豊田通商システムズ株式会社がクラウド上で電子契約を始めとした電子商取引処理をグローバルに実施できる「TBLOCK SIGN」の提供を3月1日より開始した。
「TBLOCK SIGN」はエンタープライズ・ブロックチェーン基盤であるR3のCorda(コルダ)を利用した企業間の電子契約の締結、見積書・受発注書・請求書等の電子授受をグローバルに実施できるクラウドサービスだ。なおこの仕組みはトヨタグループ以外の一般企業も利用することができる。
あたらしい経済は「TBLOCK SIGN」ローンチに際して、豊田通商システムズ株式会社のブロックチェーンビジネス担当 主幹 纐纈晃稔氏に取材を行った。
現状の電子契約サービスの課題を「TBLOCK SIGN」はどう解決する?
−企業にDXが求められている中で電子契約サービスが注目されていますが、まず現状のそれらのサービスの課題は何だとお考えですか?
課題は以下の4つあると思ってます。
1)サービス利用の前提として高いセキュリティ機能が必要(ハイ・セキュリティ)
2)契約書以外にも見積書・請求書等への対応が必要(商取引処理全般対応)
3)紙面処理を完全に廃止するため電子帳簿保存法への対応が必要(電帳法)
4)グローバル商取引でも利用できる機能が必要(グローバル対応)
です。
−これらの課題を「TBLOCK SIGN」をどのように解決していくんでしょうか?
1つ目のハイ・セキュリティの課題に関しては、まさに「TBLOCK SIGN」の一つの特徴であるCordaのブロックチェーンを使うことで解決しました。そこにブロックチェーンの一番の特徴である耐改ざん性を活かすことができます。
ブロックチェーン技術は悪質な改ざんをしようとすると膨大な計算量が必要で、実質的に改ざんができないという特性を持っています。
仮にですが、サービス提供者である私たちが不正にお客様のデータなどを見た場合は、ブロックチェーンにデータログ、システムログが改ざんされない形で保管されて残ります。そのログを追跡すると例えば不正があればその証拠を掴むことができるのです。
そしてCordaを活用することでノードという、
商取引処理全般への対応や電帳法へも対応
つづいて2つ目の「契約書以外にも見積書・請求書等への対応が必要(商取引処理全般対応)」については、電子契約の締結だけでなく、見積書・受発注書・請求書等の授受機能を実装していますし、また、今後も商取引に必要となる機能を継続的に拡充する予定です。
さらに3つ目の「電帳法」対応について。日本国内では電帳法に対応していない電子契約や電子商取引サービスを活用する場合、書面を保管するか別途外部の高度ディスクサービスを導入する必要があります。その点「TBLOCK SIGN」は電帳法に対応しており、「TBLOCK SIGN」単体での完全な電子化を実現します。
データ規制国とも同じシステムで取引が
また現状の電子契約サービスにおける大きなもう一つの課題として挙げられるのが4つ目の「グローバル商取引でも利用できる機能」があるかどうかです。
もちろんアメリカやタイなどとグローバルに商取引する際は、世の中に出ているサービスで問題ないのです。ただ例えば自国にデータを保管する規制がある国(以下、データ規制国)の企業と取引を行うのは大変です。
データ規制国では契約データや登録者の個人情報が入っているものに関しては国内に保管することが義務付けられています。だから日本企業が規制国企業と電子契約を結ぼうとすると、通常その規制国のメーカーのサービスを使わなければいけません。
そうするとグローバル取引の中でも例えばアメリカとの取引と、データ規制国の取引は別のシステムを使わなければいけなくなります。それだとせっかくDXを進めても、効率化はできないですよね。どの企業もデータ規制国で利用できる電子商取引基盤が必要だと考えています。
そこで「TBLOCK SIGN」ではブロックチェーンを活用することでそれを解決します。ブロックチェーンを使えばデータ規制国のデータを国外に出さず、データ規制国にノードを置いて管理し、そのシステムを国外につなげることができます。
これが実現できるのは私たちが早くからブロックチェーン技術とブロックチェーンを利用した際の法制度の研究に取り組んでいた成果だと考えています。なおこの機能は今年夏頃にはローンチできる予定です。
どのような仕組みで「TBLOCK SIGN」が動くのか
−ここからは具体的どのような仕組みで「TBLOCK SIGN」が動くのか、教えていただけますか?
まず上記図の「ⅰ)契約書等アップロード」から説明します。
A社、B社間で事前に双方合意している契約書や請求書をPDFなどのデジタル形式にしていただいて、「TBLOCK SIGN」にログインし、ドラッグ・アンド・ドロップでそれをアップロードできる仕様になっています。
ちなみにこのアップロード時点で、ブロックチェーンで一つのブロックとしてデータが保存され、まず改ざんできないようにハッシュチェーンで繋げられます。
そしてA社からB社への通信に関してはCordaの機能で、ピアトゥーピア(PtoP)でノード間通信が行われます。具体的には「A社からB社の方のノードに通信が行われ、B社ノードがA社ノードからの通信が本物だと確認をとった上で、B社ノードの処理が始まります。そしてB社ノードが契約書を受け取ったら、B社の指定された担当者の方にメールで「承認してください」という依頼が届きます。
そのメールのURLを押すと「TBLOCK SIGN」に繋がり、契約書なり請求書に間違いがないことを確認した上で承認というボタン押すと、B社ノードの方にもブロックとしてそのデータが保管されます。
そしてBで承認されるとAの方には「承認が終わりました」ということが通知されます。そうするとA社ノードでブロックを保管して、以後は改ざんできない状態になる仕組みになっています。
ここまでが上の図で ii) iii)のフローです。ちなみにアップロードされた契約書などのデータが本物かどうかはCordaのノータリーという監視人の役割を果たすノードの機能を使って確認されます。
−では以下の図にあるグローバル連携であるB社とC社はどのようなプロセスになるのでしょうか?
一般的な中央管理システムを前提に考えると、
一方、「TBLOCK SIGN」はCordaのノード間通信のみ処理を行なっておりますので、データ規制国にCordaノードを構築して、その上でネットワークの設定をすれば、A社とB社と同じプロセスで通信できるようになっています。
データ規制国との取引に別システムを作ると、一般的にはその構築に大きなコストがかかりますので、それが節約できます。データ規制国に対する取引にも、他のグローバルな取引と同じアプリケーションが使えるようになるのです。
今後さらにデータ規制国が増える可能性がありますので、この部分は「TBLOCK SIGN」の大きな魅力の一つです。
「TBLOCK SIGN」の今後の展開
−今後の展開について教えてください。
まず国内のトヨタグループ及びグループ企業と取引がある企業に商取引全般の電子化を提案していく予定です。豊田通商グループだけでも国内だけで約80社ありますし、トヨタグループ全体の企業数はその10倍以上の社数があります。
次に大きな課題であるグローバル対応にも取り組みます。前述の通り、夏頃までにはローンチさせます。実際に「データ規制国と電子商取引ができるのであれば、すぐ使います」などのお声をたくさん頂いております。
それを実現して更なるユーザの獲得、サプライチェーン全般に展開できるようにしていきたいです。
ちなみに「TBLOCK SIGN」はトヨタグループ以外の企業もコンソーシアムに入っていただいても構いませんし、自社のサプライチェーンの商取引に他社が運用しているクラウドサービスを使いたくないという企業様向けに、この「TBLOCK SIGN」基盤自体を販売することもできます。そう言った企業も大歓迎です。
−ちなみに具体的に「TBLOCK SIGN」はおいくらなんですか?
ユーザー数や追加オプションにもよりますが、1社や1部門で、基本的には月額50,000円(+税)での提供を考えています。
−ブロックチェーンを活用したサービスということで利用料はそれなりに高いんじゃないか思ってましたが、意外です。これでノード立てたりとかは御社がやってくれるんですよね?
はい、その通りです。
実は正直これはかなり頑張った提供価格です。これ以上高くしてしまうと、他の中央管理システムと比べて差が大きくなるので、頑張りました。
あと技術的な話ですが、CordaがKubernetesというオーケストレーションツールや色々自動化できるツールとあらかじめ連携できる機能を持っていたので、それを使って全てのことが自動化できるように設計することでコストを抑えられています。ノード追加も自動化できています。
またノードを使ってない時はサーバーの利用料は最小にして、使うようになるとスケーラビリティを、具体的にはCPUとかメモリをクラウド事業者から取って、自動的にスケールを大きくするような仕組みを作りました。
それらでコストをできるだけ押さえて、なんとかこの値段まで抑えることができました。
暗号通貨での商取引の実現が、DXを進める大きなファクター
−最後に、将来「TBLOCK SIGN」で暗号通貨も使えるようにすることも考えられているんでしょうか?
そもそもブロックチェーンを使って「TBLOCK SIGN」をつくりましたので、暗号通貨には魅力を感じています。
商取引でDXを進めるときに、法律などが整備され暗号通貨を使えるようになれば、それが一番DXの進むファクターになるのではないかと、私は思っています。
暗号通貨を使えば、支払いのスピードや、例えばウォレットを活用して取引の信用確認を行うようなこともできるようになる。もちろん海外取引にも「暗号通貨+スマートコントラクト」で自動的にお金が動くという仕組みを入れて、必ず支払われるようにしておけば手数料がかからずに、期日も守られてお金が動くということができます。
特に暗号通貨の中でもステーブルコインであれば、これらのことが実現できます。
電子商取引基盤上で全ての処理が済むということで、余分な作業もいらないということで非常に電子商取引自体が効率化も進みますし、高度化も進み、いろんな企業の経営が非常に助かってくるのではと思ってます。
このような魅力を感じていますので、検討はしています。ただ現時点では調査段階ですし、これに関しはまず国のルールづくりが重要ですので、それに沿って検討していきたいです。
個人的には日本が早期に暗号通貨関連の適切な規制や税制を制定すれば、日本企業はこの分野で世界のトップになれるチャンスが大いにあると思います。ぜひ政府には暗号通貨を商取引に取り入れる法令を制定していただきたいですね。
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取材/編集:設楽悠介、竹田匡宏