米コインベース、トルネードキャッシュ制裁訴訟に対する異議申し立てを支持

トルネードキャッシュ制裁はアメリカ合衆国憲法修正第1条に違反と訴え

米国財務省に対するトルネードキャッシュ(Tornado Cash)制裁に関する訴訟の原告らが、略式判決の申し立てを行った。これを支持する声明をコインベース(Coinbase)の最高法務責任者のポール・グレワル(Paul Grewal)氏が4月6日ツイートした。

ツイートに引用された申立書によると原告らは、ミキシングサービスは設計上、財産権としての制裁を受けることはできないと主張。米国在住者がトルネードキャッシュを利用できないことは「アメリカ合衆国憲法修正第1条の言論の自由条項に違反する」ため無効にすべきだと訴えている。

グレワル氏のツイート

グレワル氏はツイートにて「原告らの主張はシンプルだが強力である」と述べている。

また同氏は「わが国(米国)の憲法と法律は、少数の不法行為のためにすべての人からプライバシーを奪うことはない」と認識していると述べ、「この異議申し立ての原告は、オンラインでプライバシーを守りたいが制裁により守れなくなったアメリカ人の一人である」と続けた。

またグレワル氏は、複数の主張を投げかけている。

まず同氏は「政府はトルネードキャッシュを制裁できない」と指摘。その理由として、トルネードキャッシュはソフトウエアであり、制裁対象となる外国の「国民」や「人」、「会ったこともない人の集まり」では無いからだとしている。

続いてグルワル氏は「法律では政府が個人の財産に制裁を加えることは許可されており、ここでいう財産とは所有・管理できるもの」とした上で、トルネードキャッシュのソフトウェアの中核をなす20のスマートコントラクトは、人間のコントロールなしに機能するため、これらに当てはまらないことを強調した。

また同氏は「万が一、所有者のいないものが何らかの形で財産になり得たとしても、これらのスマートコントラクトは一切所有されていない」とし、外国人や制裁を受けた人物でもなければ、たまたま何かしらの暗号資産をウォレットに入れた人々でもないと続けた。

これらの理由から、トルネードキャッシュの制裁は、アメリカ合衆国憲法修正第1条に違反するとグルワル氏は主張。この制裁は、一部の悪人がトルネードキャッシュを利用したからといって、大勢の善良なアメリカ市民がトルネードキャッシュを使用して社会的価値のある言論を行うことを妨げていると非難した。

また申立書では、トルネードキャッシュを政治利用した例として、原告のタイラー・アルメイダ(Tyler Almeida)氏がロシアによるウクライナ侵攻後にウクライナ政府へ行った寄付が紹介された。

アルメイダ氏はハッキング集団からの報復から身を守るためにトルネードキャッシュを利用したという。申立書には「トルネードキャッシュが提供するプライバシーがなければ、アルメイダ氏のようなユーザーは、ウクライナ政府にお金を送ることによって、ロシアの侵略に対する自分の意見を表明することができなくなる」と記されている。

トルネードキャッシュ制裁とコインベースの支援について

トルネードキャッシュは、複数ユーザーの暗号資産(仮想通貨)の取引を複数混ぜ合わせて資金経路を見えなくすることで、ユーザーの匿名性を高めるサービスだ。

その特性がサイバー犯罪に関与した資産のロンダリングに利用されていることが問題視されていた。昨年3月には、北朝鮮のハッカー集団「ラザルス」がトルネードキャッシュを利用してサイバー攻撃で得た資産をミキシングし、当局の追跡を困難にしていた。

これらの事実から昨年8月に米国財務省の外国資産管理室(OFAC)が「財産および財産上の利益がブロックされている人物である北朝鮮政府に対して、実質的に支援を提供した」としてトルネードキャッシュを制裁対象に加えた。

OFACがトルネードキャッシュ全体を制裁対象としたことで、米国内のユーザーはトルネードキャッシュを利用できなくなり、無実のユーザーの資産を凍結された。このことについて、昨年9月にコインベース社員2人を含む6人のトルネードキャッシュユーザーが米財務省に対して訴訟を起こした。コインベースはこの訴訟を支持しており、裁判費用を提供する意向を示していた。

また北朝鮮のトルネードキャッシュの利用により、トルネードキャッシュ開発者は犯罪に加担したとして昨年8月にオランダ警察に逮捕されている。

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参考:申立書
デザイン:一本寿和
images:iStocks/mouu007

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この記事の著者・インタビューイ

髙橋知里

「あたらしい経済」編集部 記者・編集者

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