イタリアの銀行97行でブロックチェーンプラットフォームのスプンタ(Spunta)が稼働
イタリア銀行協会(Associazione Bancaria Italiana:ABI)が銀行間口座を調整するためのブロックチェーンプラットフォームであるスプンタ(Spunta)が97行で稼働していることをメディア「レジャーインサイツ(Ledgerinsights)」が報道した。
SpuntaはインフラにR3が開発・運用するCordaを選択している。また日本のNTTデータもSpuntaの実装パートナーである。
2018年にSpuntaは18行で試験的に導入され、2020年4月に32行で本番運用を開始。これまでに2回の新規導入の波があり42行が10月から稼働しその数は97行となった。
以前イタリアの銀行は毎月のように口座を照合していたが、現在は毎晩97.6%の取引が自動的に照合されるようになった。残りの2.4%に関してはSpunta内で差異分析などが行えて、コミュニケーションが取れる仕様となっている。
欧州の銀行の子会社がSpuntaへ参加していることから、イタリア銀行協会の動向は他国からの注目されていて国際的な適用範囲の拡大を模索しているとLedgerinsihtsは報じている。
あたらしい経済編集部はSpuntaのインフラであるCordaの社会実装を推進しているSBI R3 Japanのビジネス開発部長山田宗俊氏へ取材を行った。
SBI R3 Japanのビジネス開発部長山田宗俊氏へ取材
ーイタリア銀行協会の動きをどのように捉えていますか。
約3年の歳月を経て、2020年3月にイタリアの銀行32行で商用利用を開始したこの取組みは、2020年10月時点において約100行が参加するというマイルストーンを達成し、非常に嬉しく思います。
イタリアの金融業界としてCordaを採用し、業界共通アプリケーションを構築・導入した、最も注目すべきブロックチェーン事例だと思います。
このニュースから理解しておきたい点がいくつかあります。
まずは、相対取引の場面に対するCordaの”相性”は、商用レベルでも実証されたこと。現在、イタリアにおける銀行間決済のリコンサイル作業は、完全にこのアプリに移行しており、古い業務プロセスは廃止されました。
また、金融業界の共通課題であるオペレーショナル・リスクの低減に成功している点。新プロセス導入に伴い、各行の業務は標準化されています。相手方と共通認識のもとで安心して業務処理が可能となっています。
そして最後にスピード経営が実現されている点。
デジタルを前提としたビジネスでは、正確なデータ把握が鍵となりますが、この取組みを通じて、「月末にならないと分かりません」という状況がなくなり、日次で決済状況を把握、意思決定に活かせます。
この取組みから我々も学び、日本でも応用すべきと考えています。
一つは、「業界全体を変える」という壮大なコンセプトが現実に可能であることを教えてくれます。時間は掛かりますが、最初の一歩を踏み出せば、同じ課題意識を持った仲間が必ず集まってきます。
二つ目に、業界横断の取組みは、ブロックチェーンのサービス提供者ではなく、その業界の中にいる人が主導する必要がある点です。なぜなら業務標準化がセットで付いてくるからです。
最後に、積極的にかつ継続的な対外発表が成功の鍵となっている点です。ある日突然降ってきた取組みに乗ることはできません。業界の誰もが知っているくらいまでに浸透してやっと物事が動きます。
既に本プロジェクトの関係者には世界中から取り合わせが来ており、例えばイタリアからヨーロッパ全土への横展開、”似たような相対取引の場面”における応用について検討が始まっています。
Spuntaがイタリアを超えて、世界をどう動かしていくのか、これからも注目したいです。
編集部のコメント
Spuntaの技術基盤の1つであるCordaについて、あたらしい経済編集部は特集記事を制作しています。
イタリア銀行協会ではブロックチェーン技術の利用が進んでいるので、欧州中央銀行が提言しているデジタル・ユーロ構想の進捗に対して、イタリアは大きな役割を果たすのではないでしょうか。
コメント:竹田匡宏(あたらしい経済)
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