HashHub ヘッドオブリサーチ 平山翔(indiv)氏 インタビュー
HashHubの平山翔氏。indivという名称で業界内でご存知の方も多いだろう。以前から個人ブログや暗号資産特化のリサーチコミュニティ「TokenLab」を運営してきた平山氏は、2019年にHashHubに入社、現在はHashHubの主要事業の一つである「HashHub Research」をヘッドオブリサーチという立場で牽引している人物だ。
今回、「あたらしい経済」は平山氏へインタビューを実施。平山氏に、現在のブロックチェーンや暗号資産をどう捉えているか、リサーチャーの仕事内容、HashHubを通してこれから何を表現していきたいのかなどについて語っていただいた。
オタクの暗号資産から、みんなの暗号資産へ
-昨年から今年にかけて、暗号資産は大きな変化があったと思います。どのように現状を捉えていますか?
僕がリサーチをはじめた数年前から比べると、昨年から今年にかけて、暗号資産(仮想通貨)はオタクだけが知っている領域から、ずいぶん遠い所に来てしまった印象があります。もちろん良いことなんですが、著しく優れた先見性を持つ人だけが知っている暗号資産みたいなのはもうはるか昔のことになってしまいました。
このような流れは昨年今年でというよりは、水面下では徐々に2018年ごろからはじまっていたと思います。それが顕在化しはじめたのが最近です。マイクロストラテジーをはじめとする米国上場企業のビットコイン購入が、企業がBTCを保有していることを隠さなくてもよくなってきた雰囲気を作ったと思います。
個人としても法人としても参入角度を考えて入らなければ、ポジションをとることは難しくなってきたと感じています。まだまだチャンスはありますが、必要とされる能力が徐々に変わってきているのではないでしょうか。
今注目はDeFiと分散型コンピューティング
-今、平山さんはどの領域の関心があり、投資としての価値が高いと考えていますか?
金融領域ですと、やはりDeFi(分散型金融)領域ですね。僕は元々DEXに興味があったので2017年から趣味でそちらを調査してきましたが、実際昨年から今年にかけて花が咲いたと思います。
一方これから花が咲くだろうなと考えているのは、分散型コンピューティングやレンダリングの領域です。これらは金融というより、むしろ技術インフラとして使える領域です。
レンダリングの分散システムRender Token(RNDR)も面白いですね。これからARやVRなどを通したメタバース領域にてソフトウェアを使って描画する資源を融通する必要がでてきます。
オンラインゲーム空間を更に一歩前進させたような公共性の高いメタバース空間がいずれはできると思ってまして、その中の価値を管理するのは特定の企業ではなくパブリックブロックチェーンであるべきで、その描画も信用を必要としない仕組みで動くのではないかと。
リソースを分散的に融通するプロダクトは以前かありましたが、最近ようやく実用化され始めています。
NFTは今盛り上がっていますが、NFTの画像を作る時にRenderのリソースが使えます。個人PCでは処理できないようなデータなどをRender Networkに投げて、処理してもらい、完成品だけを取り出すようなことができる。
もしかするとこういった技術は、将来的にはマインクラフトのようなゲームでも多く使われようになるかもしれないと思っています。
公平性、透明性のあるビットコイン
-そもそも平山さんは、なぜブロックチェーンや暗号資産領域に興味を持ったのでしょうか?
僕が興味を持ち始めたのは2015年ごろです。その当時僕はドイツへ留学していたんですが、そこで国際送金をする際に手数料の安い方法がないかを調べていてビットコインに出会いました。当時クラーケンでユーロをビットコイン(BTC)に替えて送金をしてみたんです。
国際送金という実用的な部分からビットコインを知ったんですが、そこからどんどんと興味を持っていきました。ビットコインは今までの銀行などの送金システムと違って、取引台帳も全部公開されているし、自分のトランザクション(取引)が他の人にも公開されている、その仕組みを知って一気にハマっていきました。
大学を卒業した後にアフリカのタンザニアに住んでいたことがあるのですが、そこで僕は不透明な金融環境というのが世界にはあることを目の当たりにしました。
タンザニアの銀行では何時間待っても「今日はお金が無いから」というような理由で、自分のお金を引き出せないこともありました。その裏側で何が起こっているかも知るよしもなく、お金が無いというのも本当かどうかも分からない、もしかしたら嫌がらせかもしれない、といったようなことが多々ありました。
一方、ビットコインはその真逆ですよね。トランザクションが全て公開されていますし、そもそもそのビットコインは誰がマイニングして、どこからどこに移転してきたかもトレースができるわけです。例えば銀行などであれば悪さをすることもできますが、ビットコインはそれができない。
ビットコインの、公平性、透明性を金融に持ち込むことができるという、民主化した通貨のようなものを実現できる部分に、衝撃を感じたんです。
チームであることの強さ
-ビットコインを知ってから平山さんは、どのようなキャリアを歩まれてきたんですか?
はじめは暗号資産に関することをブログで発信しながら、フリーランスとしてライティングやいくつかの企業のプロジェクトのお手伝いなどをしていました。そしてその後、海外の暗号資産系の企業でも働きまして、そこではカスタマーサポートや日本の市場調査などのレポーティングから始まって、途中からはグローバルチームのほうで仕事をしていました。
それと並行しながら「トークンラボ」というレポートコミュニティの運営もしていました。そんな中、平野(HashHub CEO平野淳也氏)に声をかけていただき、今に至ります。
-なぜHashHubに入ろうと思ったのですか?
今は個人でも色々なことができますし、僕自身は基本的には個人プレーが好きなんです。でもやはり個人よりもチームの方がはるかに大きなことができると思ったからです。それに一人になるのは後からでもできますから。
もちろん良いチームであることが大前提ですが、どれだけ個人としてエンパワーされたとしても、チームに入った方が成長できるし、見えない世界も見えるようになると考えました。
実際HashHubに入ってチームの強さを実感しています。例えば僕とCEOの平野の考え方や興味の対象、その分析過程はとても似ています。でもお互いが出す結論が違うことって実はよくあります。
僕がやめておこうというケースも、平野がGOを出し、結果その案件を進めて利益が出る、ということもありました。お互い過程は同じでもその解釈と意思決定が異なり、それによって利益が左右されるわけですよね。
目の前の風景を近い角度から見ていて、且つその風景に似たような描写を与えているのに、目標地点に到達するために最終的に採用するルートが人によって異なることにチームで動くことの意味を感じています。
そしてさらにHashHubのチームには各方面に強みのあるエンジニアがいます。技術面を深堀りしたい場合には社内のエンジニアに中身を見てもらうこともできますし、自分とは異なる発想に触れることも可能です。
HashHubというチームに入ってみて、他者と一緒に仕事をすることの利点を実感しています。
暗号資産領域のリサーチャーという仕事
-今は具体的にどういう仕事をHashHubでしているんですか?
HashHubは「HashHub Research」と「HashHub Lending」という2つのメイン事業があります。僕は「HashHub Research」ではプロジェクトをリサーチしてレポートを書いています。「HashHub Lending」とは別に金融事業の一部として自己勘定部門があるのですが、そちらでは投資と運用の分析や評価を行なっています。
-リサーチャーの仕事は具体的にどのようなものですか?
まず対象となるプロジェクトの公開されている設計や仕様を調査します。
具体的にはプロジェクトのホワイトペーパーやライトペーパーを読みます。そして読んだ上でわからないところがあれば、Discordなどで直接開発チームに聞いて、その回答にも納得できなければもう一度聞く、それを繰り返す。シンプルですが愚直にそういったことを続けます。
そうやってプロジェクトの仕様を分析して、それらの情報からプロジェクトのタイプとリスクを様々なパラメーターごとに評価していくのがリサーチャーの仕事です。
−現在市場拡大する暗号資産領域、これからリサーチャーを目指す人も増えてくると思います。平山さんから見て、リサーチャーになるために必要な素質はなんですか?
海外のプロジェクトが多いので、卓越した英語力が必要と思っている人が多いかもしれません。もちろん最低限の語学力は必要なのですが、それは最も重要な素質ではないです。
それよりも「自分で問いを立てられる人」かが重要ですね。疑問で頭を一杯にできる人。
例えば、「イーサリアムの時価総額がビットコインの時価総額を追い抜いたと仮定してその理由付けをするとしたら何が挙げられるか」や「ユニスワップがバイナンスの取引高を超えた時に、DeFi領域はどのような景色になっているか?」など。
その問いを処理するのは別の人に任せてもいいですが、まずは「問いを立てる」ことができるか、それがリサーチャーとして重要な素質だと思います。
そしてリサーチャーとして答えを急がないことも重要です。グレーを認めると言い換えてもいいかもしれません。
そもそもリサーチャーは対象プロジェクトの開発者ではないので、100%全てを理解することは難しい。その上で調査しきれないグレーを認めて、例えば100%ではないけれど35%の確率で合っているというように判断する。少なくとも0%から35%まで確率を増やせたと。
そのように自分の判断基準を大切にしないと、公式チームやそのエバンジェリストの人たちが宣伝も含めて言っていることを鵜呑みにしてしまう。そうなるとリサーチャーではなく、公式チームの拡声器になってしまい、場合によってはその情報を得た人に損をさせてしまう。
僕たちの「HashHub Research」は有料で配信しているので、できるだけ換金性が高い情報を発信しようと心がけています。僕たちのレポートを読んで、みんなに儲かって欲しいんですよね。僕たちが日本語でレポートを書くことで、日本人の富が増えて欲しいと思っています。
それを真剣にやっていますので、僕たちがリサーチしてもグレーな、不明瞭な部分は「不明瞭です」と読者に伝えるべきだと考えています。そしてそれをちゃんと言える人が、リサーチャーに向いていると思います。
そしてまだまだHashHubでもリサーチャーは足りておらず、絶賛募集中です。今話したようなことできると思う人はぜひとも連絡欲しいですね。入社してすぐに一人でリサーチレポートを書けるなくても僕たちがサポートするので、挑戦してみて欲しいです。
圧倒的なインプットと咀嚼で他を差別化するレポート力
−「HashHub Research」の強みは何ですか?
僕たちはレポートを書くために、例えば10のアウトプットをするために、70ぐらいインプットします。そしてそれを取捨選択したり咀嚼したりして、10のアウトプットにしています。
10のインプットで10のアウトプットを出すメディアもありますし、ひどい場合は5のインプットで10のアウトプットを出すところもある。「HashHub Research」は他のメディアに比べても、圧倒的にインプットし、それを咀嚼してレポートにまとめています。
だから読者は本来自分でリサーチすると5、6時間かかるような情報を、30分で得ることができる。それが「HashHub Research」の強みです。
ー平山さんはHashHubの一員として、どうHashHubを成長させていきたいですか?
HashHubはすでに暗号資産領域のリサーチプロバイダーとして、ある程度の信頼を得ることができたと思っています。実際にそこで培った信用やブランドを横展開して、「HashHub Lending」が生まれました。
「HashHub Research」がなければ、「HashHub Lending」は絶対に存在しなかったでしょう。一方「HashHub Research」だけをやっていても、企業としてはスケールできないと思います。
そういう意味でHashHubはどのような参入角度で自分たちが必要だと思う事業を拡大させていけるのか、道筋がまだまだ残されていると思います。その勝ち筋を見つけて、さらに会社を成長させていきたいですね。僕はどれだけ面白い領域でも勝算がなければ参入しようとは思わないので、ニッチ領域であっても王道戦略を採用できる環境であることが重要です。
-他の国内ブロックチェーン企業とHashHubを比較した場合、どのような魅力がHashHubにはあるとお感じですか?
日本のブロックチェーン企業の実情は詳しく知りませんが、まずHashHubは全員がクリプトのファンであることが一番大きい魅力だと思っています。
DeFiを触っていたり、NFTをたくさん持っていたり、モナコインにやたら詳しい人がいたりと。全員がなんらかの形でパブリックブロックチェーンを触った上でHashHubに入ってきています。
そう言う意味での共通言語があり、ビジョンや目指しているものがほぼ近い位置にある。でもみんな今までのキャリアや性格はバラバラで、戦略の立て方も違う。
その一体感と多様性が両立したチームであることが、HashHubの良いところだと思います。
個人に選択肢を与えるのがブロックチェーン
-これからHashHubを通して平山さん自身がどういうことを体現していきたいのでしょうか?
パブリックブロックチェーンは「個人にとって役に立つものを作るインフラ」になると考えています。
それは金融なのかもしれないし、前述したコンピューティングなのかもしれません。あるいは自分を守るためのアイデンティティなのかもしれない。
金融では今までは個人が円、ドル、株などでしか持てなかった資産が、ビットコインとイーサリアムなどで持つこともでき、その上で運用もできてデビットカードで日頃の決済もできるようになる。
アイデンティティであれば、例えば海外で滞在許可証を取ろうとした時に、自分の学歴や業務履歴、どれだけ資産があるかなどが簡単にブロックチェーンで証明できたらとても楽になる。
つまりブロックチェーンが僕ら個人にもたらすのは、選択肢なんです。今までなかった選択肢を新たに1つ持てるということは、ものすごく価値があり、それだけで個人が生きていく交渉力も上がるわけです。
そしてこれからの世の中は格差がどんどん広がっていくはずです。世界と日本の格差も、日本国内でも格差は広がってしまうと思う。
そしてそのことが分かっていても、どうしたらいいか分からない。分かっていてもどうしようもない、という状況を僕は無くしたい。
金融でいえば、その1つの選択肢に暗号資産があります。そのようにこれからを生きていく個人に選択肢を増やす、そういったサービスを僕は作っていきたいですね。
関連リンク
取材/編集:竹田匡宏・設楽悠介
写真:大津賀新也