨーク州弁護士 ⾦融庁総務企画局企業開⽰課に出向した後、国内⼤⼿証券会社法務部に2年間出向。⾦融庁出向は主に開⽰規制に関する法令・ガイドラインの改正、スチュワードシップコードの策定等に携わり、証会社出向中は各種ファイナンス案件、Fintech案件、コーポレート案件へのアドバイスに従事。当事務所復帰後は、暗号資産交換業・デジタル証券、電子マネー決済等のFintech案件を中⼼に取り扱うとともに、国内外の⾦融機関に対するアドバイスを提供。

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