サムアルトマンの「ワールドコイン(WLD)」、ポルトガルからデータ収集の停止命令

ワールドコインがポルトガルからデータ収集の停止命令

ポルトガルのデータ規制当局が、ワールドコイン(Worldcoin)に対し、生体認証データの収集を90日間停止するよう命令したと3月26日発表した。今回の出来事は、複数のプライバシーの懸念を引き起こしている同社への最新の規制上の打撃となる。

なおワールドコインは、AIチャットボットサービス「ChatGPT」を提供する米オープンエーアイ(OpenAI)のCEOサム・アルトマン(Sam Altman)氏が立ち上げた暗号資産(仮想通貨)プロジェクトだ。

同プロジェクトでは「オーブ(Orb)」と呼ばれるボール状のデバイスで虹彩をスキャンし、各人それぞれの虹彩の特徴をデジタルコードに変換することで個人を識別する「World ID」を発行する。これによりワールドコインは世界的なIDシステムの構築を目指している。同プロジェクトのウェブサイトによると、120ヵ国で450万人が登録を行っている。

ポルトガルのデータ規制当局であるCNPDはワールドコインについて、国民のデータ保護権に高いリスクがあり、深刻な被害を防ぐために緊急に介入する正当性があると述べた。CNPDによると、ポルトガルでは30万人以上が生体認証データをワールドコインに提供しているという。

またCNPDは先月2月、「未成年者からのデータの不正収集」、「データ対象者に提供された情報の不備」、「データの消去や同意の撤回が不可能である点」について、数十件の苦情を受けたと述べた。

ワールドコイン財団のデータ保護責任者であるヤニック・プレイウィッシュ(Jannick Preiwisch)氏は、ワールドコインについて「生体認証データの収集と転送を管理するすべての法律と規制に完全に準拠している」と述べた。

プレイヴィシュ氏は電子メールにて「CNPDからの報告書は、これらの問題の多くに関して私たちが彼らから聞いた初めての報告書です。これにはポルトガルでの未成年者のサインアップに関する報告も含まれますが、当社はこれを一切容認せず、たとえ数件の報告でもあらゆる場合に対処するよう取り組んでいます」と述べた。

またワールドコインは、同社が3月にデータの「個人保管」への移行を開始したと述べた。これにより、ユーザーは削除や将来の使用を含め、自分のデータを制御できるようになるという。

なおCNPDによると、データ収集の停止命令は、追加的なデューデリジェンスを実施し、調査中の苦情を分析する間の一時的なものとのことだ。

プライバシーへの懸念

ワールドコインは、「アイデンティティと金融ネットワーク」の構築を目指しているという。アルトマン氏は、人工知能(AI)が支配する世界で人々が自分が人間であることを証明するために同プロジェクトが必要になるだろうと述べている。

現在ワールドコインは様々な国で調査を受けており、個人データの収集をめぐってプライバシー保護運動家から批判を浴びている。

英国のプライバシー・キャンペーン団体「ビッグ・ブラザー・ウォッチ(Big Brother Watch)」は、ワールドコインの発表後、生体認証データがハッキングされたり悪用されたりする危険性があると指摘し、上級権利擁護責任者ののマドレーン・ストーン(Madeleine Stone)氏は、デジタルIDシステムは「技術者たちが考えがちな並外れた利点に見合うものではほとんどない」と付け加えた。

スペインのデータ保護規制当局は今月初め、苦情を受け、ワールドコインに対して3ヶ月間の禁止令を出した。ケニアは8月にワールドコインの活動を停止した。

バイエルン州規制当局は、ワールドコインを運営するツール・フォー・ヒューマニティ(Tools For Humanity)がバイエルン州にドイツ子会社を構えているため、同州が欧州連合のデータ保護規則に基づいてワールドコインを調査する主力当局であると述べている。

CNPDは停止処分の中で、ワールドコイン財団(Worldcoin Foundation)にも言及している。同財団はケイマン諸島の団体で、ウェブサイトには所有者も株主もいない「メンバーレス」と記載されている。

なお同財団は、ワールドコインに登録した人々に割り当てられるワールドコイン(WLD)の発行を担当する英領バージン諸島のワールドアセット社の唯一のメンバーであり取締役である。

CNPDは、ワールドコイン財団が生体認証データのデータ管理者であるため、今回の決定はワールドコイン財団に宛てられたと述べた。

ワールドコインは、アンドリーセン・ホロウィッツ・クリプト(a16z crypto)やベインキャピタルクリプト(Bain Capital Crypto)など、著名なベンチャーキャピタルの支援を受けている。

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※この記事は「あたらしい経済」がロイターからライセンスを受けて編集加筆したものです。
Portugal orders Sam Altman’s Worldcoin to halt data collection
(Reporting by Elizabeth HowcroftEditing by Tommy Reggiori Wilkes and Louise Heavens)
翻訳:大津賀新也(あたらしい経済)
images:Reuters

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この記事の著者・インタビューイ

大津賀新也

「あたらしい経済」編集部 記者・編集者 ブロックチェーンに興味を持ったことから、業界未経験ながらも全くの異業種から幻冬舎へ2019年より転職。あたらしい経済編集部では記事執筆の他、音声収録・写真撮影も担当。

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