【取材】三菱UFJ信託ら、「トレーサブルNFT」と「日本酒トークン」の発行目指す

三菱UFJ信託ら、「トレーサブルNFT」と「日本酒トークン」の発行目指す

三菱UFJ信託銀行が、同行主催の「デジタルアセット共創コンソーシアム(DCC)」で、「トレーサブルNFT」の基盤作りと「日本酒トークン」の発行を目指すワーキンググループを設置し、検討していくことを1月31日に発表した。

発表によるとこの「トレーサブルNFT」とは、NFTを含む各種デジタルアセットの発行・管理基盤「Progmat(プログマ)」と、個々の商品等が「本物」であることを明示するためのトレーサビリティ基盤「SHIMENAWA(しめなわ)」を組み合わせ、現実社会における個別商品等(リアルアセット)に関する権利(所有権又は債権等)と明確に紐づけられたNFTを指すという。

なお「SHIMENAWA」は、SBIトレーサビリティが提供するトレーサビリティ基盤だ。

「トレーサブルNFT」により、NFTの移転を以て個別商品等に係る権利も確実に移転を目指す。そしてNFT保有者が「真の権利者」として、紐づけられた個別商品等に係る権利行使を、安定的に行うことを可能にしていくとのことだ。

また「日本酒トークン」は日本酒業界の課題解決を目的に発行される予定だ。ワーキンググループの名称は「日本酒トークン・ワーキンググループ」だ。

なお日本酒業界の課題について「日本酒業界では、グローバル市場を席巻するワインやウイスキーが時間が醸成する厚み(熟成やヴィンテージ)を価値基準の中核に据えているのに対し、大吟醸酒、純米大吟醸酒や特別純米酒などの精米歩合が低くなればなるほど技術やコストの観点から価値が高まるといった日本独自の指標を商品価値の中核に据えており、グローバルスタンダードな価値基準で対抗できる古酒や熟成酒への挑戦は、酒造会社の資金繰りや価値基準の不明確さといった観点から、難しいマーケット環境となっていました」とリリースで説明されている。

そのためワインやウイスキーなどと同じグローバル市場で勝負していくためには、少なくとも時間が醸成する厚みに関する価値基準を明確にすると共に、古酒や熟成酒への挑戦を資金繰り上も容易にした上で、日本酒ならではの新たな価値創造も必要になってくるものと考えたという。

1月27日より「価値基準の不明確さ」に対しては、一般社団法人刻SAKE協会が、世界に誇れる日本酒を価値化していくため、時間軸を用い高付加価値の「刻SAKE定義/認定基準」を策定し、運用を開始したという。

そして日本酒業界の課題である酒造会社の「資金繰り」について、「トレーサブルNFT」が活用されていく方針だ。「日本酒トークン」により、リアルアセットやトレーサビリティ情報を紐づけた日本酒(醸造・熟成段階)に関する権利(将来債権等)をNFTとして先行/小口販売することで、古酒や熟成酒へ挑戦する酒造会社の前広な資金調達を可能にしていく予定だ。

「トレーサブルNFT」の保有者は、当該権利を熟成期間中にNFTとして第三者へ譲渡し資金化することや、権利を行使して調合・出荷した個々の「日本酒」(瓶)を紐づけたNFTに転換し、直接利用(飲酒)又は第三者への譲渡が可能となるという。

これらの「日本酒トークン」の権利移転はブロックチェーン上で完結するため、グローバルな取引も容易になるとのことだ。

三菱UFJ信託銀行のプロダクトマネージャー齊藤達哉氏へ取材

「あたらしい経済」編集部は、三菱UFJ信託銀行デジタル企画部デジタルアセット事業室のプロダクトマネージャー齊藤達哉氏へ取材を行なった。

–債券などリアル資産ではなく、日本酒などリアル商品のNFT化には、どのような可能性を感じているのでしょうか?

有価証券をトークン化するセキュリティトークン(デジタル証券)は、当然ながら有価証券として、金融商品取引法等の規制の対象となります。

例えば有価証券届出書の作成や、有価証券報告書による継続開示等が典型的ですが、これらの規制対応に要するコストを賄うためには、最低限必要な規模の案件サイズである必要があるため、例えば今回の日本酒のような小規模アセットでは、セキュリティトークンの形ではトークン化しづらいという課題があります。

利益分配が生じるようなアセットの場合、有価証券として認識せざるを得ませんが、例えば日本酒のような物理的なアセットの所有権(専門的には占用の改定等)や利用権などを表章するだけのトークンであれば、セキュリティトークンではない、ユーティリティトークン/NFTとしてトークン化することも可能です。

また、そのような小規模アセットと紐づけたNFTと称している取り組みであっても、実際のアセット側の状態はかならずしもトークン側からは捕捉できない(例えば瓶の中身だけ入れ替えられる)という問題もあるのですが、今回のトレーサビリティの仕組みとの組み合わせにより、物理的な真贋性も担保することが可能になります。

したがって、取引安全性が担保され、かつコスト問題なく小規模なアセットのトークン化が可能になることで、これまでの物理的なアセットだけでは実現できなかった流動性(入手/売買取引のし易さ)を手に入れることが可能になります。

このような特徴をもったトークンの対象は、日本酒のみならず、同じくトレーサビリティの仕組みによる真贋性が担保できるようなアセットであれば、幅広く対象となります。

例えば、同じ仕組みの横展開により、それぞれの地域に根差した特産物をトークン化し、利用体験のために日本以外のファンを当該地域に来てもらうきっかけに繋げる等、

発行体の資金繰り改善以外にも、大きな波及効果が生まれることを期待しています。

地域活性化や、日本の名産品のグローバルなファン作り等に寄与したいと考えております。

参考:三菱UFJ信託
images:iStocks/kuppa_rock
デザイン:一本寿和

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この記事の著者・インタビューイ

竹田匡宏

兵庫県西宮市出身、早稲田大学人間科学部卒業。 「あたらしい経済」の編集者・記者。