ビットコインは最終的にインフレし、取引手数料がマイナーのインセンティブに

特集 サトシ・ナカモトが残した言葉〜ビットコインの歴史をたどる旅

小宮自由

ビットコインは最終的にインフレし、取引手数料がマイナーのインセンティブに

ビットコインを発明し、未だその正体が分かっていないサトシ・ナカモト。そんなサトシが残した約2年間の文章を、小宮自由氏の解説と共に紹介する連載「サトシ・ナカモトが残した言葉〜ビットコインの歴史をたどる旅」の第9回。

まずサトシのメールの前に、本連載の元になっている書籍『ビットコイン バイブル:サトシナカモトとは何者か?』の著者フィル・シャンパーニュ氏の解説も掲載する。

フィル・シャンパーニュ氏の解説

この投稿では、通貨発行益(seigniorage)の対義語として、ビットコインネットワークの維持に貢献した採掘者への報酬である取引手数料の利用法を論じている。通貨発行益は追加の通貨単位の創出を表す経済用語である。

2100万ビットコインを上限とする全てのビットコインの採掘が終わると、ビットコインシステムの維持に向けられる採掘者のインセンティブは、ビットコイン維持の過程で集まる取引手数料のみになる。とはいえ、そうなる前に、ビットコインインフレ(ビットコインの通貨膨張)の年率は最後にはとても低くなり、全ビットコインの採掘終了後と同じぐらいになるはずである。

サトシ・ナカモト 2008年11月10日 月曜日 11時09分26秒

それでは2008年11月10日 11時09分26秒のサトシのメールをみていこう。

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Re:ビットコイン ピア・ツー・ピア 電子キャッシュ 論文
サトシ・ナカモト 2008年11月10日 月曜日 11時09分26秒 -0800

さらに言うと、これは機能しません *1。なぜかというと、ご提案のシステムでは、誰がどのコインの所有者かの追跡作業(マイニング)の報酬は通貨発行益ですが、これにはインフレ(物価上昇)を伴います。

インフレ(物価上昇)が問題なら、その代わりに取引手数料で簡単に微調整できます。例えばこんな感じにすると簡単です。つまり、取引の出力金額を入力金額より1セント安くします。

クライアントソフトウェアが送金額に1セントを自動的に加えるか、受取人側から出すことになるでしょう。ノードがブロックのプルーフ・オブ・ワークを発見したときのインセンティブ価格は、ブロック内の取引手数料の総額です *2

サトシ・ナカモト

暗号学メーリングリスト

【訳注】
*1 これより前の文章は原文にも書かれていないので、直前に何の話をしていたかは不明。
*2 実際にはこれに加えて、マイニング固有の報酬(参考リンク参照)が付与される。

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解説

ビットコインの取引手数料についてのサトシの説明です。前述の訳注で述べた通り、取引手数料に加えマイニング報酬もブロック生成者(マイナー)の報酬となります。

マイニング報酬は段階的に減っていき、2100万ビットコインが発行された時点でゼロとなります。法定通貨はしばしば為政者や中央銀行総裁の気まぐれにより大量に発行され、インフレによりその価値が毀損されます。ビットコインでは段階的に新規発行量(取引手数料以外のマイニング報酬)を減らすことにより、インフレを防いでいるのです。

なお、この説明は2022年3月現在では理解しにくいかもしれません。実際にはビットコインは、暴落と急騰を繰り返しながらもその価値は遥かに上昇しています。これはインフレ率がマイナス、つまりデフレを意味します。少なくとも現在までの市場は、中長期的にはビットコインが全くインフレしていないことを示しています。

「ビットコインが最終的には低い年率のインフレになる」というサトシの言説が果たして正しいかどうかは、未だ謎です。

小宮自由

→この連載の他の記事を読む

参考リンク

→マイニング報酬
→半減期 

(image:iStock/Andy

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小宮自由

東京工業大学でコンピュータサイエンスを学び、東京大学ロースクールで法律を学ぶ。幾つかの職を経た後に渡欧し、オランダのIT企業でエンジニアとして従事する。その後東京に戻り、リクルートホールディングスでAI(自然言語処理)のソフトウェア作成業務に携わり、シリコンバレーと東京を行き来しながら働く。この時共著者として提出した論文『A Lightweight Front-end Tool for Interactive Entity Population』と『Koko: a system for scalable semantic querying of text』はそれぞれICML(International Conference on Machine Learning)とACM(Association for Computing Machinery)という世界トップの国際会議会議に採択される。その後、ブロックチェーン業界に参入。数年間ブロックチェーンに関する知見を深める。現在は BlendAI という企業の代表としてAIキャラクター「デルタもん」を発表するなど、AIに関係した事業を行っている。 https://blendai.jp/ https://twitter.com/blendaijp https://twitter.com/BorderlessJpn https://twitter.com/BorderlessDAO

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