スタンダードになるプロトコルの必要性
藤本:STO領域でSecruritizeのDS-ProtocolはST-20やR-tokenでも企業に投資できる仕組みにしているのは何故だとおもいますか? 1つの規格だけで、投資した方が問題なども起きにくく良い気がします。
大野:今ブロックチェーン業界として、どういうプロトコルに集約していくべきかをみんなが考えている状況です。既にpolymathが主導しているEIP 1400など幾つかの規格があります。ただ流動性が投資家にとって一つの重要な価値なので、スタンダードになるプロトコルが必要だと思います。
もちろん投資家が取引できなくても、投資して何年か後に何%でも返ってくればいいというのも一つの価値です。しかし投資家としては他の機会が出てきたときに誰かにトークンを売って、また新しいものに投資できるといったような、何かにお金を使える自由があるかどうかの違いはすごく大きいと思っています。そのように流動性という切り口において、投資家のニーズを満たすプロトコル発想は非常に重要だと思います。
そうなるためにはプロトコルレイヤーにおいて共通のスタンダードがあって、あるところで発行されたトークンが他のある取引所で取引できるっていうような広いエコシステムがあった方が、やはり投資家に対するメリットは大きいです。
発行側はそういう独占したいという考え方もあるかもしれませんが、自分たちが孤立していても投資家にとって流動性がないと思います。
現在はまだそのような流動性がまだないので、だからそこをSecuritizeのように、ある意味みんなで協力してエコシステムを作っていかなきゃいけないフェイズだと思います。
KYC(Know Your Customer )情報は共有されていくべきか?
藤本:SecuritizeのようにSTO領域で、様々なトークンを投資できるプロジェクトであれば、他社のホワイトリストを把握できてしまうと思いますが、その辺りは問題ないのでしょうか?
大野:投資家のKYC(Know Your Customer )の確認をするプレイヤーとしては、一つはそのトークンを発行する企業自体もそうですし、あとこれからそれを一次販売するプラットフォームも同じ状況になります。そして日本の仮想通貨交換業者も同じように規制に従ってKYCの確認をしています。
だからサプライチェーンとしては、トークンを発行する企業とそれをサポートするプラットフォーム、そしてそれを最初に売るプライマリーとセカンダリーみたいな、色んなプレイヤーがいていろんなところで本人確認(KYC)は行われることになると思います。
そのような状況を踏まえて、KYCを共有するってことは2つの意味合いがあると思っています。
1つは本当に個人情報として共有するのか。それは個人情報の保護みたいなこともあるので、きちんとした枠組みを持ってやらなきゃいけないと思います。
2つ目は、その投資家はマネーロンダリングに関わっていないかといったAML(アンチマネーロンダリング)の視点での投資家の判断です。
そうするとやはりどの投資家のアドレスに関しても、誰かがちゃんとKYC確認をしていて、だれがKYC確認をして大丈夫だった、いつKYC確認したみたいなことをやっぱり共有されていく方が、コンプライアンスを守っていくっていう意味でも大切になります。
そしてユーザー(投資家)にとっても複数の取引をするときに、毎回それぞれでKYCの確認が必要になるのは結構大変なことなので、その視点でもKYCの情報の集約化が進んでいく方がいいのかなとは思います。
そしてユーザー側が基本的には自分の情報を持っているけど、ユーザー自身の利便性の観点から共有していいよというふうに判断したら、KYC情報が必要なプラットフォームに共有されるというような仕組みは必要だと思います。
今井:KYCの手続きは本当に面倒くさいですからね。
大野:面倒くさいですよね。やっぱり日本は特にKYCの手続きがオンラインのサービスでも最後郵便でハガキを受け取らないといけないといったようなオンラインで完結しないことが今までありましたよね。現在は法律が変わって改善されようとしていますが。ただその面倒さが、実はペイメントサービスの普及のボトルネックにもなっていたと思います。
また国を跨いでKYC情報を確認するみたいなことになると、その規格の統一化にはちょっと時間がかかるかもしれないですね。
しかし長い目で見るとやっぱりブロックチェーンを使ってKYC情報が統一された規格で共有されるようになるべきだと思っています。
KYC情報をどのようにブロックチェーンにのせるか
今井:そうなるとKYC情報をブロックチェーンにのせる時はどんな形になるんですかね。パブリックにのっけちゃうと後々問題が起きちゃうこともあるかもしれないので、それについてはどんなイメージでしょうか?
大野:おっしゃる通り基本的には多分それぞれのKYC確認を実施したプレイヤーがオフチェーンで持っていて、ただそれを共通のレジストリーのような形で管理をして行くようになるのではないかと思っています。
今井:なるほど。確かにそこはオフチェーンがいいですね。
大野:KYC情報に関しては、個人情報を適切に管理しながら、どのように共有していくかという、そのバランスをとることが必要ですよね。例えば契約内容の管理も同じだと思います。セキュリティトークンに投資した時の契約内容はきちんと保存していかなきゃいけないけども、それがバラバラだと意味がなくなってしまうので、だからハッシュ化したデータをオンチェーンで管理するというような方法になると思います。
スマートコントラクトで裁判所がなくても強制執行力を生み出せる
今井: 僕が考えるスマートコントラクト一番の使い所は、資金のいろいろなロックの仕方と強制執行力だと思うんですよ。つまりスマートコントラクトで裁判所によらない強制執行力を生み出せる。
その意味で言うと、例えば何処かの国の裁判所によらず、イーサリアムっていう強制執行力を使うことによって、それはグローバルに使える仕組みになるんじゃないかと思っています。
大野:おっしゃる通りです。やっぱり例えば不動産のように最終的に国への登記が必要なものは、国のルールとリンクしなきゃいけないですよね。だからそういったものをブロックチェーンと組み合わせていくには、最終的には国の仕組み自体を変えていかないといけないので、簡単ではないと思っています。
一方、例えば人と人や、会社と会社の間の約束事みたいなものは、イーサリアム上の強制執行力で担保されて、うまく運用されていく仕組みが近い将来作れるんじゃないかなと思います。
どのように偏りのないチェーンを実現するか
今井:最近はいろいろな会社が作っているブロックチェーンがありますよね。なんとなく僕はブロックチェーン、つまりP2Pネットワークって、やはりどこかに歪みが生じるのは仕方がないと思っているんですよね。完全に綺麗なモノはできない。ただその上でブロックチェーンはいくつあっても、いろいろな種類があっていいじゃないですか。そしてそのいくつかのブロックチェーンを組み合わせると、結果的に偏りのないチェーンになるっていうことがあると思っています。
大野:面白いですね。
今井:どこかの方向に寄らないような形にするのに、一個のブロックチェーンだけじゃなくて複数を同時に使うことで結果的に歪みを矯正するイメージです。1つだと一方行だけのものが、複数重ねることで最終的に何というか、円とか球体みたいにバランスがとれてくるイメージです。
大野:それはチェーン間のインターチェーンでどのように価値を移転できるのか、というような技術の発展と合わせて実施するイメージですよね。
私もそれはすごく面白いなって思います。やっぱりどのブロックチェーンが一番いいということではなくて、多分思想によってバランスがあると思うので、その用途に適したものを使っていき、いざとなったらその間での価値の移転ができることが担保されているのがいい姿ですよね。
オフチェーンの規格も共通化が必要
今井:そうですね。ライトニングネットワークってアトミックスワップというかブロックチェーン間の価値の移転にも結構うまく使えると思っています。例えばインターレジャープロトコルと、ライトニングネットワークとかライデンネットワークなどは、基本的にすべてHTLC(Hashed Time Lock Contract)というハッシュ制限付き期間制限契約タイムロックコントラクトを使っているという点で、基本的な構造が一緒なんですよ。
だからオフチェーンのところってそのうちたぶん共通化されると思っています。そうなると、いちいち向こうのブロックタイムとかを待つ必要なく、ガンガンお金が回るっていう。
大野:それはすごく面白いですね。
今井:たぶんそういう感じになっていくんじゃないのかなって思いますね。
大野:面白いですね。結局それもさっきの価値の流動性の話につながってくる部分だと思っています。どのチェーンにも跨って移転できるってことになると流動性が高まって、オンチェーンにのっている資産の価値が高まっていくことになると思います。
今井:今のところそれぞれでオフチェーンの開発をしているんですけど、そのあたりの共通仕様ってライトニングネットワークのボルトという公開RFC(Request for Comments)ぐらいしかないんですよね。イーサリアムのステートチャネルもまだ共通仕様はない。だから色んな会社がいろんなの作って、くっつけるのはあとで頑張るっていう状況になっている(笑)。
でもそれだと上手くいかないので共通仕様を作んなきゃいけないですけど、そういったライトニングの共通仕様をベースにして、いろんなところに応用していくことができるんじゃないかと思っています。
RFCをどう進化させるかというのが将来的に大切になってくると思っています。
(おわり →この特集を初めから読む )
インタビューイ・プロフィール
大野紗和子
AnyPay株式会社 代表取締役
東京大学大学院理学系研究科修了。株式会社ボストン・コンサルティング・グループに入社。その後、Google株式会社にてインダストリーアナリストとして、経営・マーケティングのアドバイザリーを行うと共に、オンラインマーケティング関連のリサーチプロジェクトに従事。東京大学教育学研究科特任研究員として、スマートフォンを用いた認知行動学研究に参加。2016年よりAnyPay株式会社にて取締役COOを務めた後、2018年より代表取締役に就任。
今井崇也
Frontier Partners合同会社 代表CEO
1980年新潟県生まれ。小学校5年のときにMS-DOS, Basic, Cでプログラムを書いてコンピュータで遊び始める。27歳で新潟大学大学院にて素粒子理論物理学で博士号(理学), Ph. D. を取得。カカクコム株式会社に入社し、検索エンジンのサーバ運用開発/ソフトウェア開発/R&D/大規模データ分析/チームマネジメントの業務を経験。そこで商品画像から商品の色情報を自動的に取得する画像処理アルゴリズムを研究し、色による商品検索システムを開発および実用化。入社当初10人未満だったBizMobile株式会社に転職し、MDM(Mobile Device Management)のデータ蓄積システム構築/データ分析/データ可視化業務を経験。マスタリングビットコイン日本語訳書籍「暗号通貨を支える技術」代表翻訳者。また、33カ国を旅してきた経験も持つ。ヨーロッパ、東アジア、東南アジア、インド、北米、南米、イースター島、アフリカ。バックパッカーとして一人旅をし安宿をまわり多様な文化、民族、人種と交流。特に南米、インド、アフリカでの旅から大きな影響を受けた。2014年4月21日にFrontier Partners合同会社を設立し、現在代表CEO&創業者。データタワー株式会社代表取締役。United Bitcoiners Inc. 取締役&共同創業者。東京大学客員研究員。日本初のライトニングネットワークハッカソン主催者。
(編集:設楽悠介・大塚真裕子 / 写真:堅田ひとみ)
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