はじめに
企業は持続可能な社会を実現するためにESG投資へ取り組まなければならない。
ESGとは「Environment:環境、Social:社会、Governance:統治」の頭文字をとったものである。
今後のグローバルな潮流において、企業が持続可能な社会を実現するためにESG投資を推進していくことは必須だと思う。
「株式会社」と「ESG投資」の関係性
株式会社は事業規模が将来的に大きくなる領域へ投資し、利益を得ることを永続的に行い続けている。
そして株式会社は自社株を購入した投資家に対し、株価の上昇や配当金という形で利益をシェアしてきた。つまり株式会社は金銭的な利益を中心に追求し、株主という投資家に対してメリットを享受してきた。
株式会社の歴史が長く継続してきた中、2006年に当時の国連事務総長のコフィ・アナン氏が、機関投資家の意思決定プロセスに持続可能な社会の実現を考慮すべきであるという「責任投資原則」という新たな提言を行った。
コフィ・アナン氏は株式会社は利益だけを追求するのではなく、持続可能な社会を実現することを考慮した投資を行うべきだと投資の重要性について説いた。
この提言をきっかけに責任投資原則(PRI)が広がっていき、株式会社はESGへお金を活かすことを求められるようになった。またESGはSDGs(持続可能な開発目標)とも深く関わっている。
SDGsの17個の目標には、水・森・陸などの環境項目や健康・教育など社会項目に対する目標が多く含まれている。そして、企業統治に関しても、働きがいや公正といった形の目標が含まれている。つまりSDGsを達成するためには、各企業がESGを意識して投資していくことで必要である。
企業のこれまでのESGへの取り組み事例
サントリー
飲料メーカーのサントリーのESGへの取り組みは非常にわかりやすい事例となっている。サントリーは水を取り扱うメーカーとして、毎年多くの地下水を組み上げている。そこでサントリーは最初の目標として1年間に汲み上げる地下水と同量の水を保水できる森を作ることを掲げ、2014年に見事達成した。
そして、サントリーは次の目標としていた2倍以上の保水できる森を作ることにも2020年に成功した。
水資源の確保は、自社の事業の継続のためのみならず、持続可能な環境を作ることにも貢献できるため、企業におけるESG活動の好例とされている。
アップル
次に取り上げるESGの事例はアップルだ。スマートフォンやPCといった多くの部品を組み合わせ、セット製品を作っているメーカーがESGへの取り組むと非常に効率的にESGが広まるので紹介したい。
アップルは部品を供給しているメーカーに対し、健全な労働環境の構築、水の節約・二酸化炭素排気量の削減や廃棄物ゼロなど環境対策面でのESGへの要求を強く行っている。そして、アップルはレポートでその達成度を毎年公表している。
アップルという企業が、ESGの取り組みを行うと、アップルのサプライチェーンに関わる企業がESGの要求を満たすようになる。その結果として非常に多くの企業が強い意志を持ってESGに取り組むことになるのだ。
アップルに限らず、あらゆるメーカーがESG・SDGsに関する取り組みをパートナー企業と進めていけば、世間の大半のメーカーがESGへの取り組みを始めることとなるだろう。
アップルのESGへの取り組みは、大企業としてESGの責任を果たす好例と言えるのではないだろうか。
オムロン
オムロンは役員報酬の評価項目に、ESG・SDGsを置いている。オムロンは取締役・執行役員の報酬の決定に対する透明性と客観性を高め、取締役会の監督機能の強化を図ることために、報酬諮問委員会を設置していて、報酬諮問委員会がESG・SDGsを評価項目として重視したのだろう。
具体的にはオムロンの中長期業績連動報酬のなかに「サステナビリティ評価」という項目があり、これにはダウ平均株価で有名なDow Jones Sustainability Indices(DJSI)による第三者評価が反映される仕組みとなっている。DJSIはサステナブル・アセット・マネジメント(SAM)社が経済·環境·社会の3つの側面から企業を評価して算出される。
つまりESG,SDGsの成果と役員報酬は連動しているので、オムロンは自ずとESGに投資する仕組みにしているのだ。
持続可能な社会を形成するためのブロックチェーン技術の役割とは
企業のESGへの取り組みは、事業計画に含まれるかたちで目標が公開され、その後決算資料などで結果が公表される。そこで課題となるのが、数字で管理される財務目標に対して、目標を数値化する難しさと達成度の測定しにくさである。つまり企業はESG計画を実行した結果を管理しにくいのだ。
大企業は事業計画として公表した目標に対して結果を審査される機会が多く、そのため実行結果が正しく検証され、ESG活動をうまく表現でき、決算資料を通して体外的に発信していくことは容易である。
大企業対し、中小企業にはもう少し大きな課題が存在している。中小企業のESG活動は発信が難しいのだ。事例に上げたオムロンのような大企業であれば、第三者機関の評価を受けられるが、中小企業が実際にESG活動を行っても、その活動が第三者から検証されるのは難しく、活動内容の証明も難しい。
今後、中小企業がESGに対して正しい評価を得られるようになれば、より持続可能な社会に近づくことができるのではないだろうか。
ESG活動は予め立てた目標を公表し、取り組んだ結果を発表し、その結果が正しいという監査証明をされていれば、正しく評価を行うことができる。
そこで企業は一度書いたら消えない台帳技術であるブロックチェーンを使って、ESG計画・目標を書き込み、決算などのタイミングでその結果を書き込むことによって、確実に企業のESGへの取り組みを証明することができる。またデジタル署名などを使って、ESGの取り組みが監査証明されたことの証明をブロックチェーンに置くということも利点だろう。
さらには、ブロックチェーンを公開された台帳として活用すると、一歩踏み込んだ事ができるようになる。
これをあたらしいESG活動監査プロセスとして、以下の図のようなプロセスを踏んでいく。
監査法人は、収益を得るために監査結果が他の企業に参照されそうな「良い企業」のブロックチェーンに記録された目標と活動記録から監査を行う。
監査結果を参照したい企業は、監査法人の記録を報酬を払うことで読めるようになる。こうすることで、良い企業であれば、無償で監査してもらえるというインセンティブが働き、企業は無料で監査してもらえるようにESG活動に力を入れる。
また監査法人もより多くの報酬を得るために、良い企業を探して監査するようになる。ブロックチェーンの自律分散的な仕組みを、ESG投資の監査の自律分散化に応用し、全く新しい仕組みをつくることができるのではないだろうか。
今後の潮流について
ESGやSDGsは努力目標であり、日本では規制にはなっていない。
しかし、EUは強制力のある目標を規制の枠組みに入れることで、推し進めていく特徴がある。例えばEUの電気製品に対する有害物質の含有量の規制を行ったRoHS指令はまさにそのような事例であった。今後はこういった規制によって、ESGの動きを強制する動きもおこるかもしれない。
そして、私がより面白いと感じているのは分散型ESG監査の仕組みだ。
分散型ESG監査は、目標と結果をブロックチェーンに記録しておけば、評価の良い企業であれば勝手に監査がされ、結果に信頼性が増していく。この流れができると自浄作用が進み企業はESGに関する取り組みにより力を入れていくだろう。
さらには監査も自動化されてしまえば、監査法人の機能がソフトウェア化する未来も想定できる。実際のところESGの場合は、現実とデジタルを紐付けるのが難しいとされる「オラクル問題」の解決が必要な例も多く、しばらくは従来の監査法人の仕組みが必要だろう。
私はブロックチェーン浸透した社会で、完全自律分散化したESG監査が行われる未来をぜひ見てみたい。
寄稿:日本ブロックチェーン協会(JBA)アドバイザー/株式会社ガイアックス 開発部マネージャー 峯荒夢
(images:iStocks/RomoloTavani)