なぜアーバンギャルド松永天馬は「詩のNFT」を創ったのか、作品に込めたブロックチェーンの思想

特集 Shortcake

松永天馬

松永天馬氏による詩のNFT「Shortcake」

松永天馬氏が、自身初となる詩のNFT「Shortcake」を発行し、先日オークションを開始した。現在オークションは開催中で4月21日(水)11時59分が終了となる。

「アーバンギャルド」のヴォーカル、コンセプター、リーダーとして活動する音楽家であり、作家、俳優としても活躍し、自作詩を朗読して勝敗を決める「詩のボクシング」の世界チャンピオンタイトル保持者でもあるアーティスト松永天馬氏。

そんな天馬氏が手がけた「Shortcake」は、NFTを入手した方だけが読むことができ、さらに入手した人によって内容の変化する作品だ。そしてNFTを入手した人はその内容を音で表現ができるという、世界でも初となる「詩のNFT」になっている。

これまでもさまざまなジャンルの表現を追求してきた天馬氏が、今回なぜNFTでの作品発表を考えたのか、表現として「詩」選んだ理由や、作品に込めた想いについて語っていただいた。

NFTの魅力と可能性

−まず、天馬さんはNFTについてご存知でしたか?

ブロックチェーンやNFTについては、ハイアートの文脈では以前から取り上げられていて、2018年の美術手帖さんの特集などで僕も読んで知ってました。その時からこういった技術がどのように浸透していくのか、興味深くチェックしていたんです。

そして当時はNFTはハイアートのものなんだと感じていたんですが、最近国内外で色々なアート以外の文脈でもNFTが使われるようになってきてますよね。それらの事例を見て、これが浸透すれば我々の常識や考え方を大きく変える可能性があるんじゃないかと思い、今回僕もチャレンジしようと考えたんです。

−天馬さんが感じているNFTの魅力はなんでしょうか?

例えば僕のやってる音楽というジャンルは、いわばポピュラーアート、大衆にまんべんなく行き届く芸術で、複製芸術といってもいいですね。録音の技術やレコードが生まれたことから音楽は複製されることが前提になった。そして時代が進んでCDになり、そして現在ではダウンロードやサブスクリプションで楽しむものにになっています。今や音楽って無料で何処でも摂取できて、酸素みたいな感じだなと。

音楽に限らず様々なコンテンツがデジタル化して複製され、そして巨大なプラットフォームで便利に楽しめるようになったわけです。それはコンテンツを広げるという意味では素晴らしいとですが、一方アーティストにとっては期待できる利益や次の創作のための資金を得るのが難しくなっている状況を生みました。

デジタル化とインターネットによって、音楽に限らずコンテンツは距離と時間を超えて広がることができるようになりましが、その引き換えにコンテンツ自体の価値を見出すことが難しくなってきていたわけです。

だからここ十年、日本の音楽業界でいえばライブやフェスや握手会など、別の方法での「今ここにしかない価値」が模索されてきた。しかしそこにコロナがきて、またその価値観の転換も起こっている。

NFTがブームと言われていますが、そのような複数の要素が偶然重なったからこそ、今盛り上がってるんではないかと思います。

コンテンツにブロックチェーンの技術、NFTを活用することで、唯一性を与えることができる。そこに僕もとても魅力を感じています。NFTをうまく活用すれば、これまで複製されることが前提だったコンテンツを、ベンヤミンいうところの「アウラ」のある作品にできると。そこに興味を感じたんです。

アウラのこもったNFTを

−幅広い表現活動をされている松永さんが、今回NFTの作成にあたって「詩」を選んだ理由はなんですか?

NFTを使って常識を一番覆すことのできる表現はなんだろうと、色々考えました。一般的な価値観と逆で行くと何になるのか考えて、テキスト、詩という結論に至ったんです。

言葉ってある意味では楽譜みたいなものです。特に詩は、歴史的に見せば声に出される前提が強い言語芸術でした。それを朗読したりとか声に出した瞬間に、作品が立ち現れるという側面があると思うんです。そしてそれは保存できない、例え録音したとしてもその空気までは保存できないし、テイクを重ねても毎回ニュアンスは変わってしまったりするわけです。

だから詩というものは「今ここ」で読み上げた瞬間にこそアウラがこもっているなと考えています。「Shortcake」はそれをコンセプトにした作品です。

作品の仕掛けに触れてしまうので、なかなか具体的にいうのが難しいですね。詳細はNFTを持ってる人だけが知ることのできることなので。ただこの作品は読む人によって変化するものになってます。

僕が作る作品は、開かれたものでありたいんですよね。NFTの特性上、いろんな人の手に渡っていくこともできるわけです。もちろん作品自体は閉じたものなんですが、所有者によって開かれる、僕と所有者がコミュニケーションを取れるような作品作りを心がけました。

所有者が読むことで完成するような作品、あるいは所有者が手放すことによってまた新たな人によって創り直されるような、そんな作品に仕上がっています。

だからどちらかというとこの作品は、いわゆる詩とか文学というより、現代美術的な文脈で考えていただいた方がわかりやすいと思っています。

−どんな方にNFTを手に取ってもらいたいと思ってますか?

まず僕のリスナーは、おそらく十中八九、NFTという言葉を知らないんじゃないかな(笑)。ブロックチェーンや暗号資産をやってる人も1割もいないような気がします。だからリリースしたら驚かれるでしょうね。

でもそういった僕のリスナーがこれを期にNFTについて勉強して、作品を手に取ってくれたら面白いなと。いっぽう、僕の事を何も知らない人がこの企画に興味をもって手に取ってくれることも期待しています。いい化学反応が起きるんじゃないかな。

そういう意味で今回は海外の方も楽しめるように、全文英訳も併記しているんです。

先端テクノロジーで表現したかったこと

−NFTで詩を書くことで、普段の詩の創作と違いはありましたか?

普段の僕の詩の書き方とはもう全然違いました。僕は普段日本語を母語としているので日本語の音韻みたいなものにこだわった作品が多いんです。でもその考え方を一回捨てて、自分と他者の境界にあるような言葉を心がけました。だから翻訳してもニュアンスが失われない内容になってます。

−今回NFTを買ったことで読むことのできるこの詩を、購入者はテキストコピーやスクリーンショットはできないですが、音として表現することはOKとういことになってます。具体的にどんな表現をしていいんでしょうか?

音だったらどんな表現をしてもらってもいいと思ってます。録音して公開してもいいし、動画で読み上げて配信してもいい。広め方や伝え方は自由です。そして、そのように伝わっていくことでおそらく形が変わっていってしまうかもしれないです。でも原型がとどまらなくなっても面白いんじゃないかと思ってます。

むしろどんどんノイズが入っていて内容が変わっていく方がいいかもしれません、誤訳されて初めて意味が重層的になるようにも思ってます。

そもそも言葉や詩って音から生まれたものです。書写しなどもありますが、基本グーテンベルク以前は口伝だったわけですよね。あらゆる叙事詩であるとか文学みたいなものは人から人に声で伝わってきたわけです。その過程で内容が変化していくということはよくあったと思うんですよ。

今、言葉というのは一旦紙や、デジタルな画面上に収まっていますが、そこからもう一度開放していくとどうなるだろう、そう考えて音でのみ表現することができるようにしたんです。

ブロックチェーンという先端テクノロジーを使って、それができるというのもまた面白いですよね。

作品に込めたブロックチェーンの思想

−今回は「詩」をNFTにしましたが、天馬さんはアーバンギャルドやソロで音楽活動もされています。次回は音楽でチャレンジしたいと思いますか?

もちろん音楽をやってみたいという気持ちがあります。でもやはりただmp3やwaveファイルを作ってNFTと紐づけて売るということはしたくないですね。やるとすれば所有者と何らかそれを用いたコミュニケーションがとれるようなものにしたいなと考えてます。

例えば今回も未発表で作っている音源をすぐに出すということもできました。でもそれはやりたくなかったんです。そこにNFTやブロックチェーンという思想をちゃんと込めたかったという思いもあります。だから今回の作品も書き下ろしました。

是非とも多くの方にこの作品が伝わっていき、一緒に皆さんと作品を完成させていきたいと思っています。

「Shortcake」作品・オークション情報

松永天馬氏による書き下ろしの詩「Shortcake」は、NFTを入手した方だけが読むことができ、さらに入手した人によって内容の変化する作品です。NFT自体は二次流通ができますが、この詩は所有者のためだけに書かれた、複製のできない、世界に一篇だけの詩になっております。

なおNFTの購入により、購入者は作品の所有権を取得しますが、その内容をテキストコピーやスクリーンショットを行い第三者に提供すること、商用目的で利用することは禁止されます。ただしNFTの所持者は、その内容を口伝すること、音声にして公開することは許諾されています。

読者によって変化する詩のNFTの販売は、世界初*の取り組みとなります。なお詩は日本語と英語で表記されており、日本に限らず世界中の方にお楽しみいただけるようになっています。オークション詳細は以下の通りです。

オークションに関して

name:「Shortcake」
発行枚数:1枚
オークション開始時間:2021年4月12日(月) 12時(日本時間)
オークション終了時間:2021年4月21日(水) 11時59分(日本時間)
販売場所:OpenSea 
https://opensea.io/assets/0x630178a8f967a0b65b08b92c890994321ca89bdf/1?locale=ja

企画協力:幻冬舎「あたらしい経済」/ CryptoGames

→オークション参加はこちら

→参加方法など詳細はこちら

取材/編集:設楽悠介
撮影:堅田ひとみ

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この記事の著者・インタビューイ

松永天馬

1982年8月12日、東京生まれ。
音楽家・作家・俳優。

2011年、バンド・アーバンギャルドのヴォーカル、コンセプターにしてリーダーとしてメジャーデビュー。最新作『アバンデミック』(2020)を始め、これまでに10枚以上のスタジオアルバムを発表。多くの歌詞を担当し、ポップかつ実験的、独特な言語世界を構築。

2015年、早川書房より『自撮者たち』を発表し作家活動を開始。

2017年、よりディープな詩世界に踏み込んだキャリア初のソロアルバム『松永天馬』をリリース。バンドと並行してソロ活動を本格化。

2018年、初の長編映画『松永天馬殺人事件』を監督・脚本・音楽・主演。新人映画の登竜門「MOOSICLAB2018」にてミュージシャン賞、男優賞のほか、余りにも規格外な内容であることから急遽新設された「松永天馬賞」を受賞後、劇場公開。

2019年、タワーレコード内にプライベートレーベル「TEN RECORDS」発足。第一弾としてセカンドソロアルバム「生欲」リリース。

自作詩を朗読して勝敗を決める「詩のボクシング」の世界チャンピオンタイトル保持者でもあり、ジャンルを越境して多岐にわたって活動する全身表現者。また俳優としてもNHK Eテレ『Let’s 天才てれびくん』(2015-2017)TBSテレビ『リコカツ』(2021)などにレギュラー出演

1982年8月12日、東京生まれ。
音楽家・作家・俳優。

2011年、バンド・アーバンギャルドのヴォーカル、コンセプターにしてリーダーとしてメジャーデビュー。最新作『アバンデミック』(2020)を始め、これまでに10枚以上のスタジオアルバムを発表。多くの歌詞を担当し、ポップかつ実験的、独特な言語世界を構築。

2015年、早川書房より『自撮者たち』を発表し作家活動を開始。

2017年、よりディープな詩世界に踏み込んだキャリア初のソロアルバム『松永天馬』をリリース。バンドと並行してソロ活動を本格化。

2018年、初の長編映画『松永天馬殺人事件』を監督・脚本・音楽・主演。新人映画の登竜門「MOOSICLAB2018」にてミュージシャン賞、男優賞のほか、余りにも規格外な内容であることから急遽新設された「松永天馬賞」を受賞後、劇場公開。

2019年、タワーレコード内にプライベートレーベル「TEN RECORDS」発足。第一弾としてセカンドソロアルバム「生欲」リリース。

自作詩を朗読して勝敗を決める「詩のボクシング」の世界チャンピオンタイトル保持者でもあり、ジャンルを越境して多岐にわたって活動する全身表現者。また俳優としてもNHK Eテレ『Let’s 天才てれびくん』(2015-2017)TBSテレビ『リコカツ』(2021)などにレギュラー出演