(デジタルグリッド 代表取締役社長 豊田祐介氏のコメント追記)京セラとデジタルグリッドが再生可能エネルギーを利用したP2P電力取引の実証実験開始へ

京セラとデジタルグリッドが再生可能エネルギーを利用したP2P電力取引の実証実験開始へ

京セラ株式会社とデジタルグリッド株式会社がP2Pによる再生可能エネルギーの電力取引に関する実証実験を2021年1月より京セラ横浜中山事業所にて開始することを10月9日発表した。この実証実験により、京セラ横浜中山事業所は消費する電力の全てを太陽光由来の電力で賄うとのことだ。

デジタルグリッド株式会社はブロックチェーン技術を活用した電力の自由な選択・売買を可能とするP2P電力需給調整プラットフォーム「デジタルグリッドプラットフォーム(DGP)」を提供する企業。なおDGPには運用開始以降20社以上が参画しているが、非FIT再生可能エネルギーの取引は今回の実証実験が第1号案件となるとのこと。

この実証実験では京セラ製太陽電池とDGPによる再生可能エネルギーのP2P電力取引を活用し、RE100を実現する仕組みなどこれからの再生可能エネルギーの活用方法や電力サービス構築を検証するとのこと。また京セラグループ長期環境目標である温室効果ガス排出量(Scope1,2)の2030年度30%削減(2013年度比)を達成することもこの実証実験の目的とされている(Scope1:燃料使用に伴う直接排出 Scope2:外部から購入する電力や熱の使用に伴う間接排出)。

具体的にこの実証実験では、京セラ社員宅の家庭用卒FITの余剰電力と千葉県旭市に新規で建設する京セラ非FIT太陽光発電所の電力をDGPで需給調整し、京セラ横浜中山事業所に供給するとのこと。またこの供給電力には中山事業所に既設のオンサイト非FIT太陽光発電所の電力も使用するという。

さらにこれらの電力で中山事業所の消費電力が補いきれない場合には、日本卸電力取引所(JEPX)から購入した電力に京セラ所有の既設FIT太陽光発電所のトラッキング付非化石証書を付与して同事業所に供給するとのことだ。

編集部のコメント

卒FITとは、FIT(固定価格買取制度)による電力の買取期間が満了した太陽光発電のことを指します。またRE100とは、企業が事業の使用電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的なイニシアティブのことです。

DGPを提供するデジタルグリッド社は、環境省の「ブロックチェーン技術を活用した再エネCO2排出削減価値創出モデル事業」に平成30年度より採択されており、効率的な再生可能エネルギーの電力自己消費価値の取引手法の確立と普及を推進しています。

リリースによるとDGPはデジタルグリッドが国内初の民間電力取引所として2020年2月より運用を開始したP2P需給調整プラットフォームであるとのことです。

またDGPの特徴として以下が挙げられています。
(1) 電力取引の専門資格やシステム投資なしで取引できる  ⇒電力取引プレーヤーを増やせる
(2) 電源識別を行う(例えば、再エネだけを選んで売買できる)  ⇒再エネ活用を円滑化する
(3) 需給調整等の業務をAIなどで自動化 ⇒発電家は電気の効率的な売却、需要家は電力コスト削減が見込める

デジタルグリッド社には東京ガス、日本ユニシス、京セラ、三菱商事、住友商事、清水建設、九州電力、三菱UFJリース、NECフィールディング、AOIホールディングス、住友林業、広島ガス、日立製作所、古河電気工業、北海道ガス、ソニー、川崎重工業、東芝など55社が出資を行っています

なお日経新聞の報道によると、京セラは再生可能エネルギーを活用する企業向けの新たな電力サービスを2022年以降をめどに始めるとしており、RE100に参加する企業や事業活動での再生可能エネルギー比率を高めたい企業などでの導入を目指すとのことです。今回の実証実験はこの事業化に先立ち行われたものとなるようです。

京セラは1975年に太陽光発電事業に参入し、太陽光パネルを生産、供給してきましたが、近年は太陽光パネルを巡る競争の激化などを要因に再エネを活用したサービス展開に重点を置いた事業戦略を京セラは進めているようです。

デジタルグリッド株式会社 代表取締役社長 豊田祐介氏のコメント

以下2020.12.24追記

これまで再生可能エネルギーをけん引してきた補助金制度「FIT」が終わりを迎える中で、次なる再エネ促進を進められるのが弊社の「デジタルグリッドプラットフォーム(DGP)」だと思っています。

FITの元では、発電した太陽光などの再生可能エネルギーは系統に接続しておしまいでした。何もしなくても電力会社が固定価格で買い取ってくれたからです。

これによって全国に太陽光発電設備が増えたことは望ましいことです。しかし、FIT後はむしろ系統に接続してからが始まりです。どのくらいの量を発電し、その発電量をだれに販売するかを30分コマ単位で国が運営しているOCCTという機関に報告しなくてはいけません。

しかし、再エネ発電をする多くの人や企業は、発電の30分コマ単位での予測ができるわけでもないので、それができる電力会社に再エネを売るしかない。ただし、電力会社は高値で再エネを買い取ってくれません。電力会社にとっては、再エネが出力不安定で取り扱いづらい電気だからです。

とはいえ、補助金で設置した太陽光発電設備が使われなくなってしまっては再エネ社会の実現は難しい。

弊社はこういった専門的な業務をAi予測などでデジタル化することで、誰もが再エネを自由に扱えるようにしました。また、デジタルグリッドプラットフォームと外部の取引所も活用して再エネを安定的・長期的に取引できる場も作りました。

こうした仕組みによって、FITが終わった後で再エネを作る世代を一緒に盛り上げていきたいと思っています。多くの人や企業が再エネ取引に参入しなければ、世界的潮流であり日本政府も掲げる脱炭素社会の実現は不可能だからです。

色々な人がこの電力マーケットに入ってもらえるために、電力業界参入のハードルをデジタルの力で取っ払いたいと思っています。

コメント:大津賀新也(あたらしい経済)

(images:iStock/Lidiia-Moor・inkoly)

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あたらしい経済 編集部

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