2019年7月2日、Web3 Foundationが発表した公式支援プログラム「Web3 Foundation Grants Wave2」の中に日本企業のプロダクトの名前があった。Staked(ステイク)株式会社のPlasmだ。今回のWeb3 Foundationによるグラントに採択され、彼らは独自のPlasm(プラズム)というSubstrate runtime module libraryの開発を進める。今回そんなStaked株式会社のCTOである山下琢巳氏に今回のグラントを受けたPlasmについて詳しく訊いた。
Web3 FoundationとPolkadot
—まずWeb3 Foundationについて教えて下さい
Web3 FoundationというのはもともとイーサリアムのCTOだったギャビン・ウッド氏が作った世界的な財団です。Ethereum Foundationの兄弟組織みたいなイメージですね。
そしてWeb3 FoundationではPolkadot(ポルカドット)っていうプロジェクトをメインでやっています。Polkadotは、複数の異なるブロックチェーンをつなぐ共通基盤となるブロックチェーンで、異なるブロックチェーン間の相互取引を可能にし、かつ、お互いにセキュリティを共有することができるプロジェクトです。
Polkadotはそのパラチェーンにビットコインとかイーサリアムもつなげていこうと構想しています。Web3 FoundationとしてPolkadotを使ってそれらのチェーンと他のチェーンをつなげていこうと考えているんです。
ちょっとややこしい説明になりましたが、簡単に言うとWeb3 Foundationは新しいWebを作ろうとしている財団です。
今はWeb2じゃないですか。Googleを始めとするGAFA (Google Amazon Facebook Apple)が多くのデータを保有しています。そうではなく、その次のWeb3、個人のプライバシーが守られ、データを個人が管理して、その売り買いを自分で選択できるような世界観を作ろうとしている財団です。
誰でもブロックチェーンが作れるSubstrateというフレームワーク
そのWeb3 Foundationと二人三脚でPolkadotを作っているのがParity Technologiesです。Parityもギャビンウッド氏によって共同創業された会社です。Parityは、Substrate(サブストレート)というブロックチェーンを作れるフレームワークを作っています。Substrateをすごく簡単に言うと、ブロックチェーンを簡単に作れるようにするツールキットです。よくブログとかメディアを作るときのワードプレスみたいなものと例えられています。
そして僕たちはそのSubstrateというフレームワークに載せるモジュール(追加機能)となるPlasm(プラズム)というものを作っています。「Substrate runtime module library」の一つです。これもすごく簡単に言ってしまうと、ワードプレスに入れるプラグインみたいなものです。
Plasmの説明の前にもうすこしSubstrateについて説明すると、これを使うことでみんながアイデアに根差したブロックチェーンを作れるようになるツールです。現在はどうしてもブロックチェーンに合わせたアイデアをみんなが考えてしまっている傾向がありますが、Substrateによって僕はそれが変わると思います。Substrateではコンセンサスアルゴリズムを選べるし、トークンの有無やスマートコントラクトの有無も選べます。なので、ユースケースとしての応用領域がSubstrateによって広がると思います。
独自でブロックチェーンを作ったときに、一番難しいのがセキュリティです。独自ブロックチェーン自体は僕自身が2018年の未踏プロジェクトで作りました。しかし、技術以外の部分。たとえば、ノードやインセンティブデザインなど自前で用意しなければいけなくて、それは難しいという話になると思うんですが、そのためにPolkadotがあるわけです。PolkadotにつなげばPolkadot本体のセキュリティがシェアできるので、Substrateでチェーンを作ってPolkadotにつなげば、独自チェーンのノードの数とかバリデーターの数とか全く気にせずに自由な発想でブロックチェーンが作ることができると思っています。
Substrateで作ったブロックチェーンのスケールさせる「Plasm(プラズム)」
そしてそうなった時に僕らのPlasm(プラズム)の出番になります。僕らはそのブロックチェーンにスケーラビリティを提供するモジュールを作っています。
Plasmを使うことによってSubstrateで作ったブロックチェーンに誰でもスケーラビリテーソリューションであるPlasma(プラズマ)の機能を付け加えられるようになります。Web3 FoundationからこれはSubstrateの発展のために必要だと評価いただいて今回の支援に至ったんだと思います。
−いろいろなモジュールを作ることも考えられたと思います。その中でなぜPlasmaの機能を提供するモジュールに絞ったんですか?
ブロックチェーンで今一番の課題はスケーラビリティです。そのスケーラビリティを解決する手段はいくつかあるんですが、その中の1つであるPlasmaに僕は魅力を感じました。
PlasmaはExitっていう機能があるんですけど、これがやっぱりPlasmaの本質だと思ったんです。
Plasmaは親チェーンと言われるメインのセキュリティを担保しているチェーンがあって、それに複数の子チェーンと呼ばれている別途のチェーンがぶら下がっている構造になっています。そしてその子チェーン上で取引しているユーザーが、その子チェーンの管理者がどんな不正をしたとしても、資金を安全にメインチェーンに返すことができる、Exit Gameと言われる仕組みがあるんです。
つまりこの子チェーンたちは自分達のセキュリティを親チェーンから借りることができる仕組みなんです。この仕組みがあるからユーザーは安心して子チェーン上で取引できるわけです。
インターオペラビリティ自体がスケーリングソリューションでもあると言われているのですが、それでも僕達がPlasmを作る理由は2つあります。
1つ目は、Polkadotにつながるチェーンの数は段階的に増えるものの限られているので、Polkadotには直接つなげないけど間接的につなぎたいというニーズに対応することを想定しているからです。
2つ目は、各々のチェーンが独立したコンセンサスアルゴリズムを持っていなければならないインターオペラビリティの仕組みと違い、Plasmaを使ったスケーリングソリューションは単一の管理者さえいれば構築することが出来るからです。一見するとそれは単一障害点になりますが、Exit Game の仕組みにより中央集権的な管理の利便性と分散管理により得られるセキュリティの双方を受理できます。
Plasmaを誰にでも提供するPlasmが目指すもの
−Plasmaは実利用の可能性が高いと思いますか?
はい、高いと思っています。ブロックチェーンにはスケーラビリティの問題が必ず付随してくるものです。先程も言ったように Plasma はセキュリティの恩恵をメインのチェーンから受けながらも中央集権的なシステムのメリットも享受できます。
そのため、分散型システムであるブロックチェーンに既存の集中管理的仕組みのスケールソリューションを転用できることが実用性の高い点といえるでしょう。また、そのような理由もあり「PlasmaチェーンがPolkadot内で可能性がある」という旨を4月に開催されたSubstrateのカンファレンスでギャビン・ウッド氏も発言しています。
だから僕はそれをモジュールにして、だれでもSubstrateでブロックチェーンを開発する人が簡単にスケーラブルなブロックチェーンを採用できるようにしようと考え、Plasmを作っています。ここで勝負を仕掛けようと思いました。なので今回Web3 Foundationから支援をもらえたのは嬉しいです。
−Plasmはどのようにビジネスとして展開していくんですか?
僕らはPlasmというモジュールを適切なライセンス下で、オープンソースで提供して、自社として利益を追求していきながらも、みんながスケーラブなブロックチェーンを作れる状況を作りたいと思っています。それがまずブロックチェーンのスケーラビリティ問題の解決に一番寄与できると思っているので。SubstrateとPlasmの実装、Polkadotとの接続に関しては自信があるので、そちらの開発自体の案件もあれば積極的にやっていきたいです。
また当然ですが僕らもPlasmを使って、Plasmaチェーンを作ることができます。そのチェーンをPolkadotにつないで、そして僕らのチェーンの下にみんなのチェーンをつなぐような仕組みを提供していこうと思っています。Polkadotに直接つなげることができるようになるチェーンは数が限られているので、そこに間接的につなぐことのできる仕組みを提供してビジネス化を考えています。
(つづく)
→つづき「Web3の世界を目指すエンジニア、山下琢巳とブロックチェーン <ステイクCTO 山下琢巳氏インタビュー(2)>」はこちら
関連ニュース:ブロックチェーン企業ステイク、Web3 Foundationの公式支援する「世界22企業」の1社へ (PRTIMES 2019/7/3)
編集:設楽悠介/撮影:大津賀新也