ブロックチェーンの発展が世の中をよりよく変えると確信があるからこそ、政治家として今できることを前に進める〜衆議院議員 中谷一馬インタビュー(1)

特集 政治家とブロックチェーン

中谷一馬

IT企業の役員を経て政界に飛び込み、2011年統一地方選挙にて27歳で初当選し、神奈川県政史上最年少議員となった中谷一馬氏。彼は現在立憲民主党衆議院議員として活動しながら、自身の経験を生かしてテクノロジーを推進するデジタルネイティブ世代の政治家だ。世界ブロックチェーン政策会議などにも日本を代表して出席している中谷氏に、政治とテクノロジーの可能性を語っていただいた。

政治家視点で見たブロックチェーンの魅力

−中谷さんはどのようにブロックチェーンに出会いましたか?

僕はもともとIT企業に勤めていたこともあり、まわりには数年前から仮想通貨(暗号資産)/ブロックチェーンに対してアンテナを張っている起業家が多かったんです。当時から周りの人でビットコインを買っている人が多かった。その後にマウントゴックス事件などが起こって、初めは僕も仮想通貨はなんだか怪しいものなんじゃないかと本気で思っていました。

でもそんな周りの影響で興味を持ち出して、調べれば調べるほど、仮想通貨とそれを動かすブロックチェーンの技術は世の中をどう考えても変える可能性がと感じるようになりました。そしてさらに勉強していって、それが自分の中で確信に変わりました。

−中谷さんはブロックチェーンのメリットはなんだとお考えですか?

ブロックチェーンはゼロタウンダウンシステムで、分散型に管理ができ、改ざんができないなど、その技術面のメリットを言えばキリがないです。

そんなブロックチェーンがどういう風に社会にインパクトを与えるかについて、見てもらいたい資料があります。これは平成28年に経済産業省より発表された「ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査」の資料です。

経済産業省「ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査」

この資料を見ていただくとわかる通り、ブロックチェーンは金融以外にジャンルにとどまらず、さまざまな産業に影響を与えていく可能性が期待されています。そして経済産業省はブロックチェーンの市場規模は67兆円になると試算しています。

高効率なシェアリングやサプライチェーンが実現し、プロセスや取引が全自動化していくといった未来が予測されています。

そして僕はまずブロックチェーンは金融業界から進んでいくのだろうと思っています。実際に日本では仮想通貨がバブルになってスケールしましたが、バブルとなって弾けました。

しかしブロックチェーンの進化はバブルではなく、5年後10年後にはイノベーションを起こす大きなプロジェクトが出てくると確信を持っています。まさに、今は黎明期です。

ハッキング事件後の政府のブロックチェーン業界への関わり方

−仮想通貨に関しては日本でもここ数年で大きなハッキング事件がなんども起こりました、どのように捉えていますか?

まず前提として、それらのハッキング事件は取引所のシステムの不備の問題で、仮想通貨やブロックチェーンの技術の問題ではないです。ただの管理システム的な問題でした。ただそれによって仮想通貨は危ないものといったような認識が世間に広がってしまった。

このような事件が起こってしまったのは本当に残念なことであり、それを管理する企業に対しては、正直もっとしっかりやってほしかったと思っています。

こういった事件が起こってしまったことで、政府もイノベーションと規制の両方のバランスをとらなくてはいけなくなりました。そうなるとアクセル踏みながらブレーキを踏まなければいけないので、制度的におかしなものになっていってしまう。

そして規制が厳しくなると、スタートアップなどの新規参入がどんどん難しくなってしまう。

今政府としてはすごく難しい判断を迫られているのだろうと思います。

スタートアップは政治とどのように向き合うべきか?

−ブロックチェーン業界を現在牽引しようとしている企業の多くはスタートアップです。今のスタートアップ企業は政治とどのように向き合うべきでしょうか?

政治にはイノベーションの推進と健全な市場を守るための規制の両立が求められています。そのためには政治家も事業者も共に学んでいかなければならない。

まず事業者側は事業を拡大するためには現在のルールやその国の文化や作法のようなものを理解して進めないと、イノベーションを起こす前にうまくいかない状況に陥ってしまいます。

Uberが日本にうまく参入できていないのは、日本の法律や既存の市場の力を持った業界団体、そしてそれに関係している労働組合など初めにとうまくコミュニケーションをして最適な設計を提案できなかったからだと思っています。

例えそのサービスが国民の本当に求めているものであったとしても、ルールに合わなかったり、多くの人々を抱える既存市場の団体の反発にあったりすると、そのサービスは止められてしまいます。

そしてそういったルールが社会的に固定化されるともう動かなくなるので、初動の取り方は、非常に大事です。僕は、初動をどう動かしていくかを企業側はしっかりと学ばないといけないと思っています。

スタートアップの皆さんは、この国の文化はどういうもので、誰が決裁権者で、その人達にこの事業をやることでどういう社会的な意義があるのかを、その人たちが受信する媒体での適格な情報発信や、丁寧にコミュニケーションをとっていかなければいけないと思っています。

政府がスタートアップのためにできること

一方政府側は、規制ばっかりかけていたら何も進まなくなること、それをグローバルできた時のリスクをちゃんと考えなければいけないです。だからこそ規制はある程度緩和していって、今の社会的にある既存体制を維持・継続しつつも、そこに対する果敢な挑戦をしていかなければいけないです。

それで始まったのがサンドボックスの制度です。

2018年にサンドボックス制度は法案で採決されました。もちろん僕は大前提として、実証実験するにあたって、人の生命、財産、人権を侵害しないように進めて欲しいと思っていますが、このように多くの企業が実証実験をしてイノベーションを起こすことができる環境を政府としても作っていかなければいけないと思っています。

そうしなければ世界中で再び「MADE IN JAPAN」が愛されるような、産業発展は起こせない。日本はもっと柔軟に、アジャイル型で、しかもムーンショットから逆算してやるくらいじゃないと、世界で勝つような産業を生むことができない。政府にはそのような環境作りが求められているし、だからこそ企業側と密にコミュニケーションをとっていく必要があると感じています。

政治家に声を届けるには

−具体的にスタートアップはどのように政府と人たちとコミュニケーションをしていけばいいですか?

国会議員の殆どの人は朝6時から夜の12時くらいまで、365日ほぼ毎日予定が埋まるくらい多忙です。そして働いているその時間のほとんどが政治的な関わりの人たちとの時間で埋まってしまっています。その中でみんな自分がやるべきこと、やらないことを判断しています。

そんな状況なので、どうしても政治的なアプローチが弱い、新しい事業を展開するスタートアップの人たちの声は届きにくい印象があります。もちろん政治家側もそれでも時間を割いてその声に耳を傾ける努力をすべきですが、スタートアップ側も政治家に声が届きやすい工夫をしていくのが良いと思っています。

具体的にはいきなり問題点を提示してビジネス的にアプローチするよりも、その問題に関する世論を集める場を作ってから提案などがあると、政治家側も受け入れやすい。

そして情報の届け方にも工夫が必要です。政治家と一言に言っても幅広い世代の人がいます。僕ら世代のようにネットで情報収集をする世代もいれば、テレビや新聞を主に情報収集している年配の人もいる。だから多くの政治家の耳に届くように、その情報の伝達方法も考慮して情報発信していくのが良いと思っています。

(つづく)

→つづき「政治とテクノロジーの理想的なあり方〜衆議院議員 中谷一馬インタビュー(2)」はこちら

編集:設楽悠介/竹田匡弘
撮影:堅田ひとみ

この記事の著者・インタビューイ

中谷一馬

立憲民主党 衆議院議員 1983年8月30日生。貧しい母子家庭で育つ。厳しい経済環境で育ったことから、経済的な自立に焦り、中学卒業後、高校には進学せず、社会に出る。だがうまく行かず、同じような思いを持った仲間たちとグループを形成し、代表格となる。 しかし「何か違う」と思い直し、働きながら横浜平沼高校に復学。その後、呉竹鍼灸柔整専門学校を卒業し、柔道整復師の資格を得て、慶應義塾大学、DHU大学院に進学。 その傍ら、飲食店経営や東証一部に上場したIT企業gumiの創業に役員として参画する中で、人の役に立つ人生を歩みたいと政界進出を決意。 第94代内閣総理大臣の秘書を務めた後に、27歳で神奈川県議会における県政史上最年少議員として当選。県議会議員時代には、World Economic Forum(通称:ダボス会議)のGlobal Shapers2011に地方議員として史上初選出され、33歳以下の日本代表メンバーとして活動。また第7回マニフェスト大賞にて、その年に一番優れた政策を提言した議員に贈られる最優秀政策提言賞を受賞。 現在は、立憲民主党 神奈川7区(横浜市港北区・都筑区) 衆議院議員、青年局長(初代)、科学技術・イノベーション議員連盟 事務局長として多方面で活動中。

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