仮想通貨の未来
−ビットコインを含めた仮想通貨が10年後、100年後にどのように社会と関わっていると想像しますか?
ビットコインを含めた仮想通貨が世間に認められたのは、価格が上がり始めた2017年の夏前だと思っています。そしてそのきっかけはICOだと僕は思っています。
ICOの中でも「Basic Attention Token」というトークンを発行する次世代型ウェブブラウザ「Brave」プロジェクトのICOです。そのICOが30秒で35億集めたのは、市場にとって非常にインパクトが大きかったのを強く覚えています。それをきっかけにICOが世界中で注目され、スタートアップ含めた大手のテック業界も一気にビットコイン含め仮想号通貨に注目し始めた感覚でした。
さらに、ビットコインは既にマネタリーベースだと小さい国家の通貨規模を超えています。
例えばジンバブエの人達は、商取引をした時にジンバブエドルとビットコインどっちを受け取りたいかというとビットコインと答えるでしょう。理由としては、ビットコインがジンバブエの通貨よりも信用価値が高いからです。さらに今後は、ビットコインのマーケットが拡大するにつれて、ジンバブエのような国がもっと増えていくと思います。
そのような状況になると、貿易にも影響して行きます。これまでに外貨準備高でドルを持っていた国が、もしかしたらビットコインや他の仮想通貨を持つようになるかもしれないです。ちなみに、日本が保有している外貨準備高は世界一の水準となっています。
世界中で、資金調達の形が変わってきている
アメリカでは現在、バークレー市がICOしようとしています。カリフォルニア州シリコンバレー近くにあるバークレー市は、アウトサイダーな街で、ウォール・ストリートが嫌いと公言しているような地域です。
ICOの中身としては、市債のトークンをパブリックで売り出そうとしているということです。今までは市が債権を発行して売り出すことってできなかったと思うのです。それはもしかしたらSEC(Securities and Exchange Commission)に登録して、ニューヨーク証券取引場に登録すればできたかもしれませんが、そのコストは莫大です。
しかし、今はブロックチェーンでトークン化して透明性を高くした上で、それを世界中に超低コストで売り出せるわけです。これによって自治体や新興国が簡単に資金調達できるようになる。
アフリカや東南アジアなどの新興国の中には、上場市場があるのに会社10から15社くらいしか上場していない国が結構あります。そういった国では、上場市場に売り出すくらいならパブリックで売り出した方が良いと多くの人々は思っています。
例えばカタルーニャ地方はスペインからずっと独立したがっています。
彼らが独立できない理由の一つは独立後のお金の問題です。その問題を解決するために、カタルーニャ州が独立するということで債権をトークン化して売り出し、市民権もトークン化して売り出すのは非現実的な話ではないと考えています。そうするとカタルーニャ地方は3桁億円くらい集めることができて、「いざ独立」といった可能性もあると思います。
ヨーロッパの国々を見ていると、独立したい州や市は20ヶ所くらいあります。そういった地域がこれからブロックチェーンで行政システムを作って独立を目指し、その先行事例を共有していくと、世界的に大きなトレンドが生まれてくると思います。既存の国家という枠組みからそれらの地域が独立を実現するまでには、もちろん時間軸としてはまだ何十年や半世紀くらいかかるかもしれないですが。
ビットコインは生活で使えるようになるか
−私たちがビットコインで買い物できたり、ご飯代を支払えたりする未来は遠いでしょうか?
僕はそういう決済通貨としての使い方もあるとは思いますが、そこがメインじゃないと思っています。なぜならビットコインは通貨として、既存の通貨と比べて明らかに欠陥があるからです。
一般的なお金は市場に供給が増えたら、需要が高まって割高になるから金融緩和して冷やしたり、逆なら引き締めたりという機能を中央銀行が果たしています。
そのように中央銀行が市場の供給量をコントロールしているので、物価が維持されるのです。
一方で、ビットコインは供給量のコントロールをする機能を持っていないので、「ビットコインの時価総額が拡大して流動性が上がったら、ボラティリティが下がってお金として使える」という意見もありますが、個人的な意見として、恐らくそれは間違っていると考えています。
ビットコインは10分に1回新しいブロックが採掘されて、そこに報酬があって新規のビットコインが採掘されるという仕組みなので、供給が硬直的ですよね。なので、延々と価格が安定しないため、支払いには向いていないと思います。
トランザクションタイムの問題は、次第に解決されて使いやすくなると思いますが、通貨になるというのは違うと思っています。
ビットコインの価値は「共同幻想」
一言で「ビットコインの価値は何か?」と言うのは難しいですが、あえて言うとキーワードは「共同幻想」です。ビットコインの秘密鍵はただの256ビットの値です。その整数値に世界中の人が興味を持っているという事実があります。
一方で金(ゴールド)を見てみると、あれはただの原子なのですが、供給量が限られていて、人類がどんなに頑張っても複製ができない、かつ本物としての証明ができるため、今も価値があるとみんなが信じている。
ビットコインも金(ゴールド)の性質を持っているし、改ざんが極めて難しいという10年間の実績がある。
これらが持っている価値とはなんだろうかと考えると、「価値がある」という共同幻想を作り上げる要素をどれだけ持っているかに寄っていると思います。
「ビットコインの価値の源泉は電気代だ」という話がありますよね。
ビットコインを採掘する人がそれだけのコストを払って生成しているから、ビットコインには価値があるというのは、一つの真実ではあります。
「みんな価値があると信じているから価値がある」というのも正しいですが、もう少し共同幻想という言葉を因数分解する必要があると思います。
僕が因数分解をして説明させてもらうと、ビットコインは、作るのに電気代がかかる、誰かが無から作るものではないから信用できる、誰も改ざんできないから信用できるなどの様々な要素があります。
ビットコインが共同幻想を作り上げる要素をどれだけ持っているかを考えると、他のコインよりも強いのは明らかだと思っています。
仮想通貨社会の理想像
−平野さんの考える仮想通貨社会の理想像とは?
人々がそれぞれ経済圏を選べるようになるが大事だと思っています。Facebookがユーザーのデータを無断利用して儲けていてバッシングされていますよね。しかし僕たちはFacebookやGoogleにデータを引き渡す代わりに、良いサービスを無料で享受できています。
自分のデータぐらい、サービスが無料で受けられるならいくらでも渡すという人や、自分の提供するデータとサービスが割に合わないという意見の人、そもそもGoogleなど企業がデータを持つのは論外と思う人など、色々な人がいると思います。
それぞれの人間が選択肢を持つべきだと思っていて、これからそういう世の中になるはずです。例えば、BlockStackというプロジェクトは、ブロックチェーンでのDNSの置き換えに挑戦しています。それによって彼らは、サービス提供者がユーザーの情報を無断で取れないようにするという世界を提唱しています。
これからの仮想通貨社会は「色んな選択肢が提供され、それをみんなが生きやすいように選べる」というような社会になって欲しいです。
(第3回に続く)
→第3回「ブロックチェーン・仮想通貨(暗号資産)業界の情報収集術〜HashHub 平野淳也氏インタビュー(3)」はこちら
←前回の記事(第1回)はこちら「ビットコインは過小評価されすぎだと思った、平野淳也のビットコインとの出会い〜HashHub 平野淳也氏インタビュー(1)」
参考リンク
・仮想通貨(暗号資産)とブロックチェーンに特化したリサーチコミュニティオンラインサロン「d10n Lab」
・ブロックチェーン特化したコワーキングスペース「HashHub」
(取材日 2018/7/17)