ロシアへの制裁は有効か、暗号資産やデジタル通貨での回避の懸念も

ロシアへの制裁は有効か、暗号資産やデジタル通貨での回避の懸念も

ロシアのウクライナ侵略に対する国際社会の対応として、制裁措置が大きな話題となっている。しかし制裁とはいったい何なのか、実際にどう行われるのだろうか。そして最も重要なのは、制裁が良い影響をもたらす可能性があるかどうかだ。

そもそも制裁とは、国家間の外交、経済、文化関係に適用される強制的な手段である。一般的に非軍事的であり、一国が他国に対して行うもの(単独制裁)、国連などの国際機関が行うもの(集団制裁)などがある。

歴史的には、包括的な制裁措置から、武器、木材、ダイヤモンドなど特定の品目の貿易を禁止するような、より対象を絞った措置まで、さまざまな措置がとられてきた。

制裁の中には、外交、スポーツ、文化交流、旅行など、対象者の利益になると思われる特定の活動を制限するものもある。また政治的エリート、反乱軍、テロ組織など、平和と安全を脅かす特定の個人やグループをターゲットにした制裁もある。

そして経済制裁は多面的である。渡航禁止や金融制裁が含まれることが多い。金融制裁は、対象となる資産の凍結や、さまざまな金融市場やサービスの制限からなる。金融制裁が資産凍結である場合、指定された個人または団体が保有する凍結資金を取り扱うことは一般的に禁止されている。

資金とは、現金、小切手、為替、クレジット、負債、株式、利息、配当、その他資産からの、あるいは資産から生じる収入など、あらゆる種類の金融資産を含むものだと定義されている。

制裁の対象となる個人および団体の指定は、各国のリストアップ手続きに基づいて行われる。あるいは国際機関が制裁体制を採用し、その加盟国がそれを実施した結果、指定される場合もある。そのようなツイントラック方式は、一般に「統合リスト」を維持する国の制裁慣行に反映されている。

一方的な制裁に基づきリストアップされた個人および団体と、集団的制裁の結果としてリストアップされた個人および団体については、それぞれ別の「統合リスト」が保管されている。

制裁措置の実施に関しては、G7金融活動作業部会によるガイダンスなど、国際的なベストプラクティスが存在する。しかしその遵守は、常に個々の国や国内企業の特殊性に左右されている。

銀行などの金融機関では、受信したトランザクションを入力する前に、また送信するトランザクションを社内システムから出す前にフィルタリングする自動化された手順を導入している。いくつかの国際的な訴訟事例が示すように、上場企業や個人に対する影響は深刻なものとなる可能性がある。

ただ経済制裁の一般的な効果は、測定することが経験的に困難であるため、不確かである。メンフィス大学の制裁専門家であるドゥルスン・ペクセン(Dursun Peksen)によると、経済制裁が対象国の行動に意味のある変化をもたらすのは40%程度であるという。

しかし最近の米国政府の調査結果によれば、明確な因果関係を立証することは不可能だという。例えば、制裁を受けた国や個人は、様々な理由で行動を変えることを決断することがあるが、その変化の中には、制裁とは無関係なものもあるかもしれないという。

実際国際社会は、各国が一方的にあるいは集団で、経済的・外交的な制裁を加えている。米国と英国は、ロシアの2大銀行であるスベルバンクとVTB銀行を標的とした一方的な制裁を導入した。また、ロシアの主要なオリガルヒの資産を凍結し、渡航を制限している。カナダとオーストラリアもこれに追随している。

ドイツは、ロシアのガスを自国へ直接供給する量を2倍にするために計画されたバルト海ガスパイプライン「ノルドストリーム2」プロジェクトを断念することを示唆した。そしてポーランド、チェコ、ブルガリア、エストニアはロシアの航空会社に対して領空を閉鎖した。

集団的制裁については、国連安保理はロシアが常任理事国として拒否権を持つため、制裁を課すことができないままである。実際に、ロシアはすでにこの拒否権を行使して、ウクライナ侵攻を非難する決議を阻止している。

一方、EUは、資産凍結や渡航禁止措置を速やかに導入し、リストアップされた人物のEU領域への入国や通過を防いでいる。EUの制裁は現在、ウクライナへの侵略を支持したロシア連邦議会の議員351人を含む、ロシアの個人555人と企業52社に適用されている。

その後EUは、プーチン大統領とラブロフ外相を直接標的とすることを含む、さらなる制裁パッケージの採択に動いている。またEUは、米国と英国とともに、一部のロシアの銀行をSWIFT銀行システム(世界の銀行を結ぶ金融メッセージング基盤)から排除することに合意している。

ストラスブールにある欧州評議会も、前例のない外交制裁を適用した。ロシアに対して、閣僚委員会および議員総会における代表権を停止したのである。

これまで適用されてきた一方的・集団的制裁は包括的、かつ迅速に採用された。プーチンやラブロフを個人的にターゲットにしたものなど、前例のない措置もある。

一方で、大きなギャップが残っており、断片化のリスクもかなりある。例えばスイスは、その典型だ。スイス政府は、EUの制裁を補完することを支持する声を上げている。しかし、EUや米国などがリストアップした個人を対象にした資産凍結の適用には、今のところ二の足を踏んでいる。

また「New York Times」の分析によれば、ロシア企業がいわゆるデジタルルーブルやランサムウェアなどの暗号資産ツールを利用することで、制裁を回避するのではないかという懸念も高まっているようだ。

Credit: The Conversation via Reuters Connect
※この記事は「あたらしい経済」がロイターからライセンスを受けて編集加筆したものです。
images:Reuters

この記事の著者・インタビューイ

竹田匡宏

兵庫県西宮市出身、早稲田大学人間科学部卒業。 「あたらしい経済」の編集者・記者。