本のゲラがNFT、山口周ベストセラー『ビジネスの未来』の裏側が限られた読者の手へ

設楽悠介

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出版社や作家はどのようにNFTを活用していけば良いのだろうか?

昨年から世界的に盛り上がりを見せているNFT(Non-Fungible Token)市場。

ブロックチェーンを活用し、代替不可能なトークン、つまり世界で一つや特定の個数のユニークなトークン発行することで、デジタルデータなどに固有の価値を表現できる技術だ。

その仕組みは今、多くのクリエイターにとっての新たな表現、そして作品の流通手段として今注目されている。

なお現在のNFTマーケットプレイスの仕様上、画像や動画などのビジュアル要素を紐づけたNFTが分かりやすい。そのため絵やイラスト、アニメーション動画といったアウトプットで作品を表現できるジャンルの感度の高いクリエイターが、日々続々と新しいNFTをミント(鋳造)し、世界中のマーケットに公開している。

一方、多くのNFT作品が連日発表されていく傍らで、なかなか世の中に少ないのが、書籍関連の作品である。

私自身ブロッックチェーンのメディアを運営する傍ら、出版社に務めるいちスタッフだ。だからこそ「書籍、特に文字コンテンツを表現の主体とする作家さんにとってNFTで新たな可能性を見いだせないか」と日々検討している。

その可能性に思いを巡らせていた今年の4月、NFTマーケットプレイス「ユニマ」の情報が飛び込んできた。そしてユニマのローンチ後にNFTとして販売されるコンテンツの中に、『ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す』という書名、そしてその著者である山口周氏の名前があった。なお当時の発表では、企画詳細については「出版社と実施に向け協議中」となっており明かされていなかった。

さて書籍でどのような取り組みをするのだろう?

そのニュースを知った私は思考を巡らせた。NFT化する作品として挙げられていた『ビジネスの未来』は、昨年末に発売されたベストセラー作品で、山口周氏が1年がかりで書き下ろした新作だ。

書籍『ビジネスの未来』が示すこと

書籍『ビジネスの未来』は、物質的不足というビジネスの使命をほぼ解消し「文明化」を果たした私たちが、これから向かうべき「高原社会」について構想する内容だ。これまでの経済成長という目標ではなく、経済成長のない来るべき高原社会にとって必要なことが書き示されている。

本書にはブロックチェーンやNFTなどの言葉は登場しなかったが、山口氏の示す高原社会の実現を目指すにあたって、自律分散的に動くブロックチェーンが一つの重要な採用されるべき技術になるのではないか、などと考えながら、私も発売後すぐにこの作品を読んでいた。

ちなみに書籍の中で高原社会における活動の一つとして、文明的価値ではなく「文化的価値の創出」が挙げられている。

そして価値創出の事例として、織田信長の茶道が紹介されている。信長は茶道を広げることで、石高、つまり土地をどれだけ持っているかという当時の武将の格を決める指標を転換した。茶器などの茶道具を山や城と交換することで、巨大な価値空間を産んだというエピソードが紹介されている。

なおそのような文化的価値がいまだに大きな経済価値を認められている事例として、2016年にクリスティーズの開いたオークションで「油滴天目茶碗」が当時価格換算で約12億円で落札されたことも紹介されている。

このエピソードを読んで私は、NFTとその価値、ついても想像を巡らせていたのを覚えている。

誠に勝手ながらではあるが、ブロックチェーンやNFTについて想像しながら読んでいた『ビジネスの未来』が、なんとNFTになるというのは驚きであり、個人的に嬉しくもあった。

『ビジネスの未来』サイン入り再校ゲラ本NFTが、ユニマで

そして7月に入り、ユニマがローンチした。あわせて『ビジネスの未来』のNFTの詳細も明かされた。その第一弾は「山口周氏サイン入り再校ゲラ本」がNFTと紐づいて発行されるとのことだ。

ゲラというのは出版業界用語であり、正確にはゲラ刷りの略、校正刷とも言われる。書籍を制作の際、このゲラというものが、作家と編集者の間で何度もやりとりされる。作家と編集者はまずゲラを作る以前から、企画を練り、原稿を作り上げていく。そしてある程度内容が固まってきた段階で印刷会社に入稿という作業を行う。そしてその入稿された原稿が、実際の販売する書籍と同じレイアウトやページ構成で刷り出されるものが「ゲラ」である。

書籍の制作過程において、そのゲラを、改めて作家、編集者、そして校正者が熟読し、そこに赤字や鉛筆で修正を書き込む作業を繰り返すことで、完成形の書籍に近づけていく作業を行う。入稿後に初めて出てきたゲラのことを、初稿ゲラという。そしてそれにさまざまな試行錯誤を反映させ再度修正、加筆を反映させたものが、今回NFT化される再校ゲラだ。

『ビジネスの未来』再校ゲラの一部

今回のNFTに紐付けられる全318P分の再校ゲラのデータは、山口氏とプレジデント社の担当編集の渡邉崇氏が訂正箇所を直接書き込みした状態のものとのこと。つまりこのゲラを見ることで、『ビジネスの未来』が、著者と編集者のどのような試行錯誤によって完成したか、そのプロセスを垣間見ることができる。

もちろんゲラ本来は、著者や出版社にとっては表に出すものではない。でも、だからこそ著者や編集者のハダカの思考が覗けるゲラは、時には完成品よりも価値が認められ、NFTと紐付ける出版コンテンツの選択肢の1つとして定着していくかもしれないと感じた。

なお今回のNFTにはサイン入り再校ゲラ本のデータの閲覧権に加え、山口周氏とのインタラクティブQ&Aイベント参加権利、そして今回のNFT発行にあたり収録された対談動画「山口周氏×編集者 渡邉崇氏が語る”ビジネスの未来”」の先行視聴権が付与されるとのことだ。ファンにとっては嬉しい特典だ。

このNFTのオークション販売期間は2021年8月26日(水)PM14:00〜9月2日(木)PM14:00で、限定3セットの販売となる。なおユニマではクレジットカートもしくは銀行振込での日本円決済に対応しているため、海外のNFTマーケットプレイスに比べて初心者の方も利用しやすいだろう。

ぜひ興味のある方は、出版コンテンツにとっての1つの「ビジネスの未来」のカタチになるかもしれない、山口周氏とプレジデント社のNFTへの取り組みをチェックしてみていただきたい。

NFT作品情報

NFT名称:山口周氏「ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す」サイン入り再校ゲラ本

販売プラットフォーム:ユニマ( https://market.uniqys.net/ 運営:ビットファクトリー)

販売数:3セット

オークション開始価格:1,870円(税込)〜

対応決済:クレジットカード・銀行振込

オークション期間:2021年8月26日(水)PM14:00〜9月2日(木)PM14:00

販売予定のNFTセット内容:
・山口周氏サイン入り「ビジネスの未来」再校ゲラデータ(全318P)閲覧権
・山口周氏とのインタラクティブQ&Aイベント参加権利
・対談動画「山口周氏×編集者 渡邉崇氏が語る”ビジネスの未来”」先行視聴権

※ゲラデータおよび対談動画はBlockBase株式会社が提供する「bazaaar books」で閲覧できます。閲覧方法など詳しくは販売ページにてご確認ください。

→詳細情報・販売ページはこちら

※なお9月には『ビジネスの未来』の編集担当渡邉崇氏コメント入り初稿ゲラ本と紐付いた第2弾NFTの発売も予定されています。

この記事の著者・インタビューイ

設楽悠介

「あたらしい経済」編集長/幻冬舎コンテンツビジネス局局長 幻冬舎でブロックチェーン/暗号資産専門メディア「あたらしい経済」を創刊。同社コンテンツビジネス局で電子書籍事業や新規事業を担当。幻冬舎コミックスの取締役兼務。「Fukuoka Blockchain Alliance」ボードメンバー。福岡県飯塚市新産業創出産学官連携協議会委員。ポッドキャスターとして、Amazon Audible original番組「みんなのメンタールーム」や、SpotifyやAppleにてweb3専門番組「EXODUS」や「あたらしい経済ニュース、ビジネス系番組「二番経営」等を配信中。著書『畳み人という選択』(プレジデント社)。