「史上最高値更新のビットコインに多くの企業は投資すべき?」米上場企業がビットコインへ投資した理由

特集 企業のビットコイン投資

竹田匡宏

2万ドルを突破し史上最高値を更新中のビットコイン 

新型コロナウイルスへの対策として各国の中央銀行が民間消費や企業投資を促すために莫大な量の通貨を発行した。それによって各国の企業や投資家が現金を従来の金融資産である株式や債券へ変える動きが加熱している。

そんな中、米国で大手企業がその投資先のアセットとして暗号資産(仮想通貨)「ビットコイン」を加えたことが今年大きな話題となっている。

2020年後半にかけてのビットコインの価格は上昇しており、2017年の仮想通貨バブルと言われた年を超え、本日12月17日ビットコイン(BTC)の価格は2万ドルを突破し過去最高値を更新している。そしてこの今年後半の価格上昇の要因の一つにも、大手企業らのビットコイン購入が挙げられている。

今年ビットコインへの大規模な投資を行って話題を呼んでいる米上場企業はスクエアとマイクロストラテジーの2社だ。

この記事では「企業のビットコイン投資」に焦点をあてて、この2社がビットコイン投資の理由を振り返り、そして今後の動きについて予想していく。

米国企業のビットコイン投資の現状を考察

今年大規模なビットコインへの投資を発表したマイクロストラテジーは1989年に誕生し、様々な業界の企業のビジネス・インテリジェンス(BI)ツールを開発・提供している企業だ。そしてマイクロストラテジーは1998年に1株12ドル400万株のIPO(新規公開株式)を行った。

なおマイクロストラテジーの筆頭株主には世界最大クラスの資産運用ファンドブラック・ロック(BlackRock)やバンガード(Vanguard)が、名を連ねている。つまりブラック・ロックとバンガードも間接的にビットコインへ投資を行っていることになる。

ところで、なぜマイクロストラテジーはビットコインへ投資を行ったのだろうか。

マイクロストラテジーは21,454BTCを手数料と経費を含めた取得原価約250億円(2億5,000万ドル)で購入したことを2020年8月11日に発表した

マイクロストラテジーの発表資料の中で、CEOであるマイケル・セーラー(Michael Saylor)は次のようにビットコインへの投資理由や認識を語っている。

マイケル・セーラーはビットコインへ投資した理由として「ビットコイン投資は、マイクロストラテジー の新しい資本配分戦略の一環であり、株主の皆様の長期的な価値を最大化することを目指すものです。また今回の投資は、世界で最も広く普及している暗号通貨であるビットコインが、信頼できる価値の貯蔵方法であり、現金を保有するよりも長期的な価値向上の可能性がある魅力的な投資資産であるという当社の信念を反映したものです」と語っている。

またビットコインに対してマイケルは「10年以上前に誕生して以来ビットコインは、個人と機関の両方にとって有用な特性を持つグローバルな金融システムの重要な要素として浮上してきました。マイクロストラテジーは、ビットコインを現金よりも優れた合法的かつ合理的な投資資産として認識しており、そのため、ビットコインをトレジャリーリザーブ戦略の主要な保有資産としています」と話している。

マイクロストラテジーは8月11日にビットコインへ投資をしたことを開示して以来、翌9月には約182億円(1億7500万ドル)分のビットコインの追加購入を実施している。

さらに12月5日には約52億円(5,000万ドル)の追加購入したことを発表している。

またCEOのマイケル・セーラーは個人としても17,732 BTCを所有していることを10月28日に明らかにしている

スクエアのビットコイン投資

一方同じく大規模なビットコイン投資を行ったスクエアは2009年に誕生した米カリフォルニア州サンフランシスコに本社があるモバイル決済企業。

2015年11月19日にニューヨーク証券取引所へ1株11.2ドルで上場している。

ツイッターの共同創業者として日本でも有名なジャック・ドーシー氏がスクエアの創業者であり、現在CEOを務めている。

スクエアは小売店向けのPOSサービスやモバイル決済・送金アプリCash Appを提供している。Cash Appにはユーザー同士のP2P取引、銀行アカウント間の入金・引き出し機能などがある。

さらにスクエアはビットコインの購入サービスをCash App内で提供していて、このサービスが非常に好決算である。

Cash Appの2020年第3四半期ビットコイン総売上は、約1,688億円(16億3,000万ドル)で売上総利益(粗利)は約33億1,300万円(3,200万ドル)であったことが決算書によって11月5日に明らかになっている

ビットコインの総売上は前年同期比で約11倍、売上総利益は15倍に増加している。ちなみに2020年第3四半期のビットコイン売上総利益はスクエア全体の売上総利益約822億円の約4%に及んでいる。

そしてスクエアは4,709BTCを10月7日に購入したことを明らかにしている。その際のビットコインの取得原価は約53億円(5000万ドル)。1ビットコインあたりの価格が10,600ドルの際にビットコインを購入している。

スクエアがビットコインへ投資を行った理由は、ビットコイン投資に関するスクエア社の説明文書で次のように説明されている。

「暗合資産の急速な進化とマクロ経済と通貨体制の観点からの前例のない不確実性を考えると、今がスクエアの主に米ドル建ての貸借対照表を拡大し、ビットコインへの有意義な投資を行うための適切な時期であると考えていて、ビットコインを世界経済のエンパワーメントの手段として捉え、世界中の個人が世界的な通貨システムに参加し、自らの経済的な将来を確保するための手段であると考えている。またビットコイン投資は私たちのミッションをさらに推進するための重要なステップだ」

またスクエアはビットコイン関連のコミュニティやファンド作りを行っている。例えばクリプトカレンシー・オープン・パテント・アライアンス(Cryptocurrency Open Patent Alliance:COPA)という非営利団体を立ち上げている。

このコミュニティは暗合資産のイノベーションを奨励し、特許を取得した暗号資産関連の発明へのアクセスを開放し、企業や個人が特許侵害から身を守ることを支援している。

さらに12月8日にスクエアは、ビットコイン・クリーンエネルギー・インベストメント・イニシアチブ(Bitcoin Clean Energy Investment Initiative)の設立を発表している。

スクエアがこのイニシアチブを設立した理由は、ビットコインのエコシステム内で自然エネルギーの採用と効率化を推進する企業を支援するためだ。

そしてスクエアは約10億4,000万円(1,000万ドル)をこのイニシアチブへ拠出し、スクエアはビットコイン投資などで得た利益をこのイニシアチブへ再投資する意向も示している。

ジャック・ドーシーが語るビットコイン

なお2019年に、あたらしい経済はジャックドーシー単独にインタビューをした。その際も彼はビットコインに対して好意的なコメントをしている。ここにそのインタビューの一部を掲載する。

ジャック・ドーシー:インターネットにはネイティブ通貨が存在すると思います。そして、ビットコインは、そのための競争相手としては最強だと思います。ビットコインは10年以上前から存在しています。その流動性と真正性という点で、多くのテスト(試練)を受けてきました。だから、ビットコインには強い回復力があると思います。

私がビットコインを好きなのは、その背景にある哲学があるからです。ビットコインはインターネット上で開発されました。ビットコインはインターネットに根ざしていました。結果的には、インターネットが最終的にネイティブ通貨を持つようになると思います。

そして、インターネットは本当に多様性と境界線を取り除くことができるので、世界はどんどん小さく感じられるかもしれません。その最後の大きな要素が通貨です。特に暗号資産とビットコインは、その答えを提供していると思います。

人々がよりアクセスしやすく、より速く、より効率的にする方法を開発し続ける中で、ビットコインは日々ますます使いやすくなっています。私はこれらの発展にとても興奮しています。そしてそれはスクエアにとっても大きな助けになると思います。

(ジャック・ドーシー「あたらしい経済」インタビューより 2019年3月26日)

今後「企業はビットコイン投資」は拡大するのか?

企業のビットコイン投資の鍵を握るのは、ビットコインを含めた暗号資産の投資執行サービスおよび資産管理、いわゆるカストディサービスの充実度合いだ。

マイクロストラテジーは米コインベースと協力して、取得原価約442億円(4億2500万ドル)でビットコインを購入したことを12月1日に明らかにした

そしてマイクロストラテジー、スクエアの動きに続くように、1851年設立の米生命保険会社マスミューチュアル(MassMutual)はビットコイン機関投資家向けソリューションを提供するNYDIGと協力して、約100億円(1億ドル)相当のビットコインを購入したことを12月10日に明らかにした

NYDIGはマスミューチュアルのビットコインの保全を担う。このように企業がビットコインへ投資する環境は整いつつある。

一方企業のビットコイン投資について懐疑的な見解もある。

パークシャー・ハサウェイのウォーレン・バフェット 氏は2020年2月24日にCNBCの取材の中で「私はいかなる暗号資産も保有していません。そして今後も保有しないでしょう」と話している。

また著名なファンドマネージャーであるレイ・ダリオ氏は11月18日に「ビットコインは多くのものを購入することができますが、交換の媒体としてはあまり良くないと思います」とツイートした

さらに富の貯蔵手段として選ばれつつあるビットコインに対して「ビットコインは富の貯蔵手段としては不向きで、ボラティリティが大きく、必要なものの価格との相関性が低いので、購買力を守ることにはならないでしょう」とツイートを続けた。

そしてビットコインのグローバル通貨としてのポテンシャルに対しては「政府がコントロールする通貨に十分な競争力と脅威を与えられるほどの成功をビットコインが収めれば、政府はビットコインを禁止するでしょう。また、中央銀行が保有する準備資産の中で3番目に高い金とは異なり、中央銀行や大手の機関投資家、企業、多国籍企業が利用しているとは思えません」と結論づけている。

企業やキーパーソンがビットコイン肯定派、懐疑派と様々な立場から意見を述べているが、フィデリティの2020年の暗号資産投資に関するリサーチを考慮すると、ビットコイン肯定派の企業や投資家の方は増加傾向にあると考えられる。

2021年は果たしてマイクロストラテジー、スクエアらに続く企業の動きはあるのだろうか?

もし多くの企業がビットコイン投資を積極的に行えば、暗号資産にとってのフェイズが大きく変わるきっかけとなるだろう。まずは新規参入しているマイクロストラテジー、スクエアは2021年の決算報告がどのような内容になるのか、注目である。

文:竹田匡宏(あたらしい経済)
編集:設楽悠介(あたらしい経済)
写真:大津賀新也(あたらしい経済)

この記事の著者・インタビューイ

竹田匡宏

兵庫県西宮市出身、早稲田大学人間科学部卒業。 「あたらしい経済」の編集者・記者。

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