【取材】芥川賞作家 上田岳弘、Loot系NFT「Obsession2020」をグラコネと発行

芥川賞作家上田岳弘、Loot系NFT「Obsession2020」発行

ミスビットコインこと藤本真衣氏が代表を務める株式会社グラコネが、芥川賞作家の上田岳弘氏とコラボしたNFTプロジェクトを開始した。このプロジェクトは「Obsession2020」と名付けられており、現在NFT業界のトレンドになっている「Loot (for Adventurers) 以下:Loot」の仕組みを応用した実証実験とのことだ。なお技術協力としてNandemoToken氏も参画している。

「Loot」はショート動画メディアVineの創業者としても有名なDom Hofmann氏が今年8月に開始したプロジェクトで、これまでのデジタルアートなどと異なったそのNFTのアイデアは話題となり、ローンチから数週間で220億円以上の取引高を記録している。

「Loot」のNFTは限られた数が発行され、それぞれに武器や胸部装甲など8つのアイテムを連想させる文字列が記入されている「だけ」のものだ。なお文字列のみのデータのため、フルオンチェーンで完結したNFTでもある。

ただ文字情報だけが渡されるという、製作側が価値を決めるのではなく、コミュニティが価値を決めるというボトムアップ志向の仕組みが評価された「Loot」。

現在トークン保持者はこの文字から連想するイラストをNFTとして発行したり、NFT所持者だけが発行できる仮想の土地ができたりと、コミュニティが盛り上がりを見せている。またこの「Loot」にインスパイアされた様々な「Loot」系と呼ばれるNFTの発行も世界各国で相次いでいる。

今回この「Loot」の仕組みを応用した「Obsession2020」のNFTは、ある小説家の持つオブセッション(脅迫概念)が他者に伝わることで形成された、作品の核にある2020個のアートマテリアルとのこと。NFTに表示される文字列は、Obsession、文化、時代、印象の4つのパラメーターで構成されている。

発表によると「小説、映画、音楽、日記、tweetなどの作品の核にあるそれは、使い方も、価値も、存在理由も不明なまま、石ころのようにごろりと世界に転がっています。ただ、少なくともあなたはそれを気に入ることができます。使い方は自由です」とこのNFTについて説明されている。

なお「Obsession2020」のNFTは、現在イーサリアム上で2020個限定で無料配布されている。

トークン受け取りの申請には、イーサリアムの取引手数料であるガス代として数千円程度のイーサが必要だが、現在まだ誰にも取得されていないトークンIDのNFTを「etherscan」の特定のページ上で申請することで入手が可能だ。なお申請にはメタマスクなどのWeb3型ウォレットと、ガス代で利用するイーサを所持している必要がある。

実際「あたらしい経済」編集部も「Obsession2020」のNFTを入手してみた。入手したのはトークンID「#1234」のNFTだ。

NFTと紐づいて表示されたエメラルドグリーンSVG画像には上から「perfect product」、「Sinic」、「General singularity」、「Unhappy」の文字が並んでいた。なおこのプロジェクトの発表から約1日たった記事執筆時点では、すでに数百個のNFTが発行されているがまだ上限の2020個には達していないようだった。

(追記:9月22日18:50現在、2020のトークンは全て発行されたことが確認できました。発行されたNFTはこちらのページで確認できます)

上田氏はビットコインをモチーフにした『ニムロッド』で第160回芥川賞を受賞、その後の作品『キュー』では分散化と中央集権化する世界の衝突が描かれており、ブロックチェーンの思想を連想させるものだった。国内のクリエイターでも様々なNFTに関する取り組みが発表されているが、小説家として「Loot」の仕組みにいち早く目をつけたのは流石と言える。

「あたらしい経済」はこのプロジェクトを実施中の上田岳弘氏に連絡を取り上田氏にプロジェクトについての考えや、実施中の心境について語っていただいた。

小説家 上田岳弘は「Obsession2020」で何を感じ取ったか?

−プロジェクトがスタートしてNFTが続々と生まれています。この状況を見てどのような感想をお持ちですか?

上田岳弘氏:芸術作品の本体は物語でも旋律でも姿容でもなく、クリエイターの持つオブセッション=強迫観念であるというのが僕の直感であり実感です。

Lootという世界的な最先端のムーブメントは、その事自体を表現するのに最適なものだと感じました。

早速広がっていることはもしかしたらそのことが感覚の中で伝わっているかもしれないと思います。

偶発的な流れが起き、それが僕の作品自体にも反映されるのかなと期待してます。

−今回の「Obsession2020」の取り組みが、今後の上田さんの小説の執筆にどんな影響を与えそうでしょうか?

上田岳弘氏:今後の作品への影響はまだわかりませんが、ブロックチェーンというものが世界の捉え方、世界の中での影響力のあり方に別の重力を与えるものであることがだんだんと認知されてきたと感じます。

今回のプロジェクトでその重力場に身をおくことで、どんな変化が自分自身に起こるのか楽しみです。

参考情報

・「Obsession2020」の申請は以下より実施できます。
https://etherscan.io/address/0xb5a9619b5bfe4e12ee2f5cb8249e8856c8911e3d

詳細な申し込み方法などは公式の発表をご確認ください。

・なおすでに発行されたIDこちらから確認できます。
https://etherscan.io/token/0xb5a9619b5bfe4e12ee2f5cb8249e8856c8911e3d#inventory

※「Obsession2020」のNFTの申請について、すでに発行済みのトークンIDを申請してしまうとトークンが得られず高額なガス代だけを消費することになります。ご利用の際は注意し、メタマスクや「etherscan」のご利用に慣れていない方は、詳しい方にご相談の上、トークン発行を申請することをお勧めします。

この記事の著者・インタビューイ

設楽悠介

「あたらしい経済」編集長/幻冬舎コンテンツビジネス局局長 幻冬舎でブロックチェーン/暗号資産専門メディア「あたらしい経済」を創刊。同社コンテンツビジネス局で電子書籍事業や新規事業を担当。幻冬舎コミックスの取締役兼務。「Fukuoka Blockchain Alliance」ボードメンバー。福岡県飯塚市新産業創出産学官連携協議会委員。ポッドキャスターとして、Amazon Audible original番組「みんなのメンタールーム」や、SpotifyやAppleにてweb3専門番組「EXODUS」や「あたらしい経済ニュース、ビジネス系番組「二番経営」等を配信中。著書『畳み人という選択』(プレジデント社)。