Web3時代のブラウザにあたるものを発明する〜Aerial Partners 代表取締役 沼澤健人氏インタビュー(1)

特集 Web3時代の資産管理のカタチ

沼澤健人

Web3時代のブラウザとは

−今まで仮想通貨投資家向けの会計サービスを展開してきたエアリアルパートナーズさんですが、今年2月の資金調達を機に「Web3.0*時代の新しい情報管理インフラをつくる」というメッセージを掲げられましたね

*Web3.0(Web3)とは
静的なWebサイト中心だったインターネット初期のWeb1.0、SNS等の登場でインタラクティブなコミュニケーションが可能になりGAFAなどの巨人プラットフォーマーを生んだ現在のWeb2.0。それに対しWeb3.0とはブロックチェーン等の新技術によりプラットフォームやアプリケーションが分散化し、ユーザーがデータを管理するようになる次世代のインターネットを指す。

実は創業の時からチーム内では目標として掲げていたのですが、今年改めて「Web3.0時代の新しい情報管理インフラをつくる」つまり「Web3時代のブラウザにあたるものを発明する」という目標を強く打ち出しました。

現在に至るいわゆるWeb2までのインターネットでは、根幹技術として高速インターネットがあり、インタラクティブなコミュニケーションが可能になりました。そして、ここまでのインターネット史における最大の発明は、インターネット上の大量の情報の中で、ITリテラシーが低い人でも自分が欲しい情報にアクセスできるようにした、モザイクから発展していったWebブラウザだと思っています。

そういった意味合いでいうと、これから訪れるであろう分散化したWeb3時代においてのブラウザのような役目をする、つまり一般の人でも容易にWeb3の世界にアクセスできるインフラを私たちは作っていきたいと思っています。

現在、GAFAを中心とした大手プラットフォーマーがサービス利用の対価としてユーザーの情報を集めることによって多額のキャッシュを生み出しています。しかしその情報はもともとは僕たちの手の中に元々あったものです。このような現在の状況が本当に良い状況なのか、まさにWeb2の世界に関して課題が持ち上がってきています。

大手プラットフォーマーが持っている僕たちの情報を、自分たちの元に取り戻して新たな、そして現在よりも健全な経済圏を誕生させることはできないだろうか。

中央集権的なプラットフォームの支配から、分散化されたインターネットの世界にすること、それが現在のブロックチェーンを支える人たちが目標に掲げるWeb3の世界観です。

Web3時代の大きな課題

ただし、もし近い将来それが実現しWeb3の時代になったとして、その時に大きな課題がでてきます。プラットフォームが分散化された時、私たちの手の中に戻ってきた自分の情報はそれぞれ安全に私たち自身が管理しなければならないという課題です。

例えばそういった分散化した世界になれば、あるサービスのパスワードを忘れたからといって問い合わせても、当然中央で誰もそれを管理してくれておらずに結局そのサービスを使えないというようなことが起こる可能性があります。

では自分で情報を管理しなければいけない時代になったとき、多くの一般ユーザーはブロックチェーン上に散らばった情報に、例えば自分でノードをたててアクセスして管理するなんてことをできるでしょうか? それは現実的ではないですよね。

現在も仮想通貨(暗号資産)取引をしている方などは自身の秘密鍵を自分で管理していたりすることはあると思います。それだけでも結構億劫だと思いますが、今後Web3が加速していくと、そういった自分の大切な情報の管理はもっともっと複雑になっていきます。

SNSサービスやクラウドストレージサービス、通信、不動産、金融と、さまざまな分野でWeb3が加速していけば、それだけいろいろなジャンルの情報を自分で管理しなければいけなくなります。

私たちは現在、仮想通貨取引における複雑な税金に関する計算や申告をする方々のお手伝いをするサービスを展開しています。それはまずはWeb3へのタッチポイントである仮想通貨をより多くの人の使ってもらいやすくすることをサポートする仕事です。

ただこれからWeb3の世界が広がれば、そのように個人で情報を管理するお手伝いをするシーンがどんどんと生まれてくると思っています。それを僕たちはサポートしたい。

だから僕たちはWeb3の世界の広がりに合わせて、自分たちの役割を再定義し続けていきたいと思っています。

Web2とWeb3は共存していく

−沼澤さんはどのように世界がWeb3に移行していくと考えていますか?

私はWeb2とWeb3というものは共存するという考えが大前提としてあり、決してWeb3は排他的なものではないと考えています。その上で世界がWeb3へと加速していくとすればWeb2とWeb3がだんだん重なって共存していく世界をイメージしています。

Web3の世界が広がっても、それは今までのWeb2のプラットフォームがすべて分散化してフラットになるというのではなく、必要なところだけフラットになり、そして必要なところにはWeb2が残ると考えています。

そしてこの2つの世界が、一番初めに重なり合う部分が金融だと思っています。いわゆるDeFiと言われている領域ですね。世の中を見ていても今の金融の色々な機能が、Web3に置き換えられる、もしくは上書き保存されようとしています。

そしてこの金融の分野、つまりフィアット(法定紙幣)とクリプトのゲートウェイが整備されないと、金融領域以外への拡大のボトルネックになってしまうとも言えます。その後、どの領域がWeb3に置き換わっていくのかはまだ予想できません。それはブロックチェーンゲームなのかもしれないし、ストレージのシェアなのかもしれない。もしくは通信のシェアやSNSなのかもしれません。

いずれにしても金融の領域が初めの変革点となって、そこからどんどんと必要とされる領域にもWeb3の概念が拡大していく、そして必要に応じて既存の仕組みと棲み分けていくと考えています。

−現在のWeb2のプラットフォーマーがWeb3に舵を切っていくということも起こりえるのでしょうか?

そうですね、現在の大手プラットフォーマーがWeb3に軸足移していくことは可能性としては十分にあると思います。

歴史を振り返ると20年30年スパンで時価総額ランキングのトップにいた企業はほぼ総替わりしています。これはやはりイノベーションのジレンマがあると思っていて、Web2のプラットフォーマーは現状のビジネスモデルを自ら再構築するのは難しいはずです。

ただそんな中でもFacebookが先日発表した「Libra」は、(Facebookの事業というよりは運用段階でコンソーシアムで管理していくという方針なので、)厳密には違うかもしれませんが、Web2のプレイヤーたちのWeb3に向けての一種のアクションと捉えることもできると思います。

 (第2回へつづく

→続きの記事はこちら「仮想通貨(暗号資産)やその秘密鍵をどう相続するか?〜Aerial Partners 代表取締役 沼澤健人氏インタビュー(2)」

 

編集:設楽悠介(あたらしい経済)/大津賀新也(あたらしい経済)
撮影:大津賀新也(あたらしい経済)

この記事の著者・インタビューイ

沼澤健人

株式会社Aerial Partners 代表取締役 仮想通貨取引計算サポートと税理士紹介を行う『Guardian』、仮想通貨取引計算ツールである『G-tax』を提供。Twitterの仮想通貨アカウント「二匹目のヒヨコ(@2nd_chick)」中の人としてブロックチェーン業界の会計・税務領域を中心に啓蒙活動を行っている。会計コンサルティングファームであるAtlas Accounting代表として、仮想通貨交換業者やブロックチェーンプロジェクトの顧問を務めており、一般社団法人日本仮想通貨税務協会理事も兼任。

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具体的には個人の利用者がDappsゲームの利益やDEXでの取引を管理する仕組みなどを構築しています。また、事業者向けにはイーサリアム上で構築されるDapps提供者を対象にオンチェーンのトランザクションを管理・損益計算して、会計上の仕訳データを自動排出する仕組みの提供もスタートしています。

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仮想通貨取引に関する会計・税務支援事業です。仮想通貨の税務に関しては法整備がまだまだ追いついておらず、さらに複雑な税務計算が必要となります。それをサポートするために仮想通貨の税金計算を簡単に誰でも無料でできるサービス「Gtax(ジータックス)」、そしてそういった税金計算や申告を全部丸投げしたいというニーズにお答えする、仮想通貨に精通した税理士の紹介サービス「Guardian(ガーディアン)」を展開しています。