【独占取材】クリプトアートのパイオニア  Kevin Abosch が語るNFTとブロックチェーン

特集 「NFT」大解剖

クリプトアートのパイオニア Kevin Abosch

株式会社グラコネによる日本初のNFTチャリティー「kizunaNFTチャリティープロジェクト」の第2弾企画として、アイルランドの著名アーティストであり、クリプトアートのパイオニアであるケビン・アボッシュ(Kevin Abosch)氏がその趣旨に賛同して作品提供を先日発表した。

そして現在ケビンのチャリティーNFT作品「1111 #1069」はバーチャル上のCryptoArtTownで展示されており、OpenSeaにてオークションが開催中だ(日本時間 2021年5月7日21時にオークション終了)。

「あたらしい経済」は世界のクリプトアートを牽引してきたケビン氏をインタビューし、早期からブロックチェーン技術にどのように興味を持って自身の作品に活用してきたのか、現在のNFTブームをどう捉えるか、そして今回日本のチャリティプロジェクトに参加した理由などについて語っていただいた。

Kevin Abosch について

Kevin Abosch

Kevin Abosch (ケビン・アボッシュ)
AI、 ブロックチェーンを題材にした映画、 インスタレーション、 彫刻、 写真などの作品が有名なアイルランドのコンセプチュアル・アーティスト。 クリプトアートのパイオニアとして世界的に知られている。 その作品は存在論的な問いを提起し、 社会的なジレンマで回答することで、 個性と価値の本質に取り組む。 エルミタージュ美術館(サンクトペテルブルク)、 中国国立博物館、 アイルランド国立美術館、 ジュ・ド・ポーム(パリ)、 アイルランド近代美術館、 ヴォイヴォディナ現代美術館、 ボゴタ近代美術館、 ZKM(Zentrum für Kunst und Medien)、 ダブリン空港市民スペースを含む、 世界中に展示を有する。 彼が現在手がける作品の「1111」では、 現在でOpenSeaのArtランキングで現在7位。 3,851.52ETH(約9億円)の売り上げを誇っている。 ※2021年4月21日現在

ブロックチェーンの「Proxy」に魅力

−ゲビンさんは、いつ、何をきっかけで暗号通貨やブロックチェーンを知りましたか?

一部の先進的な多くの人たちと同じように、2011年〜12年の比較的早い時期のビットコインを知ったことが、私の暗号通貨との出会いでした。

その当時私はアーティストのプライバシーに関するプロジェクトをやっていたんです。そのプロジェクトに関して、当時ビットコインを開発している方からビットコインに使えるかもしれないとセキュリティに関する質問を受けたことが、きっかけでした。

そこから私自身も約2週間ビットコインについてリサーチし、多くのことを学びました。でもそれと当時に、また多くの疑問が生まれ、また調べるということを繰り返し、そこからブロックチェーンテクノロジーに対してすごく興味を持ったんです。

私が特にブロックチェーンに興味を持ったポイントは「Proxy」、つまり「置き換え」ができることです。ブロックチェーンは暗号文、秘密鍵やコントラクトなどを活用し色々なものを置き換えることができる、それはまるで魔法のよう。

そんなブロックチェーンの魔法のような仕組みにすごく興味を持ち、さらにこの「Proxy」というのが私たちの価値やアイデンティティにとってとても大事だと、その当時から思っています。

プライベートキーとパブリックキーの仕組みに魅了

−そこから自身の表現にブロックチェーンやNFTを取り入れようと考えた理由は何ですか?

技術的な魅力もそうですが、概念として、「プライベートキー(秘密鍵)」と「パブリックキー(公開鍵)」というペア暗号鍵方式に、すごい関心を持ったからです。

その概念に魅了されました。だから2013年には「Code bank」という500個のパブリックキーとプライベートキーを活用した作品を作ったんです。まだほとんどの人が「ビットコインってなに?」っていう時代でしたが、「store of value(価値の保存)」の可能性、それを予見する作品でした。

−その後の「IAMA Coin」という作品ではケビンご自身の血をモチーフにしていますよね。

「IAMA Coin」は主に2017年末から2018年初めにかけて制作したものなんです。当時私自身も写真家として多くの仕事をするようになり、商業的にも成功していたといっていい頃でした。

一方でその当時、私は自分自身が商品化されていることに対する苛立ちも覚えはじめていたんです。僕にはアーティストとして自分自身の物語は、自分でコントロールしたいとまず思っていたんです。

そしてその当時はちょうどICOブームの頃でした。ですので「多くの人たちが私をコインで騙そうとするのであれば、いっそうのこと私自身がコインになればいい」という想いもきっかけになった作品です。

そんなコンセプトで生まれたこの作品の一番重要なところは、物理的なものとバーチャルなものとセットにしたことです。まるでブロックチェーンのプライベートキーとパブリックキーのように、片方だけが存在してもあまり意味はなく、両方がセットになって初めて意味を持つというメッセージを込めました。だから実際の私の血液も作品に取り入れました。

物理的な空間にある作品と、ブロックチェーン上にあるコンテンツとスマートコントラクトと、その両方がセットになってはじめて意味が持つ作品を作ることで、自分自身のアーティストとしてのストーリー性を担保しよう、そう思って作ったんですよね。

ちなみにこの作品はCNNなど色んなメディアでこの作品を取り上げられ、香港やドバイなど色んな場所から呼ばれるようになり、また私自身有名になってしまい、その結果として一部の人たちから「1万個欲しい」というような声をもらうことになったんです。

この作品は概念としては1個だとしても10個だとしても変わらないのに、みんなそんなに多く買おとしているところを見て、自分自身が商品化されることを嫌ってコンセプチュアルなこのアート作品を作ったのに、結果としてそれで人気になってしまって商品化されていくというような、皮肉な結果になってたんです(笑)。

NFTブームはバブル

−今世界的な多くのジャンルの著名人もNFTを発行しはじめました。これは一時のブームだと思いますか? それとももっと盛り上がっていくでしょうか?

そうですね、セレブレティーや著名スポーツ選手など、たくさんNFTを発行して大きな金額がついていますね。

特に、今はやはりとても通常ではない、バブルの状況だと思います。

現在多くの人がNFTに参入しようとしたり、NFTを買っている理由はFOMO(Fear of Missing ouの略、取り残される不安)ではないかと思っています。買わなかったことで機会を失うことに対する不安から、どんどんと人々が参入して、それがまた不安を呼んで、どんどんと盛り上げるといったような状況ではないかと。

ICOバブルの終わりの頃のように、NFTに参加しないことに対する恐怖心がみんなを突き動かしているように感じます。そして恐怖心が突き動かすブームというのはそう長くは続かないと私は考えています。

そして現在NFTを買う人というのは大きく3つに分けられると考えています。

まず1つがそもそもNFTに紐づいたその作品自体が好きで、その作品を買ったという体験がしたくて買う人です。

もう1つは他人に自慢したい人ですね、自分の社会性だったり、こういう作品を持っているぞと他者に示したい人です。

そして最後は投資目的の人です。安く買って高く売って儲けたいという人。例えばCryptoPunksのすごく貴重なNFTを持っていたら金持ちになったかもしれない、という話を聞いて、価値があるかどうかはわからないけど、とりあえず今買っておこうみたいな人です。

この体験を求めてる人、社会性を求めてる人、投資のメリットを求めてる人、が現在のNFTを買っていると思うんですが、私の分析ではマーケトの85%ぐらいは最後の投資で買っているじゃないかと考えています。

だから投資目的で買っている人に関しては、やはり投資的バリューがなくなっていくとどんどん離れて行くだろと予想できます。

一方、僕自身が3年前に日本に行った時、日本の暗号資産のクジラの人と、どうやって自分の持っている価値を示すか?という話をしたことがあるんです。そこで彼はバーチャルグッズを買うことで自分自身も示すということも話していました。彼が言ったようにフィジカルなものから、バーチャルなものへの価値表現のシフト自体は進むと思っていますし、そういう意味ではNFTの価値は残るとも思っています。

まとめると、現在の投資家主導であろうNFTバブルは弾けると思いますが、前述のような新たな価値も生まれ、その意味でNFTは残っていくだろうと感じます。

日本のチャリティーに参加した理由

「CryptoArtTown」で展示されている「1111 #1069」

−今回、グラコネの「kizunaNFTチャリティープロジェクト」に参加しようと思った理由は何ですか?

私はグラコネのミスビットコイン藤本真衣さんとは約3年前からの知り合いです。出会った頃から、彼女のやろうとしているブロックチェーンを使って社会を変えるといた活動自体にすごいポテンシャルを感じていました。

そしてチャリティーをやろうと思っても、アーティスト個人では、プロジェクトを作って注目集めてファンドレイジングするといった全てを一人一人がやるのが難しいんですよね。だから「kizunaNFTチャリティープロジェクト」のようなプロジェクトがあることはアーティストにとっても喜ばしいことです。

彼女から参加してもらえないかと提案してもらえたので、すぐに参加することを決めました。

NFTが非中央集権的なものと民主主義の橋渡しに

−今回のオークション出品作品である「1111」シリーズにはDAO(自律分散型組織)のメッセージが含まれていると思います。ケビンさん自体はDAOについてどうお考えですか? 

おっしゃる通り、「1111」シリーズにはDAOに関するメッセージが込められていまして、来週ぐらいにはまたいろんな発表がありますので楽しみにしておいていただけると嬉しいです。

そしてDAOとNFTは関連してくると思っています。NFTはただそこに存在するだけではなくて、コミュニティのノードになるようなものが、次のNFT、次世代のNFTになると思っています。

例えばNFTが色んなコミュニティを繋ぐ証になったり、投票の軸になったり、あとはAIを束ねる軸になったりなど、NFTが社会を繋ぐ軸になっていくのではないかと思っています。

いわば「非中央集権的なものと民主主義の橋渡しにNFTがなる」のではと考えています。

これから5年ぐらいは「NFT×DAO」「NFT×デモクラシー」というのがすごく面白いセクションになっていくでしょう。

宇宙からNFT所持者に何かを配布する「1111 KOSMOS」

−ケビンさんの来週以降の新たな発表というのにこの件も含まれるのではないかと思います。「1111」のプロジェクトとして進められている「1111 KOSMOS」について可能な範囲で教えていただけますか?

「1111 KOSMOS」プロジェクトは、私のNFT作品である「1111」シリーズと連動したプロジェクトで、小さなキューブ型の衛星を宇宙に打ち上げるというものです。私はこの計画に子供のように今も興奮しているんです。

この「1111 KOSMOS」プロジェクトには 2つの目的があります。1つは地球環境のために二酸化炭素排出量に関するデータを収集することです。そしてもう1つの目的は、宇宙からアート作品を作って地球の既存の「1111」コレクターに新たな作品を投下することなんです。

暗号資産トークンを配布することをエアドロップなどと呼びますが、文字通り「1111 KOSMOS」プロジェクトは、宇宙からのリアル・エアロドップといってもいいかもしれません。

私は今までに色々な人生の可能性について考えていましが、まさか自分が宇宙に衛星を打ち上げることになるとは想像していませんでした。今まで想像もつかなかったことを実現できるのは楽しく、だから本当に興奮しています。

−ちなみに今回「kizunaNFTチャリティープロジェクト」でのオークション作品を買った人も、その宇宙からのエアドロップが受けられるのでしょうか?

もちろん今回のチャリティー作品も私の「1111」シリーズの作品の一つです。だからこの作品「1111 #1069」のホルダーの方も将来「1111 KOSMOS」のエアドロップで新たなトークンを受け取れる権利があります。

「1111 KOSMOS」は「1111」シリーズのトークン所持者にとってたくさん起こることの1つに過ぎません。それらのプロジェクトが発動した時にNFTを持っていなければ、何も得られません。これが面白いところなんですよね。

ここ数ヶ月いろんなコレクターと話して感じたことがあるんです。

それは「コレクターがアートを保有しているのか? それともアートがコレクターを保有しているのか?」ということです。どちらなんだろうかといろんなコレクターの方と議論しました。

例えば、本当に価値のあるアートというのはパワーを持っていて、最初はなんとなく買ったつもりでも、これは手放さない方がいいじゃないかと感じる作品もあるはずです。そういうインスピレーションをアート自身が発信しているような場合は、アートがコレクターを保有していると考えられなくはないと思っています。

モノの価値というのは非常に相対的なもので、例えば本当に空腹の時はお金よりも一杯のうどんの方が、価値があるかもしれません。そのように、何か意味があるものや価値があるものに飢えているような場合は、アートというのが心を満たすのではないかと思っています。

−衛星はいつ打ち上げる予定ですか?

インドからあげる予定で、遅くとも今年の11月ぐらいまでには打ち上げたいと思っています。ただ新型コロナウイルスウイルスの状況次第では遅れるかもしれません。

今準備を進めているところです。打ち上げるデータのチューニングをしているところです。衛星なのでデータをアップロードするにもダウンロードするにもデータ容量を小さくする必要があり、特別なチューニングをしています。

このチューニングがすごい大変なんですが、今回の取り組みは気候変動の問題に対する私なりの1つの道筋であり、さらに私自身アーティストとしても非常に興味がある取り組みなので、とても楽しみにしています。

ブロックチェーンは「パワーシフト」

−僕も衛星のプロジェクトは本当に楽しみにしています。それでは最後にケビンさん、ブロックチェーンは世界をどう変えると思っていますか?

この質問は私が2018年頃によく聞かれていたことですね。そしてその頃と今、私の答えは変わっていません。ブロックチェーンが世界にもたらすのは「パワーシフト(power shift)」です。

これまで政府や大きな機関が独占していた力を、人々が得られるようになるということです。

また最近はあまりに暗号資産の価格が上がり大きな市場になってきたので、政府などがブロックチェーンを自分たちでコントロールできるのか懸念しはじめているということが話題になっていますが、それについて私は楽観的です。

私はブロックチェーン自体の将来に期待しています。

そして現在のイーサリアムの高額なガス代や、マイニングの環境問題への影響、トランザクションのスケーラビリティなど、さまざまな課題がありますがそれらも改善されていくでしょう。

そして現在東南アジアや南アメリカなどで、少しずつ小さなところからでも実際ブロックチェーンを使った「パワーシフト」が徐々に起きています。この流れは止められないでしょう。

これからもブロックチェーンによる世界の「パワーシフト」は加速していくと思います。

Kevin Abosch「kizunaNFTチャリティープロジェクト」情報

現在「kizunaNFTチャリティープロジェクト」として、Kevin AboschのNFT作品「1111 #1069」のオークション開催中です。日本時間2021年5月7日21時にオークション終了しますので、ご興味がある方はお早めにチェックしてみてください。

→「1111 #1069」の閲覧は「CryptoArtTown」で

→「1111 #1069」オークションへの参加は「OpenSea」から

 

翻訳:Yu Ayato
取材/編集:設楽悠介

この記事の著者・インタビューイ

あたらしい経済 編集部

「あたらしい経済」 はブロックチェーン、暗号通貨などweb3特化した、幻冬舎が運営する2018年創刊のメディアです。出版社だからこその取材力と編集クオリティで、ニュースやインタビュー・コラムなどのテキスト記事に加え、ポッドキャストやYouTube、イベント、書籍出版など様々な情報発信をしています。また企業向けにWeb3に関するコンサルティングや、社内研修、コンテンツ制作サポートなども提供。さらに企業向けコミュニティ「Web3 Business Hub」の運営(Kudasaiと共同運営)しています。 これから「あたらしい経済」時代を迎える すべての個人 に、新時代をサバイバルするための武器を提供する、全くあたらしいWEBメディア・プロジェクトです。

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