ブロックチェーンの社会実装に向け、Plasma(プラズマ)のフレームワークを開発する日本のトップエンジニア集団

特集 Cryptoeconomics Labが目指す未来

世界から評価されている日本のブロックチェーンスタートアップ企業がある。それは福岡に拠点を置くCryptoeconomics Lab(クリプトエコノミクス・ラボ)という日本企業だ。彼らが主に研究開発しているのはPlasma(プラズマ)というブロックチェーン技術。

Plasmaとは、BitcoinやEthereumのブロックチェーンと同じガバナンス条件で、トランザクションをより速く処理するための高速化技術だ。この技術開発で日本をリードする彼らが何を目指し、なぜPlasmaの開発を続けているのか。

今回はそんなCryptoeconomics Lab(以下CEL)の研究開発チームである部谷 修平氏(CTO)、堤 隆道氏(Software Engineer)、西島ゆり子氏(Software Engineer)にインタビューを行い、その先端技術の開発背景に迫った。

Plasma(プラズマ)とは何か? 

―まず初めに、小学生でも理解できるようにPlasmaを説明していただけますか?

 部谷:例えば、小学生がコンビニで100円の買い物をしたとします。いまのお金を支払う仕組みでは、間にたくさんのシステムが存在しています。つまり、小学生が正しく決済するための維持費として、裏側では沢山のお金がかかっているんです。

そして、その維持コストは商品の100円に含まれてしまっているのが現状です。小学生がその決済ネットワークのための維持費を支払うことは、多分小学生にとってなんで?と思うんではないかと思います。Plasmaは簡単にいうとブロックチェーンでの取引を高速化させて、さらに手数料をなくす技術です。

ブロックチェーンの高速化技術としてはサイドチェーンを使った手法もあると思います。Plasmaとサイドチェーンの違いは何でしょうか?

部谷:サイドチェーンを使うことでブロックチェーンのデータ処理速度であるスケーラビリティは確保できます。しかし、サイドチェーンはLayer1とコンセンサスを執行するエンティティが異なるのでトラストレスではありません。そのサイドチェーンの問題を解決するのが、Plasmaです。

Plasmaは実際にデータのトランザクションが生まれるLayer1のコンセンサスを基盤にしています。つまり、Layer1と同じセキュリティレベルを保ったまま、トランザクションを圧縮して、スケーラビリティを確保できるのです。 

ここでコンビニ決済の話に戻ります。ブロックチェーンを基盤として決済が行われるコンビニの話です。ブロックチェーンに精通している人たちは、この技術が送金や決済領域に利用できると考えています。

なぜそれらの領域で利用価値が高いかというと、Plasmaを使うことで、従来の決済・送金システムでは不可避だったカードネットワークや国際送金ネットワークへの仲介手数料を極限まで減らすことができるからです。

つまり、サービスの維持費を利用者が支払う必要がなくなります。この状況は、取引への信用を担保していた仲介業者なしでサービスを利用できるようになるということです。その意味合いではブロックチェーンの役割は本当に凄まじいです。

しかし、その代わりにブロックチェーン基盤の決済や送金システムの支払いにかかる時間が増えてしまいます。今のブロックチェーンは、まだまだ一度にたくさんのトランザクションの処理ができないのです。しかし、現在のブロックチェーンは大量のトランザクションを処理できないため、決済や送金が完了するまでに一定の時間を要します。その課題を解決するのがPlasmaなのです。

ブロックチェーンは直接的にコストを下げない

ブロックチェーンの大きな役割は何でしょうか?

部谷:世の中の人は、ブロックチェーンに対して、誤解をしています。ブロックチェーンは必ずしもコストを単純に直接的に下げるインフラではないです。

実は、コストが下がるのは、決済手数料の部分だけだと思います。そしていまの段階はブロックチェーンのユースケースの初期段階だと、僕は思っています。よりブロックチェーンが浸透すると、サプライチェーンの仲介者や銀行のATMにかかっていたコストなどが減り、Plasmaにより圧縮できると思っています。 

現状の課題は、ユーザビリティとデベロッパーエクスペリエンス

なぜCELはスケーラビリティの課題解決に取り組み始めたのですか?

部谷:エンジニアとしてのこれまでの経験上、自分にとって得意だと感じたからです。まだ1年ほどしかブロックチェーンには携わっていないですが、これまでに僕は、いくつかのスタートアップでマネージャーや開発リーダーをしてきました。

さらに、最初に立ち上げたスタートアップでは、バックエンドサービスを作って、サービスの可用性やスケーラビリティを上げるための開発もしていました。それがすごく楽しかったし、自分が得意だと感じたのです。そのような経験を踏まえて、スケーラビリティはユーザービリティに含まれるということを皆さんに伝えたいです。

西島:部谷さんの言う通りで、ユーザーがトランザクションスピードと手数料を理由にブロックチェーンサービスを避けうる状況は、スケーラビリティの問題として捉えられがちです。

しかし、それはもう少し大きいカテゴリでいうとユーザビリティの問題に含まれると思っています。速度や手数料の問題があるブロックチェーンは全くユーザブルではないですから。このようなユーザーの課題を解決するために、CELは様々なソリューションを開発しています。

ブロックチェーンの世界でユーザビリティと同じくらい大きな課題は何だと思いますか?

西島:デベロッパーエクスペリエンスの悪さだと思います。つまり、開発が難しいということです。そこでCELでは、ウェブツールやデベロッパーフレンドリーな開発方法を(ブロックチェーンコミュニティに)提案するべく日々研究を重ねています。

堤:デベロッパーエクスペリエンスには、出来上がったサービスを提供者が運営していくことも含まれます。ユーザビリティの中には、スケーラビリティ、セキュリティ、プライバシーも含まれるので、全ての課題をCELのチームで解決できません。それぞれの分野を専門にしているチームと共に課題解決していく必要があり、実際にCELでは様々なチームとコラボレーションする動きはとっています。

(第2回へつづく)

編集:竹田匡宏
写真:大津賀新也

この記事の著者・インタビューイ

あたらしい経済 編集部

「あたらしい経済」 はブロックチェーン、暗号通貨などweb3特化した、幻冬舎が運営する2018年創刊のメディアです。出版社だからこその取材力と編集クオリティで、ニュースやインタビュー・コラムなどのテキスト記事に加え、ポッドキャストやYouTube、イベント、書籍出版など様々な情報発信をしています。また企業向けにWeb3に関するコンサルティングや、社内研修、コンテンツ制作サポートなども提供。さらに企業向けコミュニティ「Web3 Business Hub」の運営(Kudasaiと共同運営)しています。 これから「あたらしい経済」時代を迎える すべての個人 に、新時代をサバイバルするための武器を提供する、全くあたらしいWEBメディア・プロジェクトです。

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