法改正で日本でのICOやSTOはどうなる?〜 B Dash Camp 2019 Spring in Sapporo 「仮想通貨の法制度と今後のビジネスの展望」イベントレポート

特集 B Dash Camp 2019 Spring in Sapporo

設楽悠介

2019年5月22日から24日に北海道札幌市で開催された「B Dash Camp 2019 Spring in Sapporo」のブロックチェーン関連のセッション「仮想通貨の法制度と今後のビジネスの展望」のレポートをお届けします。

スピーカー紹介

スピーカー:福島良典氏(LayerX CEO)、河合健氏(アンダーソン・毛利・友常法律事務所 パートナー)、小田玄紀氏(ビットポイントジャパン 代表取締役)、和田晃一良氏(コインチェック 上級執行役員)

モデレーター:本吉浩之氏(B Cryptos 代表取締役社長)

仮想通貨に関する法制度の状況

セッションの冒頭はアンダーソン・毛利・友常法律事務所の河合健氏(以下 河合氏)から現状の法制度の状況についての説明があった。

仮想通貨に関する法整備の状況について河合氏は「日本では世界に先駆けて2017年に仮想通貨の法制度が開始したが、2018年には一時いろいろなことが起きて物事が止まってしまっていた。しかし仮想通貨(暗号資産)への規制や取引を盛り込んだ資金決済法と金融商品取引法の改正案が3月に閣議決定され、5月21日に衆院本会議で可決され、参院に送付されたという状況である。この法律が施行されるのは来年4月の予定だ」と説明。

また特にICO(Initial Coin Offering)に関しては「前述の法改正と並行してICOについては自主規制団体でルール整備を進めていて、遠くない時期に世の中に公開されると思う。そうなればICOをしようとする発行体は、まず交換業者に依頼をしてビジネス審査やコード監査を受ける。それが通れば交換業者が自主規制団体申請を出し、そこでの審査を経て金融庁に許諾をもらうかたちになる。そうすると発行体に変わって交換業社がトークンを販売できるという流れになるだろう」と話した。

またセキュティトークンに関しては「日本においてはこれまでセキュティトークンが証券なのか、仮想通貨なのかはっきりしておらずやりづらかった状況がある。ただ法改正後は基本的にはほぼ有価証券と同等のルールで扱うことになるだろう。そのようにルールが明文化されることで大手証券会社など既存のプレイヤーの参加も進んで、急速にマーケット整備が進む可能性がある」と説明した。

取引所から見てICOに向いているプロジェクト

取引所から見てどういったプロジェクトがICOに向いていると考えるかというB Cryptosの本吉浩之氏(以下 末松氏)の質問に対し、ビットポイントジャパンの小田玄紀氏(以下 小田氏)は「ICOについては金融庁とも交換業協会とも議論して新しいルールを今作っている段階。ビットポイントとしても新しい通貨の上場も考えている。どのようなプロジェクトが向いているかというと、その容の可能性があるかや、コミュニティがあるかなどがポイントになるかと思う。またDAPPSゲームのトークンをICOするなどは取引所と親和性があると感じている」と語った。

それについてコインチェックの和田晃一良氏(以下 和田氏)も「今回ようやくICOやSTOについての法律が整備されることは大きな進歩であると思う。ルールに則った形でICOをするところは支援していきたい。これから定まるルールの内容をみながら、どういった事業やスキームがICOに適切なのか模索していきたい」と語った。

ICOにかかるコストや時間

またICOにかかるコストや時間に関して小田氏は「ケースバイケースではあるがコストとしては数千万円程度かかるだろう。もちろんその全ても準備する必要はなくICOの利益からシェアで対応するようなイメージになると思う。また時間としてはルールが定まった後は、最短で6ヶ月ぐらいでトークンを売れるようになるのでは」と語った。

それに対して和田氏は同じようなスケジュール感を考えていると話し「ただこれまでICOが手軽であったことがメリットの一つではあったと思う。そのメリットが半減するのではという思いもある」とコメントした。

一方LayerXの福島良典氏(以下 福島氏)はICOにはネガティブで難しいと思っていると主張。

「ICOよりも既存トークンの上場の方が早く進むのではないか。ICOは僕の中ではクラウドファンディングのようなもの。だからできなかったらゴメンなさいのようになってしまう。本当にイーサリアムのようなトッププロジェクトやすごい暗号技術のプロジェクトには今後もICOという手段は資金調達に使えると思うが、一方、スタートアップなどの資金調達手段としてはあまり機能しないのではないか。スタートアップにとっては今の株式の調達の方がメリットがあると思う」と話した。

続いて河合氏はICOに関しては「そのプロジェクトのトークンを使ったエコノミーがどこまで進むかがポイントだと思っている、例えば人気ゲームや大手SNSがトークンを使ってDAPPSを展開するような、トークンが流通するサービスではニーズがあると思っている。実際にみんなが使っているものを提供できるサービス主体が、サービスとトークンを一体にして進めるICOは可能性があると思う」語った。

セキュティトークンやSTOについて

つづいてセッションはセキュリティトークンやそれを使ったSTO(Security Token Offering)についての話題に。

まずは河合氏が「法律は4月に改正される予定で、それと並行して自主規制団体などが決まって一定のルール作りがされていくだろう。早ければ来年の4月の法律改正時、もしくはおそくとも来年の下半期にはSTOに関するルールが定まるのではないか」と法整備の状況について解説。

現在事業としてセキュリティトークンに取り組んでいる福島氏は「実は社内ではセキュリティトークンという言い方せず、プログラマブル・セキュリティと呼んでいる。その前提で話すと、僕はセキュリティトークンについてはポジティブですが、現在の世の中の間違ったSTOのイメージについてはネガティブ。セキュリティトークンにすると突然流動性が上がるとか、今まで値段のつかなかったものが突然オファリングできる、という話ではないと思っている」と話す。

そして「セキュリティトークンはシンプルに考えると証券、つまり裏にどんなアセットがひもづいているかというだけの話。ではそれが今までの証券会社を挟んで発行する証券となにが違うのかがポイント。その違いは今まで人がやっていたことをプログラムで強制執行できるようにできること。そうすることで通常の証券でかかっていたコストや時間を大幅に短縮できるようになるだろう」と続けた。

「10年後や20年後のプログラマブルなセキュリティが進化した先の世界では、いいアセットを持っている人がスピーティーにお金を集められたり、誰もが色々なアセットにすぐにアクセスできたりするようになると思う。例えば日本人がアメリカのアセットに投資したい時は現在の証券では、アメリカの証券講座を開いてドルに替えて送金いうような手続きが必要。しかしプログラマブルなセキュリティ進めば、そのような手続きの煩雑さががなくなる。

コンプライアンスのレイヤーや送金のレイヤーがプロトコルなって、KYCもみんなで共有してプログラムのワークフローとして実行する、そういったパーツで揃った時に、証券口座という概念がなくなり、例えばアメリカのいい物件を見つけたらすぐに投資できるようになる。そういう世界を作るために、一番最初のコンプライアンスレイヤーを各国のプレイヤーが作っているというのがセキュリティトークンに関する現状だ」と語った。

またSTOに関して小田氏は「日本の金融商品をセキュリティトークン化したものを日本以外の国に売ることができるようになることに可能性を感じており、ビットポイントは日本だけでなく、韓国・香港・台湾・マレーシア・タイなどで事業を展開しているので、そこに挑戦していきたい」と話した。

和田氏は「まだ今は言えないことが多いですが、コインチェックの親会社はマネックスグループで、そのグループにはマネックス証券もあるので、その辺りと連動して色々とやっていきたいと思っている」とSTOについて語った。

今後10年の展望

最後に各スピーカーが今後10年を見据えた展望を語った。

和田氏は「これまで金融業界は規制が厳しく、新しいことがやりにくかったが、それが仮想通貨などの登場で無理やりイノベーションを起こしたような状況になっていると思っている。今後もイノベーションが起きていきためには既存の枠組みだけでない、そうでないところでの進化が必要で、そういった意味で分散型の社会の必要性があると感じている。今後10年でもちろん分散型だけが進化するというわけではなく、分散型と中央型が相互に歩みながら社会が良くなっていくのではないかと思っている」と語った。

小田氏は「これからの10年はビットコインとかブロックチェーンを使うことが目的ではなく、ブロックチェーンを使ったほうが効率いいことや、ブロックチェーンを使わないとできないことがどんどん生まれていくと思う。そういった事業が広がっていくことで、ビットコインやブロックチェーンの価値が出てくるのではと思っている」と語った。

河合氏は「中央集権型のものと、分散型のもは両立するようになると思っている。今まで証券の仕組みは大型のものにはすごく適している。一方リスクをとって簡単に投資できるものというレイヤーがないのが現状だと感じている。その分野においてもブロックチェーンは誰からも見えていて、検証できる、改ざんができないといったような信頼できるプラットフォームを相当安い金額でみんなが利用できるようになると、投資家の裾野も、サービスの裾野も広がると考えている。そのように色々な人が使いやすいシステムができていくと思っていて、そんな中で法律も変わっていかざるをえないのではと思っている」と語った。

福島氏は「この10年のビックテーマとして注目しているのが、金融機能が誰でも持てるようになることが大きな変化ではないかと思う。そしてそれに伴ってオリジネーターとか個人とかオペレーターが強くなる時代になるはず。今まではコンプライアンスとか投資家を持っていたからお金を集めることができた仲介者が強かった。でもこれからは、いい物件を運用できるとか、いいネットワークを持っている、いいマッチングロジックを持っているといったような、例えるとYOUTUBERやインスタグラマーのように個人がパワーを持つようになり、今はメディア機能しか持っていない彼らが金融機能を持つようになるというのが大きなテーマだ」と語った。

(おわり)

この記事の著者・インタビューイ

設楽悠介

「あたらしい経済」編集長/幻冬舎コンテンツビジネス局局長 幻冬舎でブロックチェーン/暗号資産専門メディア「あたらしい経済」を創刊。同社コンテンツビジネス局で電子書籍事業や新規事業を担当。幻冬舎コミックスの取締役兼務。「Fukuoka Blockchain Alliance」ボードメンバー。福岡県飯塚市新産業創出産学官連携協議会委員。ポッドキャスターとして、Amazon Audible original番組「みんなのメンタールーム」や、SpotifyやAppleにてweb3専門番組「EXODUS」や「あたらしい経済ニュース、ビジネス系番組「二番経営」等を配信中。著書『畳み人という選択』(プレジデント社)。

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