Web3.0時代の工学、トークンエンジニアリングとは何か?

特集 トークンエンジニアリングという武器

赤澤直樹

Web3.0ネイティブな工学とは?

Web3.0(Web3)という言葉をご存知でしょうか。現在私たちの使っていインターネットをWeb2.0と定義した上での、その次のインターネットを意味します。

つまりWeb3.0とはブロックチェーン/分散台帳技術によって実現した新しいインターネットやウェブのあり方や、それに伴う社会の変化を表現している言葉です。

そして、そんなWeb3.0に対応したシステムを作り広げていくためには、それ相応の工学(エンジニアリング)が必要となってきます。

その一つがトークンエンジニアリング(Token Engineering)なのです。

Web3.0はコラボレーションの革新

Web3.0は一言で表現するならば、「コラボレーションの革新」。従来通りのインターネットを介しての情報交換だけでなく、価値交換までできるようになったことで、人々のコラボレーションに大きな力を与えることができるようになりました。

その証拠に、DAO(Decentralized Autonomous Organization: 自律分散組織)と呼ばれる新手の組織のあり方も登場しています。そしてDAOとまではいえなくても様々な組織が水平的な連携を行う事例は、日本国内外で金融業や製造業など多くの領域でみることができるようになりました。

Web3.0ならではの難しさ

コラボレーションの革新と言えるWeb3.0ですが、それ故に高度な複雑さが伴います。

例えば、どのように個人の利益と集団の利益をインセンティブを使って結びつけるのか。そして分散化をどのように進めていくのか、長期的な持続可能性をどのように達成すべきか。またスケーラビリティを技術的にどう実現するか。これらは一筋縄で答えの出るものではありません。

そしてWeb3.0のプログラムには一度公開(デプロイ)してしまうと簡単にやり直せないという難点もあります。この辺りの性質は組み込みシステムの開発とよく似ています。

トークンエンジニアリングの意義の一つは、このようなハードルをクリアしながら然るべき成功を目指すことです。

トークンエンジニアリングの概観

トークンエンジニアリングは、2017年から2018年ごろから体系化が進んでいる分野です。まだまだ新しい領域ですが、しかし現在のDeFi(分散型金融)やNFT(非代替性トークン)のブームを経て、さまざまな知見やユースケースの蓄積が進んでいる活発な領域でもあります。

多くの分野にまたがる異分野融合領域

Web3.0に適応した仕組みづくりには高度な複雑さが伴うという点は前述の通りです。そして、その領域に対してある種の体系を提供しようとするトークンエンジニアリングは必然的に複雑さをはらみます。

コンピュータサイエンスや機械学習といった技術的な領域はもちろんのこと、人々の行動を考える心理学や認知科学、コラボレーションを調整するための経済学やゲーム理論、レギュレーションについて考える法学、構築する仕組みに裏付けを与える社会学や哲学など、多種多様な領域の交差点にトークンエンジニアリングがあるのです。

トークンエンジニアリングの主要ドメイン

トークンエンジニアリングでは、以下のような4つの主要ドメインに分割して考えることがよくあります。

テクニカル・エンジニアリング(Technical Engineering)
リーガル・エンジニアリング(Legal Engineering)
エコノミック・エンジニアリング(Economic Engineering)
エシカル・エンジニアリング(Ethical Engineering)

これまで、Web3.0に対応したプロトコルやサービスを開発している世界中の人々は、暗黙のうちにこれらを考慮して開発をしてきました。

トークンエンジニアリングではこのようなボトムアップな知見とトップダウンの理論を、工学として「体系化」し「再現性」を持たせることで広く普及させることに重きを置いています。

トークンエンジニアリングを武器にする

トークンエンジニアリングは、Web3.0ネイティブなシステムを作ったり、Web2.0のサービスをWeb3.0に対応させたりする場合に強力なフレームワークを提供してくれます。

そのため、Web3.0ネイティブなシステムやプロトコルを一からデザインし開発したい方や、プロダクト/プロトコルの仕組みや可能性を自分で分析したい方にとって相当強力な武器となるでしょう。

ブロックチェーンが誕生してから、様々なプロジェクトが生まれたり消えていったりを繰り返しています。そんな中で成功例や失敗例の蓄積も増えており、朧げながらも「うまくやる」方法が少しずつ見えてくるようになってきました。

Web3.0の環境で成功するためには、Web3.0ならではの独特な方法論やフレームワークが必要となってきます。まさに今、その体系化が始まっているのです。

トークンエンジニアリングの連載、始まります!

私は、もともと機械学習を軸にするエンジニアとして活動し、その後ブロックチェーンを使ったアプリケーションの設計・開発を行ってきました。必要とあらばフロントエンドからバックエンドまで手がけてきましたが、自分の根幹には常に「DAOには大きな可能性がある」という確信がありました。

そんな中で、「DAOの工学」ともいえるトークンエンジニアリングに出会い、2018年頃から少しずつ欧州を中心とするトークンエンジニアリングのコミュニティ内で活動してきました。その中で、さまざまな取り組みを行ってきました。

トークンエンジニアリングコミュニティでも中核を担っているShermin Voshmgir氏が出版したWeb3.0の入門書である『Token Economy: How the Web3 reinvents the Internet』の日本語翻訳のプロジェクトを展開し、現在も進めています。

→『Token Economy: How the Web3 reinvents the Internet』の日本語翻訳プロジェクト

また、トークンエンジニアリングコミュニティが中心に開発している「cadCAD」というシミュレーションツールの開発と普及にもコミットしており、実際に開発のフィードバックやアウトリーチに取り組んでいます。

加えて、私がCo-Founder兼CTOを努めているFracton Venturesとして、「Decrypt」という世界的なブロックチェーンメディアにDAOをテーマに取り上げてもらったことがあります。DAOについて、トークンエンジニアリングを交えつつ紹介さえていただきました。

→’We Can DAO It’: How a New Wave of CypherPunks Is Disrupting Venture Capital(Decrypt)

今回の連載では、トークンエンジニアリングをテーマに、世界中でどのような議論がされているのか、Web3.0に対応したプロダクト/プロトコルをデザインしたり分析したりする具体的な方法などを紹介しています。

これまで私が見聞きし経験した内容も織り交ぜながら、あたらしい経済を拓くための新たなエンジニアリングの魅力と可能性をお届けしていきたいと思います。

About “Fracton Ventures”

Fracton VenturesはWeb3.0の未来を支援者ではなく貢献者として共創していく専門家集団です。 Web3.0社会の実現に向けてグローバルエコシステムの一助を担うべく活動を行うと共に、 サステナブルかつオープンなプロトコルを育てる為のアドバイスを行っていきます。

→Fracton Ventures株式会社

 

(images/iStock:eugenesergeev)

この記事の著者・インタビューイ

赤澤直樹

Fracton Ventures株式会社 Co-Founder&CTO 2016年からフリーランスエンジニアとして活動を開始。機械学習やブロックチェーンを利用したアプリケーションの企画設計開発を行う。2019年からはブロックチェーン人材を育成する株式会社FLOCで講師やカリキュラム開発を行う。 2018年から国外のコミュニティを中心に、トークンエンジニアリングの発展・普及にコミットしている。2021年1月末にはFracton Ventures株式会社を共同創業。同社でWeb3.0社会、DAOの普及・到来に向けて啓蒙を含めた活動を行う。