FBI、捜査のために独自トークン「NexFundAI」発行

FBIが捜査のため独自トークン発行

暗号資産(仮想通貨)市場を操作しトークン価格を人為的に押し上げたとして、米司法省(DOJ:Department of Justice)が18の個人と企業に対して提起した広範な刑事事件の訴状が裁判官によって10月9日公開された。

訴状によれば、この捜査は数十億ドルの市場価値を持つある暗号資産企業を標的とし、連邦捜査局(FBI)が創り出した新たな暗号資産を利用した策略に頼られていた。

この起訴状は、4月にマンゴーマーケット(Mango Markets)というプラットフォームを操作したとして有罪判決を受けたアブラハム・アイゼンバーグ(Avraham Eisenberg)氏という個人が有罪判決を受けた後、司法省が暗号資産市場の操作で金融サービス企業を刑事訴追する初のケースである。

しかし、この事件で最も注目すべき点は、FBIが被告人を逮捕するために使用した手法である。 FBIボストン支局の特別捜査官ジョディ・コーエン(Jodi Cohen)氏の声明によると、FBIは「前例のない措置」を講じ、独自の暗号資産トークンと偽の会社を設立し、容疑者を罠にかけることに成功したという。

暗号資産業界は市場操作に馴染みがある。トークン価格は、ウォッシュトレーディングなどの手法を通じて人為的に影響を受けることが多い。

ウォッシュトレーディングとは、参加者が需要があるように見せかけるために偽の売買注文を行う取引である。この手法は特にオフショア取引所で蔓延しており、取引の50%以上が水増しされていると独立系アナリストは推定している。

司法省の訴訟は、3つのマーケットメーカーとその従業員を対象としている。検察官は、これらの企業が報酬と引き換えにウォッシュトレーディングサービスを提供したとしている。

起訴状では、今回の捜査を「前例のないもの」と表現しているが、検察官はパンプ・アンド・ダンプ(短時間で価値のない資産の価格をつり上げた後で売りたたく)自体は「100年の歴史を持つ古い手口」であると指摘している。

FBIは市場操作を暴くため、イーサリアム(Ethereum)ブロックチェーン上で動作する「ネックスファンドAI(NexFundAI)」トークンを作成し、最終的にマーケットメーカーと会って彼らのサービスの利用について話し合った。

被告の1人は自らを「首謀者」と称し、自らの会社が中央集権型取引所(CEX)で同時に売買を行うためにボットを使用して取引量を増やしていると説明した。

9月に対面での会合に同意した際、彼は事前に2,000ドルの支払いを要求した。先週の時点でも、マーケットメーカーのボットは法執行機関の要請で無効化されるまで、数百万ドル相当のウォッシュトレードを行われていた。

暗号資産価格追跡サイトのDEXスクリーナー(DEX Screener)によると、「NexFundAI」は現在も活発に取引されており、時価総額は約237,000ドルとなっている。

被告のうちの何名かは、トークン価格の操作により75億ドルの市場価値を創出したマサチューセッツ州拠点の暗号資産企業サイタマ(Saitama)で働いていた。サイタマは、マーケットメーカーとされるゴットビット(Gotbit)と協力し、トークンの価値を人為的に引き上げていた。

司法省は、サイタマの幹部が秘密裏にトークンを販売し、数千万ドルの利益を上げていたと主張している。2019年にゴットビットの共同設立者は米コインデスク(CoinDesk)に対し、自社の事業は「完全に倫理的ではない」と語っていた。

被告のうち数名はポルトガルやロシアなどで国際的に事業を展開しており、5名はすでに有罪を認めたか、有罪を認めることに同意している。司法省の起訴に加え、米証券取引委員会(SEC)もマーケットメーカー業務に対する証券法違反を訴える民事訴訟を起こした。

※この記事は「あたらしい経済」がロイターコネクト経由でフォーチューンからライセンスを受けて編集加筆したものです。
FBI created its own crypto token called ‘NexFundAI’ to take down market manipulators
(Reporting By Leo Schwartz)
翻訳:大津賀新也(あたらしい経済)
画像:Fortune via Reuters Connect

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大津賀新也

「あたらしい経済」編集部 記者・編集者 ブロックチェーンに興味を持ったことから、業界未経験ながらも全くの異業種から幻冬舎へ2019年より転職。あたらしい経済編集部では記事執筆の他、音声収録・写真撮影も担当。