【金融DX】債券のデジタル化が進む理由

債券と株式は同じ有価証券(Security)に分類されるが、債券は投資家から払い込まれた資金を返済する義務がある。一方で株式は投資家から払い込まれた資金を返済する義務はなく、企業が事業を通して株価を高めて投資家へ還元するものだ。

2020年は債券および証券発行・流通プロセスのデジタル化が加速した。この記事ではその理由、そしてブロックチェーン活用のユースケースについて説明していく。

そもそも債券とは何か?

まず債券発行による資金調達では、発行体(issuer)とその債券へ投資した者(investor)の2者が必要となる。債券へ投資した者は、償還日に額面価格、利払い日に一定の利率(表面利率/クーポンレート)で利息の支払いを得ることができる。

債券を理解する上で必要な用語について次に解説していく。

・額面価格

額面価格とは債券の額面に記載されている価格のこと。その債券に投資した投資家は、発行された債券の償還日に額面価格が返済される。

・償還

債券を発行して、投資家から資金の払い込みを受けた発行体は債券の額面価格を返済しなければならない。発行体が払い込まれた価格を返済することを債券の償還という。

また発行体は債券を償還する日付を予め決めておかなければならない。その日付は債券の「償還日」といわれる。

・発行価格

発行価格とは債券発行時の価格である。額面価格と発行価格は一致しない場合がある。それには2種類のパターンがあり、償還日に投資家へ償還する価格(額面価格)よりも発行価格が小さい債券発行は「ディスカウント発行」といわれ、発行価格が額面価格よりも大きい債券発行を「プレミアム発行」といわれる。

・表面利率(クーポンレート)

債券発行者が投資家へ年利で支払うための利率である。これをクーポンレートともいう。投資家がクーポンレートにより得られる金額は、額面価格×クーポンレートで算出される。

・利回り率(イールドレート)

投資家が債券へ投資した際に、収益性を図るための利率のことである。

債券のデジタル化が加速した理由

株式は市場動向や企業の経営状況に応じて、数値が変動する余地が大きい。一方債券は前述したように発行・流通プロセスで発行価格・利率・利払い日・償還日など発行体によって事前に設定される数値が多い。

つまり株式に比べ債券は事前にロジックを組みやすいわけだ。それが債券のデジタル化が加速している理由の一つだと考えられる。

またブロックチェーンの周辺技術に、スマートコントラクトがある。スマートコントラクトとは、事前に取引のロジック(条件)をプログラミングすることで、条件が揃えば、取引が自動執行される仕組みだ。

例えば債券の譲渡や投資家への利息支払いであれば、償還や利回りに関する条件を組んでおけば、人を介することなく償還や利息が支払われることになる。

債券は所有者・日付・金額・権利所在が複雑なものだ。ただブロックチェーンを活用し、債務者、債権者、精算者、アセット管理者、原簿管理など債券の流通に関わる主体同士が共通基盤でそれぞれの現状を管理し、知ることができれば、プロセスを一元化でき、コストが下げられるだろう。

もう一つの債券のデジタル化が進む背景に、企業の資本コスト(資金調達に伴うコスト)が株式資金調達より低いことがある。資本コストには、債券のような借入を行う負債コストと株式資金調達の株主資本コストの2種類がある。

さらに現在はESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:統治の略)やSDGsがグローバルトレンドとなっており、企業らのグリーンボンド発行が増えている。グリーンボンドとは地球温暖化対策や再生可能エネルギーなど、環境分野への取り組みに特化した資金を調達するために発行される債券のことだ。発行体はグリーンボンドを発行することで、投資家らにSDGsやESGにしっかりと取り組んでいることを証明できる。

債券のブロックチェーン・ユースケース

続いて、債券に関する国内外のブロックチェーンのユースケースを紹介していく。

・株式会社野村総合研究所(NRI)

日本では株式会社野村総合研究所(NRI)が社債の発行体として、第1回無担保社債(デジタルアセット債)と第2回無担保社債(デジタル債)を発行したことが2020年3月30日に明らかになった

社債発行の一連のプロセスに関与したのは、野村證券株式会社、野村信託銀行株式会社、NRI、株式会社BOOSTRYの4社だ。

第1回無担保社債(デジタルアセット債)は、発行総額2,500万円、年限3ヵ月、利率年利0.5974%(原則としてデジタルアセットを付与)払込金額は各社債の金額100円につき金100円、財務代理人は野村信託銀行株式会社、社債原簿管理人は株式会社BOOSTRYで行われた。

第1回無担保社債(デジタルアセット債)は、社債発行手続きの一部を電子化するために開発されたアプリを利用した自己募集形態を採用し、利息の支払いに代えてデジタルアセットを投資家に付与。また、社債原簿及び利息(デジタルアセット)について、ブロックチェーン技術を活用して管理し、事務負担の簡素化を図った。

第2回無担保社債(デジタル債)は、発行総額500万円、年限3ヵ月、利率年0.5974%、払込金額は各社債の金額100円につき金100円、引受会社は野村證券株式会社、財務代理人は野村信託銀行株式会社、社債原簿管理人は株式会社BOOSTRYで行われる。

第2回無担保社債(デジタル債)は、証券引受形態を採用し、かつ、利息を金銭のみ。ブロックチェーン技術を活用して社債原簿の管理を行うとともに、従来型の社債と同様に流通市場を確保しつつ、従来型の社債では困難だった社債権者の継続的な把握等を可能にした。

デジタルアセット債は投資家に利息分をデジタルアセットで配布、そのデジタルアセットはカフェなどで利用できるとのこと。デジタル債に関しては、利息分は現金で配布される。

NRIを含む4社はデジタル社債の発行により、小口かつ個人向け社債のオンライン販売を実現し、併せて、デジタルアセットの付与を行うことで、将来的にさらに多様なリターンを付与した社債を発行する端緒とするとともに、社債権者の継続的な把握を通じた長期保有のインセンティブ付け等、今後の発展的な活用の可能性についても確認を行った。

あたらしい経済編集部が以前取材を行った野村総合研究所コーポレートコミュニケーション部によれば、デジタルアセット債は①募集(アプリで募集・完結)②利息がデジタルアセット③社債原簿管理がブロックチェーンを活用したところだったようだ。

またデジタル債は、社債原簿管理飲みにブロックチェーンを管理し、デジタルアセット債で配布されるデジタルアセットは社員食堂などで利用できたようだ。

・タイ銀行

タイ銀行(The Bank of Thailand)が、ブロックチェーン技術を活用した新しいプラットフォームを政府貯蓄債発行のために立ち上げたことを2020年9月11日に発表している。立ち上げの目的は投資家の購入体験を向上させ、業務効率を改善し、全体的なコストを削減すること。

このプラットフォームを開発・運用するプロジェクトは「DLT Scripless Bond Project」だ。タイ銀行、タイ公的債務管理局、タイ証券保管振替機構、タイ債券市場協会、バンコク銀行、クルンタイ銀行、カシコン銀行、サイアム商業銀行を含む販売代理店銀行の8つの機関が共同で取り組んでいる。

このプラットフォームを通して、約147億7,514万円(500億バーツ)の政府貯蓄債が1週間で完売したと発表されている。

次の段階では、すべてのステークホルダーの需要を十分に満たすためにリテールとホールセール合わせたすべての国債をサポートするためにプラットフォームを拡張していく予定とのことだ。

・中国建設銀行

中国の四大商業銀行のひとつである中国建設銀行のラブアン支店が、ブロックチェーンを利用して約3,113億円(約30億アメリカドル)分のデジタル債券を発行したことを11月11日に発表した。

今回、中国建設銀行が発行したデジタル債券は約1万円(100アメリカドル)分から取引可能であるため、個人投資家でも購入しやすくなっているようだ。

そしてこのデジタル債券は、マレーシアに拠点を置くデジタル証券取引所フサン(Fusang)においてビットコインを使って取引が可能となっている。

またデジタル債券の発行にブロックチェーン技術を利用することで、これまで金融仲介業者にかかっていたコストが削減され、従来よりも低いコストで債券を発行できるようになったとのことだ。

コストが削減された結果、中国建設銀行によって発行されたデジタル債券は満期時の利回りが0.75%に設定されていて、この利回りは中国の銀行の平均的な年利である0.25%よりも高くなっている。

・世界銀行

世界銀行はブロックチェーンを使ったデジタル債券「bond-i」を発行したことを2018年8月23日に発表した。

「bond-i」は償還までの大半のプロセス、即ち起債、販売、決済および期中管理にブロックチェーン技術を使用した世界初の債券であり、2年債で約88億2,500万円(約1億1千万オーストラリアドル)を調達したとのことだ。

「bond-i」に投資を行ったのは、CBA、First State Super、ニュー・サウス・ウェールズ財務公社、ノーザン・トラスト、QBE、南オーストラリア州金融公社、ビクトリア州財務公社などであることが明らかになっている。そして「bond-i」のアレンジャーはオーストラリア・コモンウェルス銀行(CBA)が務めた。

今後の展望

デジタル債券は時間や調達コストを低下させるので、発行体へのメリットが大きい。日本国内でも2021年はデジタル債券の発行はより進むのではないだろうか。

そのための課題としては、投資家にとって魅力的なデジタル債券が発行されるかどうかが鍵を握るのと考えられる。企業にとってメリットがあるだけでは、投資家はそのアセットへ投資を行わない。

発行体に求められるのは、債券がデジタル化されたことによって低下したコストを、投資家のリターンが大きくなるように配分していくことだろう。

デジタル債券は新たな市場だ。正しく市場が形成されるためにも、継続的な評価が必要ではないだろうか。

個人的には、ESGやSDGs関連のグリーンボンドが、日本企業からもたくさん発行されることに期待したい。

(images:iStocks/PashaIgnatov)

この記事の著者・インタビューイ

竹田匡宏

兵庫県西宮市出身、早稲田大学人間科学部卒業。 「あたらしい経済」の編集者・記者。