「Ethereumのスケーリングは今起きている」イーサリアム財団エグゼクティブディレクター宮口あや氏インタビュー(2)

特集 動画と音声と文字で学ぶ「あたらしい経済」

宮口あや

動画と音声と文字で学ぶ「あたらしい経済」

読者の方のニーズに合わせてコンテンツを提供する企画「動画と音声と文字で学ぶあたらしい経済」。ブロックチェーン/仮想通貨(暗号資産)のキープレイヤーを取材し、さまざななメディア形態でお届けします。今回はイーサリアム財団エグゼクティブディレクターの宮口あや氏のインタビューをお届けます(第2回/全3回)。

イーサリアム財団エグゼクティブディレクター 宮口あや氏 インタビュー #2

イーサリアム財団(Ethereum Foundation)エグゼクティブディレクターである宮口あや(Aya Mitaguchi)氏に「なぜ分散化が社会を良くすると考えるか」「Ethereumの開発スピードと分散のバランスについて」「Libraへの見解」について語っていただきました。

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Transcript

竹田:宮口さんが分散という言葉の定義を教えてください。

宮口:あまりにも分散っていう言葉が使われすぎて、自分でもよく使っていたんですけど、確かにわからなくなりますよね。例えば日本語ででも「分散」という漢字が意味しているだけではなく、それぞれ使っている方によって定義が変わってきてしましますよね。

「うちは分散型技術使っています」って聞いたときに「どういう意味ですか?」ってそれ以上掘り下げなきゃいけなくなってきていると思います。私個人としては前回のインタビューで言ったように、そもそも力が偏ってしまったところを不均衡を直すという意味合いで使っています。一方の力を他に移して、一方の力を小さくすればいいというようなことではなく、簡単に言うと歪んでしまったところを直せるものという意味合いです。

自分のIDは自分のもの。でもそれがもうわからなくなるくらい情報も誰かに操作されているかもしれないような現状がありますよね。お金も自分のお金なんですけど、「銀行に預けている=自分のお金ですか?」と考えたことがないじゃないですか、日本で育つと。

考えなきゃいけないところに住んでいる人達の方が世界ではたくさんいます。そういう人達にそういったIDやお金みたいなものを自分の責任で自分で管理する力をあげるというよりは、本来みんなが持っているものを返せるっていうのが私の定義です。そこがそもそも分散型であるブロックチェーンに興味を持った理由ですね。そしてイーサリアムはそれを追求していると思います。もちろんそうじゃないところに興味を持っている人もいるんですけども。

例えばプライバシーの技術を考える時、それぞれやっぱりビジョンがみんな一緒ではないですよね。プライバシーの技術をどうしていこうかって、そこのビジョンで大きく変わると思うんです。定義はみんなバラバラでいいと思うんですけども、前位に比べると聞く側からしたら気をつけた方がいいですよね。

竹田:例えば僕も宮口さんがおっしゃったように、分散化した方がより社会は幸せになると思うんですけども。一方でお金などは管理してもらった方がいいと思う人はたくさん、特に日本の場合だと多いと思うんですけど。そういう状況の中、宮口さんはなぜ分散していった方がより社会が良くなっていくとお考えですか?

宮口:私は逆に言うと全部分散すればいいって思っているわけではなくて。便利なものを不便にする必要はないと思うんです。本当に中央集権が不便にしている場合は、そこは均衡を保った方がいいと思うんですけど。

でもアナーキストでもないので、全部分散にすればいいってことでもないです。デモクラシーかって言ったら、デモクラシーとDecentralizationっていうのは違うと思うんですよね。今のイーサリアム財団もそうで、中央集権型と良いリーダーシップとはというようなテーマで色々話をすること多いです。

現存する力を全部バラバラにして分散したら世の中は良くなるかって言ったら、そうではないと思っています。そこには色んな要素、例えば教育などがすごく大事だと思います。イーサリアムでいわゆるブロックチェーン上で技術の決断をガバナンスする、音チェーンガバナンスが良いっていう人もいいます。

それもみんなが色々意見があると思うんですよ。私も個人的にだし、ヴィタリックもそうなんですが、まだそれはいい決断だとは思っていなくて。

それはまだ技術がレディーではないっていうのもそうだし、例えばイーサリアムの技術の大事な決断を一個人で誰にでも分散したほうがいいですかって言ったら、そうじゃないとも思うんですよね。

だからエキスパートはエキスパートで存在して、その人達が管理してくれるから安心できるものはこれからも残っていくだろうし、それはあえて無理に壊す必要はないと思います。

ただ今みんなの生き方が自然に、個人の生き方がインターネットでなんでもできるようになってきていますよね。そして「無理に大きな組織を保っておく必要がなくない?」というものがいっぱいできてきているじゃないですか。

私は人々の生き方と現行のシステムのギャップがあることが日々感じていて。

生き方でいうと、私は今もうベースがほとんどなくて、サンフランシスコに住んでいると言いながらサンフランシスコに今年2か月もいないんですよね。世界中色々と旅している中で、毎回その国の現金のことやパスポートやビザのことを考えなきゃいけない。

そんな時にちょっと考えさせられるんです。IDって何なんだろうとか、組織の在り方って合っているのかな、、税金の払い方って今の人々の生き方に合っているのかなとか。でもいま銀行で口座を作ろうと思ったら、どこに居住しているかという証明が必要で、例えば電気代の支払伝票とかも見せなきゃいけないんですよ。

それ見せるのも、無理しなきゃ見せられないみたいな、無理やりどこかに住んでることにして見せないといけないみたいな。今のモダン社会っていう今の生き方と、既存の大きな体制が作ったシステムの間に既にズレがすごい出てきていると思います。

それを変えていくために自然に分散にしないと、もっと個人よりな仕組みにならないと、色んな事に無理がかかると思うんです。その無理がかかっている部分は早く分散したほうがいいとは思いますが、あえて便利なことは分散させる必要もないわけで。

日本って結構色んな事が便利なんで(笑)、だからこの問題は難しいんですよね。「いやブロックチェーン要らないと思ったら別にブロックチェーンやらなくていいんじゃないんですか?」って思うときもある(笑)

だから本当に必要なところでコスト使ってほしいし、最近「これだからブロックチェーン意味がある」っていうプロジェクトなどを見ることができるようになってきました。そういうの見るといつも私興奮するんですけど。やっとここにきてブロックチェーンをストーリーとして伝えられるようになってきたと思います。他の技術じゃできないよねっていうものが出てきています。だから超分散型主義かとデモクラシーとを結構一緒にする人がいますが、そうすると何も決まらないよねって思うことがありますね(笑)

イーサリアム財団の役割がコーディネーターと前回のインタビューで言いましたが、財団も今は人間でマニュアルにコーディネートしているわけです。それはまだ今のところ必要なことなんですよね。

本当にDecentralizeで全部ディシジョン・メイキングな、例えばDAOファンドなどが今できてきていて、実験的にやっているコミュニティメンバーがいるんです。イーサリアム財団が「すぐにやった方がいいから」って言ったら、「技術的にはやれなくはない」って進めてくれているようです。ただすべてが今それでベストな決断ができるかっていうところがまだ分からないと思っていて。

実験にはいつでも「ぜひやってください」と財団としても資金出しているんですが、私たちとしての財団の大きな決断にはまだ使ってないんですよね。やたらめったら分散するのは、あまり本末転倒になっちゃうので良くないかなって思ってます。

竹田:僕自身も感じるんですが、分散型組織において、とはいえ誰かが意思決定しないと次にどんどん進んでいかないですよね。つまりスピード感の問題ってすごくあると思うんです。そのあたり今までイーサリアム財団やコミュニティを運営してきた中で、そのスピードを取るか、分散を取るかについて考えられたことがあるかなと思うんですけど。そのような場合はどのように対応されてきたんですか?

宮口:その時は長期のビジョンに立ち戻るようにして、その上でどのバランスがいま一番いいかを考えるようにしています。イーサリアム財団が「こうした方がいいと思う」ってコミュニティに言ったら、みんなそれ聞き入れちゃうと思うんですよね。だからこそすごく気をつける。ヴィタリックが言ったらみんな聞き入れちゃうと思うんですよね。

だからあえて言わないようにすることもあります。よくみんなでディベートする時に個人的に「どう思う?」って彼にメッセージで尋ねることがあって。そうすると大体二人の意見が一緒なんですが、でもそのやりとりを表でやってしまうと全体が流されてしまうかもしれないですよね。意図的ではなくても、依存しすぎみたいな方向になってしまいがちなので、気をつけるようにしています。

もちろん「こっちに行きましょう」って言った方が早いんですけどね。なんか教育みたいなものですよね。わたし元教師だから思うんですが、子供に「全部こうしなさい」って言った方が早いんだけど、ずっと側でそうアドバイスし続けられないじゃないですか。やっぱり手放しして、大丈夫な方向に行くためには子供がちょっと離れて転んだりするのも見届けていかなければいけないですよね。そういった役割をイーサリアム財団はしていると言ってもいいかもしれません。

ヴィタリックも同じですね。絶対こうした方がいいと思っているんだけど、あえて言わないでいたりします。そうすると確かに時間が余計にかかるとかその時はまどろっこしさがあるんです。

でも長期的に見たらゴールにはそっちの方が早く着くのじゃないかと思っています。そのほうが私たちの行きたいビジョンに早くいけると思います。短期で見ると遅いとか、もっと強く言ってよってみんなは思うかもしれないんですけど。

それは短期的な思考ですね。そしたら例えばヴィタリックがいなくなったらどうするのみたいな問題もあるわけです。彼もずっと生きているわけではないし。私もずっと財団にいるわけではないし。だからちょっとガイドをしながら、あまり口出ししすぎないバランスが実は計算してないようで、結構計算しているんです。あまり言う機会もないし、計算していると表でいうことでそれはそれで何かを動かしちゃうんで、あまり言わないようにしてます。

竹田:ノードもコンソーシアムチェーンだとわかりやすく誰がどのように動いてほしいかを選べると思うんですけが。その流れがFacebookのLibraとかを筆頭に出てきた中で、イーサリアムとして、Libraに対して、今どのようにお考えなんですか?

宮口:Libraの質問はたくさん受けるますね。そして私はLibraの人達とも話しているので、今どのあたりにいるのかも聞いています。それでいうと、今はまだ全然あまりどうなりますかねっていうところまでいってないんですよね。ただなぜあのタイミングでアナウンスしちゃったんだろうっていうくらい、かなりはやくアナウンスしちゃったんで色んな大騒ぎになっているんですけど。

いい意味でも悪い意味でも、Faecbookはそれだけ大騒ぎになる力のある会社なんですよね。私はLibraについては発表前から聞いていたんで、このタイミングで「出ちゃったね」っていうのは思いつつも、私たちとして別にやることが変わることはないですね。できるだけLibraの人達が正しい方向に行けるように「一緒に話をした方がいいんであればしますよ」みたいに話しています。

でもやっぱり大きな会社なので、作っている人達と会社の決断と、やっぱりビジネスである限りそこはいつもネックにはなると思うんです。私たちは個々の人達と話をしているので、色々大変だろうなとは思いますね。業界にとってあまりネガティブにならないように頑張ってほしいと思ってます。

だからもちろん別に潰れてくださいとは思わないですし、Libraだからこそできることがあるかも知れないと思っています。ただ大きすぎるがゆえにの問題はあるかもしれません。そして作っている本人たちも「Libraの一番のメリットはFacebookであることで、一番のデメリットもFacebookであることで」と言っていました。それはまさにそうだなと思います。

でもまだあまり今の時点でどうなるかっていうほど色々決まってないと思います。なんか集まっちゃいましたけどね(笑)、みんなどうするのかっていう状況じゃないかな。まあ彼らがイーサリアムと全く同じことをするっていうのは無理でしょうね、Facebookだからこそ。

でもある意味リップルとかに比べて本当に銀行がなくても、Facebookのユーザー情報でクレジットとかもそのまま使えてできるようになるだろうし。

どのくらいそのに世の中の規制局が入ってくるかですよね、いつも同じことですけど(笑)。技術が難しいっていうよりは、そこが難しいですよね、やっぱり。大きいところなんで見張られ度がもっとものすごいですよね。私も結構そっちを通ってきた人間なんで、「大変だね」って彼らに言ってるんですけど(笑)。

設楽:この数年でブロックチェーンやイーサリアムに色んな企業からの関心とかも増えてきている中で。とはいえイーサリアム2.0になるロードマップは時間かかりすぎじゃない?」って意見も出てきていると思うんです。いわゆるスタートアップのイノベーションスピードで言うと遅いんじゃないかって。それについてどう思いますか?

宮口:技術自体のスピードについて、実は割と誤解されている人が多いんですけど、イーサリアムが完成するなるタイミングが遅くなったんではなくて、プルーフオブステークとシャーディングを別で前はプランしていたのを、一緒にしたから今遅れているだけで全体のエンドウォールとしては変わってないんですよ。

前はもっとキャスパーのメインネットが早く終わってとプランしていたのを、それらを一緒にやった方が長期的には絶対いいからっていうことで。全然ダントツ良い方法を考えています。このワンステップ目は遅くなるんですけど、最終ゴールは変わっていないです。これについてはDevcon5で大きなアナウンスメントがあります。

今私たちが伝えなきゃいけないことの1つが、スケーリングは完全に自信をもって、「今起きます」と言えるようになってます。今までもそんなに自信をもって、大げさなことは絶対に言わないメンバーなので、自信なかったら自信あるって言わないんですけど。

今もヴィタリックも謙虚にたまにそこを突き詰められると、「いや今本当に起きてるよ」としか言わないですよね。あまりちゃんとしたアナウンスメントしてないから、「意外とみんな知らないよ」ってコミュニティの人とかに言われたりします。このまえサンフランシスコのDevのミートアップをオーガナイズしている友達にも「結構みんな本気で今度こそ今起きるって知られてないよ」って言われました。だからちゃんと伝えた方がいいよねと今は思ってます。

今年の末、来年の頭で本当にそれが見えるようになります。だから今までは「大丈夫?」って思っていた人達も、「あ、本当に起きる」と分かっている人達に合わせてどんどんビジネスのプランしてきています。だから多分もっとはっきり「はい。プルーフオブステークになりました」みたいに見えると思っていた人達は、ちょっと遅いって思われているかもしれないですが。

確かにビジネス側からしたら大変ですよね、「おいおいおい」って感じだと思うんですけど。その辺について研究者はそういう考え方しないので、彼らがそういう考え方をすることもまた問題で。でももうちょっとDev側の気持ちを考えられる人も必要だと思っています。そしていま割といいメンバーがうちにもいます。

そのへんちゃんと意思の疎通をするというか、Dev側の事情が分かって研究するみたいなのを、できるだけコミュニケーションするようにはしていますので、前より全然いい状態だと思います。一人とか二人とかそういうことできる人がいると、それが上手くいくんですよね。。

だから遅いって言っているそういう人達の意見もごもっともかもしれないんですし、「大丈夫なの?」って騒いでいる人達もいて、いままでは「でも自分達はスケーリング起きるの信じているから」と言ってきたんですけど、でも今は「本当に起きる」といえる感じですね。

※このTranscriptは読みやすいように一部内容を編集しております

(つづく)

→つづきはこちら「Devcon大阪に込めた想いとイーサリアム財団の今後の活動」イーサリアム財団エグゼクティブディレクター宮口あや氏インタビュー(3)

→前回の記事「「Ethereumとの出会いから現在」イーサリアム財団エグゼクティブディレクター宮口あや氏インタビュー(1)」

この記事の著者・インタビューイ

宮口あや

南山大学を卒業、高校教師を務めた後、米サンフランシスコ州立大でMBA取得。2012年に開発途上国の子どもを支援する「TABLE FOR TWO」に勤務。その後、米国の仮想通貨取引所「Kraken(クラケン)」在籍時の2014年に「Mt.Gox(マウントゴックス)」の破産手続き支援を行う。2014年設立の日本価値記録事業者協会(JADA)の創設メンバーの一人。2018年2月、ビットコインに次ぐ時価総額世界2位の暗号通貨であり、ブロックチェーン技術を用いたプラットフォームである「イーサリアム」を支える、Ethereum Foundationに参画。現在、Ethereum Foundation Exective Directorを務めている。2019年World Economic Forumグローバルブロックチェーン評議会委員に任命される。