FRB議長が中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関して言及「早い導入よりも正しい導入が重要」
米国連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル(Jerome Powell)議長が10月19日に行われた国際通貨基金(IMF)主催のパネルディスカッションに参加し、FRBの中央銀行デジタル通貨(CBDC)に対する見解を述べた。
はじめにパウエル議長は「FRBはCBDCの発行を決定していない」と前置きし、CBDC発行に関してはUSドルに関係するステークホルダーとともに検討を重ねる必要があることを強調した。
しかしFRBはCBDCに否定的な意見を持っているわけではなく、CBDCのポテンシャルについて評価していることをパウエル議長は説明した。パウエル議長はCBDCのポテンシャルとして「ペイメントシステムの改善」を挙げており「迅速で安価なトランザクションの実現によって、今まで金融機関のサービスが行き届いていなかった消費者をカバーできる可能性がある」と述べている。
またパウエル議長はその一方で、米国における高い現金需要や米国では既に成熟した効率的な金融システムが存在していることから「CBDCは従来の金融システムを置き換えるものではなく、補完するものになる」と述べている。
さらに、CBDC発行については導入スピードよりも慎重に質を評価することに重点を置いていることが説明された。パネルディスカッションのモデレーターによる質問「CBDCの早期発行による先行者利益についてはどう考えるか」に対して、パウエル議長は「米国は規制やテクノロジーの面で最先端に居続けることが必要だが、CBDCに関しては早く導入することよりも正しく導入することが重要だと考えている」と述べ、続けて「利益のみに着目するのではなく、CBDC発行によるリスクを精査し、トレードオフを認識する必要がある」と説明した。
パウエル議長はCBDC発行に関して精査すべき具体的な問題として「サイバー攻撃や詐欺などの防止」「財政政策や金融安定への影響の明確化」「ユーザーのセキュリティとプライバシーの両立」を挙げており、パウエル議長は「これらの問題に包括的に対処する必要がある」と自身の考えを述べている。
また、パウエル議長はCBDCの発行に際して「民間部門はイノベーションによる貢献をもたらし、公共部門は公共の利益を追求する視点をもたらす」と述べ、民間企業と政府の協力が必要であることを説明した。
編集部のコメント
FRBのCBDCへの取り組み姿勢は2019年から2020年にかけて大きく変化しており、2020年からは本格的にCBDCの研究に取り組んでいます。 FRBは最近、CBDC研究のために他の中央銀行や国際決済銀行(BIS)との提携を行っており、パウエル議長は今回のパネルディスカッションにて「これらの提携は非常に生産的である」と言及しています。 また、FRBの管轄機関のひとつであるボストン連邦準備銀行は今年8月からマサチューセッツ工科大学(MIT)とともに仮想的なデジタルドルの共同実験を行っています。
コメント:小俣淳平(あたらしい経済)
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