分散型台帳技術が決済イノベーション促進に役立つ
米ニューヨーク連邦準備銀行のニューヨーク・イノベーション・センター(NYIC)が、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の概念実証(PoC)の結果を7月6日発表。国内決済において分散型台帳技術(ブロックチェーン)が決済イノベーション促進に役立つ可能性があるとの結果を報告した。
なお、この概念実証は昨年11月15日に発表されていたもので、今回はその結果報告となる。
概念実証に参加した機関は、ニューヨーク連邦準備銀行のニューヨーク・イノベーション・センター、BNYメロン、シティ、HSBC、マスターカード、PNC銀行、TD銀行、トリスト、USバンク、ウェルス・ファーゴ。またシステムの相互運用性については銀行間メッセージングサービスを提供するSWIFTがサポートを提供し、法的側面については法律事務所サリバン&クロムウェルとデロイトが助言を行ったと報告されている。
今回の概念実証では、分散型台帳技術を利用した相互ネットワークを構築し、そのネットワーク上で発行された疑似デジタル通貨と中央銀行の疑似準備金を用いて決済を行ったという。その際に他のデジタル資産にも拡張可能なプログラマブルマネーの実現可能性や法的範囲内でのシステムの実行可能性なども検証すると伝えられている。
なお、概念実証はテスト環境で実施され、シミュレーションデータのみが用いられるとのことだ。さらに今回の概念実証は米連邦準備制度による米ドルCBDCの発行を示唆するものではないとのことだ。
課題は残るも分散型台帳技術上での決済成功
今回の概念実証ではホールセール型のCBDCの実現可能性を探るために、「国内銀行間決済」と「米ドルでのクロスボーダー決済」でのユースケースで実証実験が行われたとのこと。
その結果、両方のシュミレーションに成功し、分散型台帳技術が決済イノベーションを促進すると特定されたと報告されている。
一方で、既存の決済システムは効果的に機能しているものの、特にスピード、コスト、アクセシビリティ、決済プロセスにおいて、一定の摩擦が残っているとの課題も指摘された。
また実験結果は、分散型台帳技術の「技術的実現可能性」「ビジネスへの適用可能性」「法的実現可能性」の項目に分けて分析されている。
「技術的実現可能性」においては、分散型台帳技術が決済の完結性や信頼性の高い共通の情報源、取引データの標準化、ユーザーのプライバシー保護などのメリットを実現できることが検証された。
また「ビジネスへの実現可能性」については、米ドル建て決済を同期化することで24時間365日、ほぼリアルタイムで決済を行うことができるため、ホールセール決済の処理を改善する可能性があると結論づけられた。
そして「法的実現可能性」では、最終的な結論に達するまでには、さらなる分析、調査、規制当局との関与が必要であるものの、米国の既存の法的枠組み下での乗り越えられない法的障害は特定されなかったと報告されている。
なおニューヨーク連邦準備銀行は、この概念実証に関連する今後の研究段階があるかは未定だとしている。
昨年11月、ニューヨーク連銀のニューヨーク・イノベーション・センター所長のペール・フォン・ゼロウィッツ(Per von Zelowitz)氏は、外国為替市場の決済時間を短縮するために、CBDCであるデジタルドルを利用することが有望であるとの見方を報告書にて明かしていた。
関連ニュース
- NY連銀と米大手金融機関ら、デジタル通貨プラットフォームのPoC開始
- 「デジタルドルは外国為替決済を加速させる可能性がある」NY連銀トップが言及
- FRB理事、デジタルドルに消極姿勢
- FRBパウエル議長、デジタルドル発行について議会との協力意向示す
- 「デジタル資産は無視できない規模に」バンク・オブ・アメリカが暗号資産関連レポート公開
参考:NYIC発表
デザイン:一本寿和
images:iStoks/ismagilov