【取材】オードリー・タンが語る、政府のデジタル化、ブロックチェーン、中央銀行デジタル通貨

オードリー・タンIT担当大臣(台湾)による特別講演会

立憲民主党などの国会議員で構成された「科学技術イノベーション議員連盟」の「オードリー・タンIT担当大臣(台湾)」による特別講演会が3月10日衆議院議員第2議員会館で開催された。オードリー大臣はリモートで登壇。

講演会の開始前、リモート画面に姿を現したオードリー・タン大臣は「この画面をスクショしてツイートしてもいい?」と確認し、開始前の会場を和ませた。

会の前半はオードリー大臣によって「台湾における危機管理のIT利活用、デジタル政府の現状と今後の取り組み」をテーマに台湾のデジタル化、新型コロナウイルス対策の事例などがプレゼンテーションされた。そしてそこから会場の議員及びオンラインで参加の議員との意見交換会となった。

日本のCOCOAのトラブルについて

日本の新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)のトラブルについて、どう考えるかいう質問に対してはオードリー大臣は、

「台湾ではサイバーセキュリティを重視してプライバシーを守りながら既存のシステムを使ってそういったシステムを作りました。緊急事態にはとにかく時間がない、なのでゼロから作るわけには行かないわけです。例えばマスクの予約システムも、既存の税金のシステムのインターフェイスをだけを変えて作りました」と紹介。

そして「そうするとみんな使いやすいわけです。リユースのためにデザインをしたわけです。だから既存のモジュールやAPIを使って、みんなが使いやすいもの作るのが重要ではないかと思います」とアドバイスした。

オードリー大臣が語るブロックチェーンの可能性

また記者の2019年に大阪で開催されたイーサリアムの開発者会議「DEVCON」参加を覚えていますか?という質問について、

「大阪に行ったことをよく覚えています。当時その場でラディカル・エクスチェンジについて、そしてイーサリアムのガバナンスや日々の政治の中で何ができるかを話しました。イーサリアムはとてもイノベーティブなコミュニティだと思います」と触れた。

またブロックチェーンの可能性については、

「データの帯域が拡がっている、民主化が進んでいる中ではとても重要な技術だと思います。台湾でも厳密にはブロックチェーンではなくDLT(分散型台帳技術)ですが、IOTAの技術を使って空気の汚染などを測定するエアボックスシステムを過去に150の小学校に設置しました。この仕組みを使ってPM2.5を計測して情報を共有したわけです」と説明。

そして「台湾ではSDGsの目標に対してトークンを配布して投票してもらうような仕組みがあります」とも紹介した。

CBDCをどうデザインするか?

また台湾におけるCBDC(中央銀行デジタル通貨)についての質問に、

「私たちの中央銀行は、もちろんCBDCについては調査しています。それが本当に社会にフィットするだろうかという点を確認しています。台湾では少額の買い物に関してはまだ現金を使うことが好まれています。それをデジタルに置き換えると、どんなことが起こるか? 社会テクノロジーの観点から見ると、人々が何を期待してるのかということに沿っていなければならないです。だからCBDCに関してもどのようにデザインしていくか、設計していくかが重要だと思います。 CBDCに関してはゼロ知識証明など、ブロックチェーンコミュニティがそのプロトタイプに貢献できるところが多いんじゃないかと思います」と話した。

さらにデジタル担当大臣としての自身の仕事について、

「IoTをInternet of Beingsに、仮想現実を共有された現実に、機械学習を共同学習に、ユーザーエクスペリエンスをヒューマンエクスペリエンスに、シンギュラリティをプルラリティ(plurality)にすることだ」と語った。

そしてデジタル民主主義が間接民主制の欠点を補完するという話に続け、

「インターネットそのものは、まさに私たちの生きる証拠だと思う。決してそれを中央集中型にしていくののではないということがそこで証明されている。ブロックチェーンのガバナンスであれ、イーサリアムであれ、インターネットは分散化していくものだと感じています。そして私たちはプルラリティ、この多数派の大切さをリスペクトする限りは、人が牽引する世界の繁栄ができるのではないかと思います」と話した。

日本政府のデジタル化に大切なのは「信頼」

この会を主催した衆議院議員の青柳陽一郎氏は講演終了後に、

「民主主義の根幹にデジタルが関わっていることを説明いただけたと思う。つまり民主主義国家で物事を進めるのには、国民と政治の信頼関係がないとデジタル化を進めても意味がないわけです。それが無くしてデジタル化を進めても、今のマイナンバー制度のようになってしまう。信頼という根本がないと、デジタル庁を作ってもうまく進まないと思います。デジタルにおいても国民との信頼関係の重要を日本の多くの政治家に伝えてもらえた、いい機会でした」と振り返った。

同じくこの会を主催した衆議院議員の中谷一馬氏は、

「私はオードリー・タン大臣の大ファンで、彼女を尊敬しています。こういった場を作って彼女が台湾で行った多くの成功事例を日本の政治家たちに共有できたことは日本にとって大きな財産だと思います。社会のデジタル化は、国家が強権的に進めるか、国民と共に民主的に発展させていくのか、その2つの方向性が世界的には見受けられます。今の日本はその点では中途半端。日本は国民と共に共創的にデジタル化を目指すべきですが、そのためには政府が国民からの信頼を得ることが必要です。信頼できる政府への転換を目指し、透明性の高い、公平公正なデジタル環境を作り、その過程の議論も含めてオープンに進めていく。そういう仕組みを作ってデジタルの利活用が進む社会へと発展させていきたいと思います」と語った。

 

取材:設楽悠介(あたらしい経済)

この記事の著者・インタビューイ

設楽悠介

「あたらしい経済」編集長/幻冬舎コンテンツビジネス局局長 幻冬舎でブロックチェーン/暗号資産専門メディア「あたらしい経済」を創刊。同社コンテンツビジネス局で電子書籍事業や新規事業を担当。幻冬舎コミックスの取締役兼務。「Fukuoka Blockchain Alliance」ボードメンバー。福岡県飯塚市新産業創出産学官連携協議会委員。ポッドキャスターとして、Amazon Audible original番組「みんなのメンタールーム」や、SpotifyやAppleにてweb3専門番組「EXODUS」や「あたらしい経済ニュース、ビジネス系番組「二番経営」等を配信中。著書『畳み人という選択』(プレジデント社)。