香港有識者らが香港政府ステーブルコイン発行求める
香港の暗号資産(仮想通貨)・ブロックチェーンに関する有識者らが、政府に対して、香港ドルに連動するステーブルコイン発行を求める論文を発表した。中国の暗号資産関連記者のコリン・ウー(Colin Wu)氏が英訳レポートを7月3日公開している。
同論文は、香港科学技術大学の組織推進担当副学長であるワン・ヤン(汪洋)氏、中国のスマートフォン・ソフトウェア開発ユニコーン企業メイツ(Meitu)の創業者であるカイ・ウェンシェン(蔡文生)氏、香港ブロックチェーン協会の名誉会長であるレイ・ジビン(雷志斌)氏、そして香港科技大学博士課程の学生ウェン・イーシュウ(温益州)氏により共同執筆されている。
論文では、デジタル経済におけるリーダーシップの取り組みをサポートするために、香港政府が香港ドル政府ステーブルコインHKDGを発行することを提案。なおHKDGは香港ドル(HKD)に連動したステーブルコインで、「G」は「Government(政府)」の略である。
香港のデジタル資産発展の一助となり得るHKDG
論文では、暗号資産に積極的な香港が「伝統的金融とデジタル経済の架け橋となるステーブルコイン」を導入することは「香港がデジタル資産の発展を追求する上で重要なテーマ」だと述べられている。
有識者らはHKDGについて「HKDGの発行は、ブロックチェーン分野での香港のリーダーシップを強固にするだけでなく、デジタル香港ドルの進歩を推進し、取引効率を高め、取引コストを削減し、現在の決済システムを改善し、香港のフィンテック能力をさらに強化する。さらに、HKDGは香港の金融システムの効率性と包括性を高めることができ、その安定性、交換の自由、高い安全性、開放性、国境を越えた流動性は、より幅広い金融イノベーションをサポートすることができる。HKDGの導入は間違いなく香港経済に新たな活力を注入し、デジタル経済時代における香港の競争力強化に貢献するだろう」と期待している。
一方で、現状として香港政府は民間機関による香港ドル・ステーブルコインの発行を許可・奨励するにとどまっていることに触れ、この措置はあまりにも保守的だと指摘。「民間機関が発行する香港ドル・ステーブルコインが大きな市場シェアを獲得する可能性は低く、最終的には周縁化された商品になる可能性がある」とし、香港政府に対し、香港ドルと連動したHKDGを発行するよう強く要請した。
香港ドルステーブルコインの利点あげる
HKDGは外貨準備高を裏付け資産にして発行される予定だ。論文によれば、2023年3月現在、香港の外貨準備高は4,300億米ドル(約62兆円)に達し、USDTとUSDCの時価総額を合わせた1,200億米ドル(約17.3兆円)を大きく上回っているという。
またUSDTは信頼性が不十分であり、USDCは最近厳しいディスカウントに見舞われていることを例に挙げ、香港政府発効の信頼性が高いHKDGは米ドルのステーブルコインの独占に対抗し、ブロックチェーンとデジタル資産のエコシステムで主流のステーブルコインになる可能性を秘めていると主張した。
このほかにも論文ではHKDGの複数の利点が挙げられている。
具体的には「脱ドル化実現」だ。HKDGだけでは米ドルの覇権を揺るがすことは難しいが、ブロックチェーンとデジタル資産のエコシステムの急速な発展は、HKDGが米ドルの優位性に挑戦し、実質的な脱ドル化を実現する可能性があると主張した。
このほかにも、政府プロジェクトに流動性を提供することや、香港の伝統的な金融資産のデジタル化実現、金融イノベーションの促進、当局がリスクを監視・評価しやすくなることなどの利点が挙げられている。
また、HKDGにより、金融政策や貿易制限に起因する国際協力における貿易・投資協力の障害を解決できるため、 香港の国際競争力を高める一助になることも利点として挙げられた。
民間発行より低リスクと指摘
論文ではHKDGの潜在的なリスクについても触れられた。
具体的には、クロスボーダー取引における複数の国の法律・規制面での課題、不正な資金調達やマネーロンダリング、テロ資金供与が巻き起こす恐れのある国際紛争、ハッカー攻撃やシステム障害などの技術的リスクなどだ。
また、大規模な為替需要により、香港ドルの為替レートが短期的に変動する可能性も懸念事項として指摘されている。
しかし論文では「政府発行の香港ドルが負うリスクは、民間機関が発行する香港ドル・ステーブルコインが負うリスクよりも大幅に低い」と主張されている。
その理由として、政府の強力な財政力と豊富な外貨準備高は、民間機関をはるかに上回っていること。そして政府は主権主体であるため信頼性が高く、ステーブルコインを発行する動機や目的も透明性が高いことなどが挙げられている。
Web3発展促進へ向けタスクフォース設立
香港政府は6月30日、「Web3発展促進タスクフォース」を設立したことを発表。
同タスクフォースでは、香港におけるWeb3の持続可能で責任ある発展に関する提言を行っていくという。
また昨今では、Web3企業の香港進出も活発だ。
すでに香港に進出している約800社のフィンテック企業に加え、今年3月の時点で、デジタル資産・ブロックチェーン関連の80社以上の企業が香港への進出を検討していると報じられている。
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参考:論文
デザイン:一本寿和
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