お金や経済は作る対象に変わったが、「地球」は作れるか? 仮想地球『EXA』のチャレンジとは

特集 佐藤航陽「地球2.0」

佐藤航陽

ベストセラー書籍『お金2.0』の著者であり、様々なプロジェクトを世界規模で手がける株式会社メタップスの代表であるが佐藤航陽が個人で2018年5月発表した「EXA(エクサ)」というプロジェクトが大きな話題を呼んでいる。発表後にコニュニティメンバーを募集したところ数千人の応募が殺到。このプロジェクトは衛星データとブロックチェーンを活用して仮想空間にもう一つの「地球」を作るプロジェクトだ。それも現実の地球と逆相関する経済をもった地球。彼は『お金2.0』はこのEXAのマニュフェストを含んだ、いわばホワイトペーパーのようなものだったと語る。なぜ彼は今「地球」つくろうと考えたのか。多くの謎に包まれた「EXA」プロジェクトの真相に迫る。

−EXAではなぜ「地球」をテーマに選んだのでしょうか?

もともと私は宇宙の産業に興味があったので、衛星データを使って何かしたいと考えていました。実際、宇宙事業もやってみて、その中でロケットなどハードを作るのはやはり大変だと感じていました。私自身ロケット開発のインターステラーの株主ですけど、自分のようなネットの人間が、イーロンマスクみたいに0からハードウェアを作ってやっていくというのは、めちゃくちゃ難しい。それは私には向かないと思いました。

でもロケットは難しくても、衛星のデータ活用や通信などのネット寄りの部分であれば、自分でも何かできるんではないかと思って、できるその領域を探していました。衛星データと何をかけ合わせようかと。

ただ今の衛星データビジネスは、データ解析を企業に販売するデータコンサルみたいな事業ばかりなんですよ。これまで私自身もずっとデータビジネスをやってきて分かるんですが、これって全然スケールしないので、それはやりたくないと思っていた。

はじめは地球を3Dモデリングしようと考えた

その時はじめに考えたのは「衛星から地球全体の3Dデータをコピーしてもう一個の地球を作ろう」というものでした。地球上の自然とか建物とかすべてを空間データとしてコピーして、それをもう一個つくって、VR空間にしようと思っていたんです。

ただそれをやるにはモデリングとかレンダリングに相当なコンピューターのリソースが必要で、今の技術だと数年以上かかるだろうなと。そこで3次元の高さという情報を省いて2次元の位置情報で何かできることはないかと考えていました。

世の中の格差をテクノロジーでどうなくすか?

一方、ブロックチェーンなどが世の中に出来るまえから、私には「世の中の格差をどうなくすか」という人生の課題がありました。その課題解決のネタもずっと探していた。世の中の格差を是正することはできないかと。

そこで位置情報を利用して現実経済と逆相関する経済を作れないかと思ったんです。現実世界のお金持ちが仮想世界ではチャンスが少なく、逆になかなかチャンスがない例えばアフリカとか東南アジアの人たちには有利になるような世界を作れないかと。

衛星データから得た現実の位置情報とブロックチェーンのトークンをつなぎ合わせて、現実経済と逆相関する世界(経済)をつくれば、世界の平均化が出来て格差も縮小できるんじゃないかと仮説を立てたんです。それがEXAのアイデアの原点です。

−EXAのアイデアの中で、まさに現実と逆相関する地球を作るという点が非常にユニークです。その意図は?

格差というのは、誰かが悪いことしているから生まれるわけではなくて、結局物理的な現象だと思っています。いろんな人が取引をしたり、情報を交換したりする中で必然的に誰か勝者が出て、敗者が出て格差ができる。格差とは動的なネットワークが代謝を繰り返していく中で発生する「偏り」であり、止められない物理現象だなと分かったんですよね。

たしかに、格差は政治とか行政の仕組みである程度コントロールできるけど、決して0にはできない。だから今回はある意味格差を肯定して考えました。

現実と裏返しの格差を起こす「負の経済」をもう一個つくればいいと思ったんです。格差はとめられないものなんだと一旦認めて、真逆のものを作り、2個足してプラスマイナス0になるようにすればいいと思ったわけです。

位置情報と連動する EXA独自のマイニング方法

−マイニング方法について具体的に教えてください。

EXAトークンのマイニング方法は、例えると世界中で10分に1回くじ引きができて、それに当たったらトークンがもらえるという仕組みです。基本的にはビットコインのような複雑な計算処理をユーザーに負担させるということはしません。そしてそのくじ引きの当選確率がユーザーの位置情報によって変わるよう設計しています。その当選確率を前述の格差を平均化するために、現実経済の発展度と逆相関させているわです。

その具体的なマイニング方法は、本当にそこにいるだけでいいようにしたいです。何もしなくても、その場所に行ってそこにいるだけでトークンが付与できる仕組みを考えています。さらにそのマイニングにはPCは必要ないです。ただアプリをインストールしたスマホを持って特定の場所にいればいいだけです。他の仮想通貨ってけっこうマイニングはハードル高いじゃないですか。一方EXAは誰でもスマホ一つで簡単に参加できるように考えています。

どうやって位置情報が正しいと証明するか

—しかしGPS情報って偽造することもできますよね?どんなコンセンサスアルゴリズムで不正がおこらないように考えているのですか?

現状はEXAのコンセンサスアルゴリズムは「Proof of Existence」とか「Proof of Location」などとメンバーでは呼んでいます。

この位置情報を確実に証明する技術というのが一番難しい部分です。本当にその人がそこに存在しているかどうかの証明が必要になります。

不正をはたらこうとするチート行為者は確実にGPS情報を偽造してくると思います。だからチート行為者が何人でたらシステムが崩壊するかを計算していて、一定のパーセント以上の参加者がチート行為をしなければシステムが保たれるような設計を考えています。

あとはスマホ同士のBluetooth通信を使って、互いに承認をする仕組みも合わせて考えています。近接通信で互いに承認をすることでユーザーがちゃんとその場所にいるという証明を出す仕組みです。ただその承認者も嘘をつく可能性があるのでミステリーショッパーのような覆面パトロールもおいて、ユーザー同士が相互監視するような仕組みを設計できればと考えています。

この部分は最も難易度が高く重要なので今後渋谷などで1000人単位の実験をして、そこでチート行為者がなにをするかの情報をとって、データサイエンティストやエンジニアと確認しながらスケールを拡大させていく予定です。

EXAマイニングコストは「人の移動コスト」と「滞在コスト」

—位置情報だけでマイニングできる、ただしそのマイニングの当選確率は現実と逆相関する。そうすると東京はたぶん多くのトークンはマイニングができない。逆に夕張市はたくさんトークンがマイニングできる。そうなると実質的に人もトラフィックするから、それこそポケモンGOで地域活性というような効果が生まれそうですよね。

なので EXAのマイニングコストというのはコンピューターの計算処理に必要な電気代ではなく、人の移動コストと滞在コスト(宿泊や飲食など)なんです。

あとは今回EXAで自分の持っているトークンを特定の地理座標に埋めることができるようにしようと思っています。例えば誰かがが夕張市を復興させたいと思うのであれば、夕張市に5億円分くらい埋め込むことができる。政治家に寄付するとか、団体に寄付するのではなく、埋めとけばいいだけです。

ワンピースで海賊王が財宝を埋めたみたいに(笑)。

  

そうするとトークンを埋めたエリアの発掘確率とマイニングできるトークンの量が異常に上がるので、ゴールドラッシュと同じように、みんなが押しかけることになる。

タイムバンクは時間だけど、EXAはそれよりもっと物理的に人を動かす仕組みなのです。座標軸で現実と仮想が紐付いているので、現実に人が動いちゃう。

これがうまくいけば、ふるさと納税とか行政がいらなくなるかもしれないです。

あともちろん行政がEXAトークンを買って、埋めておくこともできる。行政の地域活性化のための政策は、「埋めときました」でよくなるかもしれないです。

EXAトークンは現実の世界の実店舗で利用できるようになるんですか?

基本は決済用には設計していないです。EXAではシンプルに「埋めるという行為と掘るという行為」のみを考えています。でも店舗側が対応してくれたり、サードパーティーが対応してくれればいいかと思っています。

あとイーサリアム上で作るので、イーサとの交換が可能になります。掘った人がイーサに変えてもいいし、イーサでEXAを買ってもいいし、それは自由だと考えています。

—ちなみにEXAトークンは仮想通貨取引所にも上げる構想はあるのでしょうか?

将来的にはあると思いますが、短期的には考えてないですね。自分たちで、取引所というよりは、交換所に近い機能を作ろうと思っています。仮想通貨取引所にあげようとすると、いろいろ面倒だったりお金が余計にかかったりするので(笑)。

だからEXAはアプリケーションと交換所がセットになる感じで考えています。仮想通貨とEXAトークンを交換する場所があるだけで十分かと。Steemitに近いですね。とにかく取引所の上場コストが高すぎるので。

—EXAの今後のスケジュールを教えてください。

2018年夏くらいには、プロトタイプを出して、コミュニティのメンバーの中でクローズドで実証実験したいなと思っています。そして年内くらいに一般公開していけるかどうか、というような予定でいます。

月や火星にもマイニングに行ける

EXAプロジェクトも、佐藤さんの構想の中では1つのパーツにすぎないように感じてます。今後このプロジェクトはどのように発展させていくイメージを持っていますか?

実は作りたいのは地球だけではないです。衛星って火星とか月にも打ち上げられます。ある意味EXAの仕組みを拡張すれば月にマイニングしに行くということも可能になると思っています、まっさきに月にいければ多くのトークンをマイニングして資金を得られる。その資金をもとに月に衛星を打ち上げた企業の宇宙開発がさらに進むみたいなことも考えています。

宇宙ベンチャーって今は全然キャッシュが回ってないんですよね、可能性しかないです。なのでこのプロジェクトはまず地球をつくりますが、そこに限った話ではないです。

宇宙の正体は「情報」であるという仮説

馬鹿げた仮説なんですけれど、私は「宇宙の正体」は「情報」なんじゃないかという仮説を持っています。今一般的には、宇宙空間の正体は物質だといわれているじゃないですか。宇宙は元素とかでできている、それが宇宙の本質だという前提として私たちは世の中を成り立たせている。でも私はこれが間違いじゃないかと思っていて。

もしかしたら情報が本質であって、情報から滲み出たのが物質なんじゃないかなと考えています。つまり逆なんじゃないかな、情報にとって物質はそれを支えるサブシステムなんじゃないかと。宇宙は実は記号でしかないということですね。

昔、相対性理論をアインシュタインと一緒に研究していた学者がいて、その人が死ぬ寸前に出した仮説が「宇宙の正体は情報なんじゃないか?そしてその情報を処理している過程こそが存在であって、物質があるかどうかは重要ではない」というものでした。もちろん当時それは認められていなかったんですけど。

でも私が経済とかコミュニティとかウェブサービスを研究した中で、あながちそれは間違っていないかもしれないと感じています。つまり情報のほうが本質なんじゃないかと。

だって経済のシステムって情報がすべてですよね。お金という情報が動いている状況があるからこそ、経済があるということを私たちは確認できているのではないでしょうか。

逆に情報処理がなくなったら、わたしたちビットコインがあるかどうかも分からないです。マイニングの計算処理をしている間だけが、ビットコインが存在していることが、みんな分かる。それがなくなると、ビットコインが改ざんされているのか、増えているのかが分からなくなる。

だから逆なんじゃないかなとおもって。そんな考えをミクロレベルから積み上げていって、もっと大きなもの、汎用性があるものが今後の議論の対象になるんじゃないかと思いました。

それでまずは地球をつくれるんじゃないかなと思ったし、コンピューターの処理能力が上がれば、宇宙そのものを作れるのではいか、と思っています。衛星から宇宙空間のデータを全部集めて、もし擬似的な宇宙ができるんであれば、人間にとって宇宙そのものが作る対象になり得るわけです。

宇宙を開拓するというのは、人類の思い込みで、本来であれば作るものかもしれない。これは経済といっしょですね。いま、経済は人間の中で分解できてきていて、自分たちで作れるねということが分かってきています。人類が次に作るものは、たぶん地球そのものだったりとか宇宙そのものだったりする可能性が高い。そう思ってEXAのプロジェクトをやっています。

※2019/12/11 追記
・EXAプロジェクトとしてテスト版のiOSアプリがリリースされました。
 →アプリはこちら https://itunes.apple.com/jp/app/id1439730014?mt=8

・EXAプロジェクトはこちら https://exa.earth/

・佐藤航陽氏の著作「お金2.0」はこちら

電子書籍版はこちらから 

(編集 設楽悠介・竹田匡宏)

この記事の著者・インタビューイ

佐藤航陽

株式会社メタップス代表取締役社長 早稲田大学在学中の2007年に株式会社メタップスを設立し代表取締役に就任。2011年にアプリ収益化プラットフォーム「Metaps」を開始、世界8拠点に事業を拡大。2013年より決済サービス「SPIKE」の立ち上げ。2015年に東証マザーズに上場。現在は時間取引所「タイムバンク」の立ち上げに従事。フォーブス「日本を救う起業家ベスト10」、AERA「日本を突破する100人」、30歳未満のアジアを代表する30人「Under 30 Asia」などに選出。2017年に宇宙開発を目的とした株式会社スペースデータを設立。