【取材】LayerXらのブロックチェーン論文、「インターネットアーキテクチャ最優秀研究賞」受賞

LayerXらのブロックチェーン論文、「インターネットアーキテクチャ最優秀研究賞」受賞

LayerXの研究開発組織「LayerX Labs」と、東京工業大学の首藤研究室が共同作成した学術論文「Saving attackのブロックチェーンコンセンサスに対する影響」が、米国に本部を置く電気・情報工学分野の学術研究団体、技術標準化機関である「IEEE」の査読付きオープンアクセスジャーナル「IEEE Access」に掲載されたことが10月6日に分かった。

ちなみにこの論文は、電子情報通信学会インターネットアーキテクチャ研究会(IA研究会)において、「インターネットアーキテクチャ最優秀研究賞」を6月に受賞していた。

「インターネットアーキテクチャ最優秀研究賞」とは電子情報通信学会IA研究会において、1年間の間に同研究会にて投稿・発表された研究のうち最も評価の高かった研究に贈られる賞とのことだ。

この論文の内容は、ブロックチェーンのコンセンサスアルゴリズムに関するもの。この論文の抄録によればSaving attackとは「一時的なコンセンサス不良の間にブロックを提案する権利を保持しておき,それらを用いて新たなコンセンサスの失敗を後に起こす攻撃」と説明されている。

この研究ではイーサリアムの次期バージョンである「イーサリアム2.0」におけるコンセンサスアルゴリズムに対する攻撃や、その緩和手法の分析・評価が行われたとのことだ。

首藤研究室が開発するパブリックブロックチェーンのシミュレータ「SimBlock」とLayerX執行役員兼LayerX Labs所長の中村龍矢氏が提案し、イーサリアム2.0の仕様として採択された研究が結びつき、受賞の成果に至っていたようだ。

LayerX Labs所長の中村龍矢氏へ取材

あたらしい経済編集部はLayerX執行役員でLayerX Labsの所長の中村龍矢氏へ取材をした。

−ブロックチェーンのコンセンサスアルゴリズムの重要性について、いま一度説明いただけますか?

ブロックチェーンが「分散型」でありながら、様々な暗号資産やアプリケーションの実行の場として使えるのは、利用者が皆同じデータ(その更新の履歴)にアクセスしていることが保証されているからで、それを実現しているのが、コンセンサスアルゴリズムです。

コンセンサスアルゴリズム自体は、分散システムの研究の中で古くから行われておりますが、ブロックチェーンでの応用についてはネットワーク環境やセキュリティの仮定が独特であるので、まだまだ研究余地があります。

−イーサリアム以外のブロックチェーンに対しても、「saving attack」のような攻撃の想定のシュミレーション研究が活発に行われているのでしょうか?

攻撃自体の研究は増えていると思いますし、増えていって欲しいと思います。今回の研究のポイントは、東工大のSimBlockというネットワークシミュレーターを使って、なるべくリアルに攻撃を分析するというところでしたが、このような方法で、数学的な証明では時間がかかりすぎる攻撃や現象をシミュレーションしていくというのは今後も有効だと思います。

−この研究を通して「イーサリアム2.0」にどのようなリスクが潜んでいることが発見できましたか?

本研究でも分析した、「Saving attack」自体へのアドホックな対策は、Vitalik Buterinとも相談の上、Eth2(イーサリアム2.0)がリリースされる前の2019年にEth2の仕様に反映されています。

ただし、本研究の本質的な示唆は、かなり複雑なEth2のコンセンサスアルゴリズムが、本来満たすべきセキュリティ性質を満たすか十分検証されていないというところです。

実際に、「Saving attack」の指摘以降、Eth2に関連する攻撃手法の発見(とその対策)がいくつか発表されており、どこかのタイミングで腰を据えて本質的なプロトコルの改善が必要だと思います。

参考:LayerX
デザイン:一本寿和
images:istocks/Evgeny-Gromov

この記事の著者・インタビューイ

竹田匡宏

兵庫県西宮市出身、早稲田大学人間科学部卒業。 「あたらしい経済」の編集者・記者。

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