デリバティブ市場の民主化を目指す、DeFi「Vega Protocol(ベガ・プロトコル)」とは?(Barney Mannerings)

Vega Protocol (ベガ・プロトコル)とは?

Vega Protocol(ベガ・プロトコル)はDeFi(分散型金融)の中でも今注目されている、イギリス発の分散型デリバティブ取引プロトコルだ。分散化されたネットワーク上で、高速で低い手数料でデリバティブ取引を行うことができるプロジェクトで、現在テストネットがローンチされており、2021年末にはメインネットのローンチ予定だ。

Vega ProtocolはシードラウンドでPantera Capital、Arrington Capital、Cumberland DRW、日本のgumi Cryptosなど著名なVCから資金調達し、その後のラウンドで、コインベース・ベンチャーズ(Coinbase Ventures)からも出資を受けている。

このVega Protocolは戦略コンサルでトレーダー向け金融システムの開発・設計・コンサルティングに携わり、ロンドン証券取引所のシステム開発にも携わったきたBarney Mannerings(バーニー・マナリングス)と、シリアルアントレプレナーで2019年にスマートコントラクト開発企業のChanspaceをFacebookにM&Aした実績を持つ、ラムジー・コリー(Ramsey Khoury)によって設立された。

今回あたらしい経済はVega Protocolのバーニー・マナリングスにDeFiの可能性や、Vega Protocolのについて、今後の展望などについて語っていただいた。

共同創設者 バーニー・マナリングス・インタビュー

−Vega Protocolとはどんなプロトコルでしょうか?

Barney Mannerings

まずVega Protocolを語る前に、デリバティブ(金融派生商品)市場について簡単に説明させてください。

一般的にみなさんが金融取引で想像するのは、まず現物市場だと思います。現物市場は2つの資産を交換するマーケットです。例えば円を石油1バレルと交換する、円をビットコインと交換するというような市場です。現物市場は、その資産が実際に取引されるため、資産が実際移転していきます。

一方デリバティブ市場とは現物市場と違い、実際に何かを動かして取引しません。その代わりお金を動かすための合意や契約を行い、それを取引する市場です。実際に動かさないので、通常取引ができないモノが取引できるのが利点です。例えば雨なども取引できます。雨が一定量降らなかったら、〇〇〇円貰えるみたいな契約をするのです。

具体的に天候デリバティブという商品があります。例えば農家は一定量雨が降らないと作物が育たず、十分な収益が得られません。でも天候デリバティブを利用することで、雨が十分に降らなかった時のリスクを、ヘッジできるようになります。

このようにリスクヘッジにデリバティブは有用であり、複雑な債券、バスケット資産などを自由に生成することができます。世界のほとんどのものを取引することができるので、金融システムの中で非常に大きな役割を果たしています。

そして私たちはそのデリバティブを、分散型で取り扱う扱うプロトコルです。

従来の金融機関で行われているような資本効率の高いデリバティブ取引を様々なブロックチェーン上に提供するサービスです。Vega ProtocolはこれからのDeFi市場にとってエコシステムを生成する重要な役割を果たすプロトコルだと考えています。

トレーダーファーストなプロトコルを目指して

−Vega Protocolの特徴はなんですか?

まずVega Protocolは独自のPoS(プルーフ・オブ・ステーク)ネットワークを持っています。そしてブロック生成タイムが1秒、と非常に高速です。デリバティブに特化して設計することでそれが実現しています。

現在はイーサリアムに接続していますが、先々テラ(Terra)に接続しますし、今後も様々なプラットフォームと接続するマルチチェーンになる予定です。

一般的なDeFiのDEX(分散型取引所)では、注文を出したり、削除したりする度に手数料を支払わなければなりません。私たちはユーザーにとって不必要な手数料を発生させないためにVega Protocolを開発しました。Vega Protocolでは注文を出すための手数料はかかりません。自分の注文が取引された時だけ手数料が発生します。現状のDEXのプロトコルより効率的です。

またVega Protocolのもうひとつの革新的な点はリクイディティ・プロトコル(流動性プロトコル)です。流動性にインセンティブを与え、その価値を高める方法は、例えると会社の株式を購入するようなものです。市場に流動性を供給するということは、その市場を買ってシェアを所有することになります。

そして市場が成長すれば、自分のシェアも価値を増すことができます。このように、市場を創造したり、新しい市場に早い段階で流動性を提供したりすることには、非常に強い動機付けがあります。

さらに資本効率。DeFiプロトコルの中にはリクイデーション・オークションの仕組みがあります。Vega Protocolではポジションが清算されるべきポイントに達した瞬間に、プロトコルが自動的に清算してくれるようにしています。そのため余計なリスクはありません。つまり、資本効率を大幅に向上させることができるのです。

私たちはVega Protocolを常にトレーダーのエクスペリエンスを向上させることだけに注力して開発しています。

−従来の金融でのデリバティブ市場の課題を、Vega Protocolはどう解決しますか?

従来の金融市場では中間に大きな機関があります。例えば既存金融の世界においてデリバティブで新しい市場を作ろうとした場合、何百万ドルもの資金と何年にもわたる規制当局からの承認が必要になります。つまりそれらに対応できる大企業でないと容易にアクセスできないわけです。

また既存のデリバティブ市場はイノベーションのスピードが非常に遅いです。新しい資産クラスが生まれたとしても、例えば先物が扱われるようになるには時間がかかります。米国CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)でビットコインの先物を扱うようになるまでにどれだけの時間がかかったかを考えると明らかです。

現在世界で何百、何千もの暗号資産が存在していますが、従来の金融市場に先物がある資産はほとんどありません。そしてこれは暗号資産に限ったことではなく、他にも当てはまります。例えばバイオやナノ技術で新たな素材が生まれても、それらを取引できるマーケットは10年かかっても作られませんでした。

一方Vega Protocolでは、誰もがデリバティブ市場を作ることができます。スタートアップ規模の会社でも、小さな金融市場を作ることができるのです。そしてその業界の成長と合わせて、そのデリバティブ市場も大きくしてくことができます。

これは全く新しく、オープンで、より速いイノベーションを促進できる仕組みです。私たちのテストネットを利用してもらえれば、数時間と少しの資金で新たな市場が生まれていることが分かると思います。

そしてVega Protocolはグローバルなブロックチェーン上で動作するため、グローバルな流動性の問題も解決できます。ローカルな産業をグローバルなデリバティブ市場に開放することができるのです。

DeFiにて公平性の課題として存在するMEV

−現在DeFiの課題の1つであるMEV(miner-extractable value:マイナーが抜き取れる利益)についてはどうお考えですか?

ビットコインやイーサリアムのブロックチェーンのマイナーは、ブロックに追加する取引を、その順番も選ぶことができます。だから現在は取引手数料の高い取引ほど、早く取引が承認される仕組みで、MEVの課題が発生しています。

それは従来の金融取引におけるフロントランニングの問題とも近いかもしれません。つまりネットワークの中で、エンドユーザーとマイナーが不公平な状態が発生してしまっているわけです。DeFiを利用して、取引をしたいと思っている人の利用料が高くなる状況を産んでしまっています。これは解決しなければいけない重要な課題です。

Vega ProtocolではMEVのような不公平な状態への対応策として「Wendy」というシステムが搭載されています。これはブロックチェーン研究の第一人者であるKlaus Kasai氏が設計した、公平性を保つためのプロトコルです。

「Wendy」はノードが不正行為を行えないようなプロトコルを提供することで、恣意的にマイナーなどがトランザクション(取引)を並べ替えることができないようにしています。これを活用することでVega ProtocolではMEVの課題にも対処しています。

より公平で公正な世界を

−これからの金融市場に重要なことはなんだと考えていますか?

私は公平性と平等性が重要だと考えています。

まず公平性。金融取引において一定のコストがかかる場合、投資家が取引前にまったく同じ情報を持つべき状態が必要だと思っています。一部の投資家だけが多くの情報を持ち、良い結果を得られるべきではない。DeFi市場でも、この公平性は非常に重要です。

そしてユーザーのアクセスと可用性に関する平等性が重要です。今の世界では、規制によってライセンスがなく、実現できないことがたくさんあります。もちろん規制は消費者を保護したいという善意から作られています。

しかし規制は、実際には一部の特権的なエリート層が、他の人が得られないような収益を得ることのできる空間生む方向に働くこともある。これは一種の不平等です。

私たちの生活は金融に支えられています、誰もが関わる部分です。だからこそより公平であり平等な市場になっていかなければいけないのです。

-DeFi市場はどのように拡大していくべきだと考えますか? そしてVega Protocolはどんな世界を実現したいですか?

現在の暗号資産市場では投資家は、暗号資産を購入し、さらに他の暗号資産プロジェクトに投資をし、それらの投資から利益を得ているのが一般的でしょう。

つまり金融支援のようなことが起こっています。しかしその支援はすべて内向きで、ほとんどが暗号資産市場の中です。

これからDeFiや暗号資産市場をもっと大きくするためには、もっと現実世界で利用できるものにしなければならないと考えています。

例えば日本からアメリカに輸出する場合のドル建て価格にリスクをDeFiのデリバティブでヘッジする、ビジネスパーソンが給料をステーブルコインでもらって、一部をDeFiに投資してリターンを得る、というようなことが普通にできるようになれなければいけない。

そういったことが進めばインターネットの普及が、新聞などメディアの情報の独占をディスラプトしたように、DeFiは既存の銀行や証券会社の独占を崩していけるでしょう。

そうなれば、今よりも人々がより良く、効率的で、多くの選択肢が持てる、あたらしい金融の世界が始まります。ビジネスをはじめるときブロックチェーン上でローンを組んだり、株式を発行したりすることになるかもしれません。そのような世界は私たちに多くの利点をもたらすと考えています。

そしてVega Protocolはブロックチェーン上で、暗号資産の世界だけでなく、現実の金融取引を可能にする、より優れたレイヤー、より優れたインフラを作ることで、そんな世界の実現に寄与していきたいと考えています。

私は現在多くの人々が暗号資産で一攫千金を得ようとすることに興奮しすぎているのではないかと、いつも心配しています。私たちが実現したいのは、より公平で公正な世界です。

Vega Protocolは、誰もが金融サービスにアクセスし、利用できる場所を作り、そこで誰もがビジネスを興し、お金を所有して持ち出し、富を築くことができるような世界の実現を目指して、頑張っていきたいと思っています。

関連リンク

→「Vega Protocol」公式サイト

 

取材/編集:竹田匡宏(あたらしい経済)

この記事の著者・インタビューイ

あたらしい経済 編集部

「あたらしい経済」 はブロックチェーン、暗号通貨などweb3特化した、幻冬舎が運営する2018年創刊のメディアです。出版社だからこその取材力と編集クオリティで、ニュースやインタビュー・コラムなどのテキスト記事に加え、ポッドキャストやYouTube、イベント、書籍出版など様々な情報発信をしています。また企業向けにWeb3に関するコンサルティングや、社内研修、コンテンツ制作サポートなども提供。さらに企業向けコミュニティ「Web3 Business Hub」の運営(Kudasaiと共同運営)しています。 これから「あたらしい経済」時代を迎える すべての個人 に、新時代をサバイバルするための武器を提供する、全くあたらしいWEBメディア・プロジェクトです。