ビットコインは政治に潰されるのか?
ビットコインを発明し、未だその正体が分かっていないサトシ・ナカモト。そんなサトシが残した約2年間の文章を、小宮自由氏の解説と共に紹介する連載「サトシ・ナカモトが残した言葉〜ビットコインの歴史をたどる旅」の第4回。
サトシ・ナカモト 2008年11月07日 金曜日 09時30分36秒 -0800
それでは2008年11月7日9時30分36秒のサトシのメールを見てみよう。
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Re:ビットコイン ピア・ツー・ピア 電子キャッシュ 論文
サトシ・ナカモト 2008年11月07日 金曜日 09時30分36秒 -0800
*1 [システムの脆弱性が暴力的な独占に長くさらされる点が無視されています]
暗号学では政治的な問題の解決はできないでしょう。
しかし、軍備拡大競争の主要な戦いに勝利し、新たな自由な領域を数年の間獲得することはできます。
政府は Napster のような中央制御型のネットワークの首謀者の首を切ることには長けていますが、Gnutella や Tor のような純粋なピア・ツー・ピア・ネットワークの「首謀者」*2 の首はまだそのままのようです。
サトシ
暗号学メーリングリスト
【訳注】
*1 この記述は他者の発言の引用と考えられる。
*2ピア・ツー・ピアネットワークには中心となる管理者(原文:the heads ここでは文脈に合わせて「首謀者」と訳している)は存在しない(が、敢えてサトシはそう表現した)。これを強調する為に、鉤括弧を訳者が付けた。
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解説
中央の管理者がシステム制御の権限を持っているシステムは、管理者を支配下においてしまえばシステムを乗っ取ることができます。しかし、適切に権限を分散したシステムを乗っ取るのは非常に困難です。これはよくブロックチェーンを始めとしたピア・ツー・ピア・システムの長所として挙げられます。
政府がインターネットを検閲し、全てのアクセスとID(日本ではマイナンバーカード)を紐付ければピア・ツー・ピア・システムを潰すことは理論的に可能でしょう。本文中で自由な領域が獲得できるのは「数年の間」とサトシが述べているのは、政治情勢が変わればビットコインも潰されかねない、とサトシが考えていたからなのかもしれません。
しかし、現実にはビットコインが2021年12月現在まで潰されず、ネットワークはますます拡大しています。多くの国(とりわけ先進国)では人権の観点から大規模検閲自体が政治的に不可能です。そして、1カ国でも検閲されていない国があれば、ユーザは検閲されていない国のIPを用いてアクセスをして迂回するでしょう(中国人がVPNを使って Twitter にアクセスするように)。
潰すより暗号資産取引所を作らせて管理した方がメリットが大きいと考える国が増えたからか、今日では多くの国がビットコインを公認、もしくは容認していると考えられます。サトシは「暗号学では政治的な問題の解決はできない」と述べていますが、ビットコインが今日まで潰されなかったのは、政治も大きく影響しているのです。
小宮自由
参考リンク
images:iStock/Photoplotnikov・bee32