ミスビットコイン藤本真衣が想う、仮想通貨業界の過去と未来

ミスビットコインの仮想通貨との出会い

−仮想通貨を知ったのはいつ頃ですか?

2011年12月に、ロジャー・バーと出会いました。そしてロジャーからビットコインのコンセプトを教えてもらいました。会ったその場でウォレットのダウンロード方法や使い方を教えてもらい、ロジャーから実際にビットコインを送ってもらったのが、私が仮想通貨を知った最初です。

ロジャーはビットコインの黎明期から、ビットコイン関連のスタートアップに多額の投資をし、さらにビットコイン関連のさまざまなプロジェクトに関わってきた人物です。ビットコインが現在に至るまで普及した背景には彼の積極的な活躍が大きく、ビットコインジーザス(ビットコインの神)と呼ばれている人物です。

彼はいつも体験させることを大切にしているので、その場で私にビットコインを送ってくれたんです。その時のウォレットってもちろん英語でしたし、正直大丈夫なのかと不安でしたけど。その時に1BTCを貰いました、当時の価値では1200円ぐらいだったと思います。

−その時ビットコインに触れて、どんな感想を持ちましたか?

その当時、私は仕事で海外の子供達に寄付する事業を始めようとしていたんです。ただその時色々調べていて海外への送金手数料の高さに頭をかかえていました。「海外送金って1000円送るのに4000円かかるの?」と、悩んでいたんです。

でもロジャーから、その場でビットコインを送金してもらった時に「これ海外でもこういう風に送ったら、手数料がほぼゼロだよ」って言われて、その時にビットコインの凄さが実感できたんです。

−その直後、ご自身でビットコインは追加で購入しましたか?

当時はマウントゴックスは動いていたのですが、英語のサイトで難しいですし、はじめは自分のお金を払ってまでチャレンジはしたくないなと思ったので、すぐには買いませんでした。まだインターネットでビットコインって調べても日本語の記事が100個も出てこなかった時代でした。当時は、英語へのコンプレックスもありましたし、もっとお金に余裕もあれば違ったかもしれないですけれど。

とりあえず、もらった1BTCは持っておいて、追加で買ったのはその1年後ぐらいだったと思います。当時はまだビットコインを持っている人がほとんどいなかったので、購入した後は私もロジャーのように、人に渡したり、送ったりして遊んでいました。

ビットコインが事業を形にしてくれた

−もう一度、ビットコインを買おうって気持ちが動いたきっかけはなんですか?

ビットコインを知ってから、立ち上げようとしていた寄付サイトを、法定通貨ではなくビットコインを使って作ろうと決意しました。でもそのサイトを作るには、もっともっと多くの人にビットコインを知ってもらう必要があると思ったんです。

だから自分でも、もっと買ってみて勉強しようと思いました。

また当時ロジャーから「ビットコインは送金手数料だけではなく、世界が変わる技術だから」と言われていました、「インターネットの革命よりも、より大きな革命が起こるしお金っていうものの概念が変わる」と。

だから私は投資家や先見性のある人々に、ロジャーを紹介してビットコインを広める活動をしていました。当時の私はまだまだビットコインに対しての知見や金融の歴史やITについての詳しい知識があったわけではなかったです。

でもロジャーと活動していく中、誰も理解してくれない中で、1番信用している人が「今はみんな分からないけど、数年後ビットコインって当たり前になるし、その時に藤本さんがこの業界で仕事できるようにしていた方がいいよ」とアドバイスをくれました。それでもっと自分で色々調べて勉強しようと思って、ビットコインを買い始めたんです。

当時使っていた取引所はマウントゴックスでした。すべて英語のサイトで慣れるのに苦労した記憶があります。そしていろいろな人にビットコインを広げていく中で、目標であったビットコインを使った寄付サービス「KIZUNA」を立ち上げる準備をしていました。

いろいろと調べたところ寄付の世界で、私は当時多くのNPOなどの団体を心から信用することができていませんでした。もちろんすべてが悪い団体ではないですが、やはりその先ちゃんと子供達にお金が届いているかがよく分からない部分に違和感がありました。

なんとか本当の親のように「直接この子を支援するんだ」っていう感じで世界中に寄付金を送れる仕組みを作りたいと思っていました。そうしたら誰でも親みたいになれるじゃないですか。支援をするという形で世界中でコミュニケーションがとれたらいいなって理想があったのです。

私がやりたかったことは「世界中のひとりひとりが恵まれない子供達のために親のような立場になれる機会をつくること」です。だからこそ寄付したことがちゃんと履歴を追うことができる、そして少額でも手数料が安価なビットコインの仕組みがとてもぴったりだと思っていました。

そして2016年に多くの方々の支援もいただきビットコインの寄付サービス「KIZUNA」を立ち上げる事がきました。現在はまだまだ団体への寄付が中心ですが、将来的にはもっと個人間の寄付ができるようなプラットフォームに育てていきたいと思っています。

ミスビットコインとしての活動について

−いつからミスビットコインとしての活動を開始したんですか?

ビットコインを知ってから小さいセミナーを開催や、地道に業界内の人を繋げていく活動をはじめました。自分でブログを書いたり動画も作ったりもしてきました。そしてみんなにもっとビットコインのことを知ってもらいにはどうすればいいかと考えて、その頃女性でそういった活動をしている人が世界的に見ても少なかったので、思い切って2012年頃に「ミスビットコイン」と名乗り始めたんです。

当時は良い意味でも、悪い意味でも「なんだよそれ?」って言われました。でもその「なんだよそれ」が大事で、ビットコインに興味を持ってもらう事が目的だったので。2012年の頃は本当にまだ誰もビットコインのことを知らなかったですからね。そうやって目立ったおかげで、その後2014年ぐらいに、某仮想通貨取引所の社長に見つけてもらって、広報の仕事をするようになり、それがきっかけでお仕事として仮想通貨に関われるようになりました。

−ビットコインのインフルエンサーになっても当時は儲からなかったですよね。それでもビットコインに賭けようと思ったのはなぜですか?

はい、まったく儲からなかったですね、むしろ持ち出しの方が多かった(笑)。でも2つの理由で、私はビットコインに賭けることができたと思ってます。

1つは、寄付事業を検討する過程で、ビットコインの送金手数料の安さとマイクロペイメントができるところに大きな可能性を感じて自分でも理解できていたからだと思います。寄付に限らず海外送金が安くなったらメリットがいっぱいあるわけです。

2つ目は、時代の変わり目に自分も少しでも関われるかもしれないという予感を感じたからです。これからインターネット革命よりもITの世界に大きなインパクトを与えていく可能性のある人たちが、私の周りにはいました。その頃は仮想通貨業界はいまよりももっともっと小さいコミュニティでした。ロジャー・バーもヴィタリック・ブテリン(イーサリアムの創始者)もすぐ側にいた時代でした。

そういう世界の変えられる人たちを近くで見たいし、できることなら少しでも関わりたい。それがすごい私の活動のモチベーションになり、仮想通貨の世界で仕事に賭けようと思ったんです。

自分で勉強して、さらにそんな才能の人たちと仕事をして、ビットコインやブロックチェーンが今後世界を変えていくっていう確信がどんどんと生まれてきました。だから当時は白い目で見られながらも、ミスビットコインとしての活動を頑張ることができました。

仮想通貨業界で仕事をする上で大切にしていたこと

−仮想通貨業界で仕事をする上で心がけていたことは何ですか?

仕事をする上で、大事にしていることがあります。この業界ってポジショントークがほとんどなのですよ。でもそのポジショントークとかを意識せずに、本当に色眼鏡をかけずに、フラットな気持ちで業界内の人々と接するようにすることを一番心がけています。

例えばジハン・ウーの時もそうでした。彼は現在はマイニングの大手企業BITMAINの共同設立者としてみんなからリスペクトを受けているかもしれませんが(最近IPOも発表しましたね)特にハードフォークの時など彼のことを悪者扱いしていました。

でもその時も、彼なりに立場があったわけです。そしてマウントゴックス事件でマイニング報酬が苦しくなった時も彼は諦めずにチャレンジしながら今までやってきたからこそ、今の立場があるわけです。

周りに「あの人とは会わないほうがいい」とかyoutubeでインタビューしたらしたで「彼のインタビューを出すなんて!」とか言われても、私は直接会ってみて話を聞きたい。そして本人の声をシェアしたい。人の事を人から言われたフィルターを通してだけでなくて、ちゃんと見ながら、誠意を持って接するってところを大事にしています。

バイナンスCEO CZとの出会い

例えば現在世界最大級と言われている仮想通貨取引所バイナンスCEOのCZ(ジャオ・チャンポン)もそうです。

CZは、日本のルールが変わり今まで可能だった事が不可能になり日本を出ていかなくちゃいけなくなって大変だったと思います。みんなにどう言われようと一生懸命頑張っていた。世界的にもバイナンスのファンは多く日本でも愛用者が多かったので、またルールに沿った形で日本に戻ってきてもらい、日本人も使えるようになってほしいと陰ながら応援しています。

以前香港であったミートアップにCZを誘ったら来てくれたのですが、ある会話の中で「僕は真衣のことは100% 信用しているんだ。」と言ってるのを聞いて、それは本当に嬉しかったですね。

日本ってTwitterとかでは他人をめっちゃくちゃ叩くじゃないですか、特に仮想通貨界隈の人たちは。それは残念なことだと思っていて、それに便乗するのも残念なことです。

そういう風に表面的な情報や、周りのみんなが言うことだけで判断せずに、人と丁寧に接してその人を自分で判断することが大切だと思っています。自分のメリット・デメリットよりも、誠意を持って頑張っている人をサポートこれからしていきたいです。

−CZとはいつから交流があるのですか?

CZが日本オフィスを立ち上げた時も、「見に来ていいよ」ということで行きました。バイナンスの社員って、みんなCZが大好きなんですよね。何名か社員に会いましたが、大好きです!って社長の事を言えるんですよ。素敵な会社ですね。会ったらわかると思います。なんとも言えない魅力があります。ロジャーと会った時のように、CZには会った時から、バイナンスが凄いことになりそうだと予感していました。嗅覚だけはあるみたいです(笑) 。

CZに初めて会った時、本当に彼には物凄いカリスマ性があると感じたんです。私は彼のことを業界で一番かっこいいと思っています。ざわざわしているパーティ会場でも、CZの話だけはみんながしっかりと聞くのですよ。CZの言っていることはすごく本質的なのです。

世界的に日本への注目度が下がってきてしまっている

−日本の今の仮想通貨や業界って、真衣さんはどういうふうに分析していますか?

ここ最近は海外でいろいろな仮想通貨イベントなどに参加することが多いのですが、日本は仮想通貨関連の法整備を世界に先駆けて行ったにもかかわらず、それらの世界的なイベントで日本でプロダクトが全然出てきていないですね。

残念ながら仮想通貨業界で、少し前までは日本は注目を集めていたのに、今は海外の人は日本のことを正直見ていない感じましたね。

今は韓国と中国の勢いが凄くて、世界ではそちらに方が注目しています。イスラエルに行った時もいろいろな人に「日本のことを知っている?」と聞いてみたんですが、有名な3人の日本人投資家の名前しか出てこなかったです。仮想通貨関連のプロダクトではなく、投資家の名前しか知られてないのは少し残念ですよね。

どうしても今日本は、規制が厳しくなってきていて、いろいろチャレンジしにくい状況になっているのは否めません。簡単なことではないですが、世界的なプロダクトがどんどん日本発で出てきて欲しいと思ってます。最近ではまた盛り上がり感が取り戻せているようにも思いますし、規制周りでも本当に頭の良いみなさんが一生懸命に考えてくださっているので良くなっていくと信じています。

−現在の活動では何に一番フォーカスされていますか?

私が代表を務める会社「グラコネ」の事業です。

社名は繋がりを作るという意味の「グラビテーション・コネクト」の略です。文字通りこの会社を通じて、仮想通貨業界の海外企業が日本に進出や、逆に日本企業が海外進出などの「繋がり」を作るところに注力しています。

国内外で出会った新しい会社やプロダクトを精査しながら、そして私の抱えているクライアントリストと照らし合わせて、こことここがコラボしたら面白いんじゃないかと日々考えています。

−現在仮想通貨関連では本当に多くのプロジェクトがあります。中には怪しいものも多いですよね。それをどのようにフィルタリングされているんですか?

まずはそのプロジェクトにちゃんと実現性があるかとかという点、そしてそれがブロックチェーン使う意味があるのかなどを指標にフィルタリングしています。またそれに加えて私のチームとか提携しているコミュニティで、法律面やファイナンス面、さらにIT技術の深い部分も調べて、総合的に色々な評価軸で検証して手伝うプロジェクトを選んでいます。

ミスビットコインと名乗っているので、自分がすごいインフルエンサーで表に立っている人って思われがちですけど、実際やっていることって裏で丁寧に人やプロジェクトを繋ぐという、本当に地道なことが実は多いんです。

また現在はICOのトークンを日本では原則売ることはできないので、ICO後の海外プロジェクトのビジネスディベロップメントを手伝うこともあります。

そして今、私は「グラコネ」だけではできないことも増えてきたので、これから新しい会社をマルタで登記しようと思っています。シンガポールの方が条件ラクなのですが、マルタにチャレンジしてみようと思っています。またマルタは遠隔でも法人登記できますし、銀行のアカウント開くときは行かないといけないですが。でも行ってみたいですしね(笑)。

−今マルタが仮想通貨業界でよく聞きますね。みんな取引所を作る動きが多いのでしょうか?

かなり問い合わせくると聞いてます。でも取引所が盛り上がっていたのって去年までだと思うんですよね。今はこれだけ出来てしまっているので、良いものだけが残る生き残り競争になってきている気がします。DEX(分散型取引所)とか、DEXと中央集権の取引所の良いところだけを合わせた取引所の構想を考えているところもあって面白いですね。ユーザーにとって安全で使いやすいところができたら嬉しいです。

今年は、ファンドが一気に増えましたね。私もマルタに作る会社を、のちのちファンドにしていく予定です。「ミスビットコインバンド」って会社名で(笑)。バンドだけどファンド。



国境とかもない時代ですし、場所とか決めずにいろんな国を渡り歩きながら、もっとグローバルに活動していきたいと思っています。

仮想通貨業界の課題

−現状の仮想通貨業界の課題はなんだと思いますか?

グローバルでもまだまだルールが全体的にまだまだ決まってないですよね。とにかく業界の成長スピードが早かったから、未整備の部分が多いです。今はそういったルールに合わせてみんなが何度も方向転換をがんばってしている感じですよね。それは仕方ないですがみんな大変なので、まずはルール整備が課題だと思ってます。

あと個人的には、日本の仮想通貨業界について少し課題と感じることがあります。本当にここまで混沌とした状況だったので色々な事がありました。過去に評判を落とした人もこの業界には多いです。でもそういう人たちが新しい事をやろうとしたら、それを全てを頭ごなしに否定する風潮が日本では強いと感じています。

そんな彼らは次も怪しい事をするかもしれないですが、逆に真面目にやろうと思っている人たちもいます。

この業界ってまだまだ狭いので、どうしても過去に引っ張られることが多いです。誰かが勇気を持って「もういいじゃん」って言う人が出てこないといけないと思っています。世界と比較しても、本当に日本だけが過去にこだわりすぎる傾向があるように感じています。それが業界全体の成長を妨げている部分もあると思います。

過去に悪いレッテルを貼られてしまった人たちでも、本気で新しい事をしようとしているときに「もういいじゃん」と私がいいタイミングで言いたいですね。

「もういいじゃん、前向いて世界にチャレンジしていこうよ」って感じで、本気でちゃんとやり直そうとしている人々を応援できるような人でいたいです。自分がそのリスクを負うか負わないかは、自分だけでなく、アドバイザー先の企業や関係者に関わってくるので、慎重にやらなきゃいけないのですけど、それは誰かがやらないといけないことだと思ってます。

女性と仮想通貨

−女性と仮想通貨というテーマではどのような活動をしていきたいですか?

今年に入って、一気に女性向けのイベントが増えました。9月以降、韓国、シンガポール、ロシアで行われるブロックチェーンと女性にフォーカスしたイベントがあるのですが、そこでもスピーカーとして参加させてもらいます。

これからは仮想通貨業界でも女性ホットトピックスになると思います。多くの女性からどういう風にこの業界に関わったらいいですか? など質問を頂く機会も増えてきました。

私はその質問に、とりあえず自分の得意分野で関わっていけばいいんじゃないかとアドバイスしています。動画が得意だったらYoutubeで自分が学んだことをシェアするとか、イラストが得意だったらイラストで表現してもいいですし。企画書を作るのが得意なら、ブロックチェーンのコンセプトをわかりやすく書いていたら、それ使いたい人いっぱいいるよとか。

いままだプレイヤーが少ないので、彼女たちに自分の得意な分野で入っていけるよってアドバイスしています。自分の得意なこと活かして試してみてほしい。とりあえずまずはやってみたらいいと思います。でも最近はこの業界にも女性のプレイヤーが少しずつ増えてきているので、個人的にもめちゃくちゃ楽しいです。

なのでこれからもどんどんこの業界に女性を増やしていく活動をしたいと思ってます。 

 

(編集 竹田匡宏

この記事の著者・インタビューイ

藤本真衣

Intmax Co-Founder 2011年にビットコインと出会って以来、国内外でビットコイン・ブロックチェーンの普及に邁進。海外の専門家と親交が深く「MissBitcoin」と呼ばれ親しまれている。 自身は日本初の暗号通貨による寄付サイト「KIZUNA」やブロックチェーン領域に特化した就職・転職支援会社「withB」ブロックチェーン領域に特化したコンサルティング会社「グラコネ(Gracone)」などを立ち上げる。 暗号通貨とBlockchainをSDGsに活用することに最も関心があり、ブロックチェーン技術を使い多様な家族形態を実現する事を掲げたFamiee Projectや日本円にして17億円以上の仮想通貨寄付の実績を誇るBINANCE Charity Foundationの大使としても活動している。 NFT領域に関しては、2018年よりNFTに特化した大型イベントを毎年主催している他、Animoca Brands等の、国内外プロジェクトのアドバイザーも多数務める。2020年以降は、事業投資にも力を入れており、NFTを使った人気ゲーム、Axie Infinity」を開発した Sky Mavis 、Yield Guild Games、Anique等に出資している。現在はイーサリアムのLayer2プロジェクト「Intmax」のCo-Founderとして活動中。