新連載「ブロックチェーン最先端」
こんにちは。Coinbaseで事業戦略やマーケティングを担当しているのキム・ヘガンと申します。Coinbaseは世界的な暗号資産取引のリーダーで、2021年4月にNasdaq上場、8月に日本参入を果たしています。
この連載では私たちがもつグローバルインサイトを日本の読者に届けるべく、暗号資産の最新トレンドや業界動向をわかりやすくお伝えしていこうと思います。
今回はDEXとCEXの違い、そしてこの2つの取引所の形が今後どのように進化・連携していくかを読み解いていこうと思います。なおこの記事ではあくまでもCoinbaseのアプローチを紹介しているため、他社には必ずしも当てはまらないこともあることをご了承ください。
CEXとDEXの定義
CEXはCentralized Exchange(中央集権型の取引所)の略称で、法人をはじめとする中央組織が管理・運営する取引所、つまりCoinbaseのような取引プラットフォームを指します。こちらは一般的に知られている形態で、株式やFXの取引所と構造上に大きな差異はありません。
一方でDEXはDecentralized Exchange(分散型の取引所)の略で、管理母体がなく、スマートコントラクトと呼ばれるソフトウェアで運用がされている取引所(もしくはそれに関連する金融)サービスを指します。有名なDEXとしてCurve、Uniswap、Balancer、Sushiswapなどがあります。2020年に始まったDEXの爆発的な成長は今なお続いており、DeFiのTVL(預かり資産合計)は1500億ドルを超えています(DeFiの定義はDEXよりも広いので、DEXのみの金額は少なくなります)。
CEXとDEXの違い
さて、2つの取引所タイプの違いをみていきましょう。以下に主要なポイントを記載します。
カストディ(資産管理等):CEXのユーザーは暗号資産の秘密鍵を自分で管理する必要はなく、主に取引所が代わりに管理することになります。一方DEXではユーザー自身で秘密鍵の管理などを行います。
取引手数料:CEXは主に手数料が決まっている(取引高の1%など)ことに対し、DEXはスマートコントラクトなどかかるコストが需給バランスにより決まるので、市場環境によって手数料が変化します。
アカウント:CEXではアカウントを作成するためにはKYCと呼ばれる個人情報の提出・チェックが必要となりますが、DEXでは暗号資産ウォレットを繋げるだけで取引を開始することができます。
コンプライアンス:多くの場合、CEXは規制当局に登録が義務付けられていますが、DEXはインターネットサービスという位置付けなので、法律的な立ち位置が曖昧な場合が多いです。
上記以外にも流動性、決済スピード、オーダーマッチの仕組みなど違いがありますが、詳細は複雑になるので本記事では割愛させていただきます。
CEXとDEXの役割
2021年現在、CEXとDEXの役割は大きく被ることはなく、別々の形で進化を見せています。
上述しましたが、CEXは規制業務となるので、当局との調整を徹底的に行い、利用者にとって安全で、安心して使えるサービスを提供する必要があります。そのためにはコンプライアンス(法令遵守)、万全なセキュリティ体制、保険制度はもちろん、サービスの使いやすさやサポート対応までが幅広く求められます。
私の勤めるCoinbaseでも「最も信頼され、最も使いやすい暗号資産取引サービス」を目標として掲げ、日々邁進しております。
一方、DEXの役割は、KYCなしで使い始めることができる使い勝手や、ステーキングなどを通して得られる高いAPR(利息年率)の提供などを挙げられるでしょう。また、CEXではまだ取引されていないような新しいコインの売買ができることも、現状は規制チェックが少ないDEXならではのように思えます。
両者ともに一長一短があり、自分のニーズにあった形で使いこなすことが一番ですが、現状データで判断する限り、法定通貨を暗号資産に交換するにはCEXが、交換したコインを運用するにはDEXが使われているように見えます。
DEXはCEXの敵?
急成長するDEXを目の当たりにして、「CEXはDEXを毛嫌いしているのでは?」とよく聞かれるのですが、そんなことは基本的にありません。もちろんセキュリティの欠陥があったり、利用者に不利益を被るような詐欺やスパムのようなプロジェクトは論外です。
しかし、DEXが生み出すイノベーションを看過していればCEXが時代遅れの産物になり得ます。Coinbaseでは常に新しいDEX(より広義にはDeFi/DAppと呼ばれる領域)とのインテグレーションを進めています。
例えばCoinbase Walletという暗号資産ウォレットを提供することで、CEXからDEXへの流れをシンプルにすることや、Coinbase WalletをOptimismやPolygonなどイーサリアムのスケーリング・ソリューションと組み合わせることで、DEX利用時にかかる手数料を下げることに貢献しています。
Coinbaseでは、これからもCEXの役割である「利用者が安心して暗号資産を売買する」ことを前提に、DEX領域で生まれた新しいサービスへのアクセスも、より多くの方々に提供しようと考えています。
CEXとDEXの未来
そして上述の通り、「どちらが優れている」という話ではなく、CEXとDEXはお互いの長短を補完しあうような形で進化していくでしょう。
CEXはより多くの利用者へのリーチし、暗号資産全体の認知や理解の向上が求められます。これに加え、規制当局とのやり取りをはじめ、企業、ファンド、非営利団体、さらには(エルサルバドルでみたように)国家単位で、どのように暗号資産をバランスシートや日々の決済に組み入れていくかという課題の解決をサポートしていく必要があるでしょう。
一方DEXは今後更なる進化を見せるでしょう。例えば流動性がないNFTを使ったリクイディティプール(流動性プール)や、合成資産と呼ばれるシンセティック・アセットなど、新しい機能やプロトコルが毎日のように活発に生まれています。今後の発展によっては、次の世代の子供たちは銀行口座ではなく、暗号資産ウォレットを作るような時代が来るかもしれません。
著者プロフィール
Haegwan Kim (キム ヘガン)
Coinbase Japan マーケティング部長 兼 事業戦略リード
2010年、英国Warwick大学に在学中、ウェブメディア「Law of Success 2.0」を創刊。ノーベル賞受賞者やForbes500企業CEO含む著名人へのインタビューを実施、世界的注目を集める。Square, Revolutなど国際的なFintech企業の日本市場戦略・マーケティングにおけるマネジメント職を経て、Coinbase Japanに2020年より参画。同社GTM・事業成長戦略、マーケティング、PRなどを統括。Bitcoin開発の世界的ニュースレターBitcoin Optechのアジア担当。
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