SNS「mixi」やスマホアプリ「モンスターストライク」(以下、モンスト)の開発に従事し、株式会社ミクシィ 執行役員CTOの村瀬龍馬氏にゲームエンジニアとしてのブロックチェーンの可能性や、ゲームの発展の可能性について語っていただいたインタビュー最終回です。(→第1回はこちら / →第2回はこちら)
技術発展がゲーム制作の可能性を広げる
−ブロックチェーン以外にも、世界的にさまざまな技術発展が今後ゲーム業界を盛り上げていくのではと思っていますが、どのように感じられていますか?
まずゲームの制作面においては、ゲームエンジンやクラウドの進歩によって開発環境がよりよくなっています。ゲームエンジンの機能を利用して、その会社が持っていない技術領域も容易に使用できるようになるので、昔に比べて作りたいものを実現しやすい環境が整ってきていると感じます。
ゲームで利用する技術は、学術的にもAIやCG、デザイン(ストーリー) 等、様々な研究がされていて多くの論文が出ており、目まぐるしく技術が発達しています。だからこそ、それぞれの分野で日本にもより多くの研究者が必要です。
日本と世界との話をすると、ゲーム内の言語の壁の話はよくされるのですが、強力な日英のローカライズを支援してくれる会社が日本に存在しています。言語の壁が大きいということも制作の上ではほとんどなくなりました。
逆に日本語訳も困難ではなくなってきているため、そもそもどこの国のゲームなのかを意識することはなくなったと感じています。
そしてクラウドファンディングを利用することやパブリッシュを支援する人たちもいるので、大手だけではなくインディーズの開発者や開発会社なども、世界で活躍する土壌はすでにあると感じます。
さらに世界的に見て、技術やノウハウに関しても、ゲーム業界のSIG (Special Interest Group) が細かく分かれており公開もされています。そこではポストモーテムや議論も盛んに行われているので、基本的にオープンな文化であることもいいですね。
「E-SPORTS」や「VRゲーム」は盛り上がるのか?
−E-SPORTS についてはいかがですか?
ミクシィでは「モンストグランプリ」というモンストのNO.1チームを決めるeスポーツ大会を開催するなど、E-SPORTSにも注力しています。
ただE-SPORTSをこれからより世界規模で盛り上げもう一歩先に行くためには、いくつかのアプローチが必要だと思います。
観ている人たちを魅了するために、会場とインターネット越しそれぞれ専用の演出や、観ながら自分のゲームでも楽しめるような参加型の仕組み、実況者(ShoutCasters)の育成、専用の施設、選手の育成など、いろいろなことを更にアップデートしていく必要があります。
様々なプレイヤーの形に合わせて、プレイヤーを中心とした飽きさせない仕組みを、それぞれのゲームのカテゴリーや特性に合わせて作り上げていくことが大切ですね。
スポーツの熱狂と同等の魅せ方をしていきながらも、デジタルである利点を最大限に生かして、スポーツと差別化していく必要があるわけです。だからこそE-SPORTSにはまだまだこれから世界的に成長要素があると感じています。
技術的には、注目を集めたAIでのリプレイシステムの構築や、AIを利用した実況者の支援みたいな仕組みも世界ではできているので、研究は続けていきたいです。
−VRゲームについて、ミクシィが参入する予定はないのでしょうか?
エンターテインメント事業ブランドであるXFLAGには「みんなで集まってワイワイ」というスローガンがあり、リアルで集まる体験と場を作っていくことを重要視しています。あえてリアルで集まる理由を作ることに挑戦しているので、VRゲームに本格参入することはしばらくはないと思います。
もちろんVRの技術については研究はしていますが、XFLAGがVRゲームを出すには今のところ2つの条件があると考えています。
1つは聴覚や視覚などへのアプローチをもっと研究していった結果、リアルな場と混合しても良い状態が作れること。
もう1つは場づくりの促進としてのVRの使い方です。たとえば、VRを利用したら位置情報から特定のライトフィールドな場所が出てきて、実際にそこへ行くと、アイテム取得やミッション達成、アンロックが行われるなどといったイメージです。
一方、リアルで集まることを重視するという点ではAR / MR (XR) に注目しています。それらの技術はその場でしか得られない体験や、モノの拡張で、その場にいる楽しさや話題を作っていけると思います。
−リアルの場で集まる体験と場の作成についてはどういう取り組みをされていますか?
第一に、ゲームを通じてユーザーが体験したことを人に話したくなるようなゲームデザインを心掛けています。そしてゲームでの熱狂や愛を語れるような要素やツッコミどころ、話題性のあるキャンペーンをいくつも実施しています。
また、リアル体験でしか味わえない要素をシステム上に入れるために、目の前にいる人間同士が本当に目の前にいるかということを複数の技術を利用して証明することを実験したこともあります。ゲームの世界で一緒にコミュニケーションした人と現実世界でもコミュニケーションができて、かつそれが証明できたらなんらかのインセンティブをお互い得られる、といった仕組みができたら素敵ですよね。その企画はいったん断念してしまっているんですが、そのような現実のユーザー同士を近づける仕組みをこれからも開発していきたいです。
私たちはネット上でワイワイ集まるのではなく、リアルの場での出会いも演出したいと考えています。
ミクシィの次の一手
−CTOの立場からどのようなミクシィの次の一手をお考えでしょうか?
まずモンストをIPとしてもっと根付かせていきたいですね。そしてE-SPORTSの分野にもより注力したい。E-SPORTSで熱狂を伝える方法を打ち出したいです。
そして新しいゲームの開発です。今3DSとiOS、Androidのマルチプレイができる新作を準備しています。
私たちの事業はコミュニケーションを軸にしています。プロダクトを通じてコミュニケーションが発生する仕組みをどんどん作っていきたいです。
現状はスポーツ領域もウェルネス領域もはじめていますし、メディア領域では「みてね」という家族アルバムのサービスも伸びています。
ゲームについては、ゲーム自体がしっかりと設計され、楽しくないと広まらないので、まずは楽しさベースで考えています。また、これはゲームに限らず、我々が手掛けるエンターテインメント事業全般で言えることですが、新しい技術を使うことで、ユーザーの想像を超える驚きが提供できると思うので、ゲームもAR・VR・ブロックチェーンなどの最新技術を上手く組み合わせて作っていきたいと思っています。
(おわり)
編集:設楽悠介・大津賀新也