STOは証券市場の課題をどう解決するか? (フィリップ証券 代表取締役社長 永堀真氏)

シンガポール拠点のフィリップキャピタルの日本法人フィリップ証券が、米国の大手デジタル証券会社セキュリタイズ(Securitize)の日本法人セキュリタイズ・ジャパンと協業し、年内にセキュリティ・トークン・オファリング(STO/証券トークンオファリング)サービス実施する予定であることが2月25日に分かった

初号案件は不動産商品のデジタル証券化を予定しているようだ。

今回「あたらしい経済」はフィリップ証券株式会社代表取締役社長の永堀真氏に取材、STOが証券市場の課題をどう解決するのかについて語っていただいた。

STOによる証券市場の課題解決

−−STOは既存の証券市場のどのような課題を解決するものだとお考えでしょうか?

私自身が考えている「STOによる証券市場の課題解決」について以下に回答させて頂きます。

1.金融の小口化による『本当の意味』での直接金融(応援経済の実現)。

証券市場は銀行と比較して『直接金融である』と言われておりますが、企業の事業ポートフォリオの多角化や海外企業との協業等もあり、『投資家の投入資金が当該企業のどの事業に充てられるのか』が不明確であるため、結果として、間接金融に近い状態になっております。

また、証券投資は投資金額が比較的多額であり、結果として『商品を愛好する消費者』と『その商品のメイカーやプロデューサー企業に投資をする投資家』が同一人物でなく、その意識にギャップがあります。 結果として、投資家の第一であり(ほぼ)唯一の目的が『当該企業への応援』ではなく、『投資リターン』となり、国民生活にとって不可欠であったり、付加価値が高い商品を生み出す企業より、事業拡大が見込める(株価上昇が見込める)企業に資金が集中しやすい環境となっております。

さらには、『投資の発射台としての取引手数料』を安くすることが『最終的な投資リターンに直結すること』もあり、証券会社の手数料減額の圧力が強くなることで、業界自体が縮小均衡に向かう傾向にあります。

STOは(技術的には)低コストでの証券化が可能となり、結果として、小さい案件や小口投資を可能とします。 結果、プロジェクトレベルでの証券化や、個別商品・イベント等への証券化も可能となるため、『商品を愛好する消費者』が直接、そのプロジェクトに投資することができる(『本当の意味』での直接金融)ようになり、結果として『応援経済』という新しいカテゴリーができると考えております。

2. 発行体と投資家の双方向のやりとりから生まれる投資の新しい価値の創出

ブロックチェーンは(個人情報保護等、解決すべき課題はありますが)技術的には、投資家と発行体を電子的につなげることが可能となるため、当該証券の保有者が、その企業から多様なベネフィットを受け取ることが可能となります。

例えば『イベント用不動産証券保有者が(投資情報が記録された携帯をかざすことで)入れるVIP ROOM』や、『映画館証券の保有者が、今後3か月間の上映スケジュールを投票にて選ぶこと』など、あらゆる形で、投資家と発行体による双方向のコミュニケーションが可能となります。

これにより、今まで『投資は一部のお金持ちが行う余興』といったような一部の考え方が払拭され、生活への彩(いろどり)という意味で、一つの新しい価値が生まれると考えております。

3.様々な資産・権利等に流動性が生まれることによる起業家精神の醸成 (直近は少しずつ良くなってきたものの)

今でも(特に日本では)、新しいアイデアを考えついても、それをビジネスにする(起業する)ことのハードルが高く、結果として、その一歩を踏み出さずに一生を過ごす方々が多くいらっしゃると思います。 その理由の一つが、そのアイデアの付加価値を計測する手法も、そして資金供与する投資家もいなかったことに起因していると考えております。

いろいろな証券がSTO化されはじめると、関連商品やプロジェクトをバスケットで運用する機関投資家が出現することで、新しいアイデアが(ポートフォリオの一部として)投資対象となるため、結果として、起業しやすい環境が生まれると考えております。 日本という国は、独自の文化・教育環境があり、結果として、世界にはまだ出現していないアイデアが生まれやすい土壌であると考えております。

独自のアイデアをSTOを介してビジネス化する起業家が現れれば、人口減少が続き、MSCI等の世界インデックスのウェイトが減少し続けているこの日本の再興につながると確信しております。

4. 幅広い投資家層に支えられたスーパーニッチの実現による新しい文化の開花

ご存知の通り、株式市場は長期的に機関化が進んでおり、事業会社や(外人含む)機関投資家が高い保有割合となっております。 それゆえ、投資家からの資金提供を受ける際、『スーパーニッチ』層をターゲットにした商品やサービスが作りにくい環境にあります。

しかしながら、当該サービスにも多くのファンがおり、その『ファン』と『投資』をつなげるエコシステムを創出することが結果として、ニッチ事業の成功につながると考えております。(例えば、AKB48は好例だと考えております。)

重要なことは、(優等生的な商品・サービスでなく)このようなスーパーニッチから生まれた文化や商品こそが、結果として、時代を変えたり、後世に残るものになるという歴史です。 STOはニッチ経済を作り出し、日本の文化を開花させる力があると考えております。

−−具体的に、どのような権利や資産の証券化が、個人投資家からのニーズがあるとお考えでしょうか?

日常生活の一部となる投資です。考え方としては、以下3つございます。

1つ目は、衣・食・住等、日常生活に密着した投資です。

例えば、メイカーが『ある素材を入れた歯磨き粉』をSTOでプロジェクトファイナンスをして、そのユーザーや素材の愛好家が『STO投資』をして、当該資金で試作品を作成するといったようなものです。

2つ目は、エンタメ。イベント会場や芸術系の著作権、ホテル、リゾート等です。

これは双方向のコミュニケーションが重要で、証券保有者と運営側で様々なベネフィットのやりとりが可能となります。

最後が本業ヘッジです。

例えば、飲食店経営者は、その素材の価格高騰や、商店街の人通りといったような指標と自身の事業がダイレクトに相関しており、これをヘッジする手段として、(多数の証券化がなされることが前提となりますが)複数のSTO証券を組み合わせて事業との逆相関ポートフォリオを作成することが可能となります。(ちなみに、これをコンサルテーションすることは、長期的には金融業界のコンサルテーションサービスの根幹になると思っております)

また、長期的には、メタバース関連です。NFTや音楽配信など、あらゆる権利や資産を、そのまま仮想空間で利用できるようになると考えております。

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images:iStock/Dilok-Klaisataporn

この記事の著者・インタビューイ

竹田匡宏

兵庫県西宮市出身、早稲田大学人間科学部卒業。 「あたらしい経済」の編集者・記者。