ビットコインか、イーサリアムか
栗元:福島さんのLayerXさんが出している情報を見ていると、トークンを重要視する方向じゃないかと感じます。僕はイーサリアムから入っているんですがやっぱりビットコインに戻った。
その最大の理由は現時点でビットコインの方がセキュリティが進んでいると思ったからです。セキュリティ面ではイーサリアムはまだ時間が掛かる、それが最大の理由です。
そしてトークンについては、どちらがいいのかはっきりと分からないことがあります。イーサリアムのトークンみたいにコミュニティの貸し借りから帳簿ができていく感じで始まってくのか、それともお金は既に人類の中で発明されているので、だったら同じルートを辿らずにビットコインのようなシンプルなシステム1つで動いた方が良いのではないか。
その2つの考え方があると思うんです。ここで僕はいつもどっちが正しいのか明確な答えが出ないんです。自分は現在、後者の方を選択していますが、多分福島さんたちが発信している情報を見ると、明らかにトークンを重要視する方に寄っている。これは何故なんですか?
トークンは権利を表すもの
福島:僕はトークンというものは、ある種の権利を表すものだと思っています。それで今の世の中の権利の考え方って、権利と執行が分離されている状態なんです。
つまり例えばこの家を持っていますという紙を持っていることと、実際にその家に住むことは分離されているじゃないですか。
株式を持っていることを証明する紙と、議決権を行使できますとか収益配分権を得られますというような株式の権利を行使できるということは分離されている。それらを証明する紙は、その権利を表しているだけなんです。
一方、究極的にイーサリアムなどが目指している世界観は、トークンは権利を表すものであって、さらにその権利と執行が自動化されていくような状態だと思うんです。僕も未来はそうなるな、と思いました。
つまりトークンを持っているということで権利を持っていることを証明し、かつそのトークンが持っている権利を行使するというアクション自体もすべてトークンの設計に既に入っているような状態ですよね。
そのような状態であれば持っていること自体で自動的にアクションできたり、例えば権利を行使した結果を受け取れるようになるというようなことが、いろんなもので起こってくると、世の中の見え方がぜんぜん変わってくるんじゃないかと思っています。
今の世の中でなぜ中央集権なのか、いろいろな取引の間にコストが発生するのかというと、権利と執行が分離されているからなんですよね。
トークンが実現するトラストレスな世界
栗元:そうですね、権利と執行が合体したものが広まることによって、世の中の摩擦がなくなる、スムーズにいろんなものが動き始めると思います。
福島:究極的に言えば、自分が知らない人も信用できる世界になるわけです。
藤本:トラストレスな世界ですね。
福島:間に執行するものが入らなくても信用していいという状態を、システムで担保できる。それが時代の向かっている方向だと思います。
そしていろいろな取引が小さくなっていって、みんないろんなものを所有するよりもシェアしたいとか、権利というのがゼロイチではなくてグラデーションみたいになっていくと思うんですよね。
いろいろなものの権利をシームレスに交換できるようになると思います。だからこれからの時代は取引の流動性を上げていくところ自体が重要になるので、それはすごく個人が活躍していく社会とマッチすると思っています。
IoTにとってブロックチェーンは優位性があるか
藤本:この話はIoTにもつながっていきますね。IoTもブロックチェーンなどによるトラストレスな土台が必要です。例えば医療分野でIoTを進めるとなると、本当に誰かを信用しなくても、その医療情報が正しいということがすごく大事だと思うんです。
そういう意味でもブロックチェーンは必要な仕組みですよね。
栗元:IoTにとってブロックチェーンは必要なのですが、しかし世の中で言われているほど簡単ではないとも思っています。
ブロックチェーンでトークンをやりとりすること自体は極めて安全なのですが、その仕組みと現実世界を結びつけるところのセキュリティは甘く見ない方がいいと思います。
ブロックチェーンと外のつなぎ目のシステムの部分に、どこか一箇所でもセキュリティリスクがあれば、勝手に改ざんしたりトークンを送ったりできちゃうわけです。
現時点ではその負担がまだものすごく大きいと思っています。その部分世の中の人は軽く見すぎているんじゃないかと感じます。
藤本:確かにブロックチェーンにはスケーラビリティやセキュリティの課題はありますね。そうするとIoTの普及していく方向として、現在の中央集権的なシステムを組み込んでいくのと、ブロックチェーンを組み込んでいくのと、どちらがいいのでしょうか?どちらが優位性があるのでしょうか?
栗元:長い将来としてはブロックチェーンの方が優位性が出てくると思っています。ただ今すぐIoTのサービスを作って利益を出すことを目的にするんだったら僕もクラウドなどの仕組みを使いますね。
ライトニングネットワークの可能性に惹かれる理由
藤本:ちなみにIoT×ブロックチェーンを推進する栗元さんが、ライトニングネットワークの可能性に惹かれる理由はなんですか?
栗元:僕はNayutaで今までたくさんのプロダクトを作ってきました。そのなかで2015年にブロックチェーン技術を用いた使用権コントロール可能な電源ソケットを作ったんです。その時に思ったのはIoTって結局リアルタイムで反応しないと現実的に使えないアプリケーションが多いなということでした。
その時もいろいろなアーキテクチャを試してみたんですが、実験が成功してもリアルタイム性とセキュリティの両立がないと、本当の社会インフラになれないと感じていたんです。
そういうことを感じていた時に、ペイメントチャネルやライトニングネットワークの話が出てきて、オフチェーンをうまく使えばそのスピードに関して可能性が出てくると感じたんです。
多くのアプリケーションはリアルタイムに反応しないと世の中が受け入れてくれないわけです。その中で一番現実的にリアルタイムで動かせそうなのがライトニングネットワークだと思って、そっちに舵を切っていきました。
(第3回に つづく)
→第3回はこちら「ブロックチェーンは世界に正しい評価をもたらすか? PoT #01-3 LayerX福島良典×Nayuta栗元憲一」
→第1回はこちら「LayerX福島良典とNayuta栗元憲一が語る日本の仮想通貨・ブロックチェーン市場の課題 PoT #01-1」
インタビューイ・プロフィール
福島良典(ふくしま・よしのり)
株式会社LayerX 代表取締役社長
1988年生まれ、愛知県出身。東京大学大学院工学系研究科修了。大学院在学中に「Gunosy(グノシー)」のサービスを開発し、2012年11月に当社を創業、代表取締役に就任後、2013年11月代表取締役最高経営責任者に就任。同社は創業より約2年半というスピードで東証マザーズに上場、2017年12月には東証第一部へ市場変更する。2018年8月よりブロックチェーン領域の技術開発のために新たに設立した、Gunosyの子会社である「株式会社LayerX」の代表取締役社長に注力するために異動。2012年度情報処理推進機構(IPA)「未踏スーパークリエータ」。2016年にはForbes Asiaよりアジアを代表する「30歳未満」に選出される。
栗元憲一(くりもと・けんいち)
株式会社Nayuta 代表取締役CEO
福岡市出身。先端SoCの開発やLSI開発のためのEDAソフトウェアアルゴリズム研究などに十数年取り組む。2011年からAndroidとハードウェアを組み合わせたソリューションを開発している。2011年 google developer day の developer sandbox採択。著書に「FPGAキットで始めるハード&ソフト丸ごと設計」がある。
Proof Of Talkについて
「あたらしい経済」と「グラコネ」の仮想通貨・ブロックチェーン業界に質の高いコンテンツを生み出し、業界のさらなる活性化を目指す共同企画第1弾「Proof Of Talk(PoT)」がスタートしました。グラコネ代表であり、ミスビットコインとして仮想通貨界を牽引してきた藤本真衣と、あたらしい経済を切り開くトップランナーたちとの鼎談企画です。
記念すべき第1回は株式会社Gunosyの創業者で8月1日にAnyPay株式会社とブロックチェーンに特化した合弁会社 株式会社LayerXを立ち上げた福島良典氏と、ブロックチェーンとIoTに積極的に取り組む 株式会社Nayuta 栗元憲一氏のトークセッションをお届けします。
(編集:設楽悠介)